生後数日の吐血にPIVKA-Ⅱ―新生児メレナとビタミンKの深い関係
第108回医師国家試験 B問題 第17問
国試問題にチャレンジ
生後1週以内の新生児においてPIVKA-Ⅱを測定すべき症候はどれか。
- a.下痢
- b.黄疸
- c.吐血
- d.多呼吸
- e.チアノーゼ
対話形式の解説
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ドクターまとめ
PIVKA-ⅡはビタミンK欠乏時に肝臓で作られる機能のない異常プロトロンビンで、ビタミンK欠乏の鋭敏な指標です。新生児は胎盤移行の乏しさ、母乳中の含量の少なさ、腸内細菌叢の未発達などからビタミンK欠乏に陥りやすく、生後2〜7日の古典型では吐血・下血(新生児メレナ)を起こすため、早期新生児の吐血ではPIVKA-ⅡとPTを調べます。母体血を飲み込んだ仮性メレナとはApt試験で鑑別し、黄疸ではまずビリルビン分画、多呼吸やチアノーゼでは呼吸・循環の評価が優先されます。早発型・古典型・遅発型の病型と、ビタミンK2シロップによる予防の意義を合わせて理解しておくことが、新生児期の出血を見逃さない臨床判断につながります。
解答・解説
正解はcです
PIVKA-Ⅱ〈protein induced by vitamin K absence or antagonist-Ⅱ〉は、ビタミンKが不足しているとき(またはワルファリンなどのビタミンK拮抗薬の作用下)に肝臓で作られる、機能をもたない異常なプロトロンビンである。凝固因子Ⅱ(プロトロンビン)、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹは、肝臓でビタミンK依存性にγ-カルボキシル化を受けて初めてカルシウムと結合し、凝固に働けるようになる。ビタミンKが欠乏するとこの修飾が行われず、不完全な因子が血中に出てくる。そのためPIVKA-Ⅱの上昇はビタミンK欠乏の鋭敏な指標となる。 新生児はビタミンK欠乏に陥りやすい。理由は、①ビタミンKが胎盤を通過しにくく出生時の貯蔵量が少ない、②母乳中のビタミンK含量が少ない、③腸内細菌叢が未発達で腸内でのビタミンK産生が乏しい、④肝臓での凝固因子合成能が未熟、などである。生後2〜7日ごろに発症する古典的な新生児ビタミンK欠乏性出血症では、消化管出血による吐血や下血(新生児メレナ)が典型的な症状となる。 したがって、生後1週以内の新生児でビタミンK欠乏性出血症を疑ってPIVKA-Ⅱを測定すべき症候は、出血症状である吐血である。
選択肢考察
- ×a. 下痢
生後1週以内の新生児の下痢は、感染性腸炎、乳糖不耐症、ミルクアレルギー(新生児・乳児消化管アレルギー)などを考える症候であり、それ自体は出血症状ではない。長期の下痢や抗菌薬投与、吸収不良が続く乳児ではビタミンK欠乏の誘因となりうるが、早期新生児の下痢でまずPIVKA-Ⅱを測定する意義は乏しい。便培養、電解質、脱水の評価などが優先される。
- ×b. 黄疸
新生児の黄疸では、まず総ビリルビンと直接(抱合型)・間接(非抱合型)ビリルビンを測定し、生理的黄疸、血液型不適合などによる溶血性疾患、胆道閉鎖症・新生児肝炎などの胆汁うっ滞を鑑別する。胆汁うっ滞では脂溶性ビタミンであるビタミンKの吸収が障害され、乳児期(生後2週〜数か月)のビタミンK欠乏性出血症(頭蓋内出血など)の原因となるため、その段階では凝固能やPIVKA-Ⅱの評価が必要になる。しかし黄疸そのものに対して最初に測定すべき項目はビリルビンであり、PIVKA-Ⅱではない。
- ○c. 吐血
生後1週以内の吐血では、ビタミンK欠乏による消化管出血(新生児メレナ)を鑑別する必要があり、PIVKA-Ⅱの上昇とプロトロンビン時間(PT)の延長がその診断根拠となる。なお新生児の吐血・下血には、分娩時や授乳時に飲み込んだ母体血を吐き出す仮性メレナもある。両者はApt試験(アルカリ変性試験)で区別でき、アルカリに抵抗性の胎児ヘモグロビン〈HbF〉が主体なら児の血液(真性メレナ)、容易に変性する成人ヘモグロビン〈HbA〉なら母体血(仮性メレナ)と判断する。真性メレナであればビタミンKの静注で速やかに止血が得られる。
- ×d. 多呼吸
新生児の多呼吸(おおむね呼吸数60回/分以上)は、新生児一過性多呼吸、呼吸窮迫症候群、胎便吸引症候群、肺炎、気胸、先天性心疾患、敗血症、代謝性アシドーシスなどを考える所見である。評価には胸部エックス線、血液ガス分析、SpO2、血糖、炎症反応などを用いる。ビタミンK欠乏とは直接の関係がなく、PIVKA-Ⅱを測定する根拠にはならない。
- ×e. チアノーゼ
チアノーゼは毛細血管血中の還元ヘモグロビン(デオキシヘモグロビン)がおよそ5 g/dL以上になると現れる皮膚・粘膜の青紫色調である。新生児では呼吸器疾患、チアノーゼ性先天性心疾患、新生児遷延性肺高血圧症、多血症、メトヘモグロビン血症などを考え、SpO2、血液ガス分析(PaO2)、ヘモグロビン値、心エコーなどで評価する。ビタミンK欠乏とは関係しない。
新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症の病型
・早発型:生後24時間以内。母体の抗てんかん薬(フェニトイン、フェノバルビタールなど)、抗結核薬、ワルファリン服用などが関与する。 ・古典型(新生児メレナ):生後2〜7日。消化管出血(吐血・下血)が主体。 ・遅発型(乳児ビタミンK欠乏性出血症):生後2週〜6か月ごろ、特に1〜2か月に多い。母乳栄養児や、胆道閉鎖症などの胆汁うっ滞・肝疾患、長期の抗菌薬投与・下痢のある児に起こりやすく、頭蓋内出血で発症して重い後遺症を残すことがある。
検査所見
PTおよび活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の延長、ヘパプラスチンテスト低値、PIVKA-Ⅱ陽性(高値)。血小板数やフィブリノゲンは通常正常である。
予防と治療
日本では出生時、産科退院時(生後4〜7日ごろ)、1か月健診時の3回、ビタミンK2シロップを経口投与する方法が広く行われてきた。2021年の日本小児科学会などの提言では、生後3か月まで週1回投与を続ける方法(計13回)が推奨されている。発症時にはビタミンK製剤の静注を行う。
PIVKA-Ⅱの他の用途
成人では肝細胞癌の腫瘍マーカー(AFPとともに用いられる)として知られる。ワルファリン内服中やビタミンK欠乏状態でも上昇するため、腫瘍マーカーとして解釈する際には注意が必要である。
POINT
・PIVKA-ⅡはビタミンK欠乏で出現する異常プロトロンビンで、ビタミンK欠乏の指標となる。 ・ビタミンK依存性凝固因子はⅡ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ(ほかにプロテインC・S)。 ・生後2〜7日の吐血・下血は新生児メレナ(ビタミンK欠乏)を疑い、PIVKA-ⅡとPTを調べる。 ・母体血嚥下による仮性メレナとの鑑別にはApt試験を用いる。 ・黄疸ではまずビリルビン分画を測定する。 ・成人ではPIVKA-Ⅱは肝細胞癌の腫瘍マーカー。
