「確証」はいらない、「疑い」で動く―児童虐待の通告先と医師の責務
第108回医師国家試験 G問題 第30問
国試問題にチャレンジ
虐待が疑われる児を診察した際の通告先として適切なのはどれか。2つ選べ。
- a.保健所
- b.教育委員会
- c.児童相談所
- d.福祉事務所
- e.地域包括支援センター
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
児童虐待防止法第6条により、虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、市町村、都道府県の設置する福祉事務所、児童相談所のいずれかに速やかに通告しなければなりません。通告に虐待の確証は不要で疑いの段階で行ってよく、医師による通告は守秘義務違反にあたらないことが法律に明記されています。保健所は感染症や食中毒の届出先、教育委員会は学校教育の所管機関、地域包括支援センターは高齢者の相談・権利擁護を担う機関であり、いずれも児童虐待の通告先ではありません。臨床では、受傷機転と合わない外傷、新旧混在する骨折、揺さぶられ症候群を示唆する所見などから虐待を疑い、記録を残したうえで迷わず通告につなげることが求められます。各種虐待・暴力の通報先を法律ごとに整理しておくことは、子どもの命を守る医師の責務を果たすための基盤となります。
解答・解説
正解はc, dです
児童虐待が疑われる子どもを診察したとき、医師がどこへ通告すべきかを問う問題である。 根拠となるのは「児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)」第6条である。同条は、児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに「市町村」「都道府県の設置する福祉事務所」「児童相談所」のいずれかに通告しなければならないと定めている(児童委員を介して通告することもできる)。 ここで重要なのは次の2点である。第一に、通告の対象は「虐待を受けたと思われる」児童であり、虐待であるという確証は要らない。疑いの段階で通告してよく、結果として虐待でなかったとしても通告者が責任を問われることはない。第二に、この通告は医師の守秘義務(刑法の秘密漏示罪など)に違反しないことが法律で明記されている。さらに、医師・看護師・教職員・保育士など児童と職務上関わる者には、虐待の早期発見に努める義務が課されている。 したがって選択肢のうち法定の通告先に当たるのは児童相談所と福祉事務所であり、保健所・教育委員会・地域包括支援センターは児童虐待の通告先として法律に規定されていない。
選択肢考察
- ×a. 保健所
誤り。保健所は地域保健法に基づき都道府県・政令指定都市・中核市などが設置する機関で、感染症法に基づく感染症の届出や、食品衛生法に基づく食中毒の届出の受け手となる。母子保健の分野でも未熟児訪問指導などを通じて虐待の予防や早期発見に関わるが、児童虐待防止法に定める通告先には含まれていない。
- ×b. 教育委員会
誤り。教育委員会は学校教育などを所管する行政機関であり、児童虐待の通告先ではない。学校や教職員は虐待を発見しやすい立場にあり、早期発見の努力義務を負うが、学校が虐待を疑った場合も通告先は市町村・福祉事務所・児童相談所である。
- ○c. 児童相談所
正しい。児童相談所は児童福祉法に基づき都道府県・政令指定都市などに設置が義務付けられた専門機関で、児童虐待防止法第6条の通告先の一つである。通告を受けると児童の安全確認を行い、必要に応じて一時保護、立入調査、施設入所や里親委託などの措置をとる権限を持つ。重症例や緊急性の高い事例に対応する中核機関である。全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」に電話すると、最寄りの児童相談所につながる。
- ○d. 福祉事務所
正しい。福祉事務所は社会福祉法に基づき都道府県・市・特別区に設置される社会福祉行政の第一線の機関で、児童虐待防止法第6条に定める通告先の一つである。通告を受けた福祉事務所は児童の安全確認を行い、必要に応じて児童相談所に送致する。なお、市町村(市町村の児童福祉担当部署)も法定の通告先であり、比較的軽度の事例や在宅支援の必要な事例は市町村が中心となって対応する。
- ×e. 地域包括支援センター
誤り。地域包括支援センターは介護保険法に基づき市町村が設置する、高齢者の総合相談・権利擁護・介護予防ケアマネジメントなどを担う機関である。高齢者虐待防止法に基づく高齢者虐待の通報先は市町村であるが、その相談・通報の窓口業務を地域包括支援センターが担っていることが多い。児童虐待の通告先ではない。
児童虐待の定義(児童虐待防止法第2条)
保護者(親権者や監護している者)が18歳未満の児童に対して行う次の4類型である。 ・身体的虐待:殴る、蹴る、やけどを負わせる、揺さぶるなど ・性的虐待:性的行為やその強要、性的な被写体にするなど ・ネグレクト:食事を与えない、著しい不衛生、病院に連れて行かない、同居人による虐待の放置など ・心理的虐待:暴言、無視、きょうだい間の差別、子どもの目の前での配偶者への暴力(面前DV)など 近年の相談対応件数では心理的虐待が最も多い。
医療機関で虐待を疑う所見
受傷機転の説明が曖昧・変化する、発達段階と合わない外傷(寝返り前の乳児の骨折など)、新旧混在する多発外傷や骨折、たばこによる円形熱傷、乳幼児揺さぶられ症候群を示唆する硬膜下血腫と網膜出血、受診の遅れ、体重増加不良などが挙げられる。疑った場合は全身の診察、全身骨X線撮影、眼底検査などを行い記録を残す。
各種虐待・暴力の通告・通報先の整理
・児童虐待:市町村、福祉事務所、児童相談所(児童虐待防止法) ・高齢者虐待:市町村(窓口業務を地域包括支援センターが担うことが多い)(高齢者虐待防止法) ・障害者虐待:市町村(養護者・施設による場合)、都道府県(使用者による場合も可)(障害者虐待防止法) ・配偶者からの暴力(DV):配偶者暴力相談支援センターまたは警察官への通報(努力義務)(DV防止法)
守秘義務との関係
児童虐待の通告は、刑法の秘密漏示罪やその他の守秘義務に関する規定によって妨げられないと法律に明記されている。
POINT
・児童虐待の通告先は「市町村」「福祉事務所」「児童相談所」(児童虐待防止法第6条) ・虐待の確証は不要で、「疑い」の段階で通告する ・医師の通告は守秘義務違反にあたらない ・保健所は感染症・食中毒の届出先、地域包括支援センターは高齢者虐待に関わる機関 ・児童相談所虐待対応ダイヤルは「189」
