風邪薬を飲むたび同じ場所に―「場所が固定される」固定薬疹を見抜く
第113回医師国家試験 A問題 第19問
国試問題にチャレンジ
26歳の男性。灼熱感を伴う皮疹を主訴に来院した。3日前にテニスをした後から咽頭痛と鼻汁が出現したため,市販の感冒薬を内服して就寝した。翌朝,口周囲,陰茎および足背に類円形の紅斑を生じ,次第に灼熱感を伴うようになったため受診した。再発性口唇ヘルペス,花粉症の既往がある。1年前の発熱時に足背の同一部位に紅斑を生じたが,皮疹は約1週間で軽快した。口周囲と右足背の写真を別に示す。 皮疹の原因として最も可能性が高いのはどれか。

- a.咽頭炎
- b.紫外線
- c.スギ花粉
- d.市販の感冒薬
- e.単純ヘルペスウイルス
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
薬剤の内服後に、境界明瞭な類円形の紅斑が灼熱感を伴って口唇・外陰部などの粘膜皮膚移行部や手足に出現し、過去にも同じ部位に再燃していれば固定薬疹を考えます。皮疹部の表皮に残る記憶型CD8陽性T細胞が再投与で活性化することが「同じ場所に繰り返す」理由で、市販の総合感冒薬や解熱鎮痛薬、抗菌薬などが代表的な原因です。露光部に限局しない点で紫外線、集簇性小水疱でない点で単純ヘルペス、全身性発疹でない点で咽頭炎関連の発疹を否定できます。原因薬の同定には病変部でのパッチテストが有用で、治療は被疑薬の中止とステロイド外用が基本であり、市販薬を含めた成分レベルでの回避指導と、まれな汎発性水疱性固定薬疹への注意が欠かせません。既往歴のひっかけに惑わされず、薬剤摂取との時間関係と皮疹の分布から推論する姿勢は、薬疹診療全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・若年男性で、灼熱感を伴う皮疹で受診している。 ・感冒症状に対して市販の感冒薬を内服し、その翌朝に皮疹が出現した。薬剤摂取と発症の時間的な関係が非常に近い。 ・皮疹の部位は口周囲、陰茎、足背で、いずれも類円形の紅斑である。口唇や外陰部といった皮膚と粘膜の境目(粘膜皮膚移行部)が含まれている。 ・1年前の発熱時にも足背の「同じ場所」に紅斑が出現し、約1週間で消えている。発熱時にはなんらかの解熱鎮痛薬・感冒薬を服用していた可能性が高い。 ・写真では、口周囲と右足背に境界が比較的はっきりした類円形の紅斑があり、一部はびらん(表皮の浅い欠損)を伴っている。 ・発熱や全身状態の悪化、広範な粘膜障害の記載はない。
診断へのプロセス
薬剤の内服直後から皮疹が出ていることから、まず薬疹(薬剤に対する皮膚の有害反応)を疑う。薬疹のなかでも、(1) 境界明瞭な類円形の紅斑が数か所に限局して出る、(2) 口唇・陰部などの粘膜皮膚移行部や四肢末端に好発する、(3) 灼熱感やヒリヒリ感を伴う、(4) 以前と同じ部位に再燃している、という特徴がそろえば固定薬疹と判断できる。 重症薬疹との区別も必要である。Stevens-Johnson症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症(TEN)では高熱・全身倦怠感とともに眼・口腔・外陰部の広範な粘膜病変や広い範囲の表皮剝離がみられ、薬剤性過敏症症候群(DIHS)は原因薬開始から2〜6週程度経って発熱・リンパ節腫脹・臓器障害を伴って発症する。本例はいずれにも当てはまらない。 また、再発性口唇ヘルペスや花粉症の既往は、ヘルペス関連の皮疹(多形紅斑など)やアレルギー性皮膚疾患を連想させるための情報であるが、皮疹の分布・形態・経過からは否定的である。
設問の考え方
「同じ部位に、同じ薬で、繰り返し出る」という固定薬疹の本質を押さえていれば、原因として最も可能性が高いのは直前に内服した市販の感冒薬だと判断できる。市販の総合感冒薬には解熱鎮痛成分(アセトアミノフェン、イブプロフェンなど)や鎮静成分(アリルイソプロピルアセチル尿素など)が含まれ、いずれも固定薬疹の原因として知られる。
選択肢考察
- ×a. 咽頭炎
咽頭炎の経過中に皮疹を伴う疾患としては、A群β溶血性レンサ球菌感染症による猩紅熱(全身の細かい点状紅斑、いちご舌)や、EBウイルスによる伝染性単核球症(体幹中心の播種状紅斑、特にアミノペニシリン投与後に多い)がある。しかしこれらは全身に広がる発疹であり、口唇・陰茎・足背に限局する類円形紅斑が同一部位に繰り返し出るという本例の特徴とは合わない。咽頭炎は薬を飲むきっかけになったにすぎない。
- ×b. 紫外線
テニスという屋外活動の記載があるため紫外線を連想させるが、紫外線による日焼け(日光皮膚炎)や光線過敏症(光線過敏型薬疹を含む)は顔面・項部・手背・前腕など日光の当たる部位(露光部)に一致して広がるのが特徴である。本例では陰茎という非露光部にも皮疹があり、口周囲や足背に限局した類円形の紅斑という形も露光部の分布とは異なる。したがって紫外線は原因として考えにくい。
- ×c. スギ花粉
スギ花粉は花粉症の原因抗原であり、皮膚では花粉の飛散時期に顔面(特に眼瞼周囲や頬)の露出部に痒みを伴う湿疹様皮疹(いわゆる花粉皮膚炎)を起こしたり、アトピー性皮膚炎を悪化させたりすることがある。また即時型アレルギーとして蕁麻疹や血管性浮腫を生じることもある。しかし、いずれも本例のように陰茎や足背に境界明瞭な類円形紅斑を生じ、同一部位に再燃する経過とは一致しない。さらに1年前の再燃は発熱時(花粉とは無関係の状況)に起きている。
- ○d. 市販の感冒薬
内服の翌朝に皮疹が出現しており、時間的関係が明瞭である。境界明瞭な類円形の紅斑が口唇周囲・陰部・足背に限局し、灼熱感を伴い、以前の発熱時(薬剤を服用した可能性が高い状況)にも足背の同一部位に紅斑が出ている。これらは固定薬疹の典型像であり、原因薬として市販の感冒薬が最も疑わしい。総合感冒薬に含まれるアセトアミノフェン、イブプロフェンなどの解熱鎮痛薬やアリルイソプロピルアセチル尿素などは固定薬疹の代表的な原因成分である。
- ×e. 単純ヘルペスウイルス
単純ヘルペスウイルス(HSV)の再活性化では、口唇や陰部に小水疱が集まった病変(集簇性小水疱)が生じ、破れてびらん・痂皮となる。本例は類円形の紅斑が主体で、足背にも同様の病変がある点がヘルペスの皮疹としては不自然である。また、HSV感染を契機に起こる多形紅斑(多形滲出性紅斑)は四肢伸側などに標的状(ターゲット状)の紅斑が多発する病態で、毎回同じ部位に限局して再燃するものではない。再発性口唇ヘルペスの既往はこの選択肢へ誘導するための情報と考えられる。
固定薬疹(fixed drug eruption)の概要
・原因薬を摂取するたびに、毎回同じ部位に皮疹が出る薬疹である。名前の「固定」は皮疹の出る場所が固定されていることを指す。 ・機序:以前に皮疹が出た部位の表皮に、原因薬に反応する記憶型のCD8陽性T細胞(組織常在型メモリーT細胞)が残っている。再び薬が体内に入るとこれらのT細胞が活性化して表皮細胞を傷害するため、同じ場所に皮疹が再燃する。 ・発症時期:既に感作されている場合、内服後数十分〜数時間(遅くとも1日以内)で出現することが多い。 ・好発部位:口唇・口周囲、外陰部(亀頭・包皮など)といった粘膜皮膚移行部、手足(手背・足背)、体幹。 ・皮疹:境界明瞭な類円形〜楕円形の紅斑で、色はやや暗い赤〜紫紅色。単発のことも多発することもあり、中心に水疱やびらんを生じることがある。灼熱感、ヒリヒリした痛み、痒みを伴う。 ・経過:原因薬を中止すれば1〜2週程度で軽快するが、炎症後の色素沈着(褐色〜灰褐色)が長く残る。再投与のたびに同じ部位に再燃し、繰り返すと病変数が増えたり範囲が広がったりする。 ・病理:表皮基底層の液状変性を伴う境界部皮膚炎(interface dermatitis)、表皮細胞の個細胞壊死、真皮上層のメラニン色素失調(メラノファージの出現)。 ・主な原因薬:解熱鎮痛薬(NSAIDs、アセトアミノフェン、ピラゾロン系)、総合感冒薬(アリルイソプロピルアセチル尿素を含むものなど)、抗菌薬(テトラサイクリン系、ST合剤などのサルファ剤)、抗てんかん薬(カルバマゼピン)など。市販薬が原因のことも多く、問診で「薬を飲んだ」と自覚していない場合もあるため注意深く聴取する。 ・診断:特徴的な臨床像と、薬剤摂取と再燃の関係から推定する。原因薬の確認には、皮疹部(病変部)に被疑薬を貼付するパッチテストが有用で、無疹部では陰性になりやすい点が特徴である。必要に応じて少量から慎重に行う内服誘発試験を用いる。 ・治療:原因薬の中止と回避が基本で、局所にはステロイド外用薬を用いる。痒みには抗ヒスタミン薬を併用する。患者に原因薬(成分名)を伝え、同成分を含む市販薬も避けるよう指導する。 ・注意点:まれに全身に多発して水疱を形成する汎発性水疱性固定薬疹となることがあり、TENとの鑑別が問題となる重症型である。
鑑別に挙がる疾患の要点
・多形紅斑:HSVやマイコプラズマ感染、薬剤などが誘因。四肢伸側を中心に標的状紅斑が対称性に多発する。 ・SJS/TEN:高熱と全身症状、広範な粘膜病変(眼・口唇・外陰部)、表皮剝離を伴う重症薬疹。体表面積に対する表皮剝離の割合が10%未満をSJS、30%以上をTENとし、その間を移行型とする。 ・光線過敏症:露光部に限局する皮疹。
POINT
・薬剤摂取後に、境界明瞭な類円形紅斑が同一部位に繰り返し出現すれば固定薬疹を考える。 ・好発部位は口唇・外陰部などの粘膜皮膚移行部と手足、体幹。灼熱感を伴い、治癒後に色素沈着を残す。 ・原因として解熱鎮痛薬・総合感冒薬(市販薬を含む)、抗菌薬などが多い。 ・原因薬の同定には病変部でのパッチテストが有用。 ・治療は被疑薬の中止とステロイド外用。全身に水疱が多発する重症型(汎発性水疱性固定薬疹)に注意する。 ・露光部に限局しない点で紫外線、集簇性小水疱でない点でヘルペスを否定する。
