眠ると消える、少しなら抑えられる―Tourette症の「チックらしさ」を見抜く
第107回医師国家試験 I問題 第44問
国試問題にチャレンジ
10歳の男児。わいせつな言葉を口走ることを主訴に両親に伴われて来院した。5歳ころから瞬目,肩をすくめる,首振り及び咳払いなどの突発的かつ律動的で反復する運動が出現し,軽快と増悪とを繰り返してきた。最近,主訴の症状が出現した。特記すべき既往歴はない。神経学的な所見に異常を認めない。 この患児について正しいのはどれか。
- a.親の過干渉が主な原因である。
- b.異常な運動は睡眠中ほぼ消失する。
- c.置かれた状況による症状の変動は少ない。
- d.成人まで症状が軽快せずに持続することが多い。
- e.ごく短時間でも自分で症状を止めることはできない。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
多彩な運動チックと1つ以上の音声チックが18歳未満で発症し1年以上持続していればTourette症と診断でき、汚言は特徴的ですが一部の患者にしかみられません。チックは睡眠中にほぼ消失し、緊張・疲労・興奮で増悪して集中時には減るなど状況で大きく変動し、前駆衝動を伴いながらも短時間なら随意的に抑制できます。原因は遺伝的・神経発達的な要因で親の養育態度ではなく、症状は10歳前後をピークに思春期以降に軽快することが多い一方、ADHDや強迫症の合併に注意が必要です。治療は心理教育と環境調整が基本で、必要に応じて行動療法や抗精神病薬・α2作動薬を用います。チックの性質を正しく理解し家族や学校に説明できることは、患児の生活を守る臨床力そのものです。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・10歳の男児。5歳ころから、瞬目(まばたき)、肩をすくめる、首振りといった突発的で素早く反復する運動が出現している。→ 運動チック。 ・咳払いも同時期からみられる。→ 音声チック(単純音声チック)。 ・症状は軽快と増悪を繰り返しながら5年ほど続いている。→ 1年以上持続する慢性の経過。 ・最近、わいせつな言葉を口走るようになった。→ 汚言(コプロラリア)で、複雑音声チックの一つ。 ・既往歴に特記事項がなく、神経学的所見も正常。→ 脳炎後や薬剤性、Huntington病、Wilson病などの器質的疾患による不随意運動は考えにくい。
診断
多彩な運動チックと1つ以上の音声チックが、18歳未満で発症し1年以上持続しているため、Tourette症(Tourette症候群、トゥレット症)と診断される。汚言は特徴的な症状としてよく知られるが、Tourette症の全例にみられるわけではなく、一部の患者にとどまる。
設問の考え方
チック・Tourette症の性質、すなわち原因(育て方ではなく神経発達的・遺伝的要因)、睡眠中の消失、状況による変動、一時的な随意的抑制の可能性、自然経過(思春期以降に軽快することが多い)を理解しているかが問われている。
選択肢考察
- ×a. 親の過干渉が主な原因である。
誤り。Tourette症は遺伝的素因が強く関与する神経発達症であり、大脳基底核(線条体)を含む皮質-線条体-視床-皮質回路の機能異常やドパミン系の関与が想定されている。親の養育態度や過干渉が原因ではない。親は自分の育て方のせいではないかと悩んでいることが多いので、そうではないことを説明して安心させる。一方で、チックを叱ったり、やめるよう繰り返し注意したりすると緊張が高まり症状が悪化しやすいため、そうした関わりは避けるよう助言する。
- ○b. 異常な運動は睡眠中ほぼ消失する。
正解。チックは覚醒時にみられる症状であり、睡眠中はほとんど出現しない(浅い睡眠期にわずかにみられることはある)。この点は、睡眠中にも持続しうる一部の不随意運動(口蓋振戦など)や、睡眠時に出現するむずむず脚症候群に伴う周期性四肢運動などとの鑑別の手がかりになる。
- ×c. 置かれた状況による症状の変動は少ない。
誤り。チックは状況によって大きく変動するのが特徴である。不安・緊張・ストレス、疲労、あるいは楽しい興奮などで増悪し、チックを指摘されることでも悪化する。反対に、何かに集中している時や、学校・外出先などで気を張っている場面では目立たなくなることがあり、自宅でくつろいでいる時に増えることもある。
- ×d. 成人まで症状が軽快せずに持続することが多い。
誤り。Tourette症の症状は10歳前後から思春期初期に最も強くなることが多く、その後は思春期から青年期にかけて軽快・消失する例が多い。成人期まで強い症状が続くのは一部である。ただし、合併しやすい注意欠如・多動症(ADHD)や強迫症の方が、成長後の生活に影響することもある。
- ×e. ごく短時間でも自分で症状を止めることはできない。
誤り。チックは不随意運動に分類されるが、ある程度の時間であれば意志の力で抑えることができる。多くの患者はチックの前に「むずむずする」「出さずにいられない」といった前駆衝動(premonitory urge)を自覚し、抑えていると不快感が高まり、その後にまとめて出現しやすい。この「一時的に抑えられる」という性質は、ほかの不随意運動との鑑別点であり、行動療法(包括的行動介入)の基盤にもなっている。
チックとは
突発的で急速に反復する、非律動的な運動または発声である。 ・単純運動チック:瞬目、顔しかめ、首振り、肩すくめなど(短時間で意味を持たない動き) ・複雑運動チック:跳ねる、物に触る、他人の動作をまねる(反響動作)など ・単純音声チック:咳払い、鼻をすする、うなる、叫ぶなど ・複雑音声チック:単語や句を言う、汚言(わいせつ・卑猥な言葉)、反響言語(他人の言葉の繰り返し)、反復言語(自分の言葉の繰り返し)など 一般に顔面の単純運動チック(まばたきなど)から始まり、体の上から下へ広がり、後に音声チックが加わる経過が多い。
チック症群の分類(DSM-5)
いずれも18歳未満の発症が条件である。 ・暫定的チック症:運動チックと音声チックのいずれか、または両方があり、持続が1年未満。 ・持続性(慢性)運動または音声チック症:運動チックか音声チックの一方のみが1年以上持続。 ・Tourette症:多彩な運動チックと1つ以上の音声チックが(同時でなくてもよい)、1年以上持続。
疫学・合併症
男児に多い(男女比おおよそ3~4:1)。発症は4~6歳ころが多い。ADHD、強迫症、不安症、学習上の困難を合併しやすい。
治療
・心理教育と環境調整:病気の性質を本人・家族・学校に説明し、叱責や過度な注意を避ける。軽症では経過観察で十分なことが多い。 ・行動療法:包括的行動介入(CBIT)、ハビット・リバーサル(前駆衝動を自覚して拮抗する動作で置き換える方法)。 ・薬物療法:生活に支障が大きい場合に、アリピプラゾールやハロペリドールなどのドパミン受容体に作用する抗精神病薬、α2作動薬(クロニジンなど)を用いる。
POINT
・多彩な運動チック+1つ以上の音声チックが1年以上持続(18歳未満発症)→ Tourette症。汚言は複雑音声チックで、全例にはみられない。 ・原因は遺伝・神経発達的要因であり、育て方や親の過干渉ではない。 ・チックは睡眠中ほぼ消失する。 ・緊張・ストレス・興奮で増悪し、集中時には減るなど状況で変動する。 ・前駆衝動を伴い、短時間なら随意的に抑制できる。 ・10歳前後に最も強く、思春期以降に軽快することが多い。 ・ADHD・強迫症の合併が多い。
