白血病は多いのに固形腫瘍は少ない―Down症候群の合併症を臓器別に整理する
第108回医師国家試験 G問題 第12問
国試問題にチャレンジ
Down症候群の合併症でまれなのはどれか。
- a.固形腫瘍
- b.消化管閉鎖
- c.環軸椎亜脱臼
- d.先天性心疾患
- e.甲状腺機能異常
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
Down症候群(21トリソミー)は最も頻度の高い常染色体数的異常で、先天性心疾患(約半数、心内膜床欠損症が特徴的)、十二指腸閉鎖などの消化管奇形、白血病が代表的な合併症です。さらに甲状腺機能異常や環軸椎亜脱臼も頻度が高く、症状がなくても定期的なスクリーニングの対象となります。一方、白血病(特にTAMから移行する急性巨核芽球性白血病)は多いものの、神経芽腫や腎芽腫などの固形腫瘍は一般集団と同等かむしろ少なく、血管新生抑制因子の過剰発現が仮説として挙げられています。「悪性腫瘍が多い」とひとまとめにせず、血液腫瘍と固形腫瘍を区別して理解することが重要です。合併症を臓器別・年齢別に整理しておくことは、出生直後から成人期までを見据えた長期的な診療とフォローアップの基盤になります。
解答・解説
正解はaです
Down症候群(21トリソミー)は最も頻度の高い常染色体数的異常で、出生およそ600〜1,000人に1人の割合でみられる。発症率は母体年齢が上がるほど高くなる。特徴的な顔貌(眼瞼裂斜上、内眼角贅皮、鼻根部平坦など)、筋緊張低下、知的障害に加えて、多くの臓器に合併症が起こる。 本問は「まれなもの」を選ぶ設問なので、頻度の高い合併症を一つずつ除いていけばよい。Down症候群で頻度の高い合併症は、心臓(先天性心疾患)、消化管(十二指腸閉鎖などの消化管閉鎖)、血液(白血病)、内分泌(甲状腺機能異常)、整形外科(環軸椎不安定性・亜脱臼)の各領域に分けて整理すると覚えやすい。 ここで注意したいのは腫瘍である。Down症候群では白血病の発症リスクが一般小児の10〜20倍と高いのに対して、神経芽腫や腎芽腫(Wilms腫瘍)など多くの小児固形腫瘍は、むしろ一般集団より少ないことが知られている。「悪性腫瘍が多い」とひとまとめに覚えず、血液腫瘍は多く、固形腫瘍は少ない、と区別しておくことが本問を解く鍵となる。
選択肢考察
- ○a. 固形腫瘍
Down症候群で多い悪性腫瘍は白血病(急性リンパ性白血病と急性骨髄性白血病。特に急性巨核芽球性白血病)であり、固形腫瘍の発生率は一般集団と同じか、むしろ低い。神経芽腫や腎芽腫などの典型的な小児固形腫瘍は少ない。理由ははっきりしていないが、21番染色体上の遺伝子が3コピーあるため血管新生を抑える因子(エンドスタチンの前駆体であるXVIII型コラーゲンなど)が多く作られ、腫瘍が栄養血管を得にくい、という仮説が有力である。したがって、選択肢の中でまれな合併症は固形腫瘍である。なお、精巣胚細胞腫瘍のように例外的に増えるとする報告がある腫瘍もある。
- ×b. 消化管閉鎖
消化管の奇形は、先天性心疾患に次いで多い大奇形である。代表は十二指腸閉鎖(狭窄)で、十二指腸閉鎖の患児の約3割がDown症候群であるとされる。出生前の羊水過多や、腹部単純X線写真で胃と十二指腸球部にガスがたまるdouble bubble signが手がかりとなる。ほかに鎖肛、食道閉鎖、Hirschsprung病(腸管壁内の神経節細胞が先天的に欠如する疾患)も一般集団より多い。まれな合併症ではない。
- ×c. 環軸椎亜脱臼
Down症候群では全身の靱帯がゆるく、第1頸椎(環椎)と第2頸椎(軸椎)の間を支える横靱帯もゆるいため、環軸椎の不安定性・亜脱臼が起こりやすい。X線で不安定性がみられる例は10〜20%程度とされ、脊髄圧迫による症状(歩行障害、四肢麻痺など)を起こす例は1〜2%程度である。頸椎側面のX線写真で環椎歯突起間距離(ADI:環椎前弓の後面と軸椎歯突起の前面との距離)が広がっていないか、また開口位の正面像で歯突起の形成不全がないかを確認する。体操や接触を伴うスポーツ、全身麻酔の気管挿管の前には評価が勧められる。まれな合併症ではない。
- ×d. 先天性心疾患
Down症候群の約40〜50%に先天性心疾患があり、最も重要な合併症である。心内膜床欠損症(房室中隔欠損症)はDown症候群に特徴的で、ほかに心室中隔欠損症、心房中隔欠損症、動脈管開存症、Fallot四徴症などがみられる。左右短絡による肺血流の増加が続くと、一般の小児より早い時期に肺血管の閉塞性病変が進み、肺高血圧が不可逆となりやすい(Eisenmenger化)。このため早めの評価と手術時期の判断が重要である。まれな合併症ではない。
- ×e. 甲状腺機能異常
先天性甲状腺機能低下症は一般集団よりも多く、さらに成長とともに自己免疫性の甲状腺疾患(橋本病による機能低下症が中心で、Basedow病もある)が増える。成人期の患者の10〜20%程度に甲状腺機能異常がみられ、潜在性甲状腺機能低下症まで含めるとさらに多い。甲状腺機能低下症の症状(体重増加、活動性の低下、便秘など)はDown症候群そのものの特徴と見分けにくいため、症状がなくても定期的に甲状腺機能を検査することが勧められている。まれな合併症ではない。
Down症候群の成因
約95%は減数分裂の不分離による標準型21トリソミーで、母体年齢が高いほど頻度が上がる。約4%はロバートソン転座(14番と21番の転座など)による転座型で、親が均衡型転座の保因者である場合があるため、親の染色体検査が必要となる。残りの1〜2%は正常細胞とトリソミー細胞が混ざったモザイク型である。
年齢別にみた主な合併症
・新生児〜乳児期:先天性心疾患、消化管閉鎖(十二指腸閉鎖、鎖肛など)、Hirschsprung病、先天性甲状腺機能低下症、一過性骨髄異常増殖症(TAM)、筋緊張低下による哺乳不良 ・乳幼児期:上気道炎や中耳炎などの反復感染(免疫機能の低下)、難聴、屈折異常・斜視・白内障などの眼疾患、白血病 ・学童期以降:肥満、甲状腺機能異常(橋本病など)、環軸椎亜脱臼、閉塞性睡眠時無呼吸 ・成人期:甲状腺機能異常、高尿酸血症、糖尿病、早期老化、若年発症のAlzheimer型認知症
血液疾患
新生児の約10%に一過性骨髄異常増殖症(TAM:transient abnormal myelopoiesis)がみられる。多くは数か月以内に自然に消えるが、その一部は4歳頃までに急性巨核芽球性白血病(AMKL)を発症する。いずれもGATA1遺伝子の変異が関与する。急性リンパ性白血病(ALL)も一般小児より多い。
Alzheimer型認知症
アミロイド前駆体タンパク(APP)の遺伝子は21番染色体にあり、3コピーになるため、脳内にアミロイドβが早い時期からたまる。このため40歳代以降に認知症を発症する例が多い。
予後
主な死因は先天性心疾患と呼吸器感染症である。心臓手術や感染症の治療の進歩により、日本での平均寿命は50歳を超えるまでに延びている。
POINT
・Down症候群の三大合併症は「先天性心疾患」「消化管奇形」「白血病」と覚える。 ・先天性心疾患は約半数にあり、心内膜床欠損症(房室中隔欠損症)が特徴的。 ・消化管奇形の代表は十二指腸閉鎖(double bubble sign)。鎖肛やHirschsprung病も多い。 ・白血病は多い(TAM → AMKL、ALL)が、固形腫瘍はむしろ少ない。 ・甲状腺機能異常と環軸椎亜脱臼は、定期的なスクリーニングの対象である。 ・Alzheimer型認知症が若年で発症しやすい(APP遺伝子が21番染色体上にある)。
