アトピーの顔に一気に広がる水疱―Kaposi水痘様発疹症と単純ヘルペスウイルス
第107回医師国家試験 I問題 第45問
国試問題にチャレンジ
33歳の男性。発熱と顔面の皮疹とを主訴に来院した。幼少期からアトピー性皮膚炎があり,治療を受けていた。2日前から38℃台の発熱,顔面の紅斑,びらん及び小水疱が出現している。顔面の写真(A)と水疱内容のTzanck試験のMay-Giemsa染色標本(B)とを別に示す。 原因として最も考えられるのはどれか。

- a.EBウイルス
- b.サイトメガロウイルス
- c.単純ヘルペスウイルス
- d.水痘・帯状疱疹ウイルス
- e.ヒトパピローマウイルス
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
アトピー性皮膚炎を背景に、発熱を伴って顔面などに中心臍窩をもつ小水疱・びらんが集簇・多発した場合は、主に単純ヘルペスウイルス1型が広範に感染したKaposi水痘様発疹症を考えます。Tzanck試験の多核巨細胞はヘルペス属ウイルス感染を示しますが、単純ヘルペスウイルスと水痘・帯状疱疹ウイルスの区別はできないため、背景疾患や皮疹の分布といった臨床像、さらにPCR法や抗原検査で判断します。治療は抗ウイルス薬の全身投与で、病変部のステロイド外用は中止し、二次感染や角膜ヘルペスにも注意が必要です。名前の似たKaposi肉腫(HHV-8)とは別疾患である点も押さえておきましょう。アトピー患者の急な水疱・びらんを湿疹の悪化と決めつけず本症を疑えることは、皮膚科に限らずプライマリケアでも重要な判断力です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・33歳男性。幼少期からアトピー性皮膚炎がある。→ 皮膚のバリア機能が低下しており、局所の免疫応答にも偏りがあるため、細菌・真菌・ウイルスの皮膚感染症を起こしやすい。 ・2日前から38℃台の発熱。→ 全身症状を伴う急性の感染症。 ・顔面に紅斑、びらん、小水疱が出現。写真(A)では顔面の広い範囲に小水疱、中心がくぼんだ(臍窩を伴う)水疱、びらん、痂皮が集簇・多発している。 ・Tzanck試験(水疱底をこすり取った細胞をMay-Giemsa染色で観察する検査)(B)で、多核巨細胞(ウイルスに感染して変性・融合した表皮角化細胞)を認める。→ ヘルペス属ウイルス(単純ヘルペスウイルスまたは水痘・帯状疱疹ウイルス)の感染を示す。
診断
アトピー性皮膚炎の病変部を中心に、発熱を伴って小水疱・びらんが急速に広範囲に拡大し、Tzanck試験で多核巨細胞が陽性であることから、Kaposi水痘様発疹症と診断する。本症は、主に単純ヘルペスウイルス(HSV、多くは1型)が、アトピー性皮膚炎などで障害された皮膚に広範に感染・播種した状態である。
鑑別の考え方
Tzanck試験の多核巨細胞はHSV感染と水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)感染の両方でみられ、この検査だけでは両者を区別できない。区別には臨床像が重要で、アトピー性皮膚炎を背景に既存の皮疹部(特に顔面・頸部・上半身)へ一様な小水疱・びらんが集簇性に多発していることは、HSVによるKaposi水痘様発疹症に典型的である。VZVであれば、水痘では全身に新旧の皮疹が混在して散在し、帯状疱疹では片側の神経支配領域に帯状に分布する。確定には蛍光抗体法やPCR法によるウイルス抗原・遺伝子の検出を行う。
選択肢考察
- ×a. EBウイルス
誤り。Epstein-Barr(EB)ウイルスはヘルペスウイルス科に属するが、主な疾患は伝染性単核球症(発熱・咽頭炎・頸部リンパ節腫脹・異型リンパ球増加・肝脾腫)であり、ほかにBurkittリンパ腫、上咽頭癌、蚊刺過敏症などとの関連がある。アトピー性皮膚炎を背景に水疱・びらんが多発し、Tzanck試験で多核巨細胞を認める病像はきたさない。
- ×b. サイトメガロウイルス
誤り。サイトメガロウイルス(CMV)は主に免疫不全者(臓器移植後、HIV感染症など)で網膜炎、肺炎、腸炎などを起こし、先天感染では小頭症や難聴の原因となる。病理組織では核内封入体を持つ巨細胞(フクロウの目様)が特徴で、診断には血液中のCMV抗原(アンチゲネミア)検査やPCRが用いられる。健常成人のアトピー性皮膚炎に合併して顔面に水疱が多発する病像とは合わない。
- ○c. 単純ヘルペスウイルス
正解。単純ヘルペスウイルス(主にHSV-1)がアトピー性皮膚炎などのバリア障害のある皮膚に広範に感染したものがKaposi水痘様発疹症である。発熱などの全身症状と所属リンパ節腫脹を伴い、既存の湿疹病変上に中心臍窩を持つ小水疱が集簇・多発し、速やかにびらん・痂皮となる。Tzanck試験での多核巨細胞はヘルペスウイルス感染を示す所見であり、臨床像と合わせて本症と判断できる。治療はアシクロビルやバラシクロビルなどの抗ウイルス薬を全身投与し、重症例では入院のうえ点滴静注する。
- ×d. 水痘・帯状疱疹ウイルス
誤り。VZV感染でもTzanck試験で多核巨細胞がみられるため、染色標本のみではHSVと区別できない。しかし臨床像が異なる。水痘は小児に多く、紅斑→丘疹→水疱→痂皮と進行する皮疹が体幹から全身に散在し、新旧の皮疹が混在するのが特徴である。帯状疱疹は神経節に潜伏したVZVの再活性化で、片側の神経支配領域に沿って痛みを伴う紅斑・小水疱が帯状に並ぶ。アトピー性皮膚炎の病変部に一致して顔面に集簇性に多発する本例の分布とは合わない。
- ×e. ヒトパピローマウイルス
誤り。ヒトパピローマウイルス(HPV)は表皮角化細胞の増殖をきたし、尋常性疣贅、扁平疣贅、尖圭コンジローマなどのいぼ(疣贅)を生じる。高リスク型(16型、18型など)は子宮頸癌などの原因となる。発熱を伴って水疱・びらんが急速に多発する病像はとらず、Tzanck試験で多核巨細胞もみられない。
Kaposi水痘様発疹症
・定義:既存の皮膚疾患(アトピー性皮膚炎が最多。ほかにDarier病、天疱瘡、熱傷など)の病変部に、主にHSV-1が広範に感染・播種した状態。英語ではeczema herpeticumとも呼ばれる。 ・誘因:アトピー性皮膚炎のコントロール不良、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬の使用部位、口唇ヘルペスとの接触など。 ・症状:発熱・倦怠感、所属リンパ節腫脹。顔面・頸部・上半身に好発し、中心臍窩を伴う小水疱・膿疱が集簇して多発し、びらん・痂皮へと進む。 ・合併症:黄色ブドウ球菌などによる二次感染、角膜ヘルペス(眼の周囲に病変がある場合は眼科受診が必要)、まれに脳炎や全身播種。 ・治療:抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル)の全身投与。重症例は入院しアシクロビルを点滴静注する。病変部のステロイド外用は一時中止する。
Tzanck試験
水疱の底をこすって塗抹し、Giemsa染色(May-Giemsa染色)などで観察する。ヘルペス属ウイルス(HSV、VZV)の感染では、ウイルス性巨細胞(多核巨細胞)や、棘融解によって遊離した風船様の変性細胞がみられる。迅速・簡便だが、HSVとVZVの区別はできないため、必要に応じて蛍光抗体法やPCR法、イムノクロマト法による抗原検出で確定する。なお、尋常性天疱瘡でもTzanck試験で棘融解細胞(Tzanck細胞)がみられるが、これはウイルス性巨細胞とは異なる。
ヒトヘルペスウイルスと主な疾患
・HSV-1:口唇ヘルペス、歯肉口内炎、角膜ヘルペス、ヘルペス脳炎、Kaposi水痘様発疹症 ・HSV-2:性器ヘルペス、新生児ヘルペス ・VZV(HHV-3):水痘、帯状疱疹 ・EBV(HHV-4):伝染性単核球症、Burkittリンパ腫、上咽頭癌 ・CMV(HHV-5):先天性CMV感染症、免疫不全者の網膜炎・肺炎・腸炎 ・HHV-6、HHV-7:突発性発疹 ・HHV-8:Kaposi肉腫(Kaposi水痘様発疹症とは名前が似ているが別の疾患である)
POINT
・アトピー性皮膚炎+発熱+顔面などに集簇する中心臍窩を伴う小水疱・びらん → Kaposi水痘様発疹症。原因は主にHSV-1。 ・Tzanck試験の多核巨細胞はHSVとVZVのいずれでもみられ、両者の区別は臨床像やPCR・抗原検査で行う。 ・治療は抗ウイルス薬の全身投与。病変部のステロイド外用は中止する。 ・Kaposi肉腫(HHV-8)と混同しない。
