StudyMed医師国家試験

鎮痛薬を飲み続けてはいけない―粘膜から始まる中毒性表皮壊死症への初期対応

第107回医師国家試験 I問題 第46問

国試問題にチャレンジ

第107回 I問題 第46問

71歳の女性。全身の皮膚と粘膜のびらんとを主訴に来院した。6日前から腰痛に対して非ステロイド性抗炎症薬を内服している。2日前から結膜充血と両頬粘膜のびらんとが,昨日から全身に紅斑とびらんとが出現した。顔面と体幹の写真(A)(B)を別に示す。  対応として適切でないのはどれか。

第107回 I問題 第46問の問題画像
  1. a.輸液
  2. b.外用療法
  3. c.血漿交換療法
  4. d.副腎皮質ステロイドの投与
  5. e.同一の非ステロイド性抗炎症薬の継続

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、薬を飲み始めて数日後に粘膜と皮膚が一気にただれてきた患者さんへの対応を問う問題だ。「適切でないもの」を選ぶ形式なので、まず何の病気かを見極め、そのうえで治療の優先順位を整理しよう。注目したいのは、新しく始めた薬と症状が出るまでの時間、そして皮膚より先に眼や口の粘膜に症状が出ている点だ。
医学生医学生
薬を始めてから数日で発疹が出ているので、薬疹を考えます。ただ、ふつうの薬疹とは重さが全然違う印象です。
ドクタードクター
そう、その「重さ」の感覚が大事なんだ。写真では顔面の紅斑と口唇のびらん・血痂、体幹には広く紅斑が広がり、表皮がずるっと剥がれ落ちたびらん面が目立つ。眼・口唇・口腔の粘膜病変に加えて、広範な表皮剥離が急速に進んでいる。これは重症薬疹の代表である中毒性表皮壊死症、つまりTENと考えられる。
医学生医学生
皮膚科の講義でStevens-Johnson症候群とセットで習いました。違いは何でしたっけ。
ドクタードクター
両者は表皮細胞が広く壊死する一連の病気で、表皮剥離の面積で分ける。日本の基準では体表面積の10%未満がStevens-Johnson症候群、10%以上がTENだ。本態は、薬剤に対する免疫反応で細胞傷害性T細胞などが表皮角化細胞のアポトーシスを起こし、表皮全層が壊死して剥がれることにある。
医学生医学生
表皮全層が剥がれるなら、ほとんど熱傷と同じ状態ですね。
ドクタードクター
その発想がまさに治療の鍵になる。では選択肢を見ていこう。答えは、原因と疑われる鎮痛薬をそのまま続けること、これが適切でない対応だ。
医学生医学生
腰痛があるから痛み止めは必要そうですが、やっぱり続けてはだめですか。
ドクタードクター
だめだね。被疑薬を投与し続ける限り免疫反応は続き、病変は進行して予後が悪くなる。原因薬は早く中止するほど予後がよいとされるから、治療の最優先は被疑薬の即時中止なんだ。鎮痛が必要なら、構造の似た同系統の薬は交差反応のおそれがあるので、系統の異なる薬を慎重に選ぶ。
医学生医学生
では輸液はどうでしょう。熱傷に準じるなら必須だと思います。
ドクタードクター
その通り。広い剥離面からは体液や蛋白、電解質が大量に失われるし、口腔のびらんで食事もとれない。脱水や循環血液量減少、低蛋白血症を防ぐために輸液による全身管理は欠かせない。外用療法も同じく適切だ。びらん面をワセリンや非固着性の被覆材で保護して、痛みと体液喪失を減らし、二次感染を防いで上皮化を促す。口唇や外陰部の粘膜の処置、そして眼科と連携したステロイド点眼や癒着防止も重要だよ。
医学生医学生
副腎皮質ステロイドは、感染が心配で使いにくいイメージがありました。
ドクタードクター
感染管理に気を配る必要はあるけれど、日本では発症早期からのステロイド全身投与が治療の中心とされていて、重症例ではパルス療法を含む高用量投与も行う。海外では有効性の評価が分かれているものの、国内の標準治療としては適切な対応だ。
医学生医学生
血漿交換療法まで使うのは意外でした。何を取り除くんですか。
ドクタードクター
表皮細胞死に関わると考えられる薬剤やその代謝物、サイトカイン、細胞傷害性分子などを血中から除くことを狙っている。ステロイドで効果が不十分なときや重症例では、免疫グロブリン大量静注療法と並んで併用される選択肢だ。
医学生医学生
まず薬を止める、熱傷のように全身と局所を管理する、そして免疫を抑える、という三本柱で整理できますね。
ドクタードクター
よくまとまっている。発展的な話もしておこう。TENの死亡率は20〜30%前後とされ、死因は敗血症や多臓器不全が多い。重症度評価にはSCORTENという年齢や剥離面積、血清尿素窒素などを使う指標がある。そして生き延びても、ドライアイや視力障害、失明といった眼の後遺症が残りうるから、早期から眼科が介入することが大切なんだ。
医学生医学生
臨床実習で、薬疹の患者さんにお薬手帳へ原因薬を記載してもらっていた場面を思い出しました。
ドクタードクター
それはとても大事な対応だね。回復後に原因薬を再投与すると、さらに重篤化して再発するおそれがある。誘発試験も避け、患者さん本人に薬剤名を伝えて記録を残す。鑑別としては、乳幼児に多く粘膜病変が目立たないブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群や、薬剤開始から2〜6週と遅れて発症する薬剤性過敏症症候群も押さえておこう。

まとめ

薬剤開始後数日〜数週で、眼・口腔の粘膜病変に続いて全身の紅斑と広範な表皮剥離が急速に進めば、Stevens-Johnson症候群や中毒性表皮壊死症(TEN)といった重症薬疹を考えます。日本では表皮剥離が体表面積の10%未満をStevens-Johnson症候群、10%以上をTENと区別します。治療の最優先は被疑薬の即時中止であり、同じ薬の継続や再投与は禁忌です。そのうえで熱傷に準じた輸液・全身管理、びらん面や粘膜の外用・局所処置、眼科的管理を行い、副腎皮質ステロイドの全身投与を中心に、重症例や効果不十分例では免疫グロブリン大量静注療法や血漿交換療法を併用します。死亡率が高く失明などの後遺症も残しうる疾患だからこそ、「まず原因薬を止める」という初動を確実に身につけることが重要です。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・71歳女性。6日前から腰痛に対して非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を内服している。→ 新たに開始した薬剤があり、その数日後に症状が出ている。重症薬疹は原因薬の開始から数日~数週(多くは4週以内)で発症することが多く、時間経過として矛盾しない。 ・2日前から結膜充血と両頬粘膜のびらん。→ 眼・口腔の粘膜病変が皮疹に先行している。 ・昨日から全身に紅斑とびらんが出現し、急速に拡大している。 ・写真(A)(B)では、顔面の紅斑と口唇のびらん・血痂、体幹に広がる紅斑と、表皮が剥がれ落ちたびらん(表皮剥離)が広範にみられる。

診断

薬剤の内服後に、粘膜病変(眼・口唇・口腔)を伴って全身の紅斑と広範な表皮剥離・びらんが急速に進行していることから、重症薬疹であるStevens-Johnson症候群(SJS)から進展した中毒性表皮壊死症(TEN:toxic epidermal necrolysis、中毒性表皮壊死融解症)と考えられる。SJSとTENは表皮細胞の広範な壊死(細胞死)を本態とする一連の疾患群で、表皮剥離の面積によって区別される。日本の診断基準では、水疱・びらんなどの表皮剥離が体表面積の10%未満をSJS、10%以上をTENとする。

設問の考え方

本症は死亡率が高く、失明などの重い後遺症も残しうるため、入院のうえ集学的治療を行う。治療の第一歩は、原因として疑われる薬剤を直ちに中止することである。そのうえで、熱傷に準じた全身管理(輸液、栄養、体温・感染管理)、皮膚・粘膜の局所治療、眼科的管理を行い、免疫を抑える治療として副腎皮質ステロイドの全身投与を中心に、効果が不十分な場合や重症例では免疫グロブリン大量静注療法や血漿交換療法を組み合わせる。「適切でない」ものを選ぶ問題であることに注意する。

選択肢考察

  1. ×a.  輸液

    適切な対応であり、選ぶべき選択肢ではない。広範な表皮剥離部からは、広範囲熱傷と同様に大量の体液・蛋白・電解質が失われ、さらに口腔粘膜のびらんによって経口摂取も困難になる。脱水、循環血液量減少、電解質異常、低蛋白血症を防ぐため、輸液による全身管理は必須である。

  2. ×b.  外用療法

    適切な対応であり、選ぶべき選択肢ではない。びらん面は熱傷に準じて処置し、白色ワセリンや抗菌外用薬、非固着性の被覆材などで保護して、疼痛の軽減、体液喪失の抑制、二次感染の予防、上皮化の促進を図る。口唇・口腔や外陰部の粘膜病変にも局所処置を行い、眼病変に対しては眼科医と連携してステロイド点眼や眼表面の保護(癒着防止)を行う。

  3. ×c.  血漿交換療法

    適切な対応であり、選ぶべき選択肢ではない。血漿交換療法は、表皮細胞死に関与すると考えられる薬剤やその代謝物、サイトカイン、細胞傷害性分子などを血中から除去することを目的とする。ステロイドの全身投与で十分な効果が得られない場合や重症例で併用される治療法であり、日本の診療ガイドラインでも選択肢として位置づけられている。

  4. ×d.  副腎皮質ステロイドの投与

    適切な対応であり、選ぶべき選択肢ではない。日本ではSJS・TENに対する治療の中心として、発症早期からの副腎皮質ステロイドの全身投与が推奨されている。重症例ではステロイドパルス療法を含む高用量投与が行われ、効果が乏しければ免疫グロブリン大量静注療法や血漿交換療法を追加する。なお、ステロイドの有効性については海外では評価が分かれているが、国内の標準的治療としては適切とされる。

  5. ○e.  同一の非ステロイド性抗炎症薬の継続

    これが適切でない対応であり、正解である。本例は内服開始の数日後に発症しており、NSAIDsが原因薬として強く疑われる。重症薬疹では、被疑薬を投与し続ける限り免疫反応が続いて病変が進行し、予後が悪化する。原因薬を早く中止するほど予後がよいとされるため、被疑薬は直ちに中止しなければならない。また、構造の似た同系統の薬剤でも交差反応を起こしうるため、鎮痛が必要な場合は系統の異なる薬剤を慎重に選択する。回復後も、原因薬の再投与(誘発試験を含む)は再発時に重篤化するおそれがあるため避け、患者に薬剤名を伝えて記録を残す。

SJS・TENの概要

・本態:主に薬剤に対する免疫反応により、細胞傷害性T細胞などが表皮角化細胞の細胞死(アポトーシス)を引き起こし、表皮全層が壊死して剥がれる。 ・主な原因薬:抗てんかん薬(カルバマゼピン、フェニトイン、ラモトリギンなど)、アロプリノール、サルファ剤などの抗菌薬、NSAIDs、解熱鎮痛薬など。マイコプラズマなどの感染症が誘因となることもある。 ・症状:発熱などの全身症状、眼(結膜充血、偽膜、角膜上皮障害)・口唇・口腔・外陰部の粘膜びらん、中心がやや暗い紅斑(非典型的ターゲット状紅斑)の多発、水疱・表皮剥離。 ・Nikolsky現象:一見正常な皮膚をこすると表皮が剥がれる現象で、陽性となる。 ・病理:表皮の広範な壊死と表皮下の裂隙。凍結切片による迅速病理診断は、表皮内で剥離するブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)との鑑別に役立つ。

分類(表皮剥離面積による)

・日本の基準:10%未満をSJS、10%以上をTEN。 ・国際的な基準:10%未満をSJS、10~30%をSJS/TENオーバーラップ、30%を超えるものをTENとする。

治療の要点

1.被疑薬の即時中止(最優先) 2.全身管理:熱傷に準じた輸液・栄養管理、保温、感染対策(重症例では集中治療室や熱傷ユニットでの管理) 3.局所療法:びらん面の保護・外用、口腔・外陰部のケア 4.眼科的管理:早期から眼科医が介入し、ステロイド点眼、偽膜除去、癒着の防止を行う 5.免疫抑制・免疫調整療法:副腎皮質ステロイド全身投与(パルス療法を含む)、免疫グロブリン大量静注療法、血漿交換療法

予後と後遺症

死亡率はSJSで数%、TENではそれより高く20~30%前後とされる。重症度・予後の評価にはSCORTEN(年齢、悪性腫瘍の有無、心拍数、表皮剥離面積、血清尿素窒素、血糖、重炭酸濃度の7項目)が用いられる。死因は敗血症や多臓器不全が多い。眼の後遺症(ドライアイ、視力障害、失明)や呼吸器障害が残ることがある。

鑑別

・多形紅斑重症型:典型的ターゲット状紅斑が主体で表皮剥離はごく軽度。 ・SSSS:黄色ブドウ球菌の表皮剥脱毒素による、乳幼児に多い表皮浅層(顆粒層)での剥離。粘膜病変は目立たない。 ・薬剤性過敏症症候群(DIHS):原因薬開始から2~6週後と遅れて発症し、発熱、リンパ節腫脹、臓器障害、好酸球増多、HHV-6の再活性化を伴う。

POINT

・薬剤開始後の発熱、眼・口腔の粘膜びらん、全身の紅斑と広範な表皮剥離 → SJS/TEN。 ・日本では表皮剥離が体表面積の10%未満をSJS、10%以上をTENとする。 ・治療の最優先は被疑薬の即時中止。同じ薬の継続や再投与は禁忌。 ・熱傷に準じた輸液・全身管理、外用療法、眼科的管理を行う。 ・ステロイド全身投与(パルス療法を含む)が治療の中心で、重症例や効果不十分例に免疫グロブリン大量静注療法・血漿交換療法を併用する。 ・TENは死亡率が高く、失明などの眼後遺症に注意する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。