「考えが抜き取られる」は誰の体験か―自我障害を訴えの言葉から見抜く
第107回医師国家試験 B問題 第15問
国試問題にチャレンジ
自我障害の訴えはどれか。
- a.「脳が溶けています」
- b.「自分の考えが抜き取られます」
- c.「皆が自分の悪口を言っています」
- d.「食事に変なものを入れられています」
- e.「何か恐ろしいことが起こりそうです」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
自我障害とは、自分の思考や行動が自分のものであるという能動性や、自分と外界を区別する境界性などの自我意識が損なわれた状態で、考想奪取・考想吹入・考想伝播・させられ体験が代表です。これらはSchneiderの一級症状に含まれ、統合失調症を強く示唆します。一方、「脳が溶けている」は体感幻覚(知覚の障害)、「悪口を言われる」「食事に毒を入れられる」は被害妄想・被毒妄想(思考内容の障害)、「何か恐ろしいことが起こりそう」は妄想気分(一次妄想)であり、自我障害とは区別されます。患者の訴えを知覚・思考内容・気分・自我のどの異常かに仕分ける力は、精神科面接で症状を正確に把握し、診断へつなげるための基本となります。
解答・解説
正解はbです
本問は、精神症状を患者の訴え(陳述)から分類できるかを問う問題である。精神症状は大きく、知覚の障害(幻覚など)、思考の障害(思考過程の障害と、妄想などの思考内容の障害)、自我意識の障害(自我障害)、感情・意欲の障害などに分けられる。 自我障害とは、「自分の考えや行動は自分のものであり、自分が行っている」という当たり前の感覚(自我意識)が損なわれた状態である。Jaspersは自我意識を、①能動性(自分が考え行動しているという意識)、②単一性(自分は一人であるという意識)、③同一性(過去と現在の自分が同じであるという意識)、④境界性(自分と外界・他者とは区別されているという意識)の4つの側面に整理した。統合失調症では特に能動性と境界性が障害され、「考えが外から入れられる」「考えが抜き取られる」「誰かに操られている」といった、自分と外界との境界が破綻した体験として訴えられる。 したがって、各選択肢の訴えが「知覚」「思考内容」「気分」のどれの異常なのか、それとも「自分の精神活動の主体性・境界」が侵される体験なのかを見分けることが解答の鍵となる。
選択肢考察
- ×a. 「脳が溶けています」
身体の内部に対象のない奇妙な感覚を実際に感じている体験であり、体感幻覚(セネストパチー)に分類される。体感幻覚は知覚の障害であり、「内臓が腐っている」「体に電気をかけられている」「脳が溶けている」など、現実にはあり得ない奇異な内容をとるのが特徴である。統合失調症のほか、体感症(セネストパチー)として単独でみられることもある。自我の能動性や境界の障害ではないため、自我障害には当たらない。
- ○b. 「自分の考えが抜き取られます」
自分の思考が他者や外部の力によって奪い去られると感じる体験で、考想奪取(思考奪取)と呼ばれる。本来自分のものであるはずの思考が、自分の意思と無関係に外から操作されると体験している点で、自我意識の能動性と境界性が障害されており、典型的な自我障害である。考想奪取は、考想吹入(他人の考えが入れられる)、考想伝播(自分の考えが周囲に伝わってしまう)、させられ体験(作為体験)とともに、Schneiderの一級症状に含まれ、統合失調症を強く示唆する症状である。
- ×c. 「皆が自分の悪口を言っています」
周囲の人々が自分に敵意をもち害を加えてくると確信している訴えで、被害妄想(思考内容の障害)に当たる。周囲の出来事や他人の言動を何でも自分に関係づけて解釈する関係妄想(自己関係づけ)を伴うことが多い。実際に悪口の声が聞こえている場合には幻聴(知覚の障害)としても捉えうるが、いずれにせよ自我障害には該当しない。
- ×d. 「食事に変なものを入れられています」
毒を盛られている、飲食物に何かを混入されていると確信する訴えで、被毒妄想と呼ばれ、被害妄想の一型である(思考内容の障害)。拒食の原因となることがある。自分の思考や行為の主体性が侵される体験ではないので、自我障害ではない。
- ×e. 「何か恐ろしいことが起こりそうです」
明確な内容はないまま、周囲の雰囲気が変わってしまい、何か重大で不気味なことが起こりそうだと感じる状態で、妄想気分と呼ばれる。統合失調症の発病初期に多くみられ、一次妄想(了解不能な妄想)の一型とされる。やがて具体的な妄想内容へと発展していくことがあるが、自我意識そのものの障害ではないため、自我障害には当たらない。
自我障害の主な症状
・考想奪取:自分の考えが抜き取られる。 ・考想吹入:他人の考えが自分の中に入れられる。 ・考想伝播:自分の考えが周囲に伝わってしまう、皆に知られてしまう。 ・させられ体験(作為体験):自分の行動・感情・意思が他者に操られている。 ・離人症:自分や外界の実感が失われ、現実感がない(主に能動性の障害。統合失調症以外、解離性障害やうつ病などでもみられる)。 ・二重身(ドッペルゲンガー):自分がもう一人いる(単一性の障害)。
Schneiderの一級症状
考想化声、話しかけと応答の形の幻聴、自分の行為を批評する幻聴、身体への影響体験、考想奪取およびその他の思考への干渉(考想吹入など)、考想伝播、妄想知覚、感情・衝動・意思の領域におけるさせられ体験。器質的疾患がなければ統合失調症を強く疑う根拠となるが、これらがなくても統合失調症は否定できず、単独での診断的特異性にも限界がある。
一次妄想(真正妄想)の3型
・妄想気分:何か不気味なことが起こりそうだと感じる。 ・妄想知覚:実際の知覚に、了解不能な特別な意味づけがなされる(例:「カラスが鳴いたのは自分が狙われている合図だ」)。 ・妄想着想:突然、根拠なく思いつき、それを確信する。
妄想の内容による分類
・被害妄想:被害・関係・注察・追跡・被毒・嫉妬妄想など(統合失調症に多い)。 ・微小妄想:罪業・貧困・心気妄想(うつ病に多い)。 ・誇大妄想:血統・発明・宗教妄想など(躁状態に多い)。
POINT
・自我障害=自分の思考・行動の主体性(能動性)や自他の境界が失われる体験 ・考想奪取・考想吹入・考想伝播・させられ体験(作為体験)は自我障害の代表で、Schneiderの一級症状に含まれる ・「脳が溶ける」=体感幻覚(知覚の障害) ・「悪口を言われる」=被害妄想、「食事に毒」=被毒妄想(思考内容の障害) ・「何か恐ろしいことが起こりそう」=妄想気分(一次妄想)
