「ここがチクッ」は心臓じゃない?―内臓痛と体性痛で見抜く狭心症の胸痛
第108回医師国家試験 F問題 第4問
国試問題にチャレンジ
狭心症の症候として考えにくいのはどれか。
- a.悪心
- b.息切れ
- c.左肩痛
- d.前胸部絞扼感
- e.針で刺すような痛み
対話形式の解説
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ドクターまとめ
狭心症の痛みは心筋虚血による内臓痛で、胸骨裏を中心とした手のひら大の絞扼感・圧迫感として数分間持続し、安静やニトログリセリンで軽快するのが典型です。第1〜第5胸髄付近への痛覚入力を介して左肩・左上肢・頸部・下顎・歯などへの関連痛を生じ、虚血による心機能低下に伴う息切れや、迷走神経反射による悪心・冷汗もみられます。一方、指先で示せる針で刺すような瞬間的な痛みは体性痛の性質で、肋間神経痛や筋骨格系の胸痛、帯状疱疹などを考えます。ただし高齢者・糖尿病患者・女性では胸痛が乏しい非典型例があるため、症状の性状に加えて危険因子や心電図を含めて総合的に評価することが重要です。内臓痛と体性痛の違いを理解しておくことは、胸痛に限らずあらゆる痛みの鑑別の基礎になります。
解答・解説
正解はeです
【テーマ】狭心症でみられる胸部症状の性状と随伴症状を問う問題である。 【狭心症の痛みの本質】狭心症は、冠動脈の狭窄や攣縮(スパスム)によって心筋への酸素供給が需要に追いつかなくなり、一過性の心筋虚血が起こる病態である。虚血に陥った心筋からはアデノシン、乳酸、ブラジキニンなどが放出され、これが心臓の交感神経求心路を刺激して痛みとして自覚される。心臓からの痛覚はおもに第1〜第5胸髄(T1〜T5)付近に入力されるため、同じ脊髄レベルが支配する皮膚領域(前胸部、左肩・左上肢尺側、頸部、下顎など)の痛みとして感じられる。これを関連痛(放散痛)という。 【内臓痛としての特徴】心臓の痛みは内臓痛であり、体性痛のように「どこが痛いか指1本で示せる」ような鋭く限局した痛みにはならない。患者は「締め付けられる」「圧迫される」「重苦しい」「焼けつくような」と表現し、痛む範囲を手のひらや握りこぶしで示すことが多い(手掌で胸を押さえる動作はLevine徴候と呼ばれる)。持続時間は数分(多くは数分〜15分以内)で、労作性狭心症なら安静やニトログリセリン舌下で速やかに軽快する。一瞬で消える痛みや、数時間〜終日続く痛みは狭心症らしくない。 【考え方】したがって、狭心症の症候として「考えにくい」のは、範囲が点状に限局し瞬間的な、鋭い体性痛型の痛みである。一方、胸部絞扼感・放散痛のほか、虚血による心機能低下に伴う息切れや、迷走神経反射・自律神経症状としての悪心は、いずれも狭心症の症候として起こりうる。
選択肢考察
- ×a. 悪心
狭心症の症候として起こりうる。特に下壁(右冠動脈領域)の虚血では迷走神経が刺激されやすく、悪心・嘔吐や冷汗などの自律神経症状が出現する。また痛みが心窩部に感じられることもあり、胃・十二指腸潰瘍や胆道疾患など消化器疾患と誤認されやすい。高齢者・糖尿病患者・女性では胸痛が乏しく、悪心や倦怠感のみが前面に出る非典型例も少なくないため、見落とさないことが重要である。
- ×b. 息切れ
狭心症の症候として起こりうる。心筋が虚血になるとまず拡張能が、次いで収縮能が一過性に低下し(虚血カスケード)、左室拡張末期圧が上昇して肺うっ血をきたすため、呼吸困難や息切れを自覚する。胸痛の代わりに労作時の息切れだけを訴える場合もあり、このような症状は狭心症相当症状(anginal equivalent)と呼ばれる。
- ×c. 左肩痛
狭心症の典型的な放散痛(関連痛)である。心臓からの痛覚入力と同じ脊髄分節(おもにT1〜T5)が支配する左肩や左上肢尺側に痛みやしびれが感じられる。左肩以外にも頸部、下顎、歯、背部、心窩部などへの放散がみられ、歯痛として歯科を受診する例もある。胸痛がなく放散部位の痛みだけのこともあるため、重要な手がかりとなる。
- ×d. 前胸部絞扼感
狭心症で最も特徴的な症状である。胸骨の裏側を中心とした、締め付けられる・押しつぶされるような圧迫感で、範囲は手のひら大程度の広がりをもつ。労作性狭心症では、階段昇降や急ぎ足などの労作で出現し、数分(典型的には3〜5分程度)続いて安静やニトログリセリン舌下で改善する。冠攣縮性狭心症では夜間から早朝の安静時に起こりやすい。
- ○e. 針で刺すような痛み
狭心症の症候として考えにくい。「針で刺すような」痛みは、部位を指先で示せるほど限局し、瞬間的に生じて消える鋭い痛みであり、皮膚・筋肉・肋骨・肋軟骨・胸膜などに由来する体性痛の性質である。肋間神経痛、筋骨格系の胸痛、帯状疱疹(皮疹出現前を含む)、心因性の胸痛などで訴えられることが多い。心筋虚血による痛みは内臓痛で、ある程度の広がりをもつ持続的な圧迫感・絞扼感として現れ、数秒で消えるような点状の痛みにはならない。
胸痛の性状と鑑別
・狭心症: 前胸部の絞扼感・圧迫感。数分〜15分以内。労作で誘発(労作性)、または夜間〜早朝の安静時(冠攣縮性)。ニトログリセリンで軽快。放散痛あり。 ・急性心筋梗塞: 同様の性状だが強く、20〜30分以上持続し、ニトログリセリンが効きにくい。冷汗・悪心・嘔吐を伴いやすい。 ・急性大動脈解離: 突然発症の引き裂かれるような激痛で、背部へ移動することがある。 ・急性心膜炎: 鋭い痛みで、吸気や臥位で増悪し前屈位で軽減する。 ・気胸・胸膜炎: 呼吸で増悪する鋭い痛み。 ・肋間神経痛・筋骨格系胸痛: 針で刺すような限局痛、体動や圧迫で再現される。
内臓痛と体性痛
・内臓痛: 臓器の伸展・虚血・炎症で生じる。局在があいまいで鈍く、自律神経症状(悪心、冷汗)を伴いやすい。関連痛を伴う。 ・体性痛: 皮膚、筋肉、骨、壁側胸膜・腹膜などに由来する。局在が明確で鋭い。 【非典型的な症状に注意すべき患者】高齢者、糖尿病(自律神経障害による無痛性心筋虚血)、女性では、胸痛が乏しく息切れ、悪心、倦怠感、心窩部不快感のみで発症することがある。
POINT
・狭心症の痛みは内臓痛で、手のひら大の範囲の前胸部絞扼感・圧迫感として数分間持続する。 ・左肩・左上肢・頸部・下顎・歯などへの放散痛は重要な手がかりである。 ・息切れ、悪心、冷汗も虚血に伴う症状として起こりうる(高齢者・糖尿病・女性では非典型的症状が主体のことがある)。 ・指先で示せる、針で刺すような瞬間的な痛みは体性痛であり、狭心症らしくない。
