StudyMed医師国家試験

撮るなら胸だ―初療室のポータブルX線が「治療方針」を決める理由

第108回医師国家試験 E問題 第61問(連問)

国試問題にチャレンジ

第108回 E問題 第61問

連問の共通文

次の文を読み,60~62の問いに答えよ。 19歳の男性。交通外傷のため搬入された。 現病歴:河川沿いの堤防道路でオートバイを運転中に対向車と接触し転倒,崖下に転落した。 既往歴:特記すべきことはない。 現症:意識はほぼ清明だが会話は困難。脈拍124/分。血圧92/70 mmHg。呼吸数28/分。SpO2 100%(リザーバー付マスク10 L/分酸素投与下)。顔面に挫創があり,口腔から出血と凝血塊の喀出とを認める。胸部は右前胸部に圧痛があり,右呼吸音が減弱している。右下肢は外旋位で,右下腿の変形と開放創とを認める。腹部超音波検査で腹腔内に液体貯留を認める。マスクによる酸素投与を継続している。

 治療方針の決定のため,初療室で行う単純エックス線撮影で最も優先順位が高い部位はどれか。

  1. a.頭部
  2. b.顔面
  3. c.頸椎
  4. d.胸部
  5. e.右下肢

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は同じ多発外傷の患者さんで、初療室で単純X線を1枚撮るならどこを優先するか、という問題だ。ポイントは、問題文にある「治療方針の決定のため」という言葉。損傷がありそうな場所を撮るのではなく、撮った結果がすぐに処置を変える部位はどこかを考えてほしい。
医学生医学生
右下腿は明らかに変形していて開放創もあるので、まずそこを撮りたくなります。
ドクタードクター
骨折があるのはほぼ確実だから、いずれ撮影して手術計画を立てることになる。でも、それで今この瞬間の蘇生の方針が変わるだろうか。JATECでは、まずprimary surveyで呼吸・循環などの生理学的異常を見つけて、その場で蘇生する。この段階で初療室でやる画像検査は、ベッドサイドで短時間にでき、しかも直ちに治療方針を左右するものに限られるんだ。
医学生医学生
救急科の実習で見たのは、FASTとポータブルの胸部・骨盤X線でした。
ドクタードクター
よく見ているね。その3つがprimary surveyの基本の画像検査だ。ではこの患者さんで、BとCの異常を説明しうるのはどこだろう。
医学生医学生
右前胸部の圧痛と右呼吸音の減弱、頻呼吸があるので、右の血胸か気胸、肋骨骨折あたりを疑います。
ドクタードクター
その通り。しかも頻脈で脈圧も狭く、出血性ショックの状態だ。ショックの出血源としては右血胸、腹腔内出血、骨盤周囲、下腿の開放骨折が候補になる。胸部X線を撮れば、血胸・気胸の有無と程度がわかり、胸腔ドレナージが必要か、大量血胸で開胸止血が必要かといった判断に直結する。だから正解は胸部だ。
医学生医学生
呼吸の原因と出血源の両方を一度に評価できるから、優先度が一番高いんですね。
ドクタードクター
そういうこと。挿管したあとならチューブ位置の確認にも使えるから、一石三鳥と言ってもいい。では、頭部はどうだろう。
医学生医学生
転落しているので頭部外傷も心配ですが、意識はほぼ清明ですし、そもそも頭蓋内の出血は単純X線ではわからないですよね。
ドクタードクター
正解。瞳孔不同や片麻痺といった「切迫するD」の所見もないし、頭蓋内の評価にはCTが必要だ。頭部単純X線は治療方針の決定にほとんど役立たない。顔面も同じで、口腔内出血があるから顔面骨骨折の検索は必要だけれど、それはABCが安定してからsecondary surveyでCTを使って行う。気道の問題は画像を待たずに吸引や挿管で対応するんだ。
医学生医学生
頸椎はどうでしょう。昔の教科書では頸椎側面像を撮ると書いてあった気がします。
ドクタードクター
鋭いね。以前のJATECではprimary surveyに頸椎側面X線が含まれていたけれど、現行では胸部・骨盤X線とFASTが基本になっている。高エネルギー外傷で顔面にも損傷があるから頸椎損傷は否定できず、頸椎カラーによる保護は続ける。ただ、その評価はsecondary surveyでCTを用いて行うのが一般的だ。
医学生医学生
右下肢が外旋位なのも気になりました。整形外科の講義で、大腿骨頸部骨折のサインだと習いました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。外旋位は大腿骨近位部骨折だけでなく骨盤骨折を示唆することもある。不安定型骨盤骨折は大量の後腹膜出血を起こしうるから、ショックの出血源検索として骨盤X線もprimary surveyで撮るべき検査だ。下腿の開放創には、撮影より先に圧迫止血と創の被覆、副子固定をしておこう。
医学生医学生
出血源は胸腔・腹腔・後腹膜の3か所を中心に探して、それぞれ胸部X線、FAST、骨盤X線で対応する、という整理でいいですか。
ドクタードクター
完璧だ。これに外出血と長管骨骨折を加えて評価する。もう一つ大事な注意点がある。緊張性気胸は呼吸音減弱、頸静脈怒張、気管偏位、皮下気腫、ショックといった身体所見から臨床的に診断して、X線を待たずに胸腔穿刺やドレナージで脱気する。画像を撮っている間に心停止に至ることがあるからね。
医学生医学生
ドレナージで血液がたくさん出たときは、どのくらいで開胸を考えるんですか。
ドクタードクター
目安として、挿入直後に1,000 mL以上の血液が流出する場合や、その後も1時間あたり200 mL以上の出血が数時間続く場合、輸液・輸血をしても循環が安定しない場合には開胸止血術を考慮する。胸部X線はその入り口になる検査なんだ。

まとめ

外傷初期診療のprimary surveyで初療室において行う画像検査は、FAST、ポータブルの胸部単純X線、骨盤単純X線の3つで、いずれも短時間で施行でき直ちに蘇生方針を左右します。右胸部の圧痛と呼吸音減弱、頻呼吸、ショックがそろう本例では、血胸・気胸の有無と程度を確認し、胸腔ドレナージや開胸止血術の要否を決められる胸部X線が最優先です。頭部・顔面・頸椎・四肢の評価は、ABCが安定してからのsecondary surveyでCTや部位別X線を用いて行い、頸椎は保護を続けながら後で評価します。なお緊張性気胸はX線を待たず身体所見から診断して脱気する点も重要です。「その画像で今の治療が変わるか」を基準に検査の優先順位を決める考え方は、救急診療全般で役立つ判断の軸になります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

高エネルギー外傷(オートバイ事故後の崖下転落)で、以下の異常がみられる。 ・A(気道): 意識はほぼ清明なのに会話困難。顔面挫創と口腔内出血・凝血塊による上気道狭窄が疑われる。 ・B(呼吸): 呼吸数28/分の頻呼吸。右前胸部の圧痛と右呼吸音減弱から、肋骨骨折、血胸・気胸(血気胸)、肺挫傷などの右胸部外傷が疑われる。 ・C(循環): 脈拍124/分、血圧92/70 mmHgの出血性ショック。出血源の候補は右血胸、腹腔内出血(超音波で液体貯留)、右下腿開放骨折、さらに右下肢外旋位から骨盤・股関節部の損傷も考えられる。

考え方

外傷初期診療の手順(JATEC)では、まずprimary surveyで呼吸・循環など生理学的な異常を見つけ、その場で蘇生処置を行う。この段階で初療室において行う画像検査は、ベッドサイドで短時間に施行でき、しかも直ちに治療方針を左右するものに限られる。具体的にはFAST(迅速簡易超音波検査)と、ポータブル装置による胸部単純X線撮影・骨盤単純X線撮影である。 胸部X線は、Bの異常の原因(血胸・気胸・多発肋骨骨折・肺挫傷など)を明らかにするとともに、ショックの原因としての大量血胸の有無を評価できる。その結果によって胸腔ドレナージの必要性や開胸術の要否が決まり、すぐに救命処置へ結びつく。本例ではBとCに重大な異常があり、右胸部外傷が強く疑われるので、胸部の撮影が最優先となる。 頭部・顔面・頸椎・四肢などの形態学的な損傷の評価は、ABCが安定してから行うsecondary survey(全身の詳細な診察と精査)の段階で、主にCTや部位別X線を用いて行う。

選択肢考察

  1. ×a.  頭部

    意識はほぼ清明で、切迫した頭蓋内病変を示す所見(意識レベルの低下、瞳孔不同、片麻痺など)はない。また頭部外傷の評価で頭蓋内の出血や脳損傷を知るにはCTが必要であり、頭部単純X線は治療方針の決定にほとんど役立たない。頭部の評価はsecondary surveyでCTにより行う。

  2. ×b.  顔面

    顔面挫創と口腔内出血があり、顔面骨骨折の検索は必要になるが、それはABCが安定したあとのsecondary surveyで行う(通常はCTで評価する)。顔面骨の画像検査の結果がショックや呼吸障害への初期対応を変えることはなく、初療室での優先度は低い。気道の問題は画像を待たず、吸引や気管挿管などの処置で対応する。

  3. ×c.  頸椎

    高エネルギー外傷で顔面にも外傷があるため、頸椎損傷は否定できず、頸椎カラーなどによる保護は継続する。しかし頸椎の損傷の有無が現時点の呼吸・循環の蘇生方針を変えるわけではなく、頸椎の評価はsecondary surveyでCTを用いて行うのが一般的である。胸部より優先して撮影する部位ではない。

  4. ○d.  胸部

    右前胸部の圧痛と右呼吸音減弱、頻呼吸、ショックがそろっており、血胸・気胸・多発肋骨骨折・肺挫傷などの胸部外傷が強く疑われる。胸部単純X線はprimary surveyで初療室においてポータブルで撮影する基本の検査であり、血胸・気胸の有無と程度を確認することで、胸腔ドレナージの適応や、大量血胸に対する開胸止血術の要否といった治療方針を直ちに決められる。気管挿管後であればチューブ位置の確認にも用いる。

  5. ×e.  右下肢

    右下腿の変形と開放創から開放骨折は確実であり、いずれは撮影して手術計画を立てる必要がある。しかし四肢骨折の画像評価は生命に直結するABCの蘇生が済んでからのsecondary surveyで行えばよい。初療室では開放創からの活動性出血に対する圧迫止血や、創の被覆・副子固定を行っておく。なお右下肢外旋位は骨盤骨折や大腿骨近位部骨折を示唆することがあり、ショックの出血源検索としてはprimary surveyで骨盤X線を撮影する。

primary surveyで行う画像検査

・FAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma): 心嚢、モリソン窩(肝腎境界)、脾周囲、膀胱直腸窩、両側胸腔の液体貯留を短時間で検索する。 ・胸部単純X線(ポータブル・仰臥位): 血胸、気胸、多発肋骨骨折、肺挫傷、縦隔拡大(大動脈損傷の示唆)などを確認する。 ・骨盤単純X線: 不安定型骨盤骨折(大量の後腹膜出血を起こしうる)を確認する。 ショック時の出血源は「胸腔・腹腔・後腹膜(骨盤)」の3か所を中心に検索し、これに外出血と長管骨骨折を加えて評価する。胸部X線・FAST・骨盤X線はまさにこの検索のための検査である。

緊張性気胸の扱い

緊張性気胸は身体所見(呼吸音減弱、頸静脈怒張、気管偏位、皮下気腫、ショック)から臨床的に診断し、X線を待たずに胸腔穿刺・胸腔ドレナージで脱気する。

血胸の開胸適応の目安

胸腔ドレナージ直後に1,000 mL以上の血液が流出する場合や、その後も1時間あたり200 mL以上の出血が数時間持続する場合、あるいは輸液・輸血を続けても循環が安定しない場合には、開胸止血術を考慮する。

secondary survey

ABCが安定してから、頭からつま先まで全身を詳細に診察し、受傷機転や既往を聴取したうえで、CT(頭部・頸椎・体幹など)や部位別X線撮影で損傷を系統的に検索する。

POINT

・初療室(primary survey)で行う画像検査は、FAST・胸部X線・骨盤X線の3つ。 ・胸部X線は血胸・気胸の診断から胸腔ドレナージや開胸の判断に直結するため最優先。 ・頭部・顔面・頸椎・四肢の評価は、ABCの安定後のsecondary surveyでCT等を用いて行う。 ・緊張性気胸はX線を待たずに臨床診断で脱気する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。