胆汁の出口にできた腫瘍―3つの画像で首座を特定する十二指腸乳頭部癌
第108回医師国家試験 A問題 第27問
国試問題にチャレンジ
62歳の女性。健康診断で肝機能異常を指摘され来院した。自覚症状はない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。血液所見:赤血球407万,Hb 13.0 g/dL,Ht 39%,白血球7,800,血小板26万。血液生化学所見:総ビリルビン2.2 mg/dL,AST 160 IU/L,ALT 186 IU/L,ALP 1,652 IU/L(基準115~359),アミラーゼ62 IU/L(基準37~160),CEA 2.9 ng/mL(基準5以下),CA19-9 210 U/mL(基準37以下)。上部消化管内視鏡像(A),ERCP(B)及び腹部造影CT(C)を別に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.胆嚢癌
- b.膵体部癌
- c.肝門部胆管癌
- d.十二指腸球部癌
- e.十二指腸乳頭部癌
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
ALP優位の胆道系酵素上昇とビリルビン上昇は胆道の通過障害を示し、CA19-9高値は膵・胆道系腫瘍を疑う手がかりになりますが、胆汁うっ滞自体でも上昇するため画像と病理で確認が必要です。内視鏡でVater乳頭部に表面不整な腫瘤、ERCPで総胆管末端の陰影欠損と上流胆管の拡張、CTで十二指腸内腔に突出する腫瘤を認めれば、十二指腸乳頭部癌が最も考えられます。肝門部胆管癌では肝内胆管のみが拡張し、膵体部癌や十二指腸球部癌は胆管を閉塞しにくいなど、閉塞部位と胆管拡張の範囲から鑑別できます。乳頭部癌は早期から黄疸を来し消長することがあり、標準治療は膵頭十二指腸切除術で、胆道癌の中では予後が比較的良好です。閉塞部位を解剖に沿って特定する考え方は、閉塞性黄疸の診療全般に通じる基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・62歳女性、無症状で健診時に肝機能異常を指摘された。腹部診察で異常はない。 ・総ビリルビン2.2 mg/dLと軽度上昇し、ALP 1,652 IU/Lと著明な上昇、AST・ALTも中等度上昇している。ALP優位の上昇にビリルビン上昇を伴うパターンは胆汁うっ滞(胆道の通過障害)を示唆する。 ・アミラーゼは正常で、膵炎や主膵管の閉塞による膵酵素の上昇は目立たない。 ・腫瘍マーカーはCEA正常、CA19-9(糖鎖抗原19-9)が210 U/mLと高値である。CA19-9は膵・胆道系の悪性腫瘍で上昇しやすいが、胆汁うっ滞そのものでも上昇するため、単独で悪性と断定はできない。
画像所見
・上部消化管内視鏡(A):十二指腸下行部のVater乳頭(十二指腸乳頭)の位置に、内腔へ隆起する表面不整な腫瘤を認める。 ・ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影、B):総胆管の十二指腸側末端に陰影欠損・狭窄があり、それより上流の胆管が拡張している。 ・腹部造影CT(C):十二指腸内腔に突出する、内部が不均一に造影される腫瘤を認める。
診断へのプロセス
閉塞性の肝機能障害とCA19-9上昇から、胆道を閉塞させる膵・胆道系腫瘍を考える。そのうえで、病変の首座を画像で特定するのが本問の要点である。内視鏡で直接見える十二指腸乳頭部に腫瘤があり、ERCPでは胆管の閉塞部位が最下端(乳頭部)で、その上流が拡張している。CTでも腫瘤は十二指腸内腔に突出している。これらを合わせると、腫瘍の主座はVater乳頭部であり、十二指腸乳頭部癌が最も考えられる。表面が不整で、CT上内部が不均一であることから、乳頭部腺腫などの良性腫瘍よりも悪性が考えやすい。確定診断には内視鏡下の生検による病理診断を行う。
選択肢考察
- ×a. 胆嚢癌
胆嚢癌は胆嚢に発生し、進行すると胆嚢管から総胆管・肝門部へ浸潤して黄疸を来しうる。しかし病変は胆嚢にあり、十二指腸内視鏡でVater乳頭部に腫瘤が見えることはない。ERCPでの閉塞部位も胆管末端ではなく、より肝臓側(中部〜上部胆管、肝門部)になるはずである。本症例の所見とは合わない。
- ×b. 膵体部癌
膵体部は総胆管から離れているため、膵体部癌は胆管を閉塞しにくく、早期に黄疸を来すことは少ない。閉塞性黄疸で発見されやすいのは総胆管が貫く膵頭部の癌である。また膵癌で十二指腸乳頭部に内腔へ突出する腫瘤が内視鏡で直接観察されることは通常なく、本症例とは合わない。
- ×c. 肝門部胆管癌
肝門部胆管癌では、左右肝管の合流部付近で胆管が狭窄し、それより上流の肝内胆管が拡張する一方、下部の総胆管は拡張しない。本症例ではERCPで胆管の最下端(乳頭部)に病変があり、上流の総胆管が拡張している。また十二指腸内視鏡で乳頭部腫瘤が見えることもないため、否定的である。
- ×d. 十二指腸球部癌
十二指腸球部は幽門直後の部分で、胆管が開口するVater乳頭(下行部)とは離れている。したがって球部の癌は胆管を直接閉塞しにくく、閉塞性の肝機能障害やビリルビン上昇は通常来さない。本症例では腫瘤が乳頭部に一致して存在し、ERCPで胆管末端の閉塞を伴っているため、球部の病変ではない。
- ○e. 十二指腸乳頭部癌
内視鏡でVater乳頭部に表面不整な隆起性腫瘤、ERCPで総胆管末端の陰影欠損と上流胆管の拡張、CTで十二指腸内腔に突出する不均一な腫瘤を認め、ALP優位の胆道系酵素上昇、ビリルビン上昇、CA19-9高値を伴う。病変の局在と閉塞性の検査所見がすべて乳頭部癌で説明できる。乳頭部癌は胆管の出口に発生するため小さいうちから胆汁うっ滞を来し、腫瘍の壊死・脱落によって黄疸が軽快と増悪を繰り返す(消長する)ことがあるのも特徴である。
十二指腸乳頭部癌の概要
・Vater乳頭部(胆管と膵管が合流して十二指腸下行部に開口する部位。Oddi括約筋に囲まれる)に発生する癌である。日本の胆道癌取扱い規約では胆道癌(胆管癌・胆嚢癌・乳頭部癌)の一つに分類される。 ・組織型は多くが腺癌で、腺腫から癌化する経路(adenoma-carcinoma sequence)も知られる。 ・症状:閉塞性黄疸が最も多い。腫瘍の壊死・脱落で胆汁の流れが一時的に回復するため、黄疸が消長することがある。そのほか発熱(胆管炎)、腹痛、腫瘍からの出血による貧血・便潜血陽性などがある。無症状のまま検診の肝機能異常や上部消化管内視鏡で見つかることもある。 ・検査:胆道系酵素(ALP、γ-GTP)・ビリルビン上昇、CA19-9上昇。側視鏡を用いた十二指腸内視鏡で乳頭を観察し、生検で確定する。ERCP、超音波内視鏡(EUS)、CT、MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影)で進展範囲を評価する。 ・治療:標準術式は膵頭十二指腸切除術(膵頭部・十二指腸・胆管下部などを一塊に切除する手術)である。腺腫や、ごく早期の限局した病変では内視鏡的乳頭切除術が選択されることがある。 ・予後:胆管の出口にあるため小さいうちから黄疸で発見されやすく、胆道癌の中では切除率が高く、予後は比較的良好とされる。
閉塞部位と胆管拡張の関係
・肝門部胆管癌:肝内胆管のみ拡張し、胆嚢は腫大しない。 ・遠位胆管癌、膵頭部癌、乳頭部癌:肝内胆管から総胆管まで拡張し、胆嚢も腫大しうる(Courvoisier徴候:無痛性の胆嚢腫大)。 ・乳頭部癌では主膵管も閉塞し、膵管拡張を伴うことがある。 ・膵頭部癌との鑑別では、乳頭部に腫瘤が直接見えるか(乳頭部癌)、膵実質内の腫瘤が胆管・膵管を狭窄させているか(膵頭部癌)が手がかりになる。
POINT
・ALP優位の胆道系酵素上昇とビリルビン上昇は閉塞性の胆汁うっ滞を示す。 ・十二指腸内視鏡で乳頭部腫瘤、ERCPで総胆管末端の陰影欠損と上流胆管の拡張をみれば十二指腸乳頭部癌を考える。 ・乳頭部癌は早期から黄疸を来し、黄疸が消長することがある。胆道癌の中で予後は比較的良好である。 ・標準術式は膵頭十二指腸切除術である。 ・閉塞部位によって胆管拡張の範囲が変わる(肝門部癌では肝内胆管のみ、下部の閉塞では総胆管まで拡張)。
