StudyMed医師国家試験

「夜盲」が「夜尿」にすり替わる―栄養素の役割から解く欠乏症の組合せ

第107回医師国家試験 B問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第107回 B問題 第16問

栄養障害と病態・疾患の組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.ビタミンA欠乏 ―― 夜尿症
  2. b.ビタミンB1欠乏 ―― Wernicke脳症
  3. c.ビタミンB12欠乏 ―― 巨赤芽球性貧血
  4. d.カルシウム欠乏 ―― 骨粗鬆症
  5. e.亜鉛欠乏 ―― 味覚障害

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、ビタミンやミネラルが欠乏したときに何が起こるかを問う問題だ。「誤っているもの」を1つ選ぶ形式だから、それぞれの組合せが本当に対応しているかを確かめていこう。コツは、丸暗記ではなく「その栄養素が体の中で何をしているか」から考えることだよ。
医学生医学生
生化学の講義でビタミンの補酵素の表を覚えさせられましたが、正直、欠乏症とはバラバラに覚えてしまっています。
ドクタードクター
それはもったいないね。役割がわかれば、欠乏したときにどの臓器が困るかは自然に推測できる。まずはビタミンAからいこう。ビタミンAは体の中で何に使われているかな。
医学生医学生
網膜の視物質、ロドプシンの材料でしたよね。だから欠乏すると……あれ、夜尿症ではなく夜盲症じゃないですか。
ドクタードクター
その通り、ここが正解だ。ビタミンAから作られる11-シス-レチナールは、杆体細胞のロドプシンの構成成分になる。欠乏するとロドプシンの再合成が追いつかず、暗い所に目が慣れる暗順応が障害される。これが夜盲症、いわゆる「とり目」だね。
医学生医学生
一字違いで全然違う病気になるんですね。夜尿症はおねしょのことですよね。
ドクタードクター
そう。夜尿症は主に小児にみられる睡眠中の無意識の排尿で、膀胱容量の小ささや夜間の抗利尿ホルモン分泌不足、覚醒の障害などが関わる。ビタミンAとはまったく関係がない。名前の似た病態にすり替える出題はよくあるから、焦って読み飛ばさないことが大切だよ。
医学生医学生
ビタミンA欠乏では、ほかにどんな症状が出るんでしょうか。
ドクタードクター
ビタミンAは上皮の維持にも必要だから、角膜や結膜が乾燥する眼球乾燥症、結膜のBitot斑が出て、進行すると角膜軟化症から失明に至ることもある。皮膚の角化異常や易感染性もみられるよ。では次、ビタミンB1とWernicke脳症はどうかな。
医学生医学生
B1は糖代謝の補酵素なので、エネルギーをたくさん使う神経がやられる、ということでしょうか。
ドクタードクター
いい推論だね。チアミンはピルビン酸脱水素酵素などの補酵素で、欠乏すると神経や心筋が障害される。Wernicke脳症は意識障害、眼球運動障害、小脳性運動失調の3徴が有名で、アルコール多飲者や妊娠悪阻、ビタミンB1を含まない高カロリー輸液で起こりうる。慢性化するとKorsakoff症候群に移行するし、末梢神経障害と心不全をきたす脚気もB1欠乏だ。だからこれは正しい組合せだよ。
医学生医学生
救急科を回ったとき、酩酊した患者さんにブドウ糖より先にビタミンB1を入れていたのを見ました。
ドクタードクター
まさにそれが大事なポイント。ブドウ糖だけを投与するとB1の消費が増えて欠乏が顕在化・悪化することがあるから、疑ったらB1を先行または同時に投与する。続いてビタミンB12と巨赤芽球性貧血はどうだろう。
医学生医学生
B12は葉酸と一緒にDNA合成に必要なので、核の成熟が遅れて大きな赤芽球になる、ですよね。
ドクタードクター
正解。細胞質に比べて核の成熟が遅れ、骨髄に巨赤芽球が出て大球性貧血になる。好中球の過分葉もみられるね。原因としては内因子に対する自己抗体による悪性貧血、胃全摘後、回腸末端の病変や切除が重要だ。葉酸欠乏と違い、亜急性連合性脊髄変性症などの神経症状を伴いうる点も押さえておこう。これも正しい組合せだ。
医学生医学生
カルシウムと骨粗鬆症は素直に正しそうですが、骨軟化症とは違うんでしょうか。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。カルシウムの摂取不足が続くと、血中濃度を保つために副甲状腺ホルモンの作用で骨からカルシウムが動員され、骨量が減って骨粗鬆症のリスクが上がる。一方、骨基質の石灰化そのものが障害される骨軟化症、小児ではくる病は、主にビタミンDやリンの欠乏で起こる。骨の「量が減る」のか「石灰化できない」のかで区別しよう。
医学生医学生
最後の亜鉛と味覚障害は、CBTの勉強でも何度も見た組合せです。
ドクタードクター
そうだね。亜鉛は多くの酵素の構成成分で細胞増殖に必要だ。味蕾の味細胞は短い周期で入れ替わるから、亜鉛が不足すると再生が滞って味覚障害になる。ほかに口囲・肛囲・四肢末端の皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延、下痢なども起こり、長期の中心静脈栄養や遺伝性の腸性肢端皮膚炎が原因になる。これも正しい。
医学生医学生
結局、役割を押さえておけば、Aは目、B1は神経と心臓、B12は血液と神経、カルシウムは骨、亜鉛は入れ替わりの速い組織、と整理できるんですね。
ドクタードクター
見事なまとめだ。臨床では、アルコール多飲者や長期の経静脈栄養、胃切除後、高齢者の低栄養など、欠乏症が起こりやすい背景を意識することが大切だよ。ほかにもナイアシン欠乏のペラグラ、ビタミンC欠乏の壊血病、ビタミンK欠乏による新生児の出血傾向、セレン欠乏の心筋症なども同じ考え方で整理しておこう。
医学生医学生
中心静脈栄養の患者さんでは、微量元素やビタミンの入れ忘れにも気をつけないといけませんね。
ドクタードクター
その通り。栄養管理は地味に見えて、防げる合併症を防ぐための大事な仕事なんだ。

まとめ

ビタミンAは網膜のロドプシンの材料であり、欠乏すると暗順応が障害されて夜盲症をきたします。本問では、それが名前の似た夜尿症にすり替えられた組合せが誤りでした。ビタミンB1欠乏はWernicke脳症や脚気、ビタミンB12欠乏は巨赤芽球性貧血や亜急性連合性脊髄変性症、カルシウム欠乏は骨粗鬆症、亜鉛欠乏は味覚障害や皮膚炎をきたし、骨軟化症・くる病は主にビタミンDやリンの欠乏による点も区別が必要です。栄養素の体内での役割から欠乏時に障害される臓器を推測する考え方を身につけると、知識が整理されるだけでなく、アルコール多飲者や中心静脈栄養患者など欠乏症のリスクが高い患者の診療にも役立ちます。

解答・解説

正解はaです

本問は、ビタミンや微量元素・ミネラルの欠乏と、それによって生じる代表的な病態・疾患との対応を問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、対応が正しくない組合せを1つ選ぶ。 栄養素欠乏症を覚える際は、その栄養素が体内でどのような役割を果たしているかと結びつけると整理しやすい。例えば、ビタミンAは網膜の視物質の材料、ビタミンB1は糖代謝の補酵素、ビタミンB12はDNA合成と神経髄鞘の維持、カルシウムは骨の主成分、亜鉛は多数の酵素の構成成分であり細胞増殖に必要、といった具合である。役割がわかれば、欠乏したときに障害される臓器・機能が推測できる。 本問では、ビタミンA欠乏の症状として知られる「夜盲症」が、名前の似た「夜尿症」にすり替えられている点を見抜けるかがポイントとなる。

選択肢考察

  1. ○a.  ビタミンA欠乏 ―― 夜尿症

    組合せが誤っているので、これが正解である。ビタミンA(レチノール)は網膜の杆体細胞にある視物質ロドプシンの構成成分(11-シス-レチナール)となる。欠乏するとロドプシンが十分に再合成されず、暗い場所で目が慣れる暗順応が障害されて夜盲症(とり目)を生じる。このほか、角膜・結膜の乾燥(眼球乾燥症)、結膜のBitot斑、進行すると角膜軟化症から失明に至ることがあり、皮膚の角化異常や易感染性もみられる。夜尿症は、夜間睡眠中に無意識に排尿してしまう状態で、主に小児にみられ、膀胱容量の小ささ、夜間の抗利尿ホルモン分泌の不足、覚醒障害などが関与する。ビタミンA欠乏とは関係がない。

  2. ×b.  ビタミンB1欠乏 ―― Wernicke脳症

    正しい組合せである。ビタミンB1(チアミン)は、ピルビン酸脱水素酵素やα-ケトグルタル酸脱水素酵素などの補酵素として糖代謝に不可欠である。欠乏すると、エネルギー需要の大きい神経や心筋が障害される。Wernicke脳症は、意識障害、眼球運動障害(外眼筋麻痺・眼振)、小脳性運動失調(歩行失調)を3徴とし、アルコール多飲者、低栄養、妊娠悪阻、ビタミンB1を含まない高カロリー輸液などで発症する。慢性化するとKorsakoff症候群(健忘・作話・失見当識)に移行する。末梢神経障害と心不全(高拍出性)をきたす脚気もビタミンB1欠乏症である。ブドウ糖投与によって欠乏が顕在化・悪化することがあるため、疑った時点でビタミンB1を先行または同時に投与する。

  3. ×c.  ビタミンB12欠乏 ―― 巨赤芽球性貧血

    正しい組合せである。ビタミンB12は葉酸とともにDNA合成に必要であり、欠乏すると細胞質の成熟に比べて核の成熟が遅れ、骨髄に大型の巨赤芽球が出現する(無効造血)。末梢血では大球性貧血(MCV高値)となり、好中球の過分葉もみられる。原因として、内因子に対する自己抗体による悪性貧血(萎縮性胃炎を伴う)、胃全摘後、回腸末端の切除・病変などが重要である。ビタミンB12欠乏では、葉酸欠乏と異なり、後索と側索が障害される亜急性連合性脊髄変性症や末梢神経障害などの神経症状を伴いうる。

  4. ×d.  カルシウム欠乏 ―― 骨粗鬆症

    正しい組合せである。カルシウムは骨の主要な構成成分(ヒドロキシアパタイト)であり、摂取不足が続くと血中カルシウム濃度を保つために副甲状腺ホルモンの作用で骨からカルシウムが動員され、骨量が減少する。これにより骨粗鬆症のリスクが高まる。骨粗鬆症の予防・治療では、カルシウムとビタミンDの十分な摂取が基本とされる。なお、骨基質の石灰化障害である骨軟化症(小児ではくる病)は、主にビタミンD欠乏やリン欠乏によって生じる。

  5. ×e.  亜鉛欠乏 ―― 味覚障害

    正しい組合せである。亜鉛は多くの酵素の構成成分であり、細胞分裂・タンパク合成に必要である。舌の味蕾の味細胞は約10日前後の短い周期で新しく入れ替わるため、亜鉛が不足するとその再生が滞り、味覚障害を生じる。亜鉛欠乏ではほかに、皮膚炎(口囲・肛囲・四肢末端に好発)、脱毛、創傷治癒遅延、下痢、免疫能低下、小児の成長障害、性腺機能低下などがみられる。遺伝性の腸性肢端皮膚炎や、長期の中心静脈栄養、キレート作用をもつ薬剤の服用などが原因となる。

主なビタミン欠乏症

・ビタミンA:夜盲症、眼球乾燥症、Bitot斑、角膜軟化症、皮膚の角化 ・ビタミンB1(チアミン):脚気(末梢神経障害・心不全)、Wernicke脳症、Korsakoff症候群、乳酸アシドーシス ・ビタミンB2(リボフラビン):口角炎、口唇炎、舌炎、脂漏性皮膚炎 ・ナイアシン:ペラグラ(皮膚炎・下痢・認知症の3D) ・ビタミンB6:末梢神経障害、口角炎、けいれん(乳児)、鉄芽球性貧血(イソニアジド服用時に注意) ・葉酸:巨赤芽球性貧血、妊娠初期の欠乏で胎児の神経管閉鎖障害 ・ビタミンB12:巨赤芽球性貧血、亜急性連合性脊髄変性症、Hunter舌炎 ・ビタミンC:壊血病(歯肉出血、皮下出血、創傷治癒遅延) ・ビタミンD:くる病(小児)、骨軟化症(成人) ・ビタミンK:出血傾向(新生児メレナ、頭蓋内出血)

主なミネラル・微量元素欠乏症

・カルシウム:骨粗鬆症、低カルシウム血症によるテタニー ・鉄:小球性低色素性貧血、匙状爪、舌炎・嚥下障害(Plummer-Vinson症候群) ・亜鉛:味覚障害、皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延 ・銅:貧血、好中球減少、Menkes病(先天性の銅輸送障害) ・セレン:心筋症(克山病) ・ヨウ素:甲状腺腫、甲状腺機能低下症

夜盲症と夜尿症

夜盲症は暗所で見えにくくなる視覚の障害であり、ビタミンA欠乏のほか網膜色素変性症でもみられる。夜尿症は5歳以降にも睡眠中の尿失禁が月1回以上、3か月以上続く状態を指し、泌尿器・小児科領域のテーマである。

POINT

・ビタミンA欠乏→夜盲症(夜尿症ではない) ・ビタミンB1欠乏→Wernicke脳症、脚気 ・ビタミンB12欠乏→巨赤芽球性貧血、亜急性連合性脊髄変性症 ・カルシウム欠乏→骨粗鬆症/ビタミンD欠乏→くる病・骨軟化症 ・亜鉛欠乏→味覚障害、皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。