5疾病に加わった「心の病」―数字と制度で読み解く日本の精神保健福祉
第108回医師国家試験 B問題 第14問
国試問題にチャレンジ
我が国の精神保健福祉について正しいのはどれか。
- a.自殺者数は男性よりも女性の方が多い。
- b.精神疾患は医療法に基づく医療計画の5疾病に含まれる。
- c.精神障害は障害者の雇用の促進等の法律の対象とならない。
- d.精神科の人口当たり入院病床数は他のOECD諸国に比べて少ない。
- e.精神疾患の自立支援医療費の支給は維持治療期になれば中止される。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
医療法に基づき都道府県が策定する医療計画では、患者数の増加を背景に2013年度から精神疾患が加わり、がん・脳卒中・心筋梗塞等の心血管疾患・糖尿病とあわせて5疾病となりました。日本の自殺者数は男性が女性の約2倍で、人口当たり精神病床数はOECD諸国の中で突出して多く、平均在院日数の長さから「入院医療中心から地域生活中心へ」の転換が進められています。障害者雇用促進法は精神障害者も対象とし法定雇用率の算定にも含まれ、自立支援医療(精神通院医療)は維持治療期の通院も対象として自己負担を原則1割に軽減します。統計の傾向と各法律の役割を結び付けて理解することは、患者の地域生活を支える医師としての基盤になります。
解答・解説
正解はbです
本問は、わが国の精神保健福祉に関する統計(自殺者数、精神病床数)と制度(医療計画、障害者雇用、自立支援医療)を横断的に問う一般問題である。 押さえるべき骨格は次のとおりである。 ・統計:自殺者は一貫して男性が女性より多い。精神病床数は国際的に突出して多く、平均在院日数も長い。そのため国は「入院医療中心から地域生活中心へ」という方針を掲げている。 ・医療計画:都道府県が医療法に基づいて策定する医療計画では、重点的に対策を講じる疾病として、がん・脳卒中・急性心筋梗塞(のちに心筋梗塞等の心血管疾患)・糖尿病の4疾病に、2013年度(平成25年度)から精神疾患が加わり5疾病となった。患者数の増加(精神疾患の患者数は4疾病のいずれよりも多い)がその背景である。 ・障害者雇用:障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)は身体・知的・精神障害者を対象とし、精神障害者も法定雇用率の算定基礎に含まれている。 ・自立支援医療(精神通院医療):通院による継続的な精神科医療の自己負担を軽減する制度で、症状が安定した後の再発予防のための通院も対象となる。 これらに照らすと、正しいのは「精神疾患は医療法に基づく医療計画の5疾病に含まれる」である。
選択肢考察
- ×a. 自殺者数は男性よりも女性の方が多い。
わが国の自殺者数は男性が女性の約2倍(年によっては2倍を超える)で、男性のほうが多い。自殺者総数は1998年に急増して以降、2011年まで年間3万人を超えていたが、自殺対策基本法(2006年制定)に基づく取り組みなどにより減少し、近年は年間2万人前後で推移している。男性では中高年層に多く、原因・動機としては健康問題が最多で、経済・生活問題、家庭問題、勤務問題などが続く。女性は自殺者数では少ないが、自殺未遂は女性に多いことも覚えておきたい。
- ○b. 精神疾患は医療法に基づく医療計画の5疾病に含まれる。
医療計画は、医療法に基づき都道府県が地域の実情に応じて医療提供体制を整備するために策定する計画である。2008年度から、がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病の4疾病が重点対象とされてきたが、うつ病や認知症などの精神疾患の患者数が増加し、4疾病のいずれをも上回る規模になったことから、2013年度から精神疾患が追加され5疾病となった。現在は、がん、脳卒中、心筋梗塞等の心血管疾患、糖尿病、精神疾患の5疾病に、救急医療、災害時医療、へき地医療、周産期医療、小児医療(2024年度からは新興感染症発生・まん延時の医療を加えた6事業)と在宅医療を合わせて体制整備が進められている。
- ×c. 精神障害は障害者の雇用の促進等の法律の対象とならない。
障害者雇用促進法は、身体障害者・知的障害者・精神障害者(発達障害を含む)を対象とする。2013年(平成25年)の改正で、雇用の場面での障害者に対する差別の禁止と合理的配慮の提供義務が定められ、さらに精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加えることとされた(2018年4月施行)。事業主は一定割合以上の障害者を雇用する義務を負い、精神障害者保健福祉手帳の所持者も雇用率の算定対象となる。したがって精神障害は同法の対象である。
- ×d. 精神科の人口当たり入院病床数は他のOECD諸国に比べて少ない。
わが国の精神病床数は約32万床で、人口当たりの精神科病床数はOECD〈経済協力開発機構〉加盟国のなかで群を抜いて多く、OECD平均の数倍に及ぶ。精神病床の平均在院日数も一般病床に比べて著しく長く(およそ270日前後)、長期入院患者の地域移行が課題とされている。多くの欧米諸国は脱施設化を進めて精神科病床を大幅に削減してきたのに対し、わが国は民間精神科病院を中心に病床が維持されてきたという歴史的背景がある。
- ×e. 精神疾患の自立支援医療費の支給は維持治療期になれば中止される。
自立支援医療(精神通院医療)は、障害者総合支援法に基づき、精神疾患のため通院による継続的な治療を要する人の医療費の自己負担を原則1割に軽減する制度で、所得に応じた月額の負担上限も設けられている。対象には、症状が軽快した後も再発を防ぐために通院・服薬を続けている状態が含まれており、むしろ外来での維持治療は本制度の中心的な対象である。有効期間は1年で、必要があれば更新できる。維持治療期に入ったことを理由に支給が中止されることはない。
わが国の精神保健福祉の流れ
・精神保健福祉法(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律):入院形態(任意入院、医療保護入院、措置入院、緊急措置入院、応急入院)や精神保健指定医、精神障害者保健福祉手帳などを定める。 ・障害者総合支援法:障害福祉サービスと自立支援医療(更生医療、育成医療、精神通院医療)を定める。 ・「入院医療中心から地域生活中心へ」(2004年の精神保健医療福祉の改革ビジョン)以降、長期入院患者の地域移行が進められ、近年は「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築が目標とされている。
医療計画の5疾病・6事業+在宅医療
・5疾病:がん、脳卒中、心筋梗塞等の心血管疾患、糖尿病、精神疾患(精神疾患は2013年度から追加) ・6事業:救急医療、災害時医療、新興感染症発生・まん延時の医療(2024年度から追加)、へき地医療、周産期医療、小児医療 ・在宅医療
自殺の統計と対策
・自殺者数は男性が女性の約2倍。 ・1998年から2011年まで年間3万人超、その後減少し近年は2万人前後。 ・若年層(10〜30歳代)では死因の第1位が自殺であり、国際的にみても若年者の自殺が多いことが課題である。 ・自殺対策基本法(2006年)と自殺総合対策大綱に基づき対策が進められている。
障害者雇用促進法
・対象:身体・知的・精神障害者 ・2013年改正:差別禁止、合理的配慮の提供義務、精神障害者の法定雇用率算定への追加(2018年施行) ・法定雇用率は段階的に引き上げられている。
POINT
・医療計画の5疾病:がん、脳卒中、心筋梗塞等の心血管疾患、糖尿病、精神疾患(精神疾患は2013年度から)。 ・自殺者数は男性が女性の約2倍。 ・日本の人口当たり精神病床数はOECD諸国で突出して多く、平均在院日数も長い。 ・障害者雇用促進法は精神障害者も対象(法定雇用率の算定にも含まれる)。 ・自立支援医療(精神通院医療)は維持治療期の通院も対象で、自己負担は原則1割。
