アトピー肌に広がる水疱と発熱―乳児の発疹で見逃せないKaposi水痘様発疹症
第118回医師国家試験 A問題 第17問
国試問題にチャレンジ
1歳の女児。全身に皮疹が広がってきたため母親に連れられて来院した。3日前から上肢に発疹が出現した。2日前から発疹が顔面,体幹および上肢に拡大した。昨日から発熱を伴うようになった。既往にアトピー性皮膚炎がある。MRワクチンを含むすべての定期予防接種が行われている。発疹は瘙痒を伴い一部に水疱と痂皮を認める。イチゴ舌を認めない。皮膚の写真を示す。 診断はどれか。

- a.麻疹
- b.猩紅熱
- c.手足口病
- d.突発性発疹
- e.Kaposi水痘様発疹症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
アトピー性皮膚炎などで皮膚バリアが低下した患者に、発熱を伴って小水疱・びらん・痂皮が集簇しながら急速に広がる場合は、単純ヘルペスウイルスによるKaposi水痘様発疹症を考えます。小児の発疹症の鑑別では、ワクチン歴(麻疹・水痘)、イチゴ舌の有無(猩紅熱)、発熱と発疹の順序(突発性発疹)、手掌・足底・口腔の病変(手足口病)が重要な手がかりになります。診断はTzanck試験やHSV抗原検査・PCRで確認し、治療はアシクロビルやバラシクロビルの全身投与で、乳幼児や広範囲例では点滴静注を行い、病変部のステロイド外用はいったん控えます。二次感染や眼病変にも注意が必要です。アトピーの「悪化」に見えるウイルス感染を見抜く視点は、日常診療でも見逃しを防ぐ大切な力になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・1歳の女児。3日前に上肢から発疹が始まり、2日前には顔面・体幹・上肢へと拡大し、昨日から発熱が加わった。 ・基礎疾患としてアトピー性皮膚炎がある。 ・MR(麻疹・風疹混合)ワクチンを含む定期予防接種はすべて済んでいる。 ・発疹はかゆみを伴い、水疱と痂皮(かさぶた)が混在している。 ・イチゴ舌はない。 ・皮膚写真では、上肢から体幹にかけて小水疱が群がるように集まり、それが破れた小さなびらん(表皮が欠けたただれ)や痂皮が散らばっている。
診断へのプロセス
乳幼児の「発熱+全身に広がる発疹」では、まず小児のウイルス性発疹症(麻疹、風疹、水痘、突発性発疹、手足口病など)と、溶血性レンサ球菌(溶連菌)による猩紅熱、川崎病を思い浮かべる。 本例では次の点からこれらを順に絞り込める。 1. MRワクチン接種済みであり、麻疹・風疹の可能性は低い。 2. イチゴ舌がないので、猩紅熱や川崎病は考えにくい。 3. 発疹が先に出て、その後に熱が出ている。高熱が下がってから発疹が出る突発性発疹とは順序が逆である。 4. 手掌・足底・口腔内といった手足口病に典型的な部位の記載はなく、病変の中心は上肢と体幹・顔面である。 5. 水痘ワクチンも定期接種に含まれており、接種済みである。 残る手がかりは「アトピー性皮膚炎がある児」に「小水疱が集まって生じ、破れて痂皮化した病変」が「発熱を伴って短期間に広がった」ことである。これはアトピー性皮膚炎でバリア機能が落ちた皮膚に単純ヘルペスウイルス(HSV)が広く感染して起こるKaposi水痘様発疹症の典型像である。
設問の考え方
「基礎に皮膚疾患(とくにアトピー性皮膚炎)がある」「中心臍窩(中央のくぼみ)を伴う小水疱や、打ち抜いたような小びらんが集まって出る」「発熱・リンパ節腫脹などの全身症状がある」の3点がそろえば、まず本症を考える。
選択肢考察
- ×a. 麻疹
麻疹は、発熱・咳・鼻汁・結膜充血の前駆期(カタル期)に口腔のKoplik斑が出現し、いったん熱が下がりかけた後の再発熱とともに耳後部・顔面から融合傾向のある紅斑丘疹が広がる。水疱や痂皮は麻疹の発疹の特徴ではない。本例はMRワクチン接種済みであり、カタル症状やKoplik斑の記載もないため否定的である。
- ×b. 猩紅熱
猩紅熱はA群溶連菌の発赤毒素(発熱毒素)によって起こる。咽頭炎・発熱に続いて、体幹を中心に細かい紅斑がびまん性に広がり、紙やすり様に触れる。イチゴ舌や口囲蒼白が特徴であり、回復期には落屑がみられる。本例はイチゴ舌がなく、発疹も水疱・痂皮が集まったもので、びまん性の小紅斑ではないため否定的である。
- ×c. 手足口病
手足口病はコクサッキーウイルスA16やエンテロウイルス71などが原因で、手掌・足底・口腔粘膜に小水疱が出るのが特徴である。殿部や膝に出ることもあるが、発熱は軽いことが多い。本例は上肢・体幹・顔面が主体であり、手掌・足底・口腔内の病変の記載もないため合わない。
- ×d. 突発性発疹
突発性発疹はヒトヘルペスウイルス6型・7型(HHV-6/7)の初感染で起こる。生後6か月〜2歳ごろに多い。38〜40℃の高熱が3〜4日続いた後、解熱と前後して体幹を中心に小さな紅斑丘疹が出る。発疹は水疱をつくらず、数日で跡を残さずに消える。本例は発疹が先で発熱が後であり、水疱・痂皮を伴う点でも合わない。
- ○e. Kaposi水痘様発疹症
アトピー性皮膚炎の既往があり、かゆみを伴う小水疱が集まって出現し、破れて痂皮化した病変が数日で顔面・体幹・上肢へ広がり、発熱を伴っている。バリア機能が低下した皮膚にHSVが広範に感染して起こる本症に合致する。治療はアシクロビルやバラシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬(重症例では点滴静注)である。
Kaposi水痘様発疹症(疱疹性湿疹 eczema herpeticum)
・病態: アトピー性皮膚炎などで皮膚のバリア機能が低下した部位に、主に単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)が経皮的に広く感染して起こる。初感染のこともあれば、再活性化(回帰感染)のこともある。 ・基礎疾患: アトピー性皮膚炎が最も多い。そのほかDarier病、天疱瘡、熱傷、脂漏性皮膚炎などでも起こる。 ・皮疹: 中心臍窩を伴う小水疱・膿疱が多発し、集簇する。病変は破れて、打ち抜いたような小びらんや血痂になる。顔面・頸部・上半身に好発し、数日で拡大する。 ・全身症状: 発熱、所属リンパ節腫脹、全身倦怠感を伴うことが多い。とくに初感染時は症状が強い。 ・合併症: 黄色ブドウ球菌などによる二次感染(伝染性膿痂疹様となる)、角結膜炎などの眼病変(顔面・眼周囲の病変では眼科診察が必要)。まれに重症化する。 ・診断: 臨床像に加え、水疱内容のTzanck試験(ウイルス性巨細胞の確認)、HSV抗原迅速検査、PCRなどで確認する。 ・治療: アシクロビル・バラシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬を全身投与する。広範囲・高熱・乳幼児では入院してアシクロビルを点滴静注する。病変部へのステロイド外用はウイルス感染を悪化させうるため、いったん控える。二次感染には抗菌薬を併用する。
小児の発疹性疾患の鑑別の目安
・麻疹: カタル期→Koplik斑→再発熱とともに融合性紅斑丘疹→色素沈着 ・風疹: 発熱と同時に小紅斑丘疹、耳後部・後頭部リンパ節腫脹 ・水痘: 紅斑→丘疹→水疱→痂皮の各段階が混在し、頭皮・口腔内にも出る ・突発性発疹: 高熱3〜4日→解熱前後に発疹 ・手足口病: 手掌・足底・口腔の小水疱 ・猩紅熱: 咽頭炎、びまん性小紅斑、イチゴ舌、口囲蒼白 ・Kaposi水痘様発疹症: 皮膚疾患のある部位に集簇する小水疱・びらん+発熱
POINT
・アトピー性皮膚炎の患者に、発熱を伴って小水疱・びらん・痂皮が集まって急速に広がったら、Kaposi水痘様発疹症(HSV感染)を考える。 ・治療は抗ヘルペスウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル)の全身投与で、病変部のステロイド外用はいったん控える。 ・発疹と発熱の順序、イチゴ舌、手掌・足底・口腔病変、ワクチン接種歴が、ほかの小児発疹症との鑑別点になる。
