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「食事」と「食事の準備」は別物?―高齢者総合機能評価〈CGA〉の物差しを整理する

第108回医師国家試験 B問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第108回 B問題 第15問

高齢者総合機能評価〈CGA〉の構成要素とその評価項目の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.認知機能 ―― 遅延再生
  2. b.運動機能 ―― 言語流暢性
  3. c.気分・意欲 ―― 時間の見当識
  4. d.手段的日常生活動作 ―― 階段昇降
  5. e.基本的日常生活動作 ―― 食事の準備

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は高齢者総合機能評価、CGAの構成要素と評価項目の対応を問う問題だ。ポイントは2つ。神経心理検査の用語がどの領域を測っているか、そして基本的ADLと手段的ADLの違いを区別できるかどうかだよ。
医学生医学生
CGAは老年医学の講義で出てきましたが、正直「いろいろ評価するもの」くらいの理解です。
ドクタードクター
まずそこから整理しよう。CGAは高齢者を病気の有無だけでなく、生活機能、精神機能、社会的環境から多面的に評価して、ケアや治療方針に生かす手法だ。構成要素としては基本的ADL、手段的ADL、認知機能、気分・意欲、運動機能、栄養状態、社会的状況などがある。
医学生医学生
評価項目のほうは、遅延再生、言語流暢性、見当識……どれも長谷川式で見た気がします。
ドクタードクター
いい気づきだね。それが解くカギなんだ。遅延再生も言語流暢性も時間の見当識も、HDS-RやMMSEに含まれる認知機能の評価項目だ。つまり認知機能と組み合わさっていれば正しいことになる。
医学生医学生
じゃあ遅延再生と認知機能の組合せが正解ですね。遅延再生は具体的に何を見ているんですか。
ドクタードクター
「桜・猫・電車」のような単語を覚えてもらい、別の課題をはさんで数分後に思い出してもらう検査だ。新しい情報を保持して取り出す近時記憶を評価している。Alzheimer型認知症では早い段階から障害されやすいから、認知機能評価の中心になる項目だよ。
医学生医学生
言語流暢性は、言葉を話すことなので運動機能と関係があるのかと思ってしまいました。
ドクタードクター
そう感じる人は多いけれど、ここでの「流暢性」は口の動きではなく、言葉を想起する力のことなんだ。「知っている野菜の名前をできるだけ多く」「『か』で始まる言葉を1分間で」といった課題で、語彙の想起や前頭葉の遂行機能を反映する。運動機能の評価には、歩行速度、片脚立位時間、Timed Up and Go test、握力などを使うよ。
医学生医学生
Timed Up and Goは、椅子から立って3m歩いて戻る検査ですね。リハビリ科の実習で計測を見学しました。
ドクタードクター
その通り。転倒リスクの評価にも役立つ。次に時間の見当識。これを気分・意欲と組み合わせるのはどうだろう。
医学生医学生
今日の日付や曜日がわかるかを見るものなので、認知機能ですよね。気分・意欲はうつの評価でしょうか。
ドクタードクター
正解。時間の見当識は認知症やせん妄で障害される。気分・意欲の評価には、高齢者用うつ尺度のGDSや、意欲を見るVitality Indexを使う。高齢者のうつは認知症と見分けにくいこともあるから、両方を別々に評価する意味があるんだ。
医学生医学生
残りはADLの2つですね。階段昇降は家の外にも関わるので手段的ADLかと思ったんですが……。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。階段昇降はBarthel Indexにも入っている基本的ADLの項目だ。基本的ADLは食事、排泄、入浴、更衣、整容、移乗、歩行、階段昇降といった身の回りの動作。手段的ADLは買い物、食事の準備、洗濯などの家事、服薬管理、電話、交通機関の利用、金銭管理といった、地域で自立して暮らすためのより複雑な動作で、Lawtonの尺度が代表的だ。
医学生医学生
ということは、食事の準備は手段的ADLで、基本的ADLとの組合せは誤りなんですね。「食事」が基本的ADLだから紛らわしいです。
ドクタードクター
その区別が大事。食べる動作そのものは基本的ADLだけれど、献立を考えて材料をそろえ、調理するという段取りが必要な「準備」は手段的ADLになる。計画性や複数の工程を必要とするかどうかで考えるといいよ。
医学生医学生
身の回りのことか、生活を回すための段取りか、という見分け方ですね。
ドクタードクター
そう。臨床で役立つ知識をもう一つ。生活機能は一般に手段的ADLから先に低下し、その後に基本的ADLが障害されていく。だから「最近、薬の管理ができない」「買い物で同じものばかり買う」といった手段的ADLの変化は、認知症の初期やフレイルの早期のサインとして重要なんだ。
医学生医学生
病棟で入院中の高齢者の方の退院調整に関わったとき、家族の介護力や住環境も確認していました。あれもCGAの一部ですか。
ドクタードクター
まさにそうだね。社会的状況として同居家族や介護者の負担、住環境、経済状況、利用中の介護サービスを評価する。CGAの結果をもとに、介護サービスの導入や治療方針、施設入所の判断などにつなげていくんだ。

まとめ

高齢者総合機能評価〈CGA〉は、基本的ADL、手段的ADL、認知機能、気分・意欲、運動機能、栄養、社会的状況などを多面的に評価し、ケアや治療方針に結び付ける手法です。遅延再生・言語流暢性・時間の見当識はいずれもHDS-RやMMSEに含まれる認知機能の評価項目で、遅延再生は近時記憶を反映しAlzheimer型認知症で早期から障害されます。基本的ADLは食事・排泄・入浴・階段昇降などの身の回り動作、手段的ADLは買い物・食事の準備・服薬管理・金銭管理などのより複雑な動作で、「食事」と「食事の準備」の区別が典型的な問われ方です。手段的ADLは基本的ADLより先に低下しやすいため、その変化に気づくことが認知症やフレイルの早期発見と、高齢者の生活を支える医療につながります。

解答・解説

正解はaです

高齢者総合機能評価〈CGA:comprehensive geriatric assessment〉は、高齢者を病気の有無だけで捉えるのではなく、生活機能・精神機能・社会的環境などを多面的に評価し、ケアや介入の方針に生かす手法である。主な構成要素は、基本的日常生活動作〈basic ADL〉、手段的日常生活動作〈IADL:instrumental ADL〉、認知機能、気分・意欲(うつ状態や自発性)、運動機能・転倒リスク、栄養状態、社会的状況(家族・介護環境・経済状況)などである。 本問は、各構成要素にどの評価項目が属するかを問うている。解くうえでの鍵は二つある。第一に、遅延再生・言語流暢性・見当識といった神経心理検査の用語が「認知機能」を測る項目であると理解していること。第二に、基本的ADLと手段的ADLの違い、すなわち「身の回りの動作」か「地域で自立して暮らすための、より複雑な動作」かを区別できることである。この二点を押さえれば、構成要素と評価項目が正しく対応しているのは認知機能と遅延再生の組合せだけだとわかる。

選択肢考察

  1. ○a.  認知機能 ―― 遅延再生

    遅延再生とは、いくつかの単語(例: 「桜・猫・電車」)を覚えてもらい、別の課題をはさんで数分後に思い出してもらう検査である。新しい情報を保持して取り出す近時記憶を評価しており、改訂長谷川式簡易知能評価スケール〈HDS-R〉やMMSE〈Mini-Mental State Examination〉にも含まれる。Alzheimer型認知症では早期から遅延再生が障害されやすく、認知機能評価の中心となる項目である。したがって組合せとして正しい。

  2. ×b.  運動機能 ―― 言語流暢性

    言語流暢性は、「知っている野菜の名前をできるだけ多く言う」(カテゴリー流暢性)、「『か』で始まる言葉を1分間で挙げる」(文字流暢性)といった課題で評価する。語彙の想起や前頭葉の遂行機能を反映し、失語(特に運動性失語)や前頭葉機能障害で低下する。HDS-Rの「野菜の名前」課題もこれにあたる。つまり認知機能(言語・遂行機能)の評価項目であり、運動機能ではない。運動機能の評価には、歩行速度、片脚立位時間、Timed Up and Go test(椅子から立ち上がり3m歩いて戻る時間)、握力などが用いられる。

  3. ×c.  気分・意欲 ―― 時間の見当識

    時間の見当識は、今日の年・月・日・曜日や季節を答えられるかをみる項目で、認知機能の評価に属する。認知症やせん妄・意識障害で障害される。気分・意欲はうつ状態や自発性の低下を評価する領域で、高齢者用うつ尺度〈GDS:Geriatric Depression Scale〉や意欲の指標〈Vitality Index〉などを用いる。したがって組合せは誤りである。

  4. ×d.  手段的日常生活動作 ―― 階段昇降

    階段昇降は、身の回りの基本的な動作を評価する基本的ADLの項目であり、Barthel Indexにも含まれる。手段的ADLは、買い物、食事の準備、洗濯などの家事、服薬管理、電話の使用、交通機関の利用、金銭管理など、より高次で社会生活を営むための動作を指す(Lawtonの尺度が代表的)。したがって組合せは誤りである。

  5. ×e.  基本的日常生活動作 ―― 食事の準備

    「食事(食べる動作)」自体は基本的ADLであるが、「食事の準備」は献立を考え、材料をそろえて調理するという計画性や複数の工程を要する動作であり、手段的ADLに分類される。基本的ADLは食事、排泄・トイレ動作、排尿・排便のコントロール、更衣、入浴、整容、移乗、歩行、階段昇降などの身の回り動作である。したがって組合せは誤りである。

CGAの主な構成要素と代表的な評価法

・基本的ADL:食事、移乗、整容、トイレ動作、入浴、歩行、階段昇降、更衣、排便・排尿コントロール。Barthel Index(100点満点)、Katz Indexなど。 ・手段的ADL:電話、買い物、食事の準備、家事、洗濯、交通機関の利用、服薬管理、金銭管理。Lawtonの尺度など。 ・認知機能:見当識、記憶(即時再生・遅延再生)、計算、言語(流暢性・呼称)、視空間認知・構成、遂行機能など。HDS-R(30点満点、20点以下で認知症を疑う)、MMSE(30点満点、23点以下で認知症を疑う)など。 ・気分・意欲:GDS(うつ状態のスクリーニング)、Vitality Index(意欲)など。 ・運動機能・転倒:歩行速度、Timed Up and Go test、片脚立位、握力など。 ・栄養:体重変化、BMI、MNA〈Mini Nutritional Assessment〉など。 ・社会的状況:同居家族、介護者の有無と負担、住環境、経済状況、利用中の介護サービスなど。

ADLの段階性

高齢者の生活機能は、一般に手段的ADLから先に低下し、次いで基本的ADLが障害される。そのため手段的ADLの低下は、認知症初期やフレイルの早期徴候として重要である。

CGAの目的

老化を背景とした心身の機能障害や生活上の困難を多面的に把握し、自立支援、介護サービスの導入、治療方針の決定、施設入所の判断などの介入に結び付けることにある。

POINT

・CGAは基本的ADL、手段的ADL、認知機能、気分・意欲、運動機能、栄養、社会的状況などを多面的に評価する。 ・遅延再生・言語流暢性・見当識はいずれも認知機能の評価項目である。 ・基本的ADL=身の回り動作(食事・排泄・入浴・更衣・整容・移動・階段昇降)。 ・手段的ADL=買い物・食事の準備・家事・洗濯・服薬管理・電話・交通機関の利用・金銭管理。 ・「食事」は基本的ADL、「食事の準備」は手段的ADLと区別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。