いつも同じ場所に出る皮疹―「同じ部位」と「色素沈着」が告げる固定薬疹
第119回医師国家試験 A問題 第20問
国試問題にチャレンジ
54歳の男性。瘙痒を伴う体幹と四肢の皮疹とを主訴に来院した。20年前から頭痛に対してNSAIDを頓用している。2年前から6か月に1回程度,同様の皮疹が同じ部位に生じ,約2週間で自然消褪して,色素沈着が残るようになった。3日前にNSAIDを内服後,いつもと同じ部位に皮疹が出現した。薬剤リンパ球刺激試験でNSAIDは陽性であった。体幹の写真を下に示す。 診断はどれか。

- a.固定薬疹
- b.尋常性乾癬
- c.薬剤性過敏症症候群
- d.Gibertばら色粃糠疹
- e.Stevens-Johnson症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
原因薬剤を摂取するたびに同じ部位へ境界明瞭な類円形紅斑が再燃し、色素沈着を残して治るのが固定薬疹の特徴で、表皮に常在する記憶型CD8陽性T細胞の再活性化がその機序と考えられています。好発部位は口唇・外陰部などの皮膚粘膜移行部や四肢ですが、体幹を含め多発する多発型もあり、広範囲では水疱形成による重症化に注意が必要です。発熱や粘膜病変を伴えばStevens-Johnson症候群、内服2〜6週後の発熱・肝障害・好酸球増多・HHV-6再活性化なら薬剤性過敏症症候群と、病型と発症時期で鑑別します。原因薬の特定には皮疹部での貼布試験が有用で、DLSTは陰性でも否定できません。NSAIDや総合感冒薬など身近な薬が原因となるため、成分名での回避指導と記録が再発予防の要となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・54歳の男性。瘙痒を伴う体幹・四肢の皮疹。 ・20年前から頭痛に対して非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)をときどき(頓用で)内服している。 ・2年前から、およそ6か月に1回、同じ部位に同様の皮疹が出現し、約2週間で自然に消えて色素沈着を残す、という経過を繰り返している。 ・今回もNSAID内服の後、いつもと同じ部位に皮疹が出現した。 ・薬剤リンパ球刺激試験(DLST:患者のリンパ球を薬剤と培養し、増殖反応から薬剤への感作を調べる検査)でNSAIDが陽性。 ・体幹の写真:類円形で境界明瞭な紅斑が散在し、一部は褐色の色素沈着を伴う。
診断へのプロセス
① 薬剤との関連:NSAIDを飲むと皮疹が出ること、DLSTでNSAIDが陽性であることから、NSAIDによる薬疹と考えられる。これにより、薬剤と無関係に起こる尋常性乾癬やGibertばら色粃糠疹は考えにくい。 ② 薬疹の病型:最大の手がかりは「毎回同じ部位に再発し、色素沈着を残して治る」点である。原因薬剤を摂取するたびに同一部位に境界明瞭な紅斑を繰り返すのは固定薬疹の特徴そのものである。 ③ 重症薬疹の除外:発熱・肝障害などの全身症状や、眼・口唇・外陰部などの粘膜病変の記載がなく、皮疹は約2週間で自然に消褪している。薬剤性過敏症症候群やStevens-Johnson症候群のような重症薬疹の経過ではない。 以上から固定薬疹と診断する。なお、本例のように皮疹が体幹・四肢に多発するものは多発型(汎発型)固定薬疹と呼ばれ、範囲が広い場合には水疱形成などで重症化することもあるため注意を要する。
選択肢考察
- ○a. 固定薬疹
固定薬疹は、原因薬剤を摂取するたびに、数十分〜数時間(遅くとも1日程度)以内に同じ部位に境界明瞭な円形〜類円形の紅斑(ときに水疱)が生じ、瘙痒や灼熱感を伴う薬疹である。薬剤を中止すると1〜2週間程度で消褪し、特徴的な褐色〜紫褐色の色素沈着を残す。再投与のたびに同部位に再燃し、皮疹の数が増えていくこともある。口唇・外陰部などの皮膚粘膜移行部や手足に好発するが、本例のように体幹・四肢に多発することもある。NSAID、アセトアミノフェン、総合感冒薬・鎮痛薬に含まれるアリルイソプロピルアセチル尿素(催眠鎮静成分)、テトラサイクリン系、ST合剤などが代表的原因である。本例は頓用のNSAID内服と一致して同一部位に皮疹が繰り返し出現・色素沈着を残しており、DLSTでもNSAIDが陽性であるため、固定薬疹と診断できる。
- ×b. 尋常性乾癬
尋常性乾癬は、表皮の角化細胞が過剰に増殖する慢性炎症性皮膚疾患で、IL-23/IL-17系を中心とする免疫異常と遺伝的素因が関与する。銀白色の厚い鱗屑を伴う境界明瞭な紅色局面が、肘頭・膝蓋・頭部・腰殿部など擦れやすい部位に好発し、無疹部を擦ると皮疹が生じるKöbner現象、鱗屑を剥がすと点状出血がみられるAuspitz現象を示す。慢性に持続し増悪・寛解を繰り返すもので、薬剤内服のたびに出現して2週間で消えるという経過とは合わない(β遮断薬やリチウムなどで増悪することはあるが、本例の経過とは異なる)。
- ×c. 薬剤性過敏症症候群
薬剤性過敏症症候群(DIHS)は、抗てんかん薬(カルバマゼピン、フェニトインなど)、アロプリノール、サラゾスルファピリジン、ジアフェニルスルホン、メキシレチンなど限られた薬剤を、2〜6週間程度内服した後に遅れて発症する重症薬疹である。高熱、急速に拡大する紅斑(紅皮症に至ることもある)、リンパ節腫脹、肝機能障害、好酸球増多、異型リンパ球の出現を伴い、経過中にヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)の再活性化を認める。原因薬中止後も症状が遷延・再燃しやすい。本例は全身症状を欠き、内服後早期に出現して2週間で自然消褪しており合致しない。
- ×d. Gibertばら色粃糠疹
Gibertばら色粃糠疹は、主に10〜30歳代に好発する一過性の炎症性皮膚疾患で、原因は不明だがHHV-6・HHV-7の再活性化の関与が示唆されている。まず体幹に直径数cmの鱗屑を伴う楕円形紅斑(初発疹、herald patch)が出現し、1〜2週後に体幹・四肢近位部に小型の楕円形紅斑が多発する。皮疹の長軸が皮膚割線に沿って並ぶため、背部ではクリスマスツリー状の配列を示す。通常1〜3か月で自然治癒し、再発はまれである。中年男性で薬剤内服のたびに同じ部位へ繰り返すという本例の経過とは合わない。
- ×e. Stevens-Johnson症候群
Stevens-Johnson症候群(SJS)は、発熱などの全身症状とともに、眼(結膜炎)・口唇・口腔・外陰部などの粘膜に重篤なびらんを生じ、皮膚には多形紅斑様の皮疹や水疱・びらんが出現する重症薬疹である。SJSと中毒性表皮壊死症(TEN)は一連の病態と考えられており、表皮剥離(水疱・びらん)の面積で区別される。体表面積の10%未満がSJS、10〜30%がSJS/TENオーバーラップ、30%以上がTENである(わが国の診断基準では、10%以上をTENとする扱いもある)。原因は薬剤が多いが、マイコプラズマなどの感染症によることもある。失明などの後遺症や死亡の危険があり、入院のうえ原因薬中止とステロイド全身投与などの治療を要する。本例は粘膜病変・全身症状がなく、自然に消褪しており当てはまらない。
固定薬疹の要点
・機序:表皮内に常在する記憶型のCD8陽性T細胞(組織常在型メモリーT細胞)が、原因薬剤の再曝露により同じ部位で活性化し、表皮細胞を傷害すると考えられている。そのため毎回同じ部位に皮疹が出る。 ・病理:表皮基底層の液状変性と個細胞壊死、真皮上層のメラニンを貪食したマクロファージ(メラノファージ)が色素沈着の原因となる。 ・診断:特徴的な病歴(同一部位の再燃と色素沈着)が最も重要である。原因薬の特定には、皮疹のある部位(色素沈着部)で行う貼布試験(パッチテスト)が有用で、無疹部では陰性になりやすい。DLSTは陽性率が高くなく、陰性でも否定はできない。確実だが危険を伴う内服誘発試験は慎重に判断する。 ・治療:原因薬の中止と回避が基本で、症状に応じてステロイド外用や抗ヒスタミン薬内服を行う。市販の感冒薬・鎮痛薬に同じ成分が含まれていることがあるため、成分名で避けるよう患者に指導し、お薬手帳などに記録する。
主な薬疹の病型と発症時期
・蕁麻疹型・アナフィラキシー:内服後数分〜数時間。 ・固定薬疹:内服後数十分〜数時間で、同一部位に再燃。 ・播種状紅斑丘疹型(最も多い型):内服開始後1〜2週間程度。 ・Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症:内服開始後数日〜数週間、多くは4週間以内。 ・薬剤性過敏症症候群:内服開始後2〜6週間と遅発性。
薬剤リンパ球刺激試験(DLST)
患者末梢血のリンパ球を被疑薬とともに培養し、リンパ球の増殖反応を測定して感作の有無を調べる検査である。患者に薬剤を投与せずに安全に行えるが、薬疹の病型や時期によって陽性率が異なり、偽陰性・偽陽性もあるため、病歴と合わせて判断する。
POINT
・「原因薬剤の摂取のたびに同じ部位に境界明瞭な紅斑が再燃し、色素沈着を残して治る」は固定薬疹。 ・原因薬はNSAID、アセトアミノフェン、総合感冒薬(アリルイソプロピルアセチル尿素)、テトラサイクリン系、ST合剤など。 ・好発部位は口唇・外陰部などの皮膚粘膜移行部と四肢だが、体幹を含め多発することもある。 ・原因薬の特定には皮疹部でのパッチテストが有用。治療は原因薬の中止・回避。 ・発熱・粘膜病変があればSJS/TEN、内服2〜6週後の発熱・肝障害・好酸球増多・HHV-6再活性化ならDIHSを考える。
