「拡げる・切る・止める・つかむ」―処置具の目的から読み解く内視鏡治療
第108回医師国家試験 E問題 第19問
国試問題にチャレンジ
内視鏡治療と使用する機器の組合せで正しいのはどれか。
- a.食道狭窄の拡張術 ―― バルーン
- b.食道静脈瘤の止血術 ―― 高周波ナイフ
- c.胃内異物の除去術 ―― クリップ
- d.消化性潰瘍の止血術 ―― スネア
- e.早期胃癌の粘膜下層剝離術 ―― バスケット鉗子
対話形式の解説
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ドクターまとめ
内視鏡治療の処置具は、目的によって「拡げる(バルーン、ブジー)」「切る・剝がす(高周波ナイフ、スネア)」「止める(クリップ、止血鉗子、局注)」「つかむ・回収する(把持鉗子、回収ネット、バスケット鉗子)」に整理できます。食道狭窄の拡張にはバルーンを用いるのが正しい組合せで、食道静脈瘤はEVL・EIS、出血性潰瘍はクリップや熱凝固・局注で止血します。スネアはポリペクトミーやEMR、高周波ナイフはESD、バスケット鉗子は主にERCP下の総胆管結石除去に使われます。ESDは大きな病変でも一括切除でき、正確な病理評価につながる点がEMRとの違いです。器具を名前ではなく目的で理解することが、内視鏡治療の全体像をつかみ、臨床現場で手技を理解する土台になります。
解答・解説
正解はaです
消化管の代表的な内視鏡治療について、それぞれで使用する処置具(デバイス)を正しく対応させられるかを問う問題である。 内視鏡の処置具は内視鏡の鉗子口(チャンネル)から挿入して使用し、目的ごとにおおよそ次のように整理できる。 ・拡げる:バルーン(バルーンダイレーター)、ブジー ・切る・剝がす:高周波ナイフ(ESD用ナイフ)、スネア(ポリープを絞めて切除) ・止める(止血):クリップ、止血鉗子(凝固)、局注針、アルゴンプラズマ凝固(APC) ・静脈瘤を処理する:結紮用のO(オー)リング(EVL)、硬化剤注入用の穿刺針(EIS) ・つかむ・回収する:把持鉗子、回収ネット、スネア、バスケット鉗子(胆管結石など) 各選択肢の治療について「何をしたい処置か」を考え、それに合う機器かどうかで判断すると迷わない。食道狭窄の拡張術は「内腔を広げる」処置であり、バルーンとの組合せが正しい。
選択肢考察
- ○a. 食道狭窄の拡張術 ―― バルーン
食道狭窄(食道癌術後の吻合部狭窄、ESD後の瘢痕狭窄、腐食性食道炎後の狭窄、アカラシアなど)に対しては、内視鏡的バルーン拡張術が広く行われる。狭窄部に収縮したバルーンを位置させ、水や造影剤で膨らませて内腔を押し広げる。内視鏡の鉗子口を通して用いるタイプのほか、ガイドワイヤーに沿って挿入するタイプもある。穿孔が主な合併症である。組合せとして正しい。
- ×b. 食道静脈瘤の止血術 ―― 高周波ナイフ
食道静脈瘤の内視鏡的止血には、静脈瘤をゴム製のOリングで縛る内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL:endoscopic variceal ligation)や、静脈瘤内外に硬化剤を注入する内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS:endoscopic injection sclerotherapy)が用いられる。内視鏡的止血が困難な場合の一時的止血にはSB(Sengstaken-Blakemore)チューブによるバルーン圧迫が行われる。高周波ナイフは組織を切開・剝離する器具であり、静脈瘤を切れば大出血を招くため用いない。高周波ナイフはESD(内視鏡的粘膜下層剝離術)で使用する。
- ×c. 胃内異物の除去術 ―― クリップ
胃内異物(PTP包装シート、硬貨、ボタン電池、義歯、魚骨など)の除去には、把持鉗子、回収ネット、スネア、バスケット鉗子などの「つかむ・回収する」処置具を用いる。鋭利な異物では食道や咽頭を傷つけないよう、オーバーチューブや先端フードを併用することもある。クリップは組織を挟んで閉じる器具であり、主に出血源の止血や、切除後の粘膜欠損・小さな穿孔の縫縮に用いるもので、異物の回収には用いない。
- ×d. 消化性潰瘍の止血術 ―― スネア
出血性消化性潰瘍の内視鏡的止血には、露出血管をクリップで挟むクリップ法、止血鉗子や電極による熱凝固法、高張Na-エピネフリン液(HSE)や純エタノールの局注法、止血薬の散布法などがある。スネアは輪状のワイヤーでポリープの茎などを絞めて高周波電流で切除する器具で、大腸ポリープなどの内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)や内視鏡的粘膜切除術(EMR)に用いる。潰瘍の止血には用いない。
- ×e. 早期胃癌の粘膜下層剝離術 ―― バスケット鉗子
内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD:endoscopic submucosal dissection)では、病変周囲の粘膜下層に液体を局注して病変を持ち上げたうえで、高周波ナイフで周囲の粘膜を切開し、粘膜下層を剝離して病変を一括切除する。術中の出血には止血鉗子を用いる。バスケット鉗子はワイヤーでかご状に結石を包み込んで回収する器具で、主に内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)下での総胆管結石の除去(必要に応じて砕石)に用いる。ESDには用いない。
主な内視鏡治療と処置具の対応
・食道・消化管狭窄の拡張:バルーン、ブジー。悪性狭窄では金属ステント留置も行う。 ・食道・胃静脈瘤:EVL(Oリングによる結紮)、EIS(硬化剤注入)。胃静脈瘤ではシアノアクリレート系組織接着剤の注入やBRTO(バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術)も用いられる。一時止血にはSBチューブ。 ・出血性潰瘍:クリップ、止血鉗子による熱凝固、HSE局注、APC など。 ・ポリープ・早期癌の切除:スネア(ポリペクトミー、EMR)、高周波ナイフ(ESD)。 ・異物除去:把持鉗子、回収ネット、スネア、バスケット鉗子、オーバーチューブ。 ・総胆管結石:ERCP下で内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)や内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)を行い、バスケット鉗子や採石用バルーンで結石を除去する。大きな結石は機械的砕石具で砕く。
ESDとEMRの違い
EMRはスネアで病変を絞扼して切除するため、大きな病変では分割切除になりやすい。ESDは高周波ナイフで粘膜下層を剝離するため、大きな病変でも一括切除が可能で、正確な病理学的評価に有利である。
POINT
・食道狭窄の拡張にはバルーン(またはブジー)を用いる。 ・食道静脈瘤はEVL(Oリング結紮)・EIS(硬化剤注入)、一時止血はSBチューブ。 ・消化性潰瘍の止血はクリップ・熱凝固・局注。 ・スネアはポリペクトミー・EMR、高周波ナイフはESD。 ・バスケット鉗子は胆管結石の除去に用いる。
