StudyMed医師国家試験

跡を残さず消える膨疹―蕁麻疹の正体は「真皮上層のむくみ」

第108回医師国家試験 G問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第108回 G問題 第13問

蕁麻疹の病理組織像で正しいのはどれか。

  1. a.表皮の海綿状態
  2. b.表皮基底層の液状変性
  3. c.真皮上層の浮腫
  4. d.真皮中層の血管炎
  5. e.脂肪織炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は蕁麻疹の病理組織像を問う問題だ。ポイントは、皮膚の「どの深さ」に「どんな変化」が起きるかを整理すること。表皮、表皮と真皮の境界部、真皮、皮下脂肪織と層ごとに考えると、各選択肢がどの疾患の所見かが見えてくるよ。まず、蕁麻疹の皮疹にはどんな特徴があったかな。
医学生医学生
かゆみの強い膨疹が急に出て、数時間から1日くらいで消えるイメージです。
ドクタードクター
その通り。そして消えたあとに跡を残さない。これが組織像を考える大きなヒントなんだ。跡が残らないということは、組織が壊れていないということだからね。では膨疹はどうやってできるか、説明できるかな。
医学生医学生
肥満細胞からヒスタミンが出て、血管の透過性が上がる……と免疫学の講義で習いました。
ドクタードクター
完璧だ。真皮の肥満細胞がIgEを介したアレルギー反応や、物理的刺激・薬剤などの非アレルギー性刺激で脱顆粒し、ヒスタミンを放出する。ヒスタミンは真皮上層の小血管、特に後毛細血管細静脈の透過性を高めるので、血漿成分が血管外にしみ出して真皮にむくみをつくる。これが膨疹の正体だ。血管拡張で赤くなり、知覚神経が刺激されてかゆくなる。
医学生医学生
だから正解は真皮上層の浮腫なんですね。組織ではどう見えるんですか。
ドクタードクター
膠原線維の間隔が広がって、すかすかに見える。血管は拡張し、その周りにリンパ球や好酸球、好中球がまばらに浸潤する程度で、表皮にはほとんど変化がない。地味な像だけど、それが一過性で跡を残さない理由そのものなんだ。
医学生医学生
表皮の海綿状態も「むくみ」ですよね。正直、どっちが蕁麻疹か一瞬迷いました。
ドクタードクター
いいところでつまずいたね。海綿状態は表皮の角化細胞どうしの間に液体がたまる細胞間浮腫で、海綿のように見える。湿疹・皮膚炎群、たとえば接触皮膚炎やアトピー性皮膚炎の急性期の特徴で、強くなると表皮内に小水疱ができる。同じ「むくみ」でも、表皮なら湿疹、真皮なら蕁麻疹と場所で区別しよう。
医学生医学生
基底層の液状変性は、病理実習でSLEの皮膚標本を見たときに出てきた言葉です。
ドクタードクター
よく覚えているね。基底細胞が障害されて空胞状になる変化で、表皮真皮境界部を標的とする炎症、いわゆるinterface dermatitisの所見だ。こぼれたメラニンを真皮のマクロファージが取り込む組織学的色素失調を伴いやすい。皮膚エリテマトーデス、皮膚筋炎、扁平苔癬、多形紅斑、固定薬疹などで見られる。
医学生医学生
真皮中層の血管炎は、蕁麻疹も血管が関係するので引っかけっぽいですね。
ドクタードクター
まさにそこが引っかけだね。蕁麻疹は血管の透過性が上がるだけで、血管壁は壊れない。血管炎では血管壁のフィブリノイド変性、好中球の核が砕けた核塵、赤血球の血管外漏出が見られる。IgA血管炎や皮膚白血球破砕性血管炎などの所見だ。
医学生医学生
脂肪織炎は、皮膚科の臨床実習で見た結節性紅斑がそうでした。すねに痛い赤いしこりがありました。
ドクタードクター
いい経験だね。結節性紅斑は脂肪小葉の間の隔壁に炎症が起こる隔壁性脂肪織炎の代表で、小葉そのものに炎症が起こる小葉性の代表がBazin硬結性紅斑だ。蕁麻疹の変化は真皮にとどまり、皮下脂肪には及ばない。
医学生医学生
海綿状態は湿疹、液状変性はエリテマトーデスや扁平苔癬、血管炎は皮膚血管炎、脂肪織炎は結節性紅斑、そして真皮の浮腫が蕁麻疹。層ごとに整理すると覚えやすいです。
ドクタードクター
その整理がCBTでも国試でも強い武器になるよ。発展として、浮腫が真皮深層から皮下組織に及ぶと血管性浮腫、いわゆるQuincke浮腫になり、まぶたや口唇が2〜3日腫れる。C1インアクチベーターの異常による遺伝性血管性浮腫はブラジキニンが関与するので、抗ヒスタミン薬が効かない点に注意だ。
医学生医学生
逆に、膨疹がなかなか消えない場合はどう考えればいいですか。
ドクタードクター
鋭い質問だ。膨疹が24時間以上続いて、紫斑や色素沈着を残すときは蕁麻疹様血管炎を疑い、皮膚生検で血管炎の有無を確かめる。「跡を残さない」という蕁麻疹の原則から外れたら立ち止まる、ということだね。治療は誘因の回避と第2世代の非鎮静性抗ヒスタミン薬が中心で、難治性の慢性特発性蕁麻疹にはオマリズマブなども使われる。アナフィラキシーを伴えばアドレナリン筋注を迷わず行おう。

まとめ

蕁麻疹の膨疹は、肥満細胞から放出されたヒスタミンなどが真皮上層の小血管の透過性を高め、血漿成分が漏れ出して生じる一過性・限局性の真皮浮腫です。組織では膠原線維間の開大、血管拡張、軽度の血管周囲細胞浸潤がみられる程度で表皮はほぼ正常であり、組織破壊がないため皮疹は24時間以内に跡を残さず消えます。表皮の海綿状態は湿疹・皮膚炎、基底層の液状変性はエリテマトーデスや扁平苔癬、血管壁の破壊は皮膚血管炎、脂肪織炎は結節性紅斑などに対応し、病変の深さと性質で疾患を整理するのが皮膚病理の基本です。浮腫が深部に及ぶ血管性浮腫や、24時間以上持続し色素沈着を残す蕁麻疹様血管炎との区別も臨床では重要になります。

解答・解説

正解はcです

蕁麻疹は、かゆみを伴う膨疹(皮膚が限局的に盛り上がる紅斑)が突然現れ、多くは数時間〜24時間以内に跡を残さずに消えることを特徴とする疾患である。 膨疹ができる仕組みは次のとおりである。真皮にいる肥満細胞(マスト細胞)が、IgEを介したアレルギー反応や、物理的刺激・薬剤などの非アレルギー性の刺激によって脱顆粒し、ヒスタミンなどの化学伝達物質を放出する。ヒスタミンは真皮上層の小血管(後毛細血管細静脈)の透過性を高め、血漿成分が血管の外にしみ出して真皮に浮腫をつくる。これが膨疹の正体であり、同時に血管が拡張するため紅斑になり、知覚神経が刺激されるためかゆみが出る。 したがって病理組織では、真皮上層の浮腫(膠原線維の間が広がって見える)、血管の拡張、血管周囲の軽いリンパ球・好酸球・好中球の浸潤がみられる程度で、表皮にはほとんど変化がない。皮疹が跡を残さず消えるのも、変化が一過性の浮腫にとどまり、組織の破壊がないためである。 本問では、各選択肢の組織所見が「どの深さ(表皮・表皮真皮境界部・真皮・皮下脂肪織)の、どのような変化か」を整理し、それぞれがどの疾患の特徴かを対応させて考えるとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  表皮の海綿状態

    海綿状態(spongiosis)とは、表皮の角化細胞どうしの間に液体がたまって(細胞間浮腫)細胞間の隙間が広がり、海綿のように見える状態である。湿疹・皮膚炎群(接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎など)の急性期に特徴的で、程度が強くなると表皮内に小水疱ができる。蕁麻疹では浮腫は真皮に起こり、表皮にはほとんど変化がないため誤りである。

  2. ×b.  表皮基底層の液状変性

    液状変性(空胞変性)とは、表皮の最も深い層にある基底細胞が障害されて空胞状になる変化で、表皮と真皮の境界部を標的とする炎症(interface dermatitis)でみられる。基底細胞からこぼれ落ちたメラニンを真皮のマクロファージが取り込むため、組織学的色素失調を伴うことが多い。全身性エリテマトーデス(SLE)などの皮膚エリテマトーデス、皮膚筋炎、扁平苔癬、硬化性萎縮性苔癬、多形紅斑、固定薬疹などでみられる。蕁麻疹の所見ではないため誤りである。

  3. ○c.  真皮上層の浮腫

    肥満細胞から放出されたヒスタミンなどにより、真皮上層の小血管の透過性が高まり、しみ出した血漿成分で真皮に一過性・限局性の浮腫が生じる。これが臨床的な膨疹にあたる。浮腫は数時間〜24時間以内に吸収され、組織が壊れないため皮疹は跡を残さずに消える。蕁麻疹の病理組織像として正しい。なお、浮腫が真皮深層から皮下組織に及ぶものは血管性浮腫(Quincke浮腫)と呼ばれ、まぶたや口唇がはれる。

  4. ×d.  真皮中層の血管炎

    血管炎とは血管壁そのものに炎症が起こり、壁が壊れる病態で、組織学的には血管壁へのフィブリン析出(フィブリノイド変性)や、好中球の核が砕けた核塵(白血球破砕性血管炎の所見)、赤血球の血管外漏出がみられる。皮膚白血球破砕性血管炎(皮膚アレルギー性血管炎)、IgA血管炎、多発血管炎性肉芽腫症(旧称Wegener肉芽腫症)、結節性多発動脈炎などの所見である。通常の蕁麻疹は血管の透過性が高まるだけで、血管壁の破壊は起こらないため誤りである。なお、膨疹が24時間以上続き、紫斑や色素沈着を残す場合は蕁麻疹様血管炎を疑い、皮膚生検で血管炎の有無を確かめる。

  5. ×e.  脂肪織炎

    脂肪織炎は皮下脂肪組織に炎症が起こる病態で、臨床的には圧痛を伴う皮下結節や硬結として現れる。脂肪小葉の間の隔壁に炎症が起こる隔壁性脂肪織炎の代表が結節性紅斑、脂肪小葉そのものに炎症が起こる小葉性脂肪織炎の代表がBazin硬結性紅斑(結核の関与が考えられる)である。ほかにWeber-Christian病、ループス脂肪織炎(深在性エリテマトーデス)などがある。蕁麻疹の変化は真皮にとどまり、皮下脂肪組織の炎症は起こらないため誤りである。

蕁麻疹の分類

・特発性の蕁麻疹:明らかな誘因がなく自然に膨疹が出る。発症から6週間以内を急性蕁麻疹、6週間を超えて続くものを慢性蕁麻疹という。実際には最も多い病型である。 ・刺激誘発型の蕁麻疹:アレルギー性(食物、薬剤、昆虫などに対するIgE依存性)、食物依存性運動誘発アナフィラキシー、非アレルギー性(造影剤など)、アスピリン蕁麻疹(NSAIDsによる不耐症)、物理性(機械的刺激による皮膚描記症、寒冷、日光、温熱、圧迫など)、コリン性(入浴や運動で汗をかくときに小さな膨疹が出る)、接触蕁麻疹など ・血管性浮腫:まぶたや口唇などが2〜3日ほど腫れる。C1インアクチベーター(C1-INH)の異常による遺伝性血管性浮腫では、ヒスタミンではなくブラジキニンが関与するため抗ヒスタミン薬が効かない。 ・蕁麻疹関連疾患:蕁麻疹様血管炎など

治療

誘因があればそれを避けることが基本である。薬物療法の中心は第2世代の非鎮静性抗ヒスタミン薬(H1受容体拮抗薬)で、効果が不十分な場合は増量や補助的な治療薬を加え、難治性の慢性特発性蕁麻疹には抗IgE抗体(オマリズマブ)などが用いられる。アナフィラキシーを伴う場合はアドレナリンの筋注を行う。

皮膚病理の主な用語と代表的疾患

・海綿状態(表皮の細胞間浮腫):湿疹・皮膚炎 ・棘融解(表皮細胞どうしの接着が壊れる):尋常性天疱瘡 ・表皮下水疱:水疱性類天疱瘡 ・基底層の液状変性:SLEなどの皮膚エリテマトーデス、皮膚筋炎、扁平苔癬、多形紅斑 ・Munro微小膿瘍(角層内の好中球の集まり):尋常性乾癬 ・真皮の浮腫:蕁麻疹 ・血管壁の破壊(白血球破砕性血管炎など):皮膚血管炎、IgA血管炎 ・脂肪織炎:結節性紅斑(隔壁性)、Bazin硬結性紅斑(小葉性)

POINT

・蕁麻疹(膨疹)の本態は、肥満細胞から放出されたヒスタミンによる真皮上層の一過性・限局性の浮腫である。 ・表皮にはほとんど変化がなく、組織の破壊もないため、皮疹は24時間以内に跡を残さず消える。 ・浮腫が真皮深層〜皮下組織に及ぶと血管性浮腫(Quincke浮腫)となる。 ・海綿状態=湿疹、基底層の液状変性=エリテマトーデス・扁平苔癬など、血管炎=皮膚血管炎、脂肪織炎=結節性紅斑など、と組織所見と疾患を対応させて覚える。 ・膨疹が24時間以上続き、紫斑や色素沈着を残すときは蕁麻疹様血管炎を疑う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。