採血のあとにできた膿疱は「感染」か―Behçet病の針反応が教える無菌性炎症
第107回医師国家試験 D問題 第49問
国試問題にチャレンジ
38歳の男性。発熱を主訴に来院した。3か月前から38℃台の発熱と多発するアフタ性口内炎とが出現するようになった。1か月前から両眼が赤くなり,まぶしく感じるようになった。身長164 cm,体重65 kg。体温38.2℃。脈拍92/分,整。血圧128/78 mmHg。呼吸数14/分。両眼が充血しており,左眼に前房蓄膿を認める。下腿に皮疹がみられた。尿検査と血液検査とを行い,2日後に再診した。尿所見:蛋白(-),糖(-),潜血(-)。血液所見:赤血球420万,Hb 13.0 g/dL,Ht 40%,白血球12,800,血小板42万。血液生化学所見:総蛋白6.8 g/dL,アルブミン3.4 g/dL。CRP 12 mg/dL。皮疹のみられた下腿の写真を別に示す。再診時に採血部位に小膿疱が生じていた。 この膿疱内容物の培養で予想されるのはどれか。

- a.黄色ブドウ球菌の検出
- b.カンジダの検出
- c.大腸菌の検出
- d.緑膿菌の検出
- e.菌は検出されない
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
再発性アフタ性口内炎、前房蓄膿を伴う虹彩毛様体炎、結節性紅斑様皮疹の組み合わせはBehçet病を強く示唆し、外陰部潰瘍を欠いても3主症状がそろえば不全型と診断できます。Behçet病では好中球機能が亢進しており、採血など軽い刺激の24〜48時間後に刺入部へ紅斑や小膿疱が生じる針反応(皮膚の被刺激性亢進)がみられ、これは無菌性のため培養で菌は検出されません。本症はHLA-B51との関連や自然免疫の異常による自己炎症性の側面が特徴で、針反応は陽性率が高くないため陰性でも否定はできません。治療ではコルヒチンや抗TNF-α抗体製剤が重要で、眼病変による視力障害や腸管型・血管型・神経型といった特殊病型に注意が必要です。「膿疱=感染」と短絡せず病態から考える姿勢は、不要な抗菌薬投与を避ける臨床判断にも直結します。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・38歳男性、3か月前から38℃台の発熱と、繰り返し多発するアフタ性口内炎がある。 ・1か月前から両眼の充血と羞明(まぶしさ)があり、左眼に前房蓄膿(眼の前房に白血球がたまり、下方に白色の液面を形成する所見)を認める。前房蓄膿を伴う虹彩毛様体炎(前部ぶどう膜炎)が考えられる。 ・下腿の皮疹は、写真と経過から有痛性の結節性紅斑様皮疹と考えられる。 ・白血球12,800、血小板42万、CRP 12 mg/dLと強い炎症反応がある。尿所見は正常である。 ・採血した部位に、2日後に小さな膿疱が生じている。
診断へのプロセス
発熱と強い炎症反応を示す疾患としては、感染症、膠原病・血管炎、悪性腫瘍などが広く鑑別に挙がる。そのうえで、再発性アフタ性口内炎、前房蓄膿を伴う虹彩毛様体炎、結節性紅斑様皮疹という組み合わせは、Behçet病に特徴的である。さらに採血部位の膿疱は、針を刺すといった軽い刺激でその部位に無菌性の膿疱や紅斑が生じる「皮膚の被刺激性亢進(針反応、pathergy)」であり、Behçet病を強く支持する。 Behçet病の4つの主症状(口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍、皮膚症状、眼症状、外陰部潰瘍)のうち、外陰部潰瘍を除く3つがそろうため、不全型Behçet病と診断できる。
設問の考え方
問われているのは、採血部位に生じた膿疱の中身を培養したときの結果である。この膿疱は細菌が針とともに入り込んで起きた感染ではなく、刺激に対して好中球が過剰に反応して局所に集まった結果である。すなわち無菌性膿疱であり、培養しても菌は検出されない。
選択肢考察
- ×a. 黄色ブドウ球菌の検出
黄色ブドウ球菌は皮膚の毛包炎、せつ、膿痂疹など、皮膚の化膿性感染症の代表的な原因菌であり、採血部位の感染でも問題となりうる。しかし本例の膿疱はBehçet病の針反応であり、好中球の過剰な反応による無菌性の病変である。したがって黄色ブドウ球菌は検出されない。
- ×b. カンジダの検出
カンジダは口腔カンジダ症(鵞口瘡)や、間擦部(皮膚が擦れ合う部位)のカンジダ症、免疫不全者の深在性真菌症などを起こす真菌である。口腔病変という点で連想されやすいが、本例の口腔病変は再発性アフタ性潰瘍であり、採血部位の膿疱も無菌性の針反応である。カンジダは検出されない。
- ×c. 大腸菌の検出
大腸菌は尿路感染症や腹腔内感染症の主要な原因菌であるが、皮膚の刺入部に生じる膿疱の原因となることは通常ない。本例の膿疱はBehçet病の皮膚の被刺激性亢進による無菌性膿疱であり、大腸菌は検出されない。
- ×d. 緑膿菌の検出
緑膿菌は湿った環境を好むグラム陰性桿菌で、熱傷創の感染、カテーテル関連感染、免疫不全者の日和見感染などの原因となる。本例の膿疱は感染によるものではなく、Behçet病の針反応による無菌性膿疱であるため、緑膿菌は検出されない。
- ○e. 菌は検出されない
Behçet病では好中球の機能が亢進しており、針を刺すなどのわずかな刺激でその部位に好中球が集まり、24〜48時間後に紅斑や小膿疱が生じる(針反応)。これは病原体によるものではなく、好中球の過剰な炎症反応による無菌性膿疱である。そのため、膿疱の内容物を培養しても菌は検出されない。本例でも採血の2日後に刺入部に膿疱が出現しており、これに当たる。
Behçet病の概要
・口腔粘膜のアフタ性潰瘍、皮膚症状、眼症状、外陰部潰瘍を4主症状とし、急性の炎症発作を繰り返す全身性の炎症性疾患である。 ・病態の中心は好中球の機能亢進であり、自己抗体が主役となる典型的な自己免疫疾患とは異なり、自然免疫の異常による自己炎症性の側面が強いと考えられている。血管炎としては、大小さまざまな動静脈を侵しうる「多様な血管を侵す血管炎」に分類される。 ・日本、中東、地中海沿岸などのシルクロード沿いの地域に多い。20〜40歳代に好発する。 ・HLA-B51との関連が知られている。眼病変や特殊病型は男性で重症化しやすい。
主症状
1) 口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍:ほぼ全例にみられ、初発症状であることが多い。 2) 皮膚症状:結節性紅斑様皮疹(下腿に多い有痛性の紅斑)、皮下の血栓性静脈炎、毛嚢炎様皮疹・痤瘡様皮疹。皮膚の被刺激性亢進(針反応)も参考所見である。 3) 眼症状:虹彩毛様体炎(前房蓄膿を伴うことがある)、網膜ぶどう膜炎。網膜病変を繰り返すと視力予後が悪く、失明の原因となる。 4) 外陰部潰瘍:男性では陰嚢、女性では大・小陰唇に生じる有痛性の潰瘍。
副症状と特殊病型
・副症状:関節炎(変形や強直を伴わない)、副睾丸炎(精巣上体炎)、回盲部潰瘍に代表される消化器病変、血管病変、中等度以上の中枢神経病変。 ・特殊病型:腸管型(回盲部の打ち抜き潰瘍、穿孔に注意)、血管型(動脈瘤、静脈血栓症)、神経型(髄膜炎、脳幹病変など)。
診断基準(厚生労働省研究班)の病型
・完全型:経過中に4主症状が出現したもの。 ・不全型:3主症状、2主症状と2副症状、典型的な眼症状とその他の1主症状、あるいは典型的な眼症状と2副症状が出現したもの。 ・針反応はBehçet病の診断の参考となる検査所見であるが、陽性率は高くなく、陰性でも本症を否定できない。
治療
・口腔潰瘍や皮膚・粘膜症状:局所ステロイド、コルヒチン。口腔潰瘍にはアプレミラスト(ホスホジエステラーゼ4阻害薬)も用いられる。 ・眼病変:発作時はステロイド点眼などの局所療法。発作予防にはコルヒチン、シクロスポリン、難治例には抗TNF-α抗体製剤(インフリキシマブ、アダリムマブ)を用いる。抗TNF-α抗体製剤の登場で眼病変の予後は大きく改善した。 ・シクロスポリンは神経型Behçet病を誘発・悪化させることがあるため注意する。 ・腸管型・血管型・神経型ではステロイドや免疫抑制薬、抗TNF-α抗体製剤などを用いる。
POINT
・再発性アフタ性口内炎+前房蓄膿を伴う虹彩毛様体炎+結節性紅斑様皮疹はBehçet病を考える。 ・採血部位などに生じる膿疱は皮膚の被刺激性亢進(針反応)であり、無菌性膿疱なので培養で菌は検出されない。 ・4主症状(口腔アフタ、皮膚症状、眼症状、外陰部潰瘍)がすべてそろえば完全型、3主症状なら不全型である。 ・HLA-B51との関連、好中球機能亢進が病態の中心であることを押さえる。 ・難治性の眼病変には抗TNF-α抗体製剤が用いられる。
