虹彩のような紅斑は「反応」のしるし―多形滲出性紅斑の原因を見抜く
第117回医師国家試験 A問題 第61問
国試問題にチャレンジ
40歳の男性。2日前に発症した四肢の皮疹を主訴に来院した。瘙痒を伴う。両側下肢の写真を示す。 原因として考えにくいのはどれか。

- a.薬剤
- b.皮膚筋炎
- c.虫刺され
- d.マイコプラズマ
- e.単純ヘルペスウイルス
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
四肢伸側に左右対称の標的状(虹彩状)浮腫性紅斑が急性に多発していれば、多形滲出性紅斑を考えます。多形滲出性紅斑は単純ヘルペスウイルスやマイコプラズマなどの感染症、薬剤といった外来抗原に対する細胞性免疫を介した過敏反応であり、虫刺されへの反応として生じることもあります。一方、皮膚筋炎はヘリオトロープ疹やGottron徴候を示す自己免疫疾患で、多形滲出性紅斑の原因にはなりません。蕁麻疹は24時間以内に消え、結節性紅斑は有痛性で標的状にならない点が鑑別のポイントです。粘膜症状や発熱、表皮壊死を伴う場合はStevens-Johnson症候群などの重症型を疑って被疑薬を中止するという判断まで含めて理解しておくことが、皮疹診療の基本になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・40歳の男性。2日前に急性に発症した四肢の皮疹で、瘙痒を伴う。 ・写真:両下肢の伸側(膝周囲など)に、左右対称性に類円形〜不整形の浮腫性紅斑が多発している。個々の紅斑は境界明瞭で、辺縁が堤防状に隆起して赤く、中心部がやや暗赤色〜淡色を呈する。同心円状に色調が異なる、いわゆる標的状病変(target lesion、虹彩状とも呼ぶ)であり、一部は隣り合う皮疹と癒合して地図状に広がっている。
診断に至る考え方
四肢伸側に左右対称に出現する、標的状の浮腫性紅斑が急性に多発しており、多形滲出性紅斑(EM:erythema multiforme、多形紅斑)と診断できる。 鑑別として以下を考える。 ・蕁麻疹:膨疹は通常24時間以内に跡形なく消える。本例は2日間持続しており、標的状の構造をもつ点も合わない。 ・結節性紅斑:若年女性の下腿伸側に好発し、皮下の脂肪織炎による圧痛・自発痛を伴う紅斑・結節を生じる。標的状にはならず、瘙痒よりも疼痛が主体である。 ・Stevens-Johnson症候群(SJS):多形滲出性紅斑に似た皮疹に加え、口唇・眼・外陰部などの粘膜病変や発熱などの全身症状、表皮の壊死・びらんを伴う重症型である。本例では四肢に限局した皮疹のみが記載されており、典型的な多形滲出性紅斑と考えてよい。
設問の考え方
多形滲出性紅斑は、それ自体が独立した病因をもつ疾患ではなく、さまざまな抗原(感染症の病原体、薬剤など)に対する皮膚の免疫反応(主に細胞性免疫を介した過敏反応)として生じる反応性の病態である。したがって「原因として考えにくいもの」は、過敏反応の誘因となる外来抗原ではないもの、すなわち独自の皮膚所見をもつ自己免疫疾患である皮膚筋炎となる。
選択肢考察
- ×a. 薬剤
薬剤は多形滲出性紅斑の重要な誘因である。抗菌薬(ペニシリン系、セフェム系、サルファ剤など)、解熱鎮痛薬(NSAIDs)、抗てんかん薬(カルバマゼピンなど)などが原因になりうる。特に粘膜症状や発熱を伴う重症型やSJSへの移行例では薬剤が原因であることが多いため、問診で新たに開始した薬剤の有無を必ず確認する。原因として考えられる。
- ○b. 皮膚筋炎
皮膚筋炎は、近位筋優位の筋力低下と特徴的な皮膚症状を呈する自己免疫性の膠原病である。皮膚症状としては、上眼瞼の紫紅色の浮腫性紅斑(ヘリオトロープ疹)、手指関節背面の角化を伴う紅斑・丘疹(Gottron徴候・Gottron丘疹)、前頸部〜上胸部のVネック徴候、上背部のショール徴候、爪囲紅斑などがみられ、慢性化すると色素沈着・色素脱失・皮膚萎縮・毛細血管拡張が混在する多形皮膚萎縮(poikiloderma)を呈する。四肢伸側に紅斑を生じることはあるが、標的状の浮腫性紅斑が急性に出現する経過ではなく、外来抗原に対する過敏反応として多形滲出性紅斑を引き起こす病態でもない。したがって原因として考えにくい。
- ×c. 虫刺され
主要な原因ではないが、虫刺されに対するアレルギー反応として多形滲出性紅斑様の皮疹が生じることがある。また、マダニなどの刺咬を介して病原体に感染すれば、その感染症が誘因となる可能性もある。本設問の選択肢の中では、皮膚筋炎と比べれば原因として十分に考えうる。
- ×d. マイコプラズマ
Mycoplasma pneumoniaeの感染は、多形滲出性紅斑やSJSの誘因として知られており、特に小児・若年者で頻度が高い。マイコプラズマ感染に伴う例では皮疹が乏しく粘膜症状が強いことがあり、近年はマイコプラズマ関連発疹・粘膜炎(MIRM)という概念も提唱されている。原因として考えられる。
- ×e. 単純ヘルペスウイルス
単純ヘルペスウイルス(HSV)感染は、多形滲出性紅斑の原因として最も頻度が高いものの一つである。口唇ヘルペスの発症から1〜2週間ほどして皮疹が出現することが多く、ヘルペスの再燃のたびに多形滲出性紅斑を繰り返す再発型も知られている。再発を繰り返す例では抗ヘルペスウイルス薬の予防投与が行われることがある。原因として考えられる。
多形滲出性紅斑(多形紅斑)の概要
・病態:感染症(HSV、マイコプラズマ、溶連菌など)や薬剤などに対する過敏反応(主にT細胞を介する細胞性免疫反応)により、真皮上層の浮腫と表皮の傷害が起こる。 ・好発:若年〜中年。四肢伸側(手背、肘、膝など)に左右対称性に出現し、体幹や顔面に及ぶこともある。 ・皮疹:境界明瞭な円形の浮腫性紅斑で、拡大とともに中心部が暗赤色〜紫紅色となり、ときに水疱を形成する。辺縁の赤い環との間に色調の異なる帯が生じ、同心円状の標的状病変(target lesion、虹彩状)となる。隣接する皮疹は癒合して地図状になる。瘙痒や軽い灼熱感を伴うことがある。 ・分類:粘膜病変がないかごく軽微なものを軽症型(EM minor)、粘膜病変や全身症状を伴うものを重症型(EM major)と呼ぶ。 ・経過・治療:軽症型は2〜4週間程度で自然軽快することが多い。原因の除去(被疑薬の中止、感染症の治療)を行い、抗ヒスタミン薬やステロイド外用薬で対症的に治療する。重症例ではステロイド全身投与を検討する。HSV関連の再発例では抗ヘルペスウイルス薬を用いる。
重症型薬疹との関係
・Stevens-Johnson症候群(SJS):発熱、口唇・眼・外陰部などの粘膜疹、表皮の壊死性傷害による水疱・びらんを伴い、びらん面積が体表面積の10%未満のもの。 ・中毒性表皮壊死症(TEN):びらん・表皮剥離が体表面積の10%以上に及ぶ最重症型。 ・いずれも多くは薬剤が原因であり、眼病変による視力障害などの後遺症や死亡の危険がある。多形滲出性紅斑をみたら、粘膜症状・発熱・ニコルスキー現象の有無を確認し、重症型への移行を見逃さないことが重要である。
鑑別疾患の要点
・結節性紅斑:下腿伸側の有痛性紅斑・皮下結節。脂肪織炎。溶連菌感染、サルコイドーシス、炎症性腸疾患、Behçet病などに伴う。 ・蕁麻疹:膨疹が24時間以内に消退する。 ・皮膚筋炎:ヘリオトロープ疹、Gottron徴候、Vネック徴候、ショール徴候、機械工の手、多形皮膚萎縮。近位筋力低下、CK上昇。悪性腫瘍や間質性肺炎の合併に注意する。
POINT
・四肢伸側に左右対称の標的状(虹彩状)浮腫性紅斑が急性に出現=多形滲出性紅斑。 ・原因は外来抗原に対する過敏反応:単純ヘルペスウイルス、マイコプラズマ、溶連菌などの感染症と、薬剤が代表的。 ・皮膚筋炎はヘリオトロープ疹・Gottron徴候などを示す自己免疫疾患で、多形滲出性紅斑の原因ではない。 ・粘膜症状・発熱・表皮壊死を伴えばSJS/TENを考え、被疑薬を直ちに中止する。 ・結節性紅斑は有痛性で標的状にならず、蕁麻疹は24時間以内に消える。
