脚を組んで眠った翌朝の下垂足―腓骨頭が教える総腓骨神経麻痺
第108回医師国家試験 C問題 第19問
国試問題にチャレンジ
50歳の男性。右足先が上がらないことを主訴に来院した。昨夜,泥酔して右脚を上にして脚を組んだ状態で寝込んでしまったところ,今朝,目覚めたときに右の足関節を背屈できなくなっていた。徒手筋力テストでは,左下肢はすべて正常,右下肢では膝関節の屈曲伸展と足関節の底屈とは正常,足関節の背屈は2と低下している。右下腿外側と足背とに感覚低下を認める。下肢の腱反射は左右とも正常である。 障害されているのはどれか。
- a.大腿神経
- b.閉鎖神経
- c.坐骨神経
- d.脛骨神経
- e.総腓骨神経
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
泥酔後や脚を組んだ姿勢での睡眠のあとに急に下垂足が出現し、下腿外側から足背の感覚低下を伴う場合は、腓骨頭部での圧迫による総腓骨神経麻痺を考えます。総腓骨神経は腓骨頭の外側を浅く走るため圧迫に弱く、深腓骨神経が足関節・足趾の背屈を、浅腓骨神経が外がえしと下腿外側〜足背の感覚を担います。膝の屈伸、足関節の底屈、膝蓋腱反射・アキレス腱反射が保たれていれば、坐骨神経本幹・脛骨神経・大腿神経の障害は否定的です。L5神経根障害との鑑別には内がえしや股関節外転の筋力が役立ち、圧迫性麻痺は多くが装具とリハビリで自然回復します。障害された動きと保たれた動き、感覚・反射の分布を組み合わせて病変部位を絞る考え方は、末梢神経障害の診察全般の基本になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・50歳男性。泥酔して右脚を上に組んだまま寝込み、翌朝から右足関節が背屈できない(下垂足)。急性発症である。 ・徒手筋力テスト(manual muscle testing:MMT、0~5の6段階で評価):右足関節背屈のみ2(重力を除けば関節を動かせる程度)に低下。右膝関節の屈曲・伸展、足関節の底屈は正常。左下肢は正常。 ・感覚:右下腿外側と足背の感覚低下。 ・腱反射:左右とも正常。
診断へのプロセス
1)発症様式:意識が低下した状態(泥酔・深い睡眠)で長時間同じ肢位をとった後に生じた急性の単肢の麻痺であり、末梢神経の圧迫による麻痺(圧迫性ニューロパチー)をまず考える。脚を組むと、上になった脚の膝の外側(腓骨頭のあたり)が下の脚の膝に押しつけられる。 2)運動障害の分布:障害は足関節の背屈に限局し、膝の屈伸(大腿神経・坐骨神経本幹)や足関節の底屈(脛骨神経)は保たれている。足関節背屈筋(前脛骨筋、長趾伸筋、長母趾伸筋)を支配するのは深腓骨神経であり、総腓骨神経の枝である。 3)感覚障害の分布:下腿外側は浅腓骨神経(と総腓骨神経の皮枝)、足背は浅腓骨神経(第1・2趾間は深腓骨神経)の支配領域であり、いずれも総腓骨神経の領域に一致する。 4)腱反射:膝蓋腱反射(大腿神経、L3-4)とアキレス腱反射(脛骨神経、S1)は総腓骨神経を経由しないため、総腓骨神経麻痺では正常に保たれる。本例の所見と矛盾しない。 以上より、腓骨頭部での圧迫による総腓骨神経麻痺と診断できる。
選択肢考察
- ×a. 大腿神経
大腿神経(L2-4)は大腿四頭筋を支配し、膝関節の伸展を担う。麻痺すると膝伸展の筋力低下、膝蓋腱反射の低下、大腿前面~下腿内側(伏在神経領域)の感覚障害が生じる。本例では膝の伸展も膝蓋腱反射も正常であり、感覚障害の部位も異なる。
- ×b. 閉鎖神経
閉鎖神経(L2-4)は大腿内転筋群を支配し、股関節の内転を担う。感覚は大腿内側の一部を支配する。足関節の運動や下腿外側・足背の感覚には関与しないため、本例の所見を説明できない。
- ×c. 坐骨神経
坐骨神経(L4-S3)は大腿後面のハムストリングを支配して膝の屈曲を担い、膝窩の上方で脛骨神経と総腓骨神経に分かれる。本幹が障害されれば膝屈曲の低下に加え、足関節の背屈・底屈の両方が障害され、アキレス腱反射も低下する。本例は膝屈曲・足関節底屈・腱反射が正常であり、障害は分岐後の総腓骨神経に限局している。
- ×d. 脛骨神経
脛骨神経は下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)や足底の筋を支配し、足関節の底屈や足趾の屈曲を担う。麻痺すると底屈障害(つま先立ちができない)、アキレス腱反射の低下、足底の感覚障害が生じる。本例では底屈とアキレス腱反射が正常であり否定的である。
- ○e. 総腓骨神経
総腓骨神経は膝窩で坐骨神経から分かれ、腓骨頭(腓骨頸部)の外側を皮下の浅い位置で回り込むため、外部からの圧迫を受けやすい。ここで深腓骨神経(足関節・足趾の背屈)と浅腓骨神経(足の外がえし、下腿外側~足背の感覚)に分かれる。脚を組んだまま眠り込んで腓骨頭部が長時間圧迫されたことにより、足関節背屈の麻痺(下垂足)と下腿外側・足背の感覚低下が生じたと説明でき、膝や足関節底屈、腱反射が正常であることとも合致する。
下肢の主な末梢神経と機能
・大腿神経(L2-4):膝伸展(大腿四頭筋)。膝蓋腱反射。感覚は大腿前面、伏在神経として下腿内側。 ・閉鎖神経(L2-4):股関節内転。感覚は大腿内側の一部。 ・坐骨神経(L4-S3):膝屈曲(ハムストリング)。膝窩上方で脛骨神経と総腓骨神経に分岐。 ・脛骨神経:足関節底屈、足趾屈曲、足の内がえし(後脛骨筋)。アキレス腱反射。感覚は足底。 ・総腓骨神経: 深腓骨神経 → 前脛骨筋、長趾伸筋、長母趾伸筋(足関節・足趾の背屈)。感覚は第1・2趾間の背側。 浅腓骨神経 → 長・短腓骨筋(足の外がえし)。感覚は下腿外側下部~足背の大部分。
総腓骨神経麻痺
・原因:腓骨頭部での圧迫が最多。脚組み、泥酔や睡眠薬服用後の不良肢位での睡眠、長時間の側臥位や手術体位、ギプス・装具による圧迫、長期臥床、急激な体重減少、膝周囲の外傷・骨折など。 ・症状:下垂足(足関節・足趾の背屈不能)、外がえしの筋力低下、下腿外側~足背の感覚障害。歩行時につま先が引っかからないよう膝を高く上げる鶏歩(steppage gait)を呈する。 ・診断:神経学的診察に加え、神経伝導検査で腓骨頭部の伝導ブロックを確認できる。腓骨頭部を叩くとしびれが放散するTinel徴候も参考になる。 ・治療・予後:圧迫性の場合は圧迫の回避と経過観察が基本で、多くは数週~数か月で回復する。回復までは短下肢装具で下垂足を補助し、足関節の拘縮予防のリハビリテーションを行う。
鑑別:L5神経根障害
腰椎椎間板ヘルニアなどによるL5神経根障害でも下垂足となるが、同じL5支配でも腓骨神経を経由しない後脛骨筋(内がえし)や中殿筋(股関節外転)の筋力も低下する点で区別できる。通常は腰痛・下肢痛を伴う。
POINT
・脚組み・泥酔後の急性下垂足+下腿外側~足背の感覚低下 → 腓骨頭部での圧迫による総腓骨神経麻痺。 ・総腓骨神経麻痺では膝の屈伸、足関節の底屈、膝蓋腱反射・アキレス腱反射は保たれる。 ・底屈障害なら脛骨神経、膝伸展障害なら大腿神経、股関節内転障害なら閉鎖神経。 ・L5神経根障害との鑑別には内がえし・股関節外転の筋力をみる。
