22歳の「よく動くしこり」―年齢・触診・超音波で読み解く乳腺線維腺腫
第107回医師国家試験 D問題 第48問
国試問題にチャレンジ
22歳の女性。右乳房のしこりを主訴に来院した。右乳房に長径約2 cmの卵形の腫瘤を触知する。腫瘤は表面平滑,弾性硬および可動性良好で圧痛を認めない。乳頭からの分泌物を認めない。乳房超音波像を別に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.乳癌
- b.Mondor病
- c.慢性乳腺炎
- d.乳管内乳頭腫
- e.乳腺線維腺腫
対話形式の解説
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ドクターまとめ
10〜30歳代の女性で、表面平滑・弾性硬・可動性良好・圧痛のない乳房腫瘤をみたら、まず乳腺線維腺腫を考えます。超音波で境界明瞭平滑な楕円形(横長)の低エコー腫瘤、内部均一、後方エコーの増強や外側陰影を認めれば線維腺腫に典型的で、境界不整・縦長・後方エコー減弱などを示す乳癌とは対照的です。乳頭からの血性分泌なら乳管内乳頭腫や乳癌、皮下の索状硬結ならMondor病、炎症所見を伴えば乳腺炎を考えるなど、随伴症状が鑑別の手がかりになります。線維腺腫の典型例は経過観察が基本ですが、急速な増大や大きな腫瘤では葉状腫瘍との鑑別を念頭に生検や摘出を検討します。年齢・触診・超音波の3つを組み合わせて良悪性を判断する考え方は、乳房腫瘤診療の基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・22歳という若年女性の乳房腫瘤である。 ・長径約2 cmの卵形の腫瘤で、表面平滑、弾性硬(ゴムまりのような硬さ)、可動性良好、圧痛なし。 ・乳頭分泌はない。 ・超音波像:境界明瞭で辺縁が平滑な楕円形の低エコー腫瘤であり、内部エコーはほぼ均一である。腫瘤の後方エコーはやや増強し、両側縁から後方へ伸びる外側陰影(側方陰影)がみられる。形は横長で、縦横比(腫瘤の厚さ÷幅)は小さい。
診断へのプロセス
乳房のしこりを診るときは、まず年齢と触診所見、次いで画像所見から良性か悪性かを考える。 ・年齢:10〜30歳代の女性の乳房腫瘤で最も多いのは線維腺腫であり、乳癌は40歳代以降に多い。 ・触診:表面平滑、弾性硬、よく動く(乳腺内で逃げるように動く)、圧痛なしは良性腫瘍、特に線維腺腫の典型像である。乳癌では硬く、表面が凹凸不整で、周囲組織への浸潤により可動性が不良となり、皮膚のえくぼ症状(dimpling)などを伴うことがある。 ・超音波:境界明瞭平滑、楕円形、内部均一、縦横比が小さい(横長)、後方エコーが保たれるかやや増強する、という所見は良性腫瘤を示し、線維腺腫に典型的である。 ・炎症所見(発赤、熱感、疼痛)や乳頭分泌、索状の硬結がないことから、乳腺炎、乳管内乳頭腫、Mondor病も考えにくい。 以上より、最も考えられるのは乳腺線維腺腫である。
選択肢考察
- ×a. 乳癌
乳癌は40歳代以降に多く、20歳代前半では非常にまれである。触診では石のように硬く、表面が凹凸不整で、周囲への浸潤のため可動性が不良となりやすい。超音波では境界不明瞭・辺縁不整(ぎざぎざ、スピキュラ)、縦横比が大きい(縦長)、内部エコー不均一、後方エコーの減弱、境界部の高エコー像(halo)、乳腺前方境界線の断裂などがみられる。本例の若年、表面平滑で可動性良好、境界明瞭平滑で内部均一な楕円形腫瘤という所見はいずれも乳癌の特徴に合わない。なお、微細石灰化は乳癌を示唆する所見であるが、主にマンモグラフィで評価される。
- ×b. Mondor病
Mondor病は、乳房から前胸壁・上腹壁の皮下を走る浅在静脈(胸腹壁静脈など)に起こる血栓性静脈炎である。皮膚の直下に、縦に走る索状の硬結を触れ、皮膚を引っ張ると溝状のくぼみが現れる。痛みを伴うことが多いが、多くは数週間で自然に軽快する。卵形の腫瘤として触れる疾患ではなく、本例とは合わない。
- ×c. 慢性乳腺炎
慢性乳腺炎には、陥没乳頭などを背景に乳輪下に膿瘍と瘻孔形成を繰り返す乳輪下膿瘍や、肉芽腫性乳腺炎などが含まれる。発赤、腫脹、圧痛などの炎症所見を伴うことが多く、超音波では境界不明瞭な低エコー域や膿瘍腔として描出される。本例は圧痛や炎症所見がなく、境界明瞭平滑な充実性腫瘤であるため合わない。
- ×d. 乳管内乳頭腫
乳管内乳頭腫は乳管上皮から発生する良性の乳頭状腫瘍で、主に乳輪下の太い乳管に生じ、中年女性に多い。典型的な症状は乳頭からの血性または漿液性の分泌物であり、腫瘤を触れないことも多い。超音波では拡張した乳管の内部に充実性の隆起がみられる。本例は乳頭分泌がなく、乳管の拡張を伴わない楕円形腫瘤であり合わない。
- ○e. 乳腺線維腺腫
線維腺腫は乳腺の線維性間質と上皮成分がともに増殖する良性腫瘍で、10〜30歳代に好発し、若年女性の乳房腫瘤として最も頻度が高い。触診では表面平滑、弾性硬で、境界明瞭でよく動く腫瘤として触れ、圧痛はない。超音波では境界明瞭平滑な楕円形(横長)の低エコー腫瘤で、内部は均一、後方エコーは不変〜増強し、外側陰影を伴うことが多い。本例の年齢、触診所見、超音波所見はいずれもこれに一致する。
乳腺線維腺腫
・乳腺の良性腫瘍で、エストロゲンの影響を受けて増大することがある。妊娠・授乳期に大きくなり、閉経後は退縮して粗大な石灰化を伴うことがある。 ・多発や両側性のこともある。大きさは数cm以内のことが多いが、若年者で急速に大きくなるもの(巨大線維腺腫)もある。 ・診断:視触診、超音波で典型的であれば経過観察でよい。診断が確定しない場合は穿刺吸引細胞診や針生検で組織を確認する。 ・治療:典型例は経過観察とする。増大傾向のあるもの、3 cm程度以上の大きなもの、葉状腫瘍との鑑別が必要なものは摘出を考慮する。 ・鑑別:葉状腫瘍は線維腺腫に似るが、40歳代に多く、急速に増大し、大きくなりやすい。良性・境界病変・悪性に分類され、局所再発しやすいため、周囲の正常組織を含めて切除する。
乳房腫瘤の良悪性を見分ける超音波所見
・良性を示唆:境界明瞭平滑、楕円形・円形、縦横比が小さい(横長)、内部エコー均一、後方エコーの増強、外側陰影。 ・悪性を示唆:境界不明瞭・辺縁不整、縦横比が大きい(縦長)、内部エコー不均一、後方エコーの減弱、境界部高エコー像(halo)、乳腺前方境界線の断裂、点状の高エコー(石灰化)。
年齢と乳房腫瘤
・10〜20歳代:線維腺腫が大部分を占める。 ・30〜40歳代:乳腺症(乳腺の増殖と退縮の不均衡による良性変化)が多い。 ・40歳代以降:乳癌の頻度が高くなる。日本人女性の乳癌は40歳代後半と60歳代に発症のピークがある。
その他の選択肢の疾患の要点
・Mondor病:胸壁の浅在性血栓性静脈炎。皮下の索状物。自然軽快が多い。 ・乳管内乳頭腫:乳頭からの血性分泌が主症状。乳頭分泌では乳管内乳頭腫と乳癌(非浸潤性乳管癌など)の鑑別が重要である。 ・乳輪下膿瘍:陥没乳頭などを背景に、乳輪下に膿瘍と瘻孔形成を繰り返す。
POINT
・若年女性(10〜30歳代)の、表面平滑・弾性硬・可動性良好な乳房腫瘤は線維腺腫をまず考える。 ・超音波で境界明瞭平滑、楕円形、内部均一、縦横比が小さい、後方エコーの増強と外側陰影は良性(線維腺腫)を示す。 ・乳癌は40歳代以降に多く、硬く凹凸不整、可動性不良で、超音波では境界不整、縦横比が大きい、後方エコーの減弱などを示す。 ・乳頭分泌(特に血性)は乳管内乳頭腫と乳癌、皮下の索状硬結はMondor病を考える。
