「コインを飲んだかも」の夜間電話―機嫌がよくても「明日でいい」と言えない理由
第108回医師国家試験 C問題 第20問
国試問題にチャレンジ
夜間救急外来に「1歳の息子がコインを飲んだようだ」と母親から電話があった。10分前,母親が目を離したすきに,手に持って遊んでいた2つのゲーム用コインのうち1つが見当たらなくなり,飲み込んだのではないかと心配している。本人の機嫌はよいとのことである。 当直医として適切な対応はどれか。
- a.「明日来院してください」
- b.「それはお母さんの責任です」
- c.「口の中に指を入れて吐かせてください」
- d.「もっと周りをよく探してからご連絡ください」
- e.「残りのコインを持って直ちに来院してください」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
乳幼児のコイン誤飲が疑われる電話相談では、機嫌がよくても気道の完全閉塞がないことを示すにすぎず、症状の乏しい食道異物は否定できないため、直ちに来院を指示するのが原則です。食道の生理的狭窄部に止まったコインは、放置すると圧迫壊死から潰瘍・穿孔・縦隔炎を起こしうるため摘出が必要で、胃まで達していれば多くは自然排泄されます。残りのコインを持参してもらうと大きさや材質がわかり、エックス線に写るかどうかを踏まえた検査と読影に役立ちます。家庭で指を入れて吐かせる、探させて様子を見る、翌日受診とする、といった指示は不適切で、ボタン電池や複数の磁石はより緊急性が高い異物です。顔の見えない電話相談では最悪の事態を想定して行動するという姿勢は、救急外来や当直で必ず求められる基本です。
解答・解説
正解はeです
状況の整理
・夜間に母親から電話での相談。1歳男児が、10分前に手に持って遊んでいたゲーム用コイン2枚のうち1枚が見当たらなくなった。 ・飲み込んだ場面は誰も見ておらず、飲んだかどうかは確定していない。 ・現時点で機嫌はよい(咳き込み、呼吸困難、よだれ、嘔吐などの訴えはない)。
考え方
乳幼児は手にした物を口に入れやすく、異物の誤飲(消化管に入る)や誤嚥(気道に入る)が多い年齢である。コインを飲み込んだ場合、行き先は大きく次の3通りである。 1)気道異物:むせ込み・喘鳴・呼吸困難を生じ、最も緊急性が高い。 2)食道異物:コインのような平たく大きい異物は、食道の生理的狭窄部(特に食道入口部)に引っかかりやすい。初めは症状が乏しいこともあるが、放置すると粘膜の圧迫壊死、潰瘍、穿孔から縦隔炎を起こしうるため、早期の摘出が必要である。 3)胃内異物:胃まで到達したコインの多くは自然に排泄され、緊急性は低い。 電話の情報だけでは、飲んだのか否か、飲んだとすればどこにあるのかを判断できない。機嫌がよいことは気道の完全閉塞がないことを示すにすぎず、食道異物は否定できない。電話相談では最悪の事態を想定し、診察と画像検査で確認できるよう、直ちに来院を指示するのが原則である。 その際、同じ種類の残りのコインを持参してもらうと、大きさ・厚さや材質(金属か、エックス線に写りにくい樹脂製か)がわかり、画像検査の方針決定や読影の助けになる。
選択肢考察
- ×a. 「明日来院してください」
食道異物であった場合、翌日まで放置すると粘膜の圧迫による潰瘍や穿孔、縦隔炎を生じる危険がある。また途中で気道症状が出現する可能性もある。診察せずに現時点で緊急性がないと判断することはできず、受診を先延ばしにさせるのは不適切である。
- ×b. 「それはお母さんの責任です」
保護者を責める発言であり、患児の安全確保という目の前の課題の解決にまったくつながらない。不安を抱えて相談してきた保護者との信頼関係も損なう。再発予防の助言は、診療が終わった後に責めない形で行えばよい。
- ×c. 「口の中に指を入れて吐かせてください」
家庭での催吐は勧められない。異物の位置がわからないまま吐かせようとすると、嘔吐物や異物を気道に吸い込む(誤嚥する)危険があるうえ、口の中に指を入れて探る操作(ブラインド・フィンガー・スイープ)は異物をかえって奥へ押し込むおそれがあり、小児では禁忌とされる。口の中に異物が見えていて容易につまみ出せる場合を除き、医療機関での評価を優先する。
- ×d. 「もっと周りをよく探してからご連絡ください」
周囲を探すことで見つかる可能性はあるが、その間に食道異物や気道異物への対応が遅れるおそれがある。見つからなければ飲み込んだ可能性が残る以上、まず来院させてエックス線撮影などで確認するべきであり、対応を保護者任せにして先延ばしにするのは不適切である。
- ○e. 「残りのコインを持って直ちに来院してください」
誤飲の有無と異物の位置は、診察と画像検査(頸部~胸腹部の単純エックス線撮影)でなければ確認できないため、直ちに来院させるのが適切である。残りのコインを持参すれば、同じ物の大きさや材質を確認でき、金属製なら単純エックス線で位置を確認できる一方、樹脂製などで写りにくい可能性があれば、それを踏まえた検査(持参したコインを一緒に撮影して写り方を比べるなど)や判断ができる。
小児の異物誤飲・誤嚥の概要
・好発年齢:物を口に入れる乳幼児(特に6か月~3歳)。 ・気道異物:ピーナッツなどの豆類が代表的。突然のむせ込み、喘鳴、呼吸音の左右差、患側の過膨張(チェックバルブ)や無気肺を示す。気管支鏡で摘出する。窒息時は乳児では背部叩打法・胸部突き上げ法、1歳以上では腹部突き上げ法(Heimlich法)なども行われる。 ・食道異物:コインが最多。食道の生理的狭窄部(食道入口部、大動脈弓・左主気管支交差部、食道裂孔部)に停留しやすく、特に入口部が多い。症状は嚥下困難、流涎、嘔吐、胸痛などだが無症状のこともある。胸部正面像では、食道内のコインは円形の正面像として見え、気管内の場合は側面像(縦長の線状)として見えやすいとされる(気管軟骨が後壁で欠けており、平たい異物が矢状方向に向くため)。症状があれば速やかに、無症状でも長時間停留させず内視鏡などで摘出する。 ・胃内異物:コインなどは多くが自然排泄されるため経過観察とし、便への排出を確認する。 ・特に危険な異物:ボタン電池(食道に停留すると短時間で粘膜の化学損傷・穿孔を起こすため、緊急摘出)、複数の磁石(腸管壁を挟んで引き合い穿孔・瘻孔を形成)、鋭利な物。 ・たばこ誤飲:乳幼児の誤飲事故として頻度が高い。ニコチン中毒による嘔吐などを生じうる。
家庭での対応についての一般的注意
異物の種類がわからない段階で無理に吐かせない。灯油などの石油製品や強酸・強アルカリの誤飲では、催吐は誤嚥性肺炎や粘膜損傷の悪化につながるため禁忌である。電話相談では最悪の場合を想定し、医療機関受診を勧める。
POINT
・乳幼児のコイン誤飲疑いは、機嫌がよくても食道異物を否定できないため、直ちに来院させて画像で確認する。 ・持参した現物で異物の大きさ・材質を確認し、エックス線で写るかを判断する。 ・食道異物は放置すると潰瘍・穿孔・縦隔炎の危険があり摘出が必要。胃内のコインは多くが自然排泄される。 ・家庭で指を入れて吐かせる、探させて様子を見るなどの指示は不適切。ボタン電池は緊急摘出の対象。
