「負荷をかけている最中」こそ見逃せない―心機能検査の現場ルールを総点検
第108回医師国家試験 E問題 第17問
国試問題にチャレンジ
心機能検査について正しいのはどれか。
- a.Holter心電図は胸部6誘導で行う。
- b.心エコー検査は明るい検査室で行う。
- c.心臓電気生理学的検査〈EPS〉は病室で行う。
- d.12誘導心電図の胸部誘導V1は胸骨右縁第2肋間に電極を付ける。
- e.トレッドミル運動負荷心電図では負荷中も連続的に心電図をモニターする。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
トレッドミル運動負荷心電図は、負荷によって誘発される虚血性ST変化や不整脈をとらえるとともに、重篤な変化が出たら直ちに中止するため、負荷前から回復期まで心電図と血圧を連続的に監視します。Holter心電図は12誘導の胸部6誘導ではなく、CM5誘導やNASA誘導などの双極誘導を2〜3チャネルで長時間記録する検査です。心エコーは画面の濃淡を読み取るため暗い部屋で行い、EPSはカテーテルを用いる侵襲的検査なので透視装置や除細動器のあるカテーテル検査室で行います。V1の標準位置は胸骨右縁第4肋間で、高位肋間記録はBrugada症候群を疑う場合の追加記録です。各検査の目的から実施条件を考える習慣は、検査を安全かつ正確に行う臨床の基本につながります。
解答・解説
正解はeです
本問は、日常診療でよく行われる心機能検査(心電図関連検査、心エコー検査、心臓電気生理学的検査)について、その実施方法や実施場所といった実際的な知識を問う一般問題である。 それぞれの検査がどのような目的で行われ、その目的のためにどういう条件が必要かを考えると正誤を判断しやすい。例えば、Holter心電図は日常生活を送りながら長時間記録する検査であるから、電極や記録器は最小限で携帯しやすいものでなければならない。心エコー検査はモニター画面の微妙な濃淡を読み取る検査であるから、画面が見やすい環境が必要である。心臓電気生理学的検査はカテーテルを心腔内に挿入する侵襲的検査であるから、X線透視装置や救急対応の設備が整った場所で行う必要がある。運動負荷心電図は負荷によって誘発される虚血や不整脈を捉える検査であり、負荷をかけている最中の変化こそが観察対象で、同時に安全確保のためにも監視が欠かせない。 また、12誘導心電図の電極位置は、すべての心電図検査の基礎となる知識として正確に覚えておく必要がある。
選択肢考察
- ×a. Holter心電図は胸部6誘導で行う。
Holter心電図は、小型の記録器を身に着けて通常24時間、日常生活中の心電図を連続記録する検査である。一般には胸部に貼った電極による双極誘導を2チャネル(機種により3チャネル)記録する方式が標準で、12誘導心電図の胸部6誘導(V1〜V6)をそのまま用いるわけではない。代表的な誘導として、V5付近の陽極と胸骨柄の陰極で構成するCM5誘導はST変化(主に側壁の虚血)の検出に優れ、胸骨上下に電極を置くNASA誘導はP波が見やすく不整脈の解析に適する。下壁の虚血をみるにはaVFに近い双極誘導を用いることもある。目的に応じて誘導を選ぶが、胸部6誘導で行うという記述は誤りである。
- ×b. 心エコー検査は明るい検査室で行う。
心エコー検査では、モニターに表示される白黒の断層像やカラードプラ像の微妙な濃淡を読み取って、心腔の大きさ、壁運動、弁の形態、血流の異常などを評価する。室内が明るいと画面が反射して見えにくくなり、壁運動異常や小さな疣贅・血栓などを見落とすおそれがある。このため、検査室は照明を落として暗めにして行うのが原則である。
- ×c. 心臓電気生理学的検査〈EPS〉は病室で行う。
心臓電気生理学的検査(EPS:electrophysiological study)は、大腿静脈などから複数の電極カテーテルを心腔内に挿入し、心内心電図の記録やプログラム電気刺激によって、洞結節・房室結節・His束などの刺激伝導系の機能、不整脈の発生機序や起源を調べる侵襲的検査である。X線透視下でのカテーテル操作が必要で、検査中に心室頻拍や心室細動が誘発されることもあるため、透視装置・多チャネル記録装置・除細動器などを備えた心臓カテーテル検査室(電気生理検査室)で行う。病室で行う検査ではない。EPSはカテーテルアブレーションの前提となる検査であり、ペースメーカや植込み型除細動器(ICD)の適応判断にも用いられる。
- ×d. 12誘導心電図の胸部誘導V1は胸骨右縁第2肋間に電極を付ける。
V1の標準的な電極位置は胸骨右縁第4肋間であり、第2肋間ではない。電極を本来より高い位置に付けると、QRS波形やST部分が変化して右脚ブロック様の波形や誤った所見を生じることがあるため、正確な位置に装着することが重要である。なお、Brugada症候群が疑われる場合には、特徴的なST上昇(coved型)を捉えやすくするため、あえてV1・V2を1〜2肋間上(第3・第2肋間)に置いて記録する「高位肋間記録」を追加することがあるが、これは標準の電極位置ではない。
- ○e. トレッドミル運動負荷心電図では負荷中も連続的に心電図をモニターする。
トレッドミル運動負荷心電図は、動くベルトの上を歩かせ、ベルトの速度と傾斜を段階的に上げて(代表的なBruce法では3分ごと)運動負荷を漸増させる検査である。安静時には現れない心筋虚血によるST変化(水平型・下降型のST低下など)や運動誘発性の不整脈を検出するのが目的であるため、負荷前・負荷中・回復期を通して心電図を連続的に記録・監視する。また、負荷中の重篤な不整脈、著しいST変化、血圧低下、胸痛などは検査を中止すべき徴候であり、安全確保のうえでも負荷中の連続モニターと血圧測定は不可欠である。したがって本肢は正しい。歩行という生理的な運動で負荷をかけられることもトレッドミル法の利点である。
12誘導心電図の胸部誘導の電極位置
・V1:胸骨右縁第4肋間 ・V2:胸骨左縁第4肋間 ・V3:V2とV4を結ぶ線の中点 ・V4:左鎖骨中線と第5肋間の交点 ・V5:左前腋窩線上でV4と同じ高さ ・V6:左中腋窩線上でV4と同じ高さ 右側胸部誘導(V3R〜V6R)は右室梗塞の診断に、背部誘導(V7〜V9)は後壁梗塞の診断に用いる。
主な運動負荷試験
・マスター二階段試験:2段の階段を昇降させる簡便な方法。負荷後に心電図を記録するため、負荷中の変化は評価しにくい。 ・トレッドミル試験:ベルト上の歩行・走行で負荷を漸増する。負荷中も連続モニターできる。 ・自転車エルゴメータ試験:自転車こぎで負荷を定量的に漸増でき、呼気ガス分析(心肺運動負荷試験)と組み合わせやすい。 禁忌には、急性心筋梗塞の発症早期、不安定狭心症、コントロールされていない症候性の不整脈や心不全、症候性の重症大動脈弁狭窄症、急性大動脈解離、急性肺塞栓症、急性心筋炎・心膜炎などがある。
Holter心電図の主な目的
動悸・失神など症状と不整脈の関係の評価、無症候性心筋虚血や冠攣縮性狭心症(夜間から早朝の発作)の検出、抗不整脈薬の効果判定、ペースメーカの作動確認などに用いる。発作頻度が低い場合は、より長期間記録できるイベントレコーダや植込み型ループレコーダを用いる。
POINT
・Holter心電図は胸部の双極誘導(CM5、NASA誘導など)を2〜3チャネルで長時間記録する。12誘導の胸部6誘導ではない。 ・心エコー検査は画面を見やすくするため暗い検査室で行う。 ・EPSはカテーテルを用いる侵襲的検査で、カテーテル検査室で行う。 ・V1は胸骨右縁第4肋間、V2は胸骨左縁第4肋間。第2・第3肋間への高位記録はBrugada症候群が疑われるときの追加記録である。 ・運動負荷心電図は負荷前・負荷中・回復期を通じて心電図と血圧を連続的に監視する。
