その毛はどこから来た?―卵巣と副腎、アンドロゲンの2つの源泉から多毛を読み解く
第108回医師国家試験 G問題 第29問
国試問題にチャレンジ
多毛をきたすのはどれか。2つ選べ。
- a.甲状腺機能亢進症
- b.多嚢胞性卵巣症候群
- c.副甲状腺機能低下症
- d.下垂体前葉機能低下症
- e.先天性副腎皮質過形成
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
女性の多毛(hirsutism)は、男性型の分布で硬い終毛が増える状態で、多くはアンドロゲン過剰によって起こります。女性のアンドロゲンの主な供給源は卵巣と副腎であり、卵巣性の代表が多嚢胞性卵巣症候群(LH高値とインスリン抵抗性による莢膜細胞のアンドロゲン産生亢進)、副腎性の代表が先天性副腎皮質過形成(21-水酸化酵素欠損によるACTH過剰と副腎アンドロゲン増加)です。一方、甲状腺機能異常や副甲状腺機能低下症は多毛を来さず、下垂体前葉機能低下症ではアンドロゲン不足により腋毛・陰毛がむしろ脱落します。神経性やせ症や薬剤による産毛の増加はアンドロゲン非依存性の多毛症として区別し、急速に進む男性化徴候ではアンドロゲン産生腫瘍を疑う必要があります。「どこからアンドロゲンが出ているか」を軸に考える姿勢は、内分泌疾患の症候を理解する基本となります。
解答・解説
正解はb, eです
多毛(hirsutism)の原因となる疾患を選ぶ問題である。 女性の多毛とは、本来は男性で濃くなる部位(口ひげ部、顎、前胸部、乳輪周囲、下腹部の正中線、大腿内側、背部など)に、硬く太い終毛が男性型の分布で生える状態を指す。毛包はアンドロゲン(男性ホルモン)の作用を受けて軟毛から終毛へ変化するため、多毛の多くはアンドロゲンの過剰(または毛包のアンドロゲン感受性の亢進)によって起こる。女性のアンドロゲンの主な供給源は卵巣と副腎であるから、「卵巣由来のアンドロゲン過剰」と「副腎由来のアンドロゲン過剰」を来す疾患を思い浮かべればよい。 選択肢のうち、卵巣でのアンドロゲン産生が亢進するのが多嚢胞性卵巣症候群、副腎でのアンドロゲン産生が亢進するのが先天性副腎皮質過形成(主に21-水酸化酵素欠損症)である。一方、甲状腺・副甲状腺・下垂体前葉の機能異常は、アンドロゲン過剰を来さないか、むしろ体毛の減少や脱毛の原因となる。
選択肢考察
- ×a. 甲状腺機能亢進症
誤り。甲状腺機能亢進症ではアンドロゲン過剰は生じず、多毛は来さない。皮膚は温かく湿潤となり、毛髪は細く柔らかくなって、びまん性の脱毛がみられることがある。なお、甲状腺機能低下症でも毛髪は乾燥して粗くなり、脱毛や眉毛外側1/3の脱落がみられるなど、甲状腺機能異常はいずれも「毛が減る」方向に働くと整理しておくとよい。
- ○b. 多嚢胞性卵巣症候群
正しい。多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome:PCOS)は生殖年齢女性に多い内分泌疾患で、下垂体からの黄体形成ホルモン(LH)の分泌亢進とインスリン抵抗性(高インスリン血症)が卵巣の莢膜細胞を刺激し、テストステロンなどのアンドロゲン産生が増加する。このアンドロゲン過剰の症状として多毛、ざ瘡(にきび)がみられ、ほかに月経異常(稀発月経・無月経)、排卵障害による不妊、肥満、超音波で卵巣に多数の小卵胞がネックレス状に並ぶ像(ネックレスサイン)が特徴である。発症機序の全容はなお解明されていない。
- ×c. 副甲状腺機能低下症
誤り。副甲状腺機能低下症は副甲状腺ホルモン(PTH)の作用不足により低カルシウム血症と高リン血症を来す疾患で、テタニー、Chvostek徴候・Trousseau徴候、けいれん、QT延長、白内障、大脳基底核の石灰化などがみられる。アンドロゲン過剰とは無関係で、多毛は来さない。慢性例ではむしろ皮膚の乾燥、爪の脆弱化、毛髪が疎になるといった外胚葉系の変化がみられることがある。
- ×d. 下垂体前葉機能低下症
誤り。下垂体前葉機能低下症では、性腺刺激ホルモン(LH・FSH)の低下による性腺機能低下と、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の低下による副腎アンドロゲン産生の低下が重なるため、アンドロゲン作用が不足する。その結果、腋毛や陰毛の脱落・減少がみられ、甲状腺刺激ホルモン(TSH)低下による甲状腺機能低下も体毛の減少に拍車をかける。多毛とは逆の所見である。分娩時の大量出血を契機とするSheehan症候群では、乳汁分泌不全、無月経、腋毛・陰毛の脱落が特徴的である。
- ○e. 先天性副腎皮質過形成
正しい。先天性副腎皮質過形成は副腎皮質ステロイド合成酵素の先天的欠損により起こり、日本では21-水酸化酵素欠損症が大部分を占める。コルチゾール合成が障害されるとネガティブフィードバックが弱まってACTHが過剰に分泌され、副腎皮質が過形成となる。蓄積した前駆物質(17-ヒドロキシプロゲステロンなど)はアンドロゲン合成経路へ流れ込むため、副腎アンドロゲンが過剰となる。女児では出生時の外性器男性化、成長後の多毛・陰核肥大・月経異常などの男性化徴候がみられ、非古典型(遅発型)では思春期以降の多毛や月経不順で気づかれることもある。11β-水酸化酵素欠損症でもアンドロゲン過剰を来す。
多毛と多毛症の区別
多毛は大きく2つに分けられる。 ・アンドロゲン依存性の多毛(hirsutism):男性型の分布で硬い終毛が増える。卵巣性(多嚢胞性卵巣症候群、卵巣の男性化腫瘍:Sertoli-Leydig細胞腫など)、副腎性(先天性副腎皮質過形成、Cushing症候群、副腎癌)、薬剤性(アンドロゲン製剤、蛋白同化ステロイド)などがある。高プロラクチン血症でも副腎アンドロゲンの増加を介して多毛を来しうる。 ・アンドロゲン非依存性の多毛(hypertrichosis):性毛の分布に関係なく全身の軟毛・産毛が増える。神経性やせ症(神経性食思不振症)で背部・殿部・四肢に産毛が増えるのが代表例で、ほかにシクロスポリン、ミノキシジル、フェニトインなどの薬剤、ポルフィリン症でもみられる。
男性化徴候の評価
多毛に加えて、声の低音化、陰核肥大、側頭部の脱毛、筋肉量の増加などの男性化(virilization)がみられ、急速に進行する場合は、アンドロゲン産生腫瘍(卵巣・副腎)を疑い、血中テストステロンやDHEA-S(デヒドロエピアンドロステロン硫酸塩:副腎由来アンドロゲンの指標)を測定する。
体毛が減る内分泌疾患
下垂体前葉機能低下症(Sheehan症候群を含む)、Addison病(女性で副腎アンドロゲン低下により腋毛・陰毛が減少)、甲状腺機能低下症(眉毛外側の脱落、毛髪の粗造化)、性腺機能低下症など。
POINT
・女性の多毛(男性型の終毛の増加)の多くはアンドロゲン過剰による ・卵巣性:多嚢胞性卵巣症候群(LH高値・インスリン抵抗性→莢膜細胞のアンドロゲン産生↑) ・副腎性:先天性副腎皮質過形成(21-水酸化酵素欠損→ACTH↑→副腎アンドロゲン↑)、Cushing症候群 ・下垂体前葉機能低下症では腋毛・陰毛が脱落する(多毛とは逆) ・神経性やせ症の産毛増加はアンドロゲン非依存性
