「非該当」でも終わりじゃない―脳梗塞後の高齢者を介護予防につなぐ窓口はどこか
第107回医師国家試験 H問題 第22問
国試問題にチャレンジ
70歳の女性。脳梗塞を発症し,病院での急性期治療とリハビリテーションを終えて退院した。動作は緩慢であるが日常生活に支障はない。月1回,外来で降圧薬と抗凝固薬とを処方されている。介護保険の申請をしたが非該当と判定された。 介護予防について主治医が勧める相談先として適切なのはどれか。
- a.保健所
- b.福祉事務所
- c.市町村保健センター
- d.精神保健福祉センター
- e.地域包括支援センター
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
要介護認定で非該当と判定されても、高齢者は市町村の総合事業、特に65歳以上全員が対象の一般介護予防事業などを利用でき、その入口となるのが地域包括支援センターです。地域包括支援センターは介護保険法に基づき市町村が設置し、保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員が介護予防ケアマネジメント、総合相談支援、権利擁護、包括的・継続的ケアマネジメント支援を担います。保健所は広域的・専門的な保健行政、市町村保健センターは身近な対人保健サービス、福祉事務所は福祉六法に基づく援護、精神保健福祉センターは精神保健の技術的中核と、それぞれ役割が異なります。脳梗塞後の高齢者はフレイルや廃用から要介護に移行しやすく、主治医が適切な地域資源につなぐことが重要です。各機関の設置根拠と役割を整理しておくことは、国試対策だけでなく地域包括ケアを担う医師としての基礎になります。
解答・解説
正解はeです
状況の整理
70歳の女性。脳梗塞の急性期治療とリハビリテーションを終えて自宅に戻った。動作は遅いものの日常生活は自立しており、介護保険の要介護認定を申請した結果「非該当(自立)」と判定された。つまり、現時点では要介護・要支援のいずれにも当たらず、介護保険の介護給付・予防給付によるサービスは利用できない。
問われていること
脳梗塞後で動作緩慢があり、今後の再発や生活機能の低下(フレイル・廃用)が心配される高齢者について、「介護予防」の相談先として主治医が勧めるべき機関はどこかが問われている。
考え方
介護保険制度には、要介護状態になることを予防する仕組みが組み込まれている。その中核を担う機関が、介護保険法に基づき市町村が設置する地域包括支援センターである。要支援者の介護予防ケアマネジメントに加え、非該当と判定された高齢者も含めて地域の高齢者の総合相談を受け付け、市町村が行う介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)の一般介護予防事業(体操教室や通いの場など、65歳以上のすべての高齢者が対象)や、基本チェックリストで生活機能の低下が認められた人向けのサービスへとつなぐ役割を持つ。したがって本症例のような高齢者の介護予防の相談先として最も適切である。 他の選択肢の機関も健康相談や福祉の窓口を担っており、自治体によっては介護予防の相談に応じる場合もあるが、介護予防の中心的な窓口ではない。
選択肢考察
- ×a. 保健所
保健所は地域保健法に基づき、都道府県、指定都市、中核市、その他政令で定める市、特別区が設置する広域的・専門的な保健行政機関である。感染症対策、食品衛生・環境衛生、医療監視(医療機関への立入検査)、精神保健・難病対策、人口動態統計などを担う。個々の高齢者の介護予防の相談窓口としての役割は小さく、本症例の相談先としては優先度が低い。
- ×b. 福祉事務所
福祉事務所は社会福祉法に基づく社会福祉行政の第一線機関で、福祉六法(生活保護法、児童福祉法、母子及び父子並びに寡婦福祉法、老人福祉法、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法)に定める援護・育成・更生の措置に関する事務を行う。都道府県と市(特別区を含む)には設置義務があり、町村は任意設置である。生活保護の相談などが代表的な業務であり、介護保険制度下の介護予防の相談先としては適切でない。
- ×c. 市町村保健センター
市町村保健センターは地域保健法に基づき市町村が設置できる施設で、住民に身近な健康相談、保健指導、健康診査(乳幼児健診、がん検診など)を行う。保健師が業務の中心で、センター長は医師である必要はない。健康づくりの場として高齢者に関わることもあるが、介護予防ケアマネジメントや総合事業へのつなぎを担う中心機関は地域包括支援センターであり、本症例の相談先として最適ではない。
- ×d. 精神保健福祉センター
精神保健福祉センターは精神保健福祉法に基づき都道府県・指定都市に設置される、地域の精神保健福祉の技術的中核機関である。精神保健に関する知識の普及、調査研究、複雑・困難な精神保健福祉相談、保健所など関係機関への技術指導・援助、精神医療審査会の事務などを担う。精神疾患のない高齢者の介護予防とは関係が薄く不適切である。
- ○e. 地域包括支援センター
地域包括支援センターは、2005年の介護保険法改正(2006年施行)で創設された、市町村(または市町村から委託を受けた法人)が設置する機関である。保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)が配置され、介護予防ケアマネジメント、総合相談支援、権利擁護(高齢者虐待の防止・対応など)、包括的・継続的ケアマネジメント支援を行う。要介護認定で非該当となった高齢者も相談対象となり、一般介護予防事業などの介護予防の取り組みにつなげることができるため、本症例の相談先として最も適切である。
介護保険の要介護認定と介護予防
要介護認定の結果は、非該当(自立)、要支援1・2、要介護1〜5に分かれる。要支援と判定された人は予防給付(介護予防サービス)を、要介護と判定された人は介護給付を利用できる。非該当の場合は介護保険の給付は受けられないが、市町村の地域支援事業として行われる介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)を利用できる可能性がある。 ・一般介護予防事業:65歳以上のすべての高齢者が対象。介護予防教室、住民主体の通いの場などを通じて、心身機能の維持や社会参加を促す。 ・介護予防・生活支援サービス事業:要支援者や、基本チェックリスト(生活機能の低下を把握する25項目の質問票)で該当と判断された「事業対象者」が対象。訪問型・通所型サービスなどがある。
地域包括支援センターの4つの主な業務
1)介護予防ケアマネジメント:要支援者・事業対象者のケアプラン作成など 2)総合相談支援:高齢者やその家族からの保健・医療・福祉・介護に関するあらゆる相談の受付と適切な機関へのつなぎ 3)権利擁護:高齢者虐待への対応、成年後見制度の利用支援、消費者被害の防止など 4)包括的・継続的ケアマネジメント支援:地域のケアマネジャーへの助言・支援、医療機関を含む関係機関とのネットワークづくり 地域包括ケアシステム(住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供し、住み慣れた地域での生活を支える体制)の中核機関と位置付けられている。
保健所と市町村保健センターの違い
・保健所:都道府県・指定都市・中核市・政令市・特別区が設置。所長は原則医師。広域的・専門的・技術的な業務(感染症、食品・環境衛生、医療監視、精神保健、難病、人口動態統計など)を担う。 ・市町村保健センター:市町村が設置。所長は医師でなくてよく、保健師が中心。母子保健や健康づくりなど、住民に身近な対人保健サービスの拠点である。
POINT
・介護予防の相談窓口は地域包括支援センター(介護保険法に基づき市町村が設置)。 ・職員は保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員の3職種。 ・業務は介護予防ケアマネジメント、総合相談支援、権利擁護、包括的・継続的ケアマネジメント支援。 ・要介護認定で非該当でも、総合事業(一般介護予防事業など)を利用できる。 ・保健所(広域・専門的)と市町村保健センター(身近な対人保健)、福祉事務所(福祉六法)、精神保健福祉センター(精神保健の技術的中核)の役割の違いを整理しておく。
