StudyMed医師国家試験

「家族には治ると伝えて」―その願いの奥にある思いを聴くことから始めよう

第107回医師国家試験 H問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第107回 H問題 第21問

56歳の男性。食思〈欲〉不振と体重減少とを訴え検査入院となり,病期Ⅳの胃の低分化腺癌と診断された。近日中に家族と面談することになったが,患者本人は「家族には必ず治る状態であると伝えて欲しい」と希望した。  医師の最初の返答として適切なのはどれか。

  1. a.「嘘をつくことはできません」
  2. b.「どうしてそうおっしゃるのですか」
  3. c.「ご家族との面談を中止しましょう」
  4. d.「あなたからご家族にお伝えください」
  5. e.「ご家族にはもっと軽い病状であると伝えましょう」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、進行癌と診断された患者さんから、家族に事実と違う説明をしてほしいと頼まれる場面の問題だ。問われているのは、最終的にどう対応するかではなく「最初の返答」。この言葉に注目して考えてみよう。
医学生医学生
病期Ⅳの胃癌だと、根治は難しいですよね。「必ず治る」と伝えるのは嘘になってしまいます。
ドクタードクター
そうだね。病期Ⅳは遠隔転移などを伴う最も進んだ段階で、根治切除の対象にならないことが多く、化学療法を行っても通常は治癒を期待できない。だから家族に「必ず治る」と説明するのは事実に反する。では、医師はまず何と言うべきだろう。
医学生医学生
正直に「嘘はつけません」と伝えるのが誠実だと思いました。
ドクタードクター
内容としては正論なんだ。医師が家族に虚偽の説明をしてはいけないのは確かだからね。でも、患者さんの気持ちを聴く前にいきなり突っぱねたら、患者さんはどう感じるかな。
医学生医学生
「わかってもらえない」と思って、心を閉ざしてしまうかもしれません。
ドクタードクター
その通り。信頼関係、つまりラポールが崩れてしまうし、なぜそう望んだのかを知る機会も失われる。この希望の背景には、家族に心配や負担をかけたくない、家族の反応が怖い、自分自身がまだ病状を受け止めきれていない、家族に特有の事情がある、などいろいろな理由が考えられるんだ。
医学生医学生
だから「どうしてそうおっしゃるのですか」と理由を聞くのが正解なんですね。OSCEの医療面接で習った開かれた質問です。
ドクタードクター
そう、これが最も適切な最初の返答だ。開かれた質問は「はい・いいえ」で答えられず、相手が自由に語れる形の質問だね。要望を否定も肯定もせず、まず患者さんの考えを尊重して聴く姿勢を示せる。背景がわかって初めて、どう対応するかを一緒に考えられるんだ。
医学生医学生
面談をいったん中止するのはどうでしょう。患者さんの気持ちが落ち着くまで待つという意味では優しい気もします。
ドクタードクター
気持ちはわかるけれど、理由も確かめずに中止するのは問題の先送りにすぎない。進行癌の療養には家族の理解と支援が欠かせず、家族との面談は今後の方針を考える大切な機会だ。家族が正確な情報を得る機会を奪うことにもなる。
医学生医学生
「ご本人から伝えてください」はどうですか。本人の自己決定を尊重しているようにも見えます。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。病状を医学的に正確に説明するのは医師の役割だ。それに本人に任せれば、希望どおり「治る」と伝えられてしまうかもしれない。実質的に虚偽の情報が家族に届くのを容認することになるし、患者さんの思いを聴かずに責任を委ねてしまっている。
医学生医学生
「もっと軽い病状だと伝えましょう」は、明らかに迎合しすぎですね。
ドクタードクター
そう。実際より軽く伝えるのは虚偽の説明で、医師の誠実義務に反する。家族は誤った情報で治療方針や療養の準備を判断することになり、後で病状が進んだとき、混乱や医療不信を招いてしまう。
医学生医学生
拒否も迎合も先送りも丸投げもせず、まず理由を聴く。その後はどう進めればいいのでしょう。
ドクタードクター
思いを共感的に受け止めたうえで、正確な情報を家族と共有する意義を説明する。治療方針の決定や療養生活を支えるには、家族の理解が欠かせないことを伝えるんだ。そして、患者さんが納得できる伝え方を一緒に考えていく。たとえば本人が同席して医師から説明する、伝える順番や言葉を工夫する、といった具合だね。
医学生医学生
緩和ケア科の実習で、指導医の先生が「ご家族のことを大切に思っていらっしゃるのですね」とまず気持ちを言葉にしていたのを思い出しました。
ドクタードクター
それが共感の技法だね。悪い知らせを伝える手順としてはSPIKESが知られている。場の設定、患者の病状認識の把握、どこまで知りたいかの確認、情報の提供、感情への共感、今後の方針とまとめ。どの段階でも、まず患者さんの認識や思いを聴くことが重視されているんだ。
医学生医学生
国試でも実臨床でも、困難な要望を受けたらまず開かれた質問、と覚えておきます。
ドクタードクター
それでいい。ただし型どおりに聞くだけでなく、答えを遮らずに最後まで聴くことが大切だ。重大な決定は判断能力のある本人が行うのが原則だけれど、病状を家族と共有することも本人の意思を尊重しつつ、同意を得る努力を丁寧に重ねていこう。

まとめ

患者から困難な要望を受けたときの「最初の返答」では、即座に拒否も受容もせず、開かれた質問で理由や気持ちを聴くことが基本で、本問では「どうしてそうおっしゃるのですか」が適切です。家族に虚偽の病状説明をすることは医師の誠実義務に反し、軽く伝える、本人に説明を委ねる、面談を中止するといった対応も、信頼関係や家族の支援体制を損ないます。背景を把握したうえで、正確な情報共有の意義を説明し、患者が納得できる伝え方を一緒に考えることが求められます。SPIKESに代表される悪い知らせの伝え方でも、まず患者の認識と思いを聴くことが重視されており、この姿勢は医療面接や緩和ケアのあらゆる場面に通じる土台です。

解答・解説

正解はbです

状況の整理

56歳の男性が食欲不振と体重減少で検査入院し、病期Ⅳ(遠隔転移などを伴う最も進行した段階)の胃低分化腺癌と診断された。病期Ⅳの胃癌は根治切除の対象とならないことが多く、化学療法などの治療を行っても治癒は通常期待できない。つまり「必ず治る」という説明は事実に反する。

問われていること

患者本人から「家族には必ず治る状態だと伝えてほしい」と頼まれた場面で、医師が「最初に」かけるべき言葉が問われている。最終的にどう対応するか(家族に何をどこまで伝えるか)ではなく、対話の入り口として何を言うべきかがポイントである。

考え方

患者がこのような希望を口にする背景には、家族に心配や経済的・精神的負担をかけたくない、家族の反応が怖い、自分自身がまだ病状を受け止めきれていない(否認)、家族関係に特有の事情がある、などさまざまな理由が考えられる。背景が分からないまま、医師が即座に拒否したり、逆に要望どおり虚偽の説明を約束したりするのはいずれも適切ではない。 まず開かれた質問(open-ended question:「はい・いいえ」で答えられない、相手が自由に語れる形の質問)で患者の思いや理由を聴き取り、共感的に受け止めることが出発点となる。そのうえで、正確な情報を家族と共有することの意義(今後の治療方針の決定や療養生活の支援に家族の理解が欠かせないこと)を説明し、患者が納得できる伝え方を一緒に考えていく。医師が家族に事実と異なる説明をすることは、誠実義務に反し、家族の意思決定や支援体制を損なうため行うべきではない。

選択肢考察

  1. ×a.  「嘘をつくことはできません」

    医師が家族に虚偽の病状説明をすべきでないのは確かであり、内容としては正論である。しかし、患者の思いを聴く前にいきなり要望を突っぱねる返答は、患者に「理解してもらえない」という感情を抱かせ、信頼関係(ラポール)を損なう。患者がなぜそう望むのかを知る機会も失われるため、最初の返答としては不適切である。

  2. ○b.  「どうしてそうおっしゃるのですか」

    開かれた質問によって、患者がこの希望を持つに至った理由や気持ちを語ってもらうことができる。家族への気遣い、病状を受け入れきれない不安、家族関係の事情など、背景を把握して初めて適切な対応を患者と一緒に考えられる。要望を否定も肯定もせず、まず患者の考えを尊重して聴く姿勢を示す返答であり、最初の対応として最も適切である。

  3. ×c.  「ご家族との面談を中止しましょう」

    進行癌の療養には家族の理解と支援が欠かせず、家族との面談は今後の治療方針を考えるうえで重要な機会である。患者の理由を確かめもせず面談自体を取りやめるのは問題の先送りにすぎず、家族が正確な情報を得る機会を奪うことにもなるため不適切である。

  4. ×d.  「あなたからご家族にお伝えください」

    病状を医学的に正確に説明するのは医師の役割である。また、患者自身が家族に伝えるとなれば、患者の希望どおり「治る」と伝えられてしまう可能性があり、実質的に虚偽の情報が家族に伝わることを容認することになる。患者の思いを聴かずに説明の責任を患者に委ねる返答であり不適切である。

  5. ×e.  「ご家族にはもっと軽い病状であると伝えましょう」

    病期Ⅳの胃癌を実際より軽く伝えることは虚偽の説明であり、医師の誠実義務に反する。誤った情報に基づいて家族が治療方針や療養生活の準備を判断することになり、後に病状が進行した際に家族の混乱や医療不信を招く。患者の要望に安易に迎合する返答であり不適切である。

病状説明と家族

重大な医療上の決定は、判断能力のある患者本人が自ら行うのが原則である(自己決定権の尊重)。一方、進行癌の療養では家族の身体的・精神的・経済的な支援が不可欠であり、家族が治療方針の決定に関わる場面も多い。その判断の根拠となるのは医師から提供される情報であるため、医師は正確な情報を提供しなければならない。 なお、病状に関する個人情報を家族に伝えることについては本人の意思を尊重する必要がある。本人が家族への説明を望まない場合も、その理由を聴き、家族と情報を共有する意義を丁寧に説明して同意を得る努力をする。

医療面接の基本技法

・開かれた質問:「どうしてそう思われるのですか」「どのようなことが心配ですか」など、患者が自由に語れる質問。患者の考えや感情を引き出すのに適する。 ・閉じた質問:「はい・いいえ」や短い単語で答えられる質問。事実確認に用いる。 ・傾聴・共感:患者の言葉を遮らずに聴き、感情を言語化して受け止める(「ご家族のことを大切に思っていらっしゃるのですね」など)。 困難な要望や感情的な訴えに対しては、まず否定も肯定もせず、開かれた質問で背景を探るのが定石である。

悪い知らせを伝える技法

悪い知らせ(bad news)を伝える手順としてSPIKESがよく知られる。Setting(場の設定)、Perception(患者の病状認識の把握)、Invitation(どこまで知りたいかの確認)、Knowledge(情報の提供)、Emotions/Empathy(感情への共感的対応)、Strategy/Summary(今後の方針とまとめ)の頭文字である。いずれの段階でも、患者の認識や思いを先に聴くことが重視されている。

POINT

・患者の要望に対する「最初の返答」を問う問題では、要望を即座に拒否も受容もせず、開かれた質問で理由・気持ちを聴く選択肢を選ぶ。 ・家族に虚偽の病状説明をすることは医師の誠実義務に反し、不可。 ・背景を把握したうえで、正確な情報共有の意義を説明し、患者が納得できる形で家族へ伝える方法を一緒に考える。 ・療養には家族の支援が不可欠であり、家族との面談を安易に中止しない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。