「はい」の返事を信じすぎない―自己紹介のあとに必ず挟む「名乗ってもらう」本人確認
第108回医師国家試験 C問題 第26問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
72歳の女性。予診票に「熱がある」と記載されている。医師が待合室に向かって診察室への入室を促した。 医師「27番の患者さん,こちらの診察室にお入り下さい」 患者「はい」 医師「おはようございます。医師のサトウタロウと申します」 患者「よろしくお願いします」
次に医師が問いかけるべきなのはどれか。
- a.「紹介状はお持ちですか」
- b.「今日はどうされましたか」
- c.「体温の測定は済みましたか」
- d.「今日はどなたか一緒に来られましたか」
- e.「確認のために,お名前をフルネームでおっしゃっていただけますか」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
医療面接は、あいさつと自己紹介のあとに本人確認を行い、そのうえで「今日はどうされましたか」という開かれた質問で主訴を聴く、という順に進みます。待合室で番号を使って呼び出すのはプライバシーへの配慮ですが、聞き間違いによる取り違えのリスクが残るため、診察室での本人確認はいっそう重要になります。本人確認は医療者が名前を読み上げるのではなく、患者自身にフルネームで名乗ってもらうのが原則で、必要に応じて生年月日やIDなど複数の識別子で照合します。体温測定、紹介状、付き添いの確認はいずれも本人確認や主訴の聴取より後でよい事項です。患者誤認は投薬、検査、手術などあらゆる場面で重大な事故につながるため、この手順を習慣にすることが安全な診療の第一歩になります。
解答・解説
正解はeです
場面の整理
予診票に「熱がある」と書かれた72歳の女性を、医師が待合室から番号で呼び入れた場面である。番号で呼ぶのは、待合室にいるほかの患者に氏名が知られないようにするためのプライバシーへの配慮である。入室後、医師はあいさつと自己紹介(氏名と職種)を済ませ、患者も応じている。
設問の考え方
問われているのは「自己紹介の次に医師が発すべき言葉」である。医療面接の基本的な流れは、(1) あいさつ・自己紹介、(2) 患者本人であることの確認、(3) 開かれた質問による受診理由(主訴)の聴取、(4) 現病歴・既往歴などの詳細な聴取、と進む。本症例では番号で呼び入れているため、目の前にいる人物が予診票やカルテの本人であることはまだ確かめられていない。番号の聞き間違いや、別の患者が返事をして入室してくることは現実に起こりうる。 患者を取り違えたまま診察を進めると、別人の病歴・検査結果・処方に基づいて判断してしまい、重大な医療事故につながる。そのため、症状を尋ねる前に、まず本人確認を行うことが最優先となる。本人確認は、医療者が「〇〇さんですね」と名前を読み上げて同意を求める方法ではなく、患者自身に氏名をフルネームで名乗ってもらう方法で行う。高齢者や難聴のある人、緊張している人は、違う名前を呼ばれても「はい」と返事をしてしまうことがあるからである。同姓の患者もいるため、姓だけでなくフルネーム、施設によっては生年月日もあわせて確認する。
選択肢考察
- ×a. 「紹介状はお持ちですか」
紹介状(診療情報提供書)の有無は、通常は受付や予診票の段階で把握される情報である。仮に診察室で確認するとしても、目の前の人物が本人であると確定した後でなければ、その紹介状が誰のものかも保証できない。自己紹介の直後に尋ねる事項ではない。
- ×b. 「今日はどうされましたか」
患者が自由に答えられる開かれた質問(open-ended question)で、受診理由を聞き出す導入として医療面接で重要な問いかけである。しかし、本人確認をしないまま病歴聴取に入ると、別人の予診票・カルテと照らし合わせて診療を進めてしまう危険がある。この質問は氏名を確認した次の段階で行う。
- ×c. 「体温の測定は済みましたか」
予診票に「熱がある」とあり、体温は重要なバイタルサインである。しかし、測定の有無やその値も、本人確認が済んでいなければ誰のものか確かでない。また、主訴を聞く前にいきなり特定の検査の話題に入るのは、患者中心の面接の流れとしても適切でない。
- ×d. 「今日はどなたか一緒に来られましたか」
付き添いの有無は、高齢者の生活状況や病状説明の相手を把握するうえで役立つ情報である。しかし優先度は低く、本人確認や主訴の聴取の後に必要に応じて尋ねればよい。
- ○e. 「確認のために,お名前をフルネームでおっしゃっていただけますか」
番号で呼び入れた患者が本人であるかどうかは、この時点ではまだ確認されていない。患者を取り違えると、別人の情報に基づいて診断・検査・投薬が行われ、重大な事故になりうる。そこで自己紹介の直後に、患者自身に氏名をフルネームで名乗ってもらう。医療者が名前を読み上げて「はい」と答えてもらう方法では、聞き違いや思い込みで取り違えを防げないため、患者に言ってもらう形が推奨される。「確認のために」と理由を添えることで、患者に不信感を与えずに協力を得られる。
患者誤認防止の基本
・患者誤認(患者取り違え)は、手術・輸血・投薬・検査などあらゆる場面で起こりうる医療事故であり、1999年に大学病院で発生した手術患者取り違え事故を契機に、日本でも対策が強化された。 ・原則は「患者自身に名乗ってもらう」ことである。フルネームに加え、生年月日やID(リストバンド、診察券)など複数の識別子で照合することが推奨される。 ・本人確認は初回だけでなく、検査・処置・投薬・採血・輸血などの行為の前に毎回行う。 ・意識障害や認知症などで名乗れない患者では、リストバンドや家族への確認で代替する。
外来での呼び出しとプライバシー
・待合室で氏名を大声で呼ぶと、第三者に個人情報(受診している事実など)が伝わる。そのため番号で呼び出す施設が多い。 ・ただし番号呼び出しでは、聞き間違いによる取り違えのリスクが残るため、診察室内での本人確認がいっそう重要になる。
医療面接の導入部の流れ
1. あいさつと自己紹介(氏名・立場) 2. 本人確認(フルネームを名乗ってもらう) 3. 面接の目的や所要時間の説明、話しやすい環境づくり 4. 開かれた質問で主訴・受診理由を聴く(「今日はどうされましたか」) 5. 閉じた質問も用いて現病歴・既往歴・家族歴・生活歴などを詳しく聴く
POINT
・自己紹介の次は本人確認。症状を尋ねるより先に行う。 ・本人確認は、医療者が名前を読み上げるのではなく、患者にフルネームで名乗ってもらう。 ・待合室での番号呼び出しはプライバシーへの配慮だが、取り違えのリスクがあるため診察室での確認が必須。 ・本人確認の後に、開かれた質問(「今日はどうされましたか」)で主訴を聴く。
