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電顕の固定はなぜグルタールアルデヒドなのか―検査目的で選び分ける「固定」の基本

第108回医師国家試験 B問題 第16問

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第108回 B問題 第16問

電子顕微鏡による病理検査の組織固定法で最も適切なのはどれか。

  1. a.アセトン固定
  2. b.アルコール固定
  3. c.乾燥固定
  4. d.グルタールアルデヒド固定
  5. e.ホルマリン固定

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は病理検査の前処理、「固定」の問題だ。固定法は検査の目的によって変わる。電子顕微鏡で何を見たいのか、それを守れる固定液はどれか、という視点で考えてみよう。そもそも固定は何のためにすると思う?
医学生医学生
組織が腐らないようにするため、ですよね。病理実習でホルマリン漬けの臓器をたくさん見ました。
ドクタードクター
半分正解。腐敗だけでなく、細胞自身の酵素で組織が溶けてしまう自己融解を止めて、生きていたときに近い形を保つのが固定の目的なんだ。では電子顕微鏡では何を観察する?
医学生医学生
ミトコンドリアや粗面小胞体みたいな細胞小器官ですね。組織学の講義で電顕写真を見ました。
ドクタードクター
そう、光学顕微鏡では見えないナノメートル単位の微細構造、細胞膜や基底膜、細胞間接着装置、沈着物などだ。だから電顕用の固定には、この微細構造を壊さずに残す力が一番求められる。
医学生医学生
それならいつものホルマリンで十分じゃないんですか。病理の標本はほとんどホルマリン固定だと習いました。
ドクタードクター
そこがよくある誤解だね。10%中性緩衝ホルマリンは光学顕微鏡用のHE染色や多くの免疫染色の標準で、浸透も比較的速い。でもタンパク質を結びつける架橋の力がグルタールアルデヒドより弱く、電顕レベルの微細構造の保持は劣るんだ。ホルマリン固定材料から電顕を見ることもできなくはないけれど、あくまで補助的な方法だよ。
医学生医学生
グルタールアルデヒドは何が違うんですか。
ドクタードクター
分子内にアルデヒド基を2つもっていて、タンパク質どうしを強く、ほぼ不可逆的に架橋する。だから膜構造や細胞小器官がしっかり保たれる。これが正解だ。標準的には2〜2.5%程度のグルタールアルデヒドで前固定し、続いて四酸化オスミウムで後固定する。オスミウムは脂質の固定と電子染色を兼ねているんだ。
医学生医学生
二段構えなんですね。じゃあアルコール固定はどうでしょう。細胞診の実習で、スライドをすぐアルコールに入れるよう言われました。
ドクタードクター
よく覚えているね。95%エタノールの湿固定はPapanicolaou染色の標準だ。でもこれは脱水でタンパク質を凝固させる固定で、組織が縮んで微細構造が壊れるから電顕には向かない。アセトンも同じく凝固・沈殿型の固定で、凍結切片の免疫染色や酵素組織化学に使うけれど、脂質が溶け出して膜構造が保てない。
医学生医学生
乾燥固定は血液塗抹のGiemsa染色やGram染色で使うものでしたよね。乾かしたら細胞がつぶれそうです。
ドクタードクター
その通り。乾燥で細胞は扁平化して大きく変形するから、微細構造を見る電顕には論外だ。整理すると、固定には架橋型のアルデヒド類と、凝固型のアルコール・アセトンがあって、形態保持に優れるのは架橋型。その中でも最強なのがグルタールアルデヒド、という位置づけだね。
医学生医学生
架橋が強いなら、なんでも全部グルタールアルデヒドで固定すればいいのでは。
ドクタードクター
いい疑問だ。実は弱点もあって、浸透が遅いので検体を1mm角くらいの小片に刻む必要があるし、架橋が強すぎて抗原が隠れ、免疫染色には不向きなんだ。だから一つの検体でも目的ごとに使い分ける。代表例が腎生検だよ。
医学生医学生
腎臓内科を回ったとき、腎生検の検体を何本かに分けていたのを見ました。
ドクタードクター
まさにそれ。光顕用はホルマリン、蛍光抗体法用は未固定で凍結、電顕用はグルタールアルデヒドに分ける。電顕では糸球体基底膜の変化や免疫複合体がどこに沈着しているかを評価するから、病型診断に欠かせない。電顕用は採取後すぐ、冷やした固定液に入れるのが原則だ。
医学生医学生
固定液は「何を見たいか」から逆算して選ぶ、ということですね。
ドクタードクター
そう。HEならホルマリン、Papanicolaouならアルコール湿固定、Giemsaなら乾燥、凍結切片の免疫染色ならアセトン、電顕ならグルタールアルデヒドとオスミウム。この対応をセットで覚えておくと、検体を出す側になったときに困らないよ。

まとめ

固定は自己融解や腐敗を止めて組織の形態を保つ処理で、検査目的に応じて方法を選びます。電子顕微鏡検査では細胞小器官や基底膜などの微細構造を保持する必要があり、タンパク質を強力に架橋するグルタールアルデヒドで前固定し、四酸化オスミウムで後固定するのが標準です。通常の病理組織標本はホルマリン、Papanicolaou染色はアルコール湿固定、Giemsa染色やGram染色は乾燥固定、凍結切片の免疫染色にはアセトンが用いられ、凝固型の固定や乾燥は微細構造を壊すため電顕には適しません。腎生検で光顕・蛍光抗体法・電顕用に検体を分けて処理するように、目的と固定法の対応を理解しておくことは、正確な病理診断を得るための基本となります。

解答・解説

正解はdです

組織の固定とは、採取した組織や細胞の自己融解(細胞自身の酵素による分解)や腐敗を止め、生体内に近い形態を保つための処理である。どの固定法を選ぶかは、その後に行う検査の目的によって決まる。 電子顕微鏡〈電顕〉検査は、光学顕微鏡では見えない細胞小器官(ミトコンドリア、粗面小胞体など)、細胞膜、基底膜、細胞間接着装置、沈着物などの微細構造を、ナノメートル単位で観察する検査である。そのため、固定には微細構造をできるだけ壊さずに保つ能力が最も強く求められる。グルタールアルデヒドは二つのアルデヒド基をもち、タンパク質どうしを強固に架橋(クロスリンク)するので、微細構造の保持に優れる。一般には2〜2.5%程度のグルタールアルデヒドで前固定し、続いて四酸化オスミウムで後固定(脂質の固定と電子染色の役割を兼ねる)する二重固定が標準である。 また電顕用検体は、組織の中まで固定液が速やかに浸透するよう1mm角程度の小片に細切し、採取後ただちに冷やした固定液に入れるのが原則である。

選択肢考察

  1. ×a.  アセトン固定

    アセトンはタンパク質を脱水・沈殿させて固定する有機溶媒で、主に凍結切片や乾燥させた塗抹標本に対して免疫染色(蛍光抗体法など)や酵素組織化学を行う際に用いられる。抗原性や酵素活性は比較的保たれるが、脂質が溶け出し、細胞膜や細胞小器官の微細構造は保てないため、電顕検査には適さない。

  2. ×b.  アルコール固定

    95%エタノールなどによるアルコール固定は、細胞診のPapanicolaou染色で標準的に用いられる湿固定である。剥離細胞や培養細胞を短時間で固定できるほか、ホルマリンなどの水溶性固定液では溶け出してしまう水溶性物質(グリコーゲンなど)の保存にも向く。しかし脱水による凝固固定であり、組織の収縮や微細構造の破壊が起こるため、電顕には用いない。

  3. ×c.  乾燥固定

    乾燥固定は塗抹標本を空気中で速やかに乾かす方法で、血液・骨髄塗抹や細胞診のGiemsa染色(May-Giemsa染色を含む)、細菌のGram染色などで用いられる。乾燥によって細胞は扁平化し、微細構造は大きく変形するので電顕検査には適さない。

  4. ○d.  グルタールアルデヒド固定

    グルタールアルデヒドは分子内に二つのアルデヒド基をもち、タンパク質を強力かつ不可逆的に架橋するため、細胞小器官や膜構造などの微細構造を最もよく保存できる。電顕検査では、グルタールアルデヒドで前固定した後に四酸化オスミウムで後固定するのが標準的手順である。腎生検の電顕観察(糸球体基底膜の変化や免疫複合体沈着の部位の評価)などで日常的に用いられる。一方、浸透が遅いため検体は小さく細切する必要があり、強い架橋のため免疫染色には不向きである。

  5. ×e.  ホルマリン固定

    10%(中性緩衝)ホルマリン(ホルムアルデヒド水溶液)固定は、光学顕微鏡用の通常の病理組織標本(HE染色、多くの免疫染色)で最も広く用いられる固定法である。浸透は比較的速いが架橋はグルタールアルデヒドより弱く、電顕レベルの微細構造の保持は劣る。ホルマリン固定済みの材料から電顕観察を行うことも不可能ではないが、補助的な方法であり、電顕検査に最も適した固定法とはいえない。

検査目的と主な固定法

・通常の病理組織検査(HE染色、多くの免疫染色):10%中性緩衝ホルマリン固定。 ・電子顕微鏡検査:グルタールアルデヒドによる前固定+四酸化オスミウムによる後固定。 ・細胞診Papanicolaou染色:95%エタノールによる湿固定(乾燥させる前に速やかに固定する)。 ・Giemsa染色(血液・骨髄塗抹、細胞診)、Gram染色:乾燥固定(その後メタノール固定を加えることが多い)。 ・凍結切片の免疫染色・酵素組織化学:アセトン固定など。 ・蛍光抗体法(腎生検での免疫グロブリン・補体の沈着評価など):未固定の凍結切片を用いる。

固定の原理

・架橋固定:ホルマリン、グルタールアルデヒドなどのアルデヒド類。タンパク質間を化学的に結び付け、形態保持に優れる。 ・凝固(沈殿)固定:アルコール、アセトンなど。タンパク質を脱水・変性させて固定する。操作は速いが組織の収縮が起こりやすい。

腎生検の検体処理

腎生検では一つの検体を光顕用(ホルマリン固定)、蛍光抗体法用(凍結)、電顕用(グルタールアルデヒド固定)に分けて処理するのが一般的で、検査目的ごとに固定法を使い分ける代表例である。

POINT

・電子顕微鏡検査の固定はグルタールアルデヒド(前固定)+四酸化オスミウム(後固定)。 ・通常の病理組織標本はホルマリン固定。 ・Papanicolaou染色はアルコール(湿)固定、Giemsa染色は乾燥固定。 ・固定法は検査目的に応じて使い分ける(腎生検の光顕・蛍光・電顕の分割処理が代表例)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。