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補体が「減る病気」と「減らない病気」―CH50で見抜く免疫複合体の足あと

第107回医師国家試験 G問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第107回 G問題 第24問

血清補体価(CH50)が低下しないのはどれか。

  1. a.悪性関節リウマチ
  2. b.急性糸球体腎炎
  3. c.クリオグロブリン血症
  4. d.全身性エリテマトーデス〈SLE〉
  5. e.リウマチ性多発筋痛症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、血清補体価が低下する病気とそうでない病気を見分ける問題だ。着眼点はひとつ、「その病気で免疫複合体が補体を使い果たしているかどうか」。まずはCH50が何を測っている値なのかから確認していこう。
医学生医学生
免疫学の講義で、抗体をくっつけたヒツジ赤血球を何%溶血させられるかで測る、と習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。CH50は抗体感作赤血球の50%を溶血させるのに必要な血清量から求める値で、C1からC9まで、主に古典経路の補体が全体としてどれだけ働けるかを表している。では、補体価が下がる仕組みにはどんなものがあると思う?
医学生医学生
補体が使われて減る、というのはイメージできます。ほかにもあるんですか。
ドクタードクター
大きく3つある。免疫複合体などで補体が活性化されて大量に消費される場合、補体を作る肝臓の機能が落ちる場合、そして先天的に補体成分が欠損している場合だ。試験で一番問われるのは1つ目の消費性の低下で、Ⅲ型アレルギー、つまり免疫複合体の形成や沈着が病態の中心にある疾患で起こる。
医学生医学生
Ⅲ型の代表といえばSLEですね。抗ds-DNA抗体が免疫複合体を作って、腎臓などに沈着するんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。SLEでは古典経路が活性化してC3・C4・CH50が低下し、その程度は疾患活動性、特にループス腎炎の活動性をよく反映する。だから抗ds-DNA抗体価と一緒に経過観察の指標になるんだ。次に悪性関節リウマチはどうかな。
医学生医学生
関節リウマチなら補体は下がらない気がします。膠原病内科の実習でも、通常のRAで補体を気にしている印象はありませんでした。
ドクタードクター
鋭い観察だね。通常の関節リウマチでは、関節液の補体価は下がっても、血清補体価は正常かむしろ高いことが多い。でも悪性関節リウマチは別物で、高力価のリウマトイド因子とIgGが免疫複合体を作って血管壁に沈着し、血管炎を起こす。そこで補体が消費されるから血清補体価が下がる。むしろ低補体は悪性関節リウマチを疑う手がかりになるんだ。
医学生医学生
同じ「リウマチ」でも、血管炎を伴うかどうかで補体の動きが逆になるんですね。クリオグロブリン血症も免疫複合体の病気でしたっけ。
ドクタードクター
そう。特にC型肝炎に伴う混合型クリオグロブリン血症では、IgMのリウマトイド因子とIgGが複合体を作り、古典経路を強く活性化する。CH50とC4が著明に下がり、C3の低下は比較的軽いことが多いのが特徴だ。紫斑、関節痛、膜性増殖性糸球体腎炎、末梢神経障害などを起こす。ちなみに採血した検体を冷やすと試験管の中でも補体が消費されて、見かけ上CH50が低く出ることがある。
医学生医学生
検体の扱いでも値が変わるんですね。急性糸球体腎炎は、小児科実習で溶連菌感染後の子が入院していて、補体が低いと教わりました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。溶連菌感染後急性糸球体腎炎では、主に第二経路を介して補体が消費されるから、C3とCH50が下がり、C4は正常のことが多い。大事なのは低補体が一過性で、通常8週以内に戻ること。8週を超えて低いままなら、膜性増殖性糸球体腎炎やループス腎炎を疑う。
医学生医学生
ということは、残るリウマチ性多発筋痛症が答えですね。でも炎症がかなり強い病気なのに、補体は下がらないんですか。
ドクタードクター
そこが理解のポイントだ。リウマチ性多発筋痛症は赤沈やCRPが強く上がるけれど、特異的な自己抗体はなく、免疫複合体による補体消費も関与しない。しかも補体の多くは炎症で肝臓からの産生が増える急性期タンパクでもあるから、正常か、むしろ上昇することが多いんだ。だから低下しないのはリウマチ性多発筋痛症になる。
医学生医学生
「炎症が強い=補体が下がる」ではなくて、「免疫複合体が補体を消費しているか」で考えるんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。最後にリウマチ性多発筋痛症の臨床像も押さえておこう。50歳以上に多く、両肩・頸部・腰・大腿部の痛みと朝のこわばりが急に出る。RFや抗CCP抗体は通常陰性で、CKも上がらないから筋炎とは区別できる。少量の副腎皮質ステロイドがよく効くのも特徴だ。
医学生医学生
CBTの勉強で、巨細胞性動脈炎との合併が出てきた記憶があります。
ドクタードクター
臨床ではそれが一番の注意点だね。頭痛、顎跛行、視力障害があれば巨細胞性動脈炎の合併を疑い、失明を防ぐために急いで対応する。それから腎炎の鑑別でも補体は役立つ。IgA腎症、微小変化型ネフローゼ症候群、膜性腎症、ANCA関連血管炎による腎炎では一般に補体は下がらない、とセットで覚えておくと便利だよ。

まとめ

CH50は古典経路を中心とした補体活性全体を反映する指標で、免疫複合体が補体を消費するSLE、悪性関節リウマチ、クリオグロブリン血症、急性糸球体腎炎などで低下します。ほかに肝硬変による産生低下や先天性欠損でも低下しますが、試験で問われやすいのは消費性の低下です。一方、補体は急性期タンパクでもあるため、免疫複合体が関与しないリウマチ性多発筋痛症や通常の関節リウマチでは正常〜上昇を示します。急性糸球体腎炎の低補体は通常8週以内に回復すること、クリオグロブリン血症ではC4低下が目立つことも重要な鑑別点です。「炎症の強さ」ではなく「免疫複合体による消費の有無」で補体の動きを捉える視点は、膠原病や腎炎の診断・経過観察に広く役立ちます。

解答・解説

正解はeです

補体は、血清中に存在する一連のタンパク質(C1〜C9など)で、連鎖的に活性化して病原体の排除や炎症の誘導にはたらく。活性化の入り口には、抗原抗体複合体(免疫複合体)のIgG・IgMにC1qが結合して始まる古典経路、微生物表面などで自然にC3が活性化される第二経路(副経路)、マンノース結合レクチンが糖鎖を認識して始まるレクチン経路の3つがある。 CH50(50%溶血補体価)は、抗体で感作したヒツジ赤血球の50%を溶血させるのに必要な血清量から求める値で、古典経路のC1からC9までの補体成分が全体としてどれだけ機能しているかを表す。基準値はおおむね30〜45U/mL程度(測定法により異なる)である。 血清補体価が低下する主な機序は、(1) 免疫複合体などにより補体が活性化されて大量に消費される、(2) 肝臓での産生が低下する(肝硬変など)、(3) 先天的な補体成分の欠損、の3つである。臨床で問われることが多いのは(1)の消費性の低下であり、免疫複合体の形成や沈着が病態の中心となる疾患(Ⅲ型アレルギー)で起こる。 一方、補体の多くは炎症で肝臓からの産生が増える急性期タンパクでもあるため、免疫複合体が関与しない炎症性疾患では補体価は正常か、むしろ上昇する。本問の選択肢のうち、免疫複合体による補体消費が病態に関与しないのはリウマチ性多発筋痛症である。

選択肢考察

  1. ×a.  悪性関節リウマチ

    悪性関節リウマチは、既存の関節リウマチに血管炎などの関節外症状が加わり、難治性・重篤な経過をとる病態である。高力価のリウマトイド因子(RF)とIgGが免疫複合体を形成し、これが血管壁に沈着して補体を活性化・消費するため、血清補体価が低下する。通常の関節リウマチでは、活動期に関節液中の補体価は低下するものの、血清補体価は正常かむしろ高値を示すことが多く、血清補体価の低下は悪性関節リウマチを疑う手がかりになる。

  2. ×b.  急性糸球体腎炎

    急性糸球体腎炎の代表である溶連菌感染後急性糸球体腎炎では、A群β溶血性レンサ球菌の咽頭炎や皮膚感染の後、1〜2週(皮膚感染では3〜6週)程度の潜伏期を経て発症する。糸球体に免疫複合体の沈着や補体の活性化が起こり、主に第二経路を介して補体が消費される。そのためC3とCH50が低下し、C4は正常であることが多い。低補体血症は一過性で、通常は発症から8週以内に正常化する。8週を超えて低補体が続く場合は膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)やループス腎炎などを疑う。

  3. ×c.  クリオグロブリン血症

    クリオグロブリンは、37℃未満の低温で沈殿し、温めると再び溶ける免疫グロブリン(またはその複合体)である。特にC型肝炎ウイルス感染に伴う混合型クリオグロブリン血症では、IgMのRFとIgGが免疫複合体を形成し、古典経路を強く活性化して補体を消費する。このためCH50とC4が著明に低下するのが特徴であり(C3の低下は比較的軽いことが多い)、紫斑・関節痛・膜性増殖性糸球体腎炎・末梢神経障害などを生じる。なお採血検体を冷やすと試験管内でも補体が消費され、CH50が見かけ上低くなる(コールドアクチベーション)ことがある。

  4. ×d.  全身性エリテマトーデス〈SLE〉

    SLEは、抗ds-DNA抗体などの自己抗体が自己抗原と免疫複合体を形成し、全身の臓器(腎臓・皮膚・関節・血管など)に沈着して補体を活性化するⅢ型アレルギーの代表的疾患である。古典経路の活性化によりC3・C4・CH50が低下し、低補体血症の程度は疾患活動性、特にループス腎炎の活動性をよく反映する。そのため抗ds-DNA抗体価とともに経過観察の指標として用いられ、分類基準の項目にも含まれている。

  5. ○e.  リウマチ性多発筋痛症

    リウマチ性多発筋痛症(PMR)は、主に50歳以上(特に高齢者)に発症し、両肩や頸部、腰・大腿部など体幹に近い部位の痛みとこわばりを急に生じる炎症性疾患である。赤沈亢進やCRP上昇などの強い炎症反応を示すが、特異的な自己抗体はなく、リウマトイド因子や抗CCP抗体も通常陰性である。病態に免疫複合体による補体消費は関与しないため、血清補体価は低下しない。むしろ補体成分は炎症で肝臓からの産生が増える急性期タンパクであるため、正常〜上昇を示すことが多い。

低補体血症をきたす主な疾患

・免疫複合体による消費(古典経路):SLE、悪性関節リウマチ、クリオグロブリン血症、血清病、感染性心内膜炎に伴う腎炎など。C3・C4ともに低下し、特にクリオグロブリン血症ではC4低下が目立つ。 ・第二経路による消費:溶連菌感染後急性糸球体腎炎(C3低下、C4は正常のことが多い)、C3腎炎症候群(C3 nephritic factorなど)。 ・その他の消費:膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)、コレステロール塞栓症、敗血症・播種性血管内凝固(DIC)など。 ・産生低下:肝硬変・重症肝障害(補体は主に肝臓で合成される)。 ・先天性欠損:C1インヒビター欠損による遺伝性血管性浮腫(C4低下)、C1q・C2・C4欠損(SLE様症状を起こしやすい)など。

低補体血症を伴う糸球体腎炎

急性糸球体腎炎、ループス腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、クリオグロブリン血症性腎炎、感染性心内膜炎に伴う腎炎などが代表である。IgA腎症、微小変化型ネフローゼ症候群、膜性腎症、ANCA関連血管炎による腎炎では、一般に補体価は低下しない。

リウマチ性多発筋痛症の要点

・50歳以上に多く、女性にやや多い。 ・両肩・頸部・腰・大腿部の痛みとこわばり(特に朝)、微熱・倦怠感・体重減少を伴う。 ・赤沈亢進・CRP上昇があるが、RF・抗CCP抗体は通常陰性で、CK(クレアチンキナーゼ)は上昇しない(筋炎との鑑別点)。 ・巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)の合併に注意する(頭痛、顎跛行、視力障害)。 ・少量の副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)が著効する。

POINT

・CH50は古典経路の補体活性全体を反映する指標である。 ・免疫複合体の関与する疾患(SLE、悪性関節リウマチ、クリオグロブリン血症、急性糸球体腎炎、MPGNなど)では補体が消費され低下する。 ・肝硬変では産生低下により低下する。 ・補体は急性期タンパクでもあり、免疫複合体が関与しない炎症性疾患(リウマチ性多発筋痛症、通常の関節リウマチなど)では正常〜上昇する。 ・急性糸球体腎炎の低補体は一過性(8週以内に回復)、クリオグロブリン血症ではC4が著減。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。