「食事」と「食事の準備」は別物?―高齢者総合機能評価〈CGA〉の物差しを整理する
第108回医師国家試験 B問題 第15問
国試問題にチャレンジ
高齢者総合機能評価〈CGA〉の構成要素とその評価項目の組合せで正しいのはどれか。
- a.認知機能 ―― 遅延再生
- b.運動機能 ―― 言語流暢性
- c.気分・意欲 ―― 時間の見当識
- d.手段的日常生活動作 ―― 階段昇降
- e.基本的日常生活動作 ―― 食事の準備
対話形式の解説
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ドクターまとめ
高齢者総合機能評価〈CGA〉は、基本的ADL、手段的ADL、認知機能、気分・意欲、運動機能、栄養、社会的状況などを多面的に評価し、ケアや治療方針に結び付ける手法です。遅延再生・言語流暢性・時間の見当識はいずれもHDS-RやMMSEに含まれる認知機能の評価項目で、遅延再生は近時記憶を反映しAlzheimer型認知症で早期から障害されます。基本的ADLは食事・排泄・入浴・階段昇降などの身の回り動作、手段的ADLは買い物・食事の準備・服薬管理・金銭管理などのより複雑な動作で、「食事」と「食事の準備」の区別が典型的な問われ方です。手段的ADLは基本的ADLより先に低下しやすいため、その変化に気づくことが認知症やフレイルの早期発見と、高齢者の生活を支える医療につながります。
解答・解説
正解はaです
高齢者総合機能評価〈CGA:comprehensive geriatric assessment〉は、高齢者を病気の有無だけで捉えるのではなく、生活機能・精神機能・社会的環境などを多面的に評価し、ケアや介入の方針に生かす手法である。主な構成要素は、基本的日常生活動作〈basic ADL〉、手段的日常生活動作〈IADL:instrumental ADL〉、認知機能、気分・意欲(うつ状態や自発性)、運動機能・転倒リスク、栄養状態、社会的状況(家族・介護環境・経済状況)などである。 本問は、各構成要素にどの評価項目が属するかを問うている。解くうえでの鍵は二つある。第一に、遅延再生・言語流暢性・見当識といった神経心理検査の用語が「認知機能」を測る項目であると理解していること。第二に、基本的ADLと手段的ADLの違い、すなわち「身の回りの動作」か「地域で自立して暮らすための、より複雑な動作」かを区別できることである。この二点を押さえれば、構成要素と評価項目が正しく対応しているのは認知機能と遅延再生の組合せだけだとわかる。
選択肢考察
- ○a. 認知機能 ―― 遅延再生
遅延再生とは、いくつかの単語(例: 「桜・猫・電車」)を覚えてもらい、別の課題をはさんで数分後に思い出してもらう検査である。新しい情報を保持して取り出す近時記憶を評価しており、改訂長谷川式簡易知能評価スケール〈HDS-R〉やMMSE〈Mini-Mental State Examination〉にも含まれる。Alzheimer型認知症では早期から遅延再生が障害されやすく、認知機能評価の中心となる項目である。したがって組合せとして正しい。
- ×b. 運動機能 ―― 言語流暢性
言語流暢性は、「知っている野菜の名前をできるだけ多く言う」(カテゴリー流暢性)、「『か』で始まる言葉を1分間で挙げる」(文字流暢性)といった課題で評価する。語彙の想起や前頭葉の遂行機能を反映し、失語(特に運動性失語)や前頭葉機能障害で低下する。HDS-Rの「野菜の名前」課題もこれにあたる。つまり認知機能(言語・遂行機能)の評価項目であり、運動機能ではない。運動機能の評価には、歩行速度、片脚立位時間、Timed Up and Go test(椅子から立ち上がり3m歩いて戻る時間)、握力などが用いられる。
- ×c. 気分・意欲 ―― 時間の見当識
時間の見当識は、今日の年・月・日・曜日や季節を答えられるかをみる項目で、認知機能の評価に属する。認知症やせん妄・意識障害で障害される。気分・意欲はうつ状態や自発性の低下を評価する領域で、高齢者用うつ尺度〈GDS:Geriatric Depression Scale〉や意欲の指標〈Vitality Index〉などを用いる。したがって組合せは誤りである。
- ×d. 手段的日常生活動作 ―― 階段昇降
階段昇降は、身の回りの基本的な動作を評価する基本的ADLの項目であり、Barthel Indexにも含まれる。手段的ADLは、買い物、食事の準備、洗濯などの家事、服薬管理、電話の使用、交通機関の利用、金銭管理など、より高次で社会生活を営むための動作を指す(Lawtonの尺度が代表的)。したがって組合せは誤りである。
- ×e. 基本的日常生活動作 ―― 食事の準備
「食事(食べる動作)」自体は基本的ADLであるが、「食事の準備」は献立を考え、材料をそろえて調理するという計画性や複数の工程を要する動作であり、手段的ADLに分類される。基本的ADLは食事、排泄・トイレ動作、排尿・排便のコントロール、更衣、入浴、整容、移乗、歩行、階段昇降などの身の回り動作である。したがって組合せは誤りである。
CGAの主な構成要素と代表的な評価法
・基本的ADL:食事、移乗、整容、トイレ動作、入浴、歩行、階段昇降、更衣、排便・排尿コントロール。Barthel Index(100点満点)、Katz Indexなど。 ・手段的ADL:電話、買い物、食事の準備、家事、洗濯、交通機関の利用、服薬管理、金銭管理。Lawtonの尺度など。 ・認知機能:見当識、記憶(即時再生・遅延再生)、計算、言語(流暢性・呼称)、視空間認知・構成、遂行機能など。HDS-R(30点満点、20点以下で認知症を疑う)、MMSE(30点満点、23点以下で認知症を疑う)など。 ・気分・意欲:GDS(うつ状態のスクリーニング)、Vitality Index(意欲)など。 ・運動機能・転倒:歩行速度、Timed Up and Go test、片脚立位、握力など。 ・栄養:体重変化、BMI、MNA〈Mini Nutritional Assessment〉など。 ・社会的状況:同居家族、介護者の有無と負担、住環境、経済状況、利用中の介護サービスなど。
ADLの段階性
高齢者の生活機能は、一般に手段的ADLから先に低下し、次いで基本的ADLが障害される。そのため手段的ADLの低下は、認知症初期やフレイルの早期徴候として重要である。
CGAの目的
老化を背景とした心身の機能障害や生活上の困難を多面的に把握し、自立支援、介護サービスの導入、治療方針の決定、施設入所の判断などの介入に結び付けることにある。
POINT
・CGAは基本的ADL、手段的ADL、認知機能、気分・意欲、運動機能、栄養、社会的状況などを多面的に評価する。 ・遅延再生・言語流暢性・見当識はいずれも認知機能の評価項目である。 ・基本的ADL=身の回り動作(食事・排泄・入浴・更衣・整容・移動・階段昇降)。 ・手段的ADL=買い物・食事の準備・家事・洗濯・服薬管理・電話・交通機関の利用・金銭管理。 ・「食事」は基本的ADL、「食事の準備」は手段的ADLと区別する。
