空港の先は誰が見守る?―帰国者の健康監視を担う「地域の砦」保健所
第107回医師国家試験 G問題 第8問
国試問題にチャレンジ
海外で未知の感染症が発生し,人から人への感染が疑われる症例が初めて報告された。この感染症は発熱を主な症状とし,致命率が高いとの情報がある。 症例報告があった地域から帰国し,自宅に帰った者に対し健康監視を行う場合の機関はどれか。
- a.検疫所
- b.保健所
- c.入国管理局
- d.市町村保健センター
- e.第一種感染症指定医療機関
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
海外で未知の感染症が発生した場合、空港・港での水際対策(質問票、体温測定、有症者の診察・検査、隔離・停留)は厚生労働省の機関である検疫所が担います。入国後に自宅へ戻った人については、検疫所から通知を受けた都道府県等の保健所が、潜伏期間に相当する期間の健康監視を行い、発症時には受診調整や積極的疫学調査、入院勧告につなげます。市町村保健センターは母子保健や健診など身近な対人サービスの拠点で感染症法上の権限をもたず、出入国在留管理庁(旧入国管理局)は出入国の法的管理を、感染症指定医療機関は発症者の入院医療を担います。「検疫所→保健所→指定医療機関」という役割分担を理解しておくことは、渡航歴のある発熱患者に臨床現場で適切に対応するための基盤となります。
解答・解説
正解はbです
本問は、海外で新しい感染症が発生した場面での、国内の水際対策と地域での対策の役割分担を問う問題である。SARS(重症急性呼吸器症候群)や2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)の流行時に実際にとられた対応が下敷きになっている。
状況の整理
・海外で未知の感染症が発生し、ヒトからヒトへの感染が疑われている。 ・発熱が主症状で、致命率が高いとされる。 ・発生地域から帰国し、すでに自宅に戻った人が対象である。 ・求められているのは「健康監視」、すなわち潜伏期間に相当する一定期間、体温や症状の有無を定期的に確認し、発症した場合に速やかに受診・隔離などの対応につなげることである。
役割分担の考え方
空港や港で入国者に対して行う水際対策(質問票による確認、サーモグラフィーによる体温測定、有症者の診察・隔離・停留など)は検疫所が担う。一方、入国を終えて国内の居住地に戻った人は、多数の地域に散らばっており、検疫所が一人ひとりを長期間きめ細かく見守ることは現実的でない。そこで、検疫所は入国時に把握した対象者(氏名・連絡先・滞在先など)の情報を、居住地を管轄する都道府県等に通知し、その後の健康監視は地域の感染症対策の拠点である保健所が担うという流れが制度化されている。 保健所は感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)に基づく積極的疫学調査、健康状態の確認、就業制限や入院勧告などの手続き、医療機関との連携を担っており、専門性と権限の両面から、帰国者の健康監視の実施主体として最もふさわしい。
選択肢考察
- ×a. 検疫所
検疫所は厚生労働省の機関で、主要な空港・港に置かれ、検疫法に基づき国内に常在しない感染症の侵入を防ぐ水際対策を行う。対象は入国者だけでなく、航空機・船舶、輸入食品、動物などにも及ぶ。入国者の健康状態の確認、有症者の診察・検査、隔離・停留などは検疫所が担うが、帰国して自宅に戻った後の健康監視は、多数の対象者に迅速かつきめ細かく対応する必要があるため、検疫所から通知を受けた都道府県等(保健所)が行うことになっている。SARSのころまでは検疫所が直接健康監視を行っていたが、新型インフルエンザ対策を契機に保健所が担う体制に改められた。
- ○b. 保健所
帰国後に自宅に戻った人の健康監視を行うのは保健所である。検疫所から対象者の情報の通知を受けた都道府県(保健所設置市・特別区を含む)が、保健所を通じて潜伏期間に相当する期間、対象者に体温や症状の報告を求め、健康状態を確認する。発熱などの症状が出た場合には、感染症指定医療機関への受診調整、検体採取、接触者調査などに速やかにつなげる。保健所は地域保健法に基づき都道府県・政令市・特別区などに設置される、地域における感染症対策の第一線機関である。
- ×c. 入国管理局
入国管理局は法務省の組織で、外国人の出入国審査、在留管理、難民認定などの行政事務を担っていた(2019年に出入国在留管理庁へ改組された)。人の出入国を法的に管理する機関であり、感染症に関する医学的な健康監視は業務に含まれない。
- ×d. 市町村保健センター
市町村保健センターは地域保健法に基づいて市町村が設置する施設で、住民に身近な健康相談、保健指導、乳幼児健診・母子保健事業、成人の健康診査などの対人保健サービスを行う。行政機関としての権限をもたない施設であり、感染症法に基づく積極的疫学調査や入院勧告などを担う立場にない。未知の重篤な感染症への対応は、より専門的・広域的な機関である保健所の役割である。
- ×e. 第一種感染症指定医療機関
第一種感染症指定医療機関は、一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症の患者の入院医療を担う医療機関として都道府県知事が指定するものである(原則として各都道府県に1か所)。なお、新感染症の患者の入院医療は、厚生労働大臣が指定する特定感染症指定医療機関が担う。いずれも発症した患者を診療・入院させる場であり、自宅にいる無症状の帰国者を監視する行政機能はもたない。健康監視中に発症した場合の受け入れ先となる。
海外で新たな感染症が発生したときの主な流れ
1. 空港・港(検疫所):入国者への質問票、体温測定、有症者の診察・検査、必要に応じて隔離(有症者を医療機関に入院させる)や停留(感染したおそれのある者を一定期間とどめ置く)を行う。 2. 検疫所から都道府県等への通知:停留の対象とならなかった者などについて、氏名・連絡先・居所などの情報を居住地の都道府県等に通知する。 3. 地域(保健所):通知を受けた保健所が、潜伏期間に相当する期間、対象者に健康状態の報告を求める(健康監視)。発症した場合は受診調整、検査、入院勧告、接触者調査などを行う。 4. 医療機関:発症者は感染症指定医療機関(一類・二類等は第一種・第二種、新感染症は特定感染症指定医療機関)で入院医療を受ける。
関連機関の整理
・検疫所:厚生労働省の機関。検疫法に基づく水際対策。 ・保健所:地域保健法に基づき都道府県・政令市・特別区などが設置。感染症対策、食品衛生、精神保健など広域的・専門的な業務を担う。 ・市町村保健センター:市町村が設置。住民に身近な対人保健サービス(母子保健・成人保健など)を担う。 ・出入国在留管理庁(旧入国管理局):法務省の外局。出入国審査・在留管理。 ・感染症指定医療機関:特定(厚生労働大臣指定)、第一種・第二種(都道府県知事指定)など。
新感染症と未知の感染症
感染症法では、ヒトからヒトに伝染する既知の感染症と症状や重篤度が明らかに異なり、まん延により重大な影響を与えるおそれがあるものを「新感染症」と定義している。本問のような未知の感染症は、これに該当しうる。
POINT
・入国時の水際対策(空港・港での検疫、隔離・停留)は検疫所が担う。 ・帰国して自宅に戻った人の健康監視は、検疫所からの通知を受けた都道府県等の保健所が担う。 ・市町村保健センターは住民に身近な保健サービスの拠点であり、感染症法上の権限をもたない。 ・第一種感染症指定医療機関は、一類・二類・新型インフルエンザ等感染症の患者を入院させて治療する医療機関である。
