黒い脳室、白い皮質―3つの手がかりでMRIシーケンスを見抜く
第108回医師国家試験 E問題 第18問
国試問題にチャレンジ
物忘れを主訴に来院した70歳男性の頭部MRIを別に示す。 この画像はどれか。

- a.T1強調像
- b.T2強調像
- c.FLAIR像
- d.拡散強調像
- e.プロトン密度強調像
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
頭部MRIのシーケンスは、脳脊髄液の信号、灰白質と白質の信号の上下関係、画質の粗さの3点で見分けられます。脳脊髄液が黒く、灰白質が白質より高信号で、境界まで鮮明に描出された画像はFLAIR像であり、T1強調像(白質>灰白質)、T2強調像(水が白い)、拡散強調像(画質が粗くゆがみやすい)、プロトン密度強調像(水が灰色)とは区別されます。FLAIR像は水の信号を抑えたT2強調系の画像で、脳室周囲や脳表近くの白質病変、脱髄斑、くも膜下出血などの検出に優れ、物忘れを訴える高齢者の評価でも頻用されます。拡散強調像は超急性期脳梗塞の早期診断に有用ですが、T2 shine-throughに注意してADCマップと併せて評価します。各シーケンスの信号の原理を理解しておくことは、画像所見を正しく読み、適切な検査を選ぶための土台になります。
解答・解説
正解はcです
頭部MRIの撮像法(シーケンス)を画像から見分ける問題である。判別の手がかりは主に次の3つの組織の信号である。 ①脳脊髄液(CSF:脳室や脳溝を満たす水) ②灰白質(大脳皮質・基底核など)と白質の信号の上下関係 ③画像の解像度・S/N(拡散強調像は画質が粗く、ゆがみが出やすい)
本画像の読み取り
・脳室や脳溝の脳脊髄液が黒い(低信号)。 ・灰白質(皮質)が白質よりもやや白い(高信号)。 ・脳実質の輪郭や灰白質と白質の境界が細かく描出されており、拡散強調像のような粗い画像ではない。
考え方
「灰白質>白質」という信号の関係はT2強調像系の特徴である(T1強調像では逆に白質>灰白質となる)。一方、T2強調像であれば脳脊髄液は真っ白に写るはずである。T2強調像と同じコントラストを持ちながら脳脊髄液だけが黒く抑制されている画像、すなわちFLAIR像と判断できる。 なお、物忘れを主訴とする高齢者では、FLAIR像で脳室周囲や深部白質の高信号域(慢性虚血性変化)、海馬の萎縮などを評価することが多く、臨床的にもよく用いられる撮像法である。
選択肢考察
- ×a. T1強調像
T1強調像では脳脊髄液は黒く(低信号)写る点は本画像と同じだが、髄鞘に富む白質が灰白質よりも白く写る(白質>灰白質)。本画像は灰白質の方が白質より高信号であり、T1強調像のコントラストとは逆である。なおT1強調像では脂肪が高信号となり、解剖学的構造の把握や造影効果(ガドリニウム造影)の評価に適する。
- ×b. T2強調像
T2強調像では灰白質が白質より高信号となる点は本画像と一致するが、水分が多い組織ほど白く写るため、脳脊髄液は非常に強い高信号(真っ白)となる。本画像では脳室・脳溝が黒いので、T2強調像ではない。T2強調像は浮腫・炎症・腫瘍など水分量が増える病変を高信号として描出する基本的な撮像法である。
- ○c. FLAIR像
FLAIR(fluid-attenuated inversion recovery:水抑制反転回復法)像は、反転パルスを加えて自由水(脳脊髄液)の信号をゼロに近づけたT2強調系の画像である。そのため、灰白質が白質よりやや高信号というT2強調像に近いコントラストを保ちつつ、脳脊髄液は黒く写る。本画像の「脳脊髄液が低信号・灰白質>白質」という所見はこれに合致する。T2強調像では明るい脳脊髄液に紛れて見えにくい脳室周囲や脳表近くの病変(脳室周囲白質病変、脱髄斑、ラクナ梗塞、くも膜下出血など)を高信号として見つけやすいのが利点である。
- ×d. 拡散強調像
拡散強調像(DWI:diffusion-weighted imaging)は、水分子の拡散(ブラウン運動)が制限された部位を高信号として描出する撮像法である。細胞性浮腫を生じる超急性期脳梗塞を発症後早期(数十分〜数時間)から検出でき、CTより早く診断できる。脳脊髄液は拡散が自由なため低信号となるが、画像は解像度・S/N比が低く粗い印象で、空気と骨の境界付近でゆがみ(磁化率アーチファクト)が出やすい。本画像のように灰白質と白質の境界まで鮮明に描出された画像とは異なる。
- ×e. プロトン密度強調像
プロトン密度強調像は、長いTR(繰り返し時間)と短いTE(エコー時間)で撮像し、T1緩和(縦緩和)・T2緩和(横緩和)の影響を小さくして、組織内の水素原子(プロトン)の量を反映させた画像である。脳では脳脊髄液が脳実質とあまり差のない灰色〜やや高信号となり、本画像のように明瞭に黒くはならない。現在の頭部ルーチン検査ではほとんど用いられず、主に関節の軟骨・半月板・靱帯など骨軟部領域の評価に使われる。
頭部MRI主要シーケンスの信号の目安
・T1強調像:脳脊髄液=黒、白質>灰白質、脂肪=白。解剖の把握、造影効果の評価、亜急性期出血(メトヘモグロビン)の高信号など。 ・T2強調像:脳脊髄液=白、灰白質>白質。浮腫・腫瘍・炎症など水分の多い病変が高信号。 ・FLAIR像:脳脊髄液=黒、灰白質>白質。脳室周囲・脳表の病変、白質病変、くも膜下出血の検出に有用。 ・拡散強調像:拡散制限のある部位が高信号。超急性期脳梗塞、膿瘍、類表皮嚢胞、クロイツフェルト・ヤコブ病(皮質のリボン状高信号)など。T2強調像で高信号の病変が拡散強調像でも白く見える現象(T2 shine-through)に注意し、ADC(見かけの拡散係数)マップで確認する。 ・プロトン密度強調像:プロトン量を反映。主に骨軟部領域で使用。
見分け方の手順
1. 脳脊髄液が白いか黒いか(白→T2強調像、黒→T1強調像・FLAIR像・拡散強調像) 2. 灰白質と白質の上下関係(白質が白い→T1強調像、灰白質が白い→T2系) 3. 画質が粗く頭蓋底付近がゆがむ→拡散強調像
MRIの一般的特徴
CTに比べ軟部組織のコントラストが高く、放射線被曝がない。骨によるアーチファクトが少ないため、後頭蓋窩や頭蓋底の病変評価に優れる。一方、検査時間が長く、心臓ペースメーカー(MRI非対応型)や一部の金属留置物がある患者では禁忌・注意となる。
POINT
・脳脊髄液が黒く、灰白質が白質より高信号の画像はFLAIR像である。 ・T1強調像:水=黒、白質>灰白質。T2強調像:水=白、灰白質>白質。 ・FLAIR像は「水の信号を消したT2強調像」で、脳室周囲や脳表の病変の検出に優れる。 ・拡散強調像は超急性期脳梗塞の早期診断に有用で、画質が粗いのが見た目の特徴。
