TACEの前に何を聞く?―「その治療で何を使うか」から逆算する既往歴チェック
第108回医師国家試験 B問題 第18問
国試問題にチャレンジ
肝動脈化学塞栓療法の適用を決める際に最も注意すべき病歴はどれか。
- a.緑内障
- b.脂質異常症
- c.ペースメーカ植込み術
- d.慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉
- e.ヨード造影剤によるショック
対話形式の解説
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ドクターまとめ
肝動脈化学塞栓療法(TACE)は、肝細胞癌が主に肝動脈から栄養される性質を利用し、血管造影下に抗癌剤とリピオドールを注入して栄養動脈を塞栓する治療です。手技にはヨード造影剤が不可欠で、リピオドールもヨードを含むため、ヨード造影剤によるショックの既往は最も注意すべき病歴であり、重篤な過敏症の既往は禁忌となります。緑内障は抗コリン薬、ペースメーカはMRI、COPDは全身麻酔で特に問題となる既往であり、TACEの適否を直接左右するものではありません。TACEそのものの禁忌として、高度の肝機能障害や門脈本幹閉塞もあわせて押さえておきましょう。「その手技で何を使うか」から確認すべき既往を逆算する考え方は、あらゆる検査・治療の安全管理に通じる基本です。
解答・解説
正解はeです
肝動脈化学塞栓療法〈TACE:transcatheter arterial chemoembolization〉は、主に肝細胞癌に対して行われる血管内治療である。肝細胞癌は主として肝動脈から血流を受け、正常肝は主に門脈から血流を受けるという血流支配の違いを利用する。大腿動脈などからカテーテルを挿入して腹腔動脈・肝動脈の血管造影を行い、腫瘍の栄養動脈を確認したうえで、抗癌剤とリピオドール(ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル)を混ぜた乳化液を注入し、さらにゼラチンスポンジや球状塞栓物質で動脈を塞栓する。これにより腫瘍に高濃度の抗癌剤を届けると同時に、腫瘍を虚血に陥らせて壊死させる。 この一連の手技では、血管造影のためのヨード造影剤の使用が不可欠であり、リピオドール自体もヨードを含む油性造影剤である。したがって、適用を決める際に最も重要なのは、ヨード造影剤で重篤な副作用(ショック・アナフィラキシー)を起こした既往がないかの確認である。その既往があれば、TACEは原則として避け、ラジオ波焼灼療法、切除、薬物療法など他の治療法を検討する。 一般に、検査や治療の前には「その手技で使う薬剤や機器に関連して危険となる既往歴」を確認することが重要であり、本問はその考え方を問うている。
選択肢考察
- ×a. 緑内障
閉塞隅角緑内障では、抗コリン薬(消化管内視鏡の前処置で用いるブチルスコポラミンなど)によって散瞳が起こり、隅角がさらに狭まって眼圧が急上昇するおそれがある。そのため抗コリン薬の使用前には重要な既往となる。しかしTACEの手技自体や使用する薬剤は緑内障を悪化させるものではなく、適用を決めるうえで最も注意すべき既往ではない。
- ×b. 脂質異常症
脂質異常症は動脈硬化の危険因子であるが、TACEの適否やリスクに直接影響する既往ではない。検査・治療の前に特別な配慮を要する既往として問題になることもほとんどない。
- ×c. ペースメーカ植込み術
ペースメーカ植込み患者では、MRI検査や電気メスの使用、さらに一部の機種ではX線CTなどで本体に直接エックス線束が照射された場合の誤作動(オーバーセンシングなど)に注意が必要である。確認しておくべき既往ではあるが、TACEでは透視・撮影の範囲は上腹部の肝臓周辺で、通常は胸部に植え込まれた本体に直接エックス線が当たることはない。したがって最も注意すべき既往ではない。
- ×d. 慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉
COPDは全身麻酔や鎮静の際には呼吸抑制や術後呼吸器合併症の点で重要な既往である。しかしTACEは通常、穿刺部の局所麻酔下で行われ、全身麻酔を必要としない。COPDであることがTACEの適否を左右することは少なく、最も注意すべき既往ではない。
- ○e. ヨード造影剤によるショック
TACEでは、腫瘍の栄養動脈を同定するための血管造影にヨード造影剤が必須であり、さらに治療薬と混ぜて注入するリピオドールもヨードを含む。ヨード造影剤でショックを起こした既往のある患者では、再投与により重篤なアナフィラキシーを再発する危険が高く、ヨード造影剤の添付文書でも重篤な過敏症の既往は禁忌とされている。したがってTACEの適用を判断する際に最も注意すべき既往である。やむを得ず造影剤を用いる場合でも、ステロイドや抗ヒスタミン薬の前投薬は再発を確実には防げないため、救急対応の準備が必須となる。
TACEの概要
・対象:主に切除やラジオ波焼灼療法の適応とならない多発性の肝細胞癌(肝細胞癌診療ガイドラインでは、肝予備能が良好で腫瘍数4個以上、または3個以下でも腫瘍径が3cmを超える場合などに推奨される)。 ・禁忌・慎重適応:高度の肝機能障害(Child-Pugh分類Cなど)、門脈本幹の腫瘍塞栓などによる門脈血流の途絶(肝梗塞を起こす危険)、コントロール不良の腹水、ヨード造影剤に対する重篤な過敏症の既往など。 ・合併症:塞栓後症候群(発熱、腹痛、悪心)、肝機能障害の悪化、肝膿瘍、胆管障害、造影剤腎症、アナフィラキシーなど。
ヨード造影剤使用前に確認すべき既往
・ヨード造影剤による過敏症(特にショック)の既往:重篤なものは禁忌。 ・気管支喘息:副作用の発現率が高く、慎重な判断を要する(かつては添付文書上「原則禁忌」とされていた)。 ・腎機能障害:造影剤腎症の危険。 ・甲状腺機能亢進症:ヨード負荷による増悪のおそれ。 ・ビグアナイド系糖尿病薬内服:造影剤腎症による乳酸アシドーシスの危険があり、休薬を検討する。
検査・治療前に確認すべき代表的な既往の例
・抗コリン薬(ブチルスコポラミン):緑内障、前立腺肥大症、心疾患。 ・MRI:ペースメーカなど体内金属・電子機器。 ・全身麻酔:呼吸器疾患(COPDなど)、心疾患。
POINT
・TACEは血管造影下に行う治療で、ヨード造影剤(およびヨードを含むリピオドール)の使用が不可欠である。 ・ヨード造影剤によるショックの既往はTACEの適用判断で最も注意すべき既往であり、重篤な過敏症の既往は禁忌。 ・緑内障は抗コリン薬使用時、ペースメーカはMRI、COPDは全身麻酔時に特に問題となる既往である。 ・TACEの主な禁忌:高度の肝機能障害、門脈本幹閉塞、ヨード造影剤への重篤な過敏症。
