痛みの後に帯状に並ぶ水ぶくれ―帯状疱疹の皮疹を「正しい言葉」で語る
第118回医師国家試験 F問題 第58問
国試問題にチャレンジ
40歳の男性。右胸部から右背部の皮疹を主訴に来院した。7日前から右胸部の痛みを自覚した。5日前に右胸部から右背部にかけて皮疹が出現した。痛みが増強したため来院した。最近,過労気味であった。胸部の写真(A:胸部,B:右胸部の拡大)を示す。 写真Bでみられる皮疹の種類はどれか。2つ選べ。

- a.血疱
- b.紫斑
- c.水疱
- d.膿疱
- e.膿瘍
対話形式の解説
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ドクターまとめ
片側性にデルマトームに沿って分布し、神経痛様の痛みが先行して紅暈を伴う小水疱が集簇するのは帯状疱疹の典型像で、潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化によって起こります。皮疹は紅斑から丘疹、水疱、膿疱、びらん、痂皮へと経時的に変化するため、発症数日の時期には透明な漿液を含む水疱と、好中球を含み黄白色に混濁した膿疱が混在し、膿疱は必ずしも細菌感染を意味しません。血疱は血液を含む水疱、紫斑は硝子圧で退色しない出血斑、膿瘍は真皮深層から皮下に膿が貯留した状態であり、今回の皮表の小さな隆起とは区別されます。治療は早期の抗ヘルペスウイルス薬投与が基本で、帯状疱疹後神経痛、Hutchinson徴候を伴う眼合併症、Ramsay Hunt症候群などの合併症にも注意が必要です。皮疹を正確な用語で表現する力は、診断の精度だけでなく、医療者間の情報共有の質を支える基本技能です。
解答・解説
正解はc, dです
所見の整理
・40歳の男性で、最近過労気味であった(疲労やストレスによる細胞性免疫の一時的な低下が示唆される)。 ・7日前に右胸部の痛みが先行し、その2日後(5日前)に右胸部から右背部にかけて皮疹が出現した。 ・写真では、右側だけに、胸部から背部へ肋骨に沿う帯状の範囲に、紅斑を土台として小さな水疱が集まって並んでいる(集簇・列序性)。水疱の一部は内容が混濁して黄白色を帯び、膿疱化している。正中線を越えない。
診断
片側性で、一つの脊髄神経(本例では胸髄神経=肋間神経)の支配皮膚領域(デルマトーム)に一致した帯状の分布、皮疹に先行する神経痛様の痛み、紅暈を伴う小水疱の集簇という組み合わせは、帯状疱疹に典型的である。帯状疱疹は、小児期の水痘感染後に脊髄後根神経節(感覚神経節)に潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が、加齢・疲労・ストレス・免疫抑制などを契機に再活性化し、神経を伝って皮膚に到達して発症する。 鑑別として、単純疱疹(小水疱の集簇をつくるが、通常は限局し帯状には広がらない)、接触皮膚炎や虫刺症(瘙痒が主で神経支配領域に一致しない)などが挙がる。また胸部の痛みが皮疹に先行する時期には、心筋梗塞・狭心症、胸膜炎などとの鑑別が問題になる。
設問の考え方
本問は、写真で見られる皮疹を正しい発疹学用語で表現できるかを問うている。帯状疱疹の皮疹は、紅斑→丘疹→小水疱→膿疱→びらん→痂皮と経時的に変化する。発症5日目の本例では、透明な内容液をもつ水疱と、内容が膿性に混濁した膿疱が混在している。
選択肢考察
- ×a. 血疱
血疱は、内容に血液を含むため赤色〜暗赤色に見える水疱である。帯状疱疹でも高齢者や免疫不全者の重症例では血疱や壊死を伴うことがあるが、本例の写真では内容液は透明または黄白色であり、血性の水疱は認められない。
- ×b. 紫斑
紫斑は、真皮や皮下での出血により赤紫色〜紫色を呈する斑である。血管外に漏れた赤血球によるため、ガラス板で圧迫しても色が消えない(硝子圧法で退色しない)点で、血管拡張による紅斑と区別される。本例の水疱の周囲にみられるのは炎症性の紅斑(紅暈)であり、紫斑ではない。
- ○c. 水疱
水疱は、表皮内または表皮下に透明な液体(漿液)がたまって皮膚が隆起したものである。帯状疱疹では、VZVが表皮細胞に感染して細胞が風船状に膨らみ(風船様変性)、表皮内に水疱がつくられる。写真Bでは、紅斑の上に透明な内容液をもつ小水疱が集簇して認められる。
- ○d. 膿疱
膿疱は、水疱の内容に好中球などの白血球が多く含まれ、黄白色に混濁したものである。帯状疱疹では、出現した水疱が数日のうちに炎症細胞の浸潤によって混濁し、膿疱となる。必ずしも細菌の二次感染を意味しない(無菌性の膿疱)。発症5日目の本例でも、写真Bで一部の水疱が黄白色に混濁して膿疱化しているのが確認できる。
- ×e. 膿瘍
膿瘍は、真皮深層から皮下組織に膿がたまり、周囲を炎症性の壁で囲まれた状態である。表面には発赤・腫脹・熱感と、触れると波動のある硬結として認められ、膿疱のように皮膚表面に小さな膿の隆起が多数並ぶ所見とは異なる。本例では膿瘍を示す深い腫瘤や波動はない。
主な原発疹と続発疹
原発疹(最初に生じる発疹) ・紅斑:真皮の血管拡張による赤い斑。硝子圧で退色する。 ・紫斑:皮内・皮下の出血による斑。硝子圧で退色しない。 ・丘疹:直径1cm程度までの皮膚の隆起。それより大きいものは結節。 ・水疱:透明な漿液を含む隆起。小さいもの(おおむね5mm未満)は小水疱とよぶ。 ・血疱:血液を含む水疱。 ・膿疱:膿(主に好中球)を含む隆起。無菌性のこともある。 ・膨疹:真皮上層の一過性の浮腫。蕁麻疹でみられ、跡を残さず消える。 続発疹(原発疹に続いて生じる発疹) ・びらん:表皮までの欠損。瘢痕を残さず治る。 ・潰瘍:真皮以下に及ぶ欠損。瘢痕を残す。 ・痂皮:滲出液や血液、膿が乾燥して固まったもの(かさぶた)。 ・膿瘍:真皮〜皮下に膿が貯留した状態。
帯状疱疹のポイント
・原因:VZVの再活性化。水痘の既往がある人なら誰でも発症しうるが、50歳以上で増加し、過労・ストレス・悪性腫瘍・免疫抑制薬の使用なども誘因となる。 ・好発部位:胸髄神経領域(肋間神経)が最も多く、次いで三叉神経(特に第1枝)領域。 ・経過:神経痛様の痛みが数日先行し、紅斑・小水疱が帯状に出現、膿疱・びらんを経て2〜3週間で痂皮化して治癒する。 ・診断:臨床像で診断することが多い。補助的に、水疱底の擦過物によるTzanck試験(ウイルス性巨細胞の確認)、VZV抗原迅速検査、PCRなどを用いる。 ・治療:できるだけ早期(皮疹出現後72時間以内が目安)に抗ヘルペスウイルス薬(バラシクロビル、ファムシクロビル、アメナメビルなど)を開始する。疼痛にはアセトアミノフェン等の鎮痛薬を用いる。 ・合併症:帯状疱疹後神経痛(PHN、皮疹治癒後も痛みが続く)、三叉神経第1枝領域では眼合併症(角膜炎・ぶどう膜炎。鼻尖部の皮疹=Hutchinson徴候が目安)、顔面神経麻痺と耳介の皮疹・内耳障害を伴うRamsay Hunt症候群、汎発性帯状疱疹など。 ・予防:50歳以上を対象とした帯状疱疹ワクチン(乾燥弱毒生水痘ワクチン、不活化の組換えワクチン)がある。 ・感染対策:水痘にかかったことのない人には水疱内容との接触で水痘として感染しうるため、水疱が痂皮化するまでは注意を要する。
POINT
・帯状疱疹:片側性・デルマトームに一致した帯状分布、先行する神経痛様疼痛、紅暈を伴う小水疱の集簇。 ・皮疹は紅斑→丘疹→水疱→膿疱→びらん→痂皮と経時的に変化し、時期によって水疱と膿疱が混在する。 ・水疱は透明な漿液、膿疱は好中球を含み黄白色に混濁、血疱は血液を含む。 ・紫斑は出血によるため硝子圧で退色しない(紅斑は退色する)。 ・膿瘍は真皮〜皮下の膿の貯留で、表面の発疹とは異なる。 ・早期の抗ウイルス薬投与が重要。合併症として帯状疱疹後神経痛を押さえる。
