StudyMed医師国家試験

心拍出量を動かす4つのレバー―「引く」より「軽くする」が効く後負荷の話

第118回医師国家試験 F問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第118回 F問題 第13問

正常な心臓で分時心拍出量を増加させるのはどれか。

  1. a.後負荷の減少
  2. b.心拍数の減少
  3. c.前負荷の減少
  4. d.冠血流量の減少
  5. e.甲状腺機能の低下

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は循環生理の基本問題だ。分時心拍出量が何で決まるかを式で押さえ、各選択肢がその式のどこに、どちら向きに効くかを整理すれば解ける。まずは分時心拍出量の式から確認しよう。
医学生医学生
1回拍出量×心拍数ですよね。生理学の講義で最初に習った式です。
ドクタードクター
その通り。だから分時心拍出量を増やすには、1回拍出量か心拍数のどちらかを増やせばいい。では1回拍出量を決める因子は何だったかな。
医学生医学生
前負荷、後負荷、心筋収縮力の3つです。でも前負荷と後負荷の違いがいつも曖昧になってしまって…。
ドクタードクター
そこを丁寧に分けよう。前負荷は収縮が始まる直前、つまり拡張末期に心筋がどれだけ引き伸ばされているか。拡張末期容積が指標になる。後負荷は収縮を始めた後、血液を押し出すときに立ちはだかる抵抗で、大動脈弁に異常がなければ大動脈圧や末梢血管抵抗がおもに反映される。
医学生医学生
前負荷は「入ってくる量」、後負荷は「出すときの壁」というイメージでいいですか。
ドクタードクター
いいイメージだね。そして1回拍出量を増やす向きは、前負荷が増える、後負荷が減る、収縮力が増える、の3つ。これに当てはまる選択肢は後負荷の減少だ。抵抗が小さくなれば、同じ収縮力でもより多くの血液を押し出せて、収縮末期に心室内に残る血液が減る。そのぶん1回拍出量が増え、心拍数が変わらなければ分時心拍出量も増える。
医学生医学生
正常な心臓でも後負荷の影響を受けるんですね。心不全の話だけかと思っていました。
ドクタードクター
収縮力の落ちた心臓ほど後負荷に敏感なのは確かだけど、正常な心臓でも後負荷が減れば1回拍出量は増える方向に働く。次に前負荷の減少はどうだろう。
医学生医学生
Frank-Starlingの法則で考えると、伸びが少ないぶん収縮も弱くなって、1回拍出量が減りますね。
ドクタードクター
正解。サルコメアの伸展が小さいと、アクチンとミオシンの重なりが最適な状態から外れて発生張力が下がる。出血や脱水で静脈還流が減ると心拍出量が落ちるのはこの仕組みだ。心拍数の減少はどうかな。
医学生医学生
式の掛け算そのままで、心拍数が下がれば減ります。ただ、拡張時間が延びて充満が増える分で相殺されないのかなと少し迷いました。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。確かに拡張時間が延びれば心室充満はやや増えるけれど、通常の範囲ではそれだけで心拍数の減少分を補いきれない。だから分時心拍出量は減る。残りの冠血流量の減少と甲状腺機能の低下は、どの因子に効くと思う?
医学生医学生
冠血流が減れば心筋虚血になって収縮力が落ちます。甲状腺機能低下症は内分泌の実習で徐脈の患者さんを見たので、心拍数も収縮力も下がりそうです。
ドクタードクター
どちらもその通り。心筋は安静時から酸素摂取率がおよそ70〜75%と非常に高く、それ以上取り込む余地が少ないから、酸素供給は冠血流量にほぼ依存している。冠血流が減ればすぐ虚血になって収縮力が落ちる。甲状腺ホルモンは心筋の収縮力や心拍数を高め、β受容体を増やしてカテコラミンへの反応性も上げるから、機能が低下すれば徐脈と収縮力低下で心拍出量は減る。亢進症ならその逆で頻脈と心拍出量の増加が起こる。
医学生医学生
4つの因子に分けて、それぞれ上がるか下がるかを判断すれば迷わないですね。
ドクタードクター
そう。臨床とのつながりも押さえておこう。心不全の治療はこの4因子を操作する発想そのものだ。前負荷を減らしてうっ血を改善するのが利尿薬や硝酸薬、後負荷を減らして駆出を助けるのがACE阻害薬やARBなどの血管拡張薬とIABP、収縮力を補うのがドブタミンなどの強心薬だ。
医学生医学生
前負荷を減らすと心拍出量が落ちるのに、心不全では前負荷を減らすんですね。少し矛盾して感じます。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。Frank-Starling曲線は伸展が大きすぎると頭打ちになるから、うっ血した心不全では前負荷を減らしても心拍出量はそれほど落ちず、肺うっ血という症状を和らげられる。もう一つ、心拍数も上げればいいわけではなく、著しい頻脈では拡張時間が短くなって充満が不足し、かえって心拍出量は下がる。それから冠血流はおもに拡張期に流れるから、頻脈は心筋への酸素供給の面でも不利になるんだ。
医学生医学生
数字の向きだけでなく、限界があることまで含めて理解しておくべきですね。

まとめ

分時心拍出量は1回拍出量×心拍数で表され、1回拍出量は前負荷・後負荷・心筋収縮力の3因子で決まります。1回拍出量を増やすのは前負荷の増加、後負荷の減少、収縮力の増強であり、後負荷が減ると収縮末期容積が減って1回拍出量が増えるため、正常な心臓でも分時心拍出量は増加します。一方、前負荷の減少(Frank-Starlingの法則)、心拍数の減少、冠血流量減少による心筋虚血、甲状腺機能低下による徐脈と収縮力低下は、いずれも心拍出量を減らします。心不全治療は利尿薬・硝酸薬による前負荷軽減、血管拡張薬やIABPによる後負荷軽減、強心薬による収縮力増強という形でこの4因子を操作しており、生理学の基本が治療選択の理解に直結します。

解答・解説

正解はaです

分時心拍出量(cardiac output:CO、1分間に心臓が送り出す血液量)は、次の式で表される。 分時心拍出量 = 1回拍出量(stroke volume:SV)× 心拍数(heart rate:HR) したがって、分時心拍出量を増やすには、1回拍出量を増やすか、心拍数を増やせばよい。1回拍出量を決める主な因子は次の3つである。 【前負荷】心室が収縮を始める直前(拡張末期)に心筋が引き伸ばされている程度。拡張末期容積(圧)が指標となる。大きいほど1回拍出量は増える(Frank-Starlingの法則)。 【後負荷】心室が収縮を開始した後に、血液を押し出す際に抵抗として働く負荷。大動脈弁に異常がなければ大動脈圧や末梢血管抵抗が主に反映される。小さいほど1回拍出量は増える。 【心筋収縮力】前負荷・後負荷とは独立した心筋自体の収縮する能力。交感神経刺激やカテコラミンで高まり、心筋虚血などで低下する。 本問では、各選択肢がこれらの因子(前負荷・後負荷・収縮力・心拍数)のどれにどう作用するかを考え、分時心拍出量を増やす方向に働くものを選べばよい。1回拍出量を増やす方向は「前負荷↑・後負荷↓・収縮力↑」であり、これに当てはまるのは後負荷の減少である。

選択肢考察

  1. ○a.  後負荷の減少

    後負荷が小さくなると、心室は同じ収縮力でもより少ない抵抗で血液を駆出できるため、収縮末期に心室内に残る血液量(収縮末期容積)が減り、1回拍出量が増える。心拍数が変わらなければ分時心拍出量は増加する。この原理は臨床でも用いられ、心不全では血管拡張薬や大動脈内バルーンパンピング(IABP)などで後負荷を軽減して心拍出量を改善させる。なお、収縮力が低下した心臓ほど後負荷の影響を強く受けるが、正常な心臓でも後負荷の減少は1回拍出量を増やす方向に働く。

  2. ×b.  心拍数の減少

    分時心拍出量は1回拍出量と心拍数の積であるため、1回拍出量が同じであれば心拍数が減るとその分だけ分時心拍出量は減少する。心拍数が下がると拡張時間が延びて心室充満がやや増えるが、通常の範囲ではこれで心拍数減少分を完全に補うことはできない。

  3. ×c.  前負荷の減少

    前負荷が減ると拡張末期の心筋の伸展が少なくなり、筋節(サルコメア)長が短くなる。心筋の長さ-張力関係により発生張力が低下するため(Frank-Starlingの法則)、1回拍出量が減少し、分時心拍出量も減少する。脱水や出血で静脈還流が減ったときに心拍出量が下がるのはこの機序による。

  4. ×d.  冠血流量の減少

    心筋は安静時から動脈血中の酸素を非常に高い割合(およそ70~75%)で取り込んでおり、酸素摂取率をそれ以上大きく高める余地が少ない。そのため心筋への酸素供給は冠血流量にほぼ依存し、冠血流量が減ると速やかに心筋虚血となる。虚血心筋は収縮力が低下するため、1回拍出量・分時心拍出量はいずれも減少する。

  5. ×e.  甲状腺機能の低下

    甲状腺ホルモンは心筋に直接作用して収縮力や心拍数を高めるほか、β受容体の発現を増やすなどして交感神経(カテコラミン)への反応性も高める。甲状腺機能低下症ではこれらの作用が弱まり、心収縮力の低下と徐脈によって分時心拍出量は減少する。逆に甲状腺機能亢進症では頻脈と収縮力増強により心拍出量が増加する。

心拍出量を規定する4因子

1回拍出量を決める前負荷・後負荷・心筋収縮力に、心拍数を加えた4つが分時心拍出量を規定する。 ・前負荷↑ → 1回拍出量↑(Frank-Starlingの法則:拡張末期容積が大きいほど強く収縮する。ただし過度に伸展すると頭打ちになる) ・後負荷↓ → 1回拍出量↑ ・心筋収縮力↑ → 1回拍出量↑ ・心拍数↑ → 分時心拍出量↑(ただし著しい頻脈では拡張時間が短縮して心室充満が不足し、かえって心拍出量は低下する)

Frank-Starlingの法則

心筋は、拡張末期に引き伸ばされるほど、収縮時に発生する張力が大きくなる。これはサルコメア長が長くなることでアクチンとミオシンの重なりが最適に近づき、Ca2+に対する感受性も高まるためである。この法則により、静脈還流が増えれば心臓は自動的に拍出量を増やし、左右の心室の拍出量のバランスが保たれる。

心不全治療との関係

・前負荷の軽減:利尿薬、硝酸薬(静脈拡張)によりうっ血を改善する。 ・後負荷の軽減:ACE阻害薬、ARB、カルシウム拮抗薬などの血管拡張薬、IABPにより駆出を助ける。 ・収縮力の増強:ドブタミンなどの強心薬。

冠循環の特徴

冠血流は主に拡張期に流れる(収縮期には心筋内の血管が圧迫されるため)。心筋の酸素需要が増えたときは、酸素摂取率ではなく冠血流量を増やすことで対応する。

POINT

・分時心拍出量=1回拍出量×心拍数。 ・1回拍出量を増やす:前負荷↑、後負荷↓、心筋収縮力↑。 ・前負荷の減少、心拍数の減少、心筋虚血(冠血流量減少)、甲状腺機能低下はいずれも分時心拍出量を減らす。 ・Frank-Starlingの法則:拡張末期の伸展が大きいほど収縮力が増す。 ・心不全治療では後負荷軽減(血管拡張薬、IABP)が心拍出量改善に重要。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。