StudyMed医師国家試験

「硬い肺」と「縮まない肺」―病変の場所から読み解く呼吸機能異常

第107回医師国家試験 B問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第107回 B問題 第13問

疾患と呼吸機能の異常との組合せで正しいのはどれか。

  1. a.肺気腫 ―― 残気量の減少
  2. b.肺線維症 ―― 肺コンプライアンスの低下
  3. c.肺動静脈瘻 ―― 肺拡散能の低下
  4. d.呼吸筋麻痺 ―― 換気血流不均等分布
  5. e.肺血栓塞栓症 ―― 1秒率の低下

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、疾患ごとに呼吸機能のどんな異常が出るかを組み合わせる問題だ。丸暗記ではなく、「その病気は気道・肺胞壁・血管・呼吸ポンプのどこを障害するのか」を考えると、自然に答えが導けるよ。まずは呼吸機能の異常を大きく2つに分けてみよう。
医学生医学生
換気の障害とガス交換の障害、でしょうか。換気の方は閉塞性と拘束性に分かれると生理学で習いました。
ドクタードクター
その通り。閉塞性は気道が狭くて速く吐き出せない状態で、1秒率が70%未満。拘束性は肺が十分に膨らまない状態で、%肺活量が80%未満だ。拘束性には肺自体が硬くなるタイプと、膨らませる力が足りないタイプがある。では、肺線維症と肺コンプライアンスの関係はどうかな。
医学生医学生
コンプライアンスは肺の膨らみやすさでしたよね。線維化して硬くなるなら、下がると思います。
ドクタードクター
正解。肺コンプライアンスは容量変化を圧変化で割ったもので、肺線維症では間質に膠原線維が沈着して肺が硬くなるから、同じ圧をかけても膨らみにくい。結果として肺活量や全肺気量が減る拘束性換気障害になる。さらに肺胞壁が厚くなり毛細血管床も減るので、拡散能も下がって、特に労作時に低酸素血症が目立つんだ。これが正しい組合せだよ。
医学生医学生
呼吸器内科の実習で、間質性肺炎の患者さんが6分間歩行試験でどんどんSpO2が下がっていくのを見ました。拡散障害だったんですね。
ドクタードクター
いい経験をしたね。では肺気腫の残気量はどうだろう。
医学生医学生
肺胞が壊れるから、肺の容量は減りそうな気がします。
ドクタードクター
そこが典型的なひっかけだね。肺気腫では肺胞壁が破壊されて、肺が縮もうとする弾性収縮力が失われる。加えて呼気時に末梢気道がつぶれやすく、空気が閉じ込められる。だから息を吐ききれず、残気量は減るどころか増加するんだ。胸部X線写真で肺が過膨張して横隔膜が平らになるのは、これを反映している。
医学生医学生
なるほど、肺線維症とは正反対で、肺気腫は膨らみやすいけど縮みにくい肺、ということですね。コンプライアンスはむしろ上がるんですか。
ドクタードクター
その理解で合っている。肺気腫はコンプライアンス上昇、残気量増加、閉塞性障害。肺線維症はコンプライアンス低下、肺気量減少、拘束性障害。力学的に対になる病態としてセットで覚えると忘れにくいよ。次は肺動静脈瘻。拡散能は下がると思う?
医学生医学生
酸素が取り込めなくなるので、拡散能が下がるのかと思いました。
ドクタードクター
低酸素血症になるのは確かだけど、機序が違うんだ。肺動静脈瘻は肺動脈と肺静脈が毛細血管を通らずに直接つながる異常血管で、静脈血が肺胞を素通りして体循環に流れ込む。つまり右→左シャントだね。肺胞壁や毛細血管床そのものは保たれているから、拡散能は通常は正常で、低下しても軽度にとどまる。
医学生医学生
シャントなら、100%酸素を吸わせてもあまり改善しないんでしたよね。オスラー病に合併しやすいと国試の過去問で見た気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。遺伝性出血性毛細血管拡張症に多く、シャントを通って血栓や細菌が体循環に入るから、脳梗塞や脳膿瘍の原因にもなる。ここで低酸素血症の4つの機序、肺胞低換気・換気血流比不均等・拡散障害・シャントを押さえておこう。では、呼吸筋麻痺はどれにあたるかな。
医学生医学生
肺そのものは正常で、膨らませる力が足りないので、肺胞低換気ですか。
ドクタードクター
その通り。筋萎縮性側索硬化症やギラン・バレー症候群、重症筋無力症、高位頸髄損傷などで起こる。肺全体の換気量が不足するからPaCO2が上がり、PaO2が下がるけれど、A-aDO2は正常に保たれるのが特徴だ。換気血流不均等分布は肺実質や肺血管に病変がある病気でみられるもので、呼吸筋麻痺の本質的な異常ではない。無気肺を合併すれば二次的に加わることはあるけどね。
医学生医学生
神経内科の実習で、ALSの患者さんの%肺活量を定期的に測って、非侵襲的陽圧換気の導入時期を判断していました。拘束性障害の指標でもあるんですね。
ドクタードクター
まさにそうだね。最後に肺血栓塞栓症。障害されるのは気道ではなく肺の血管だから、気道狭窄は起こらず1秒率は通常保たれる。塞栓部位では換気があるのに血流がなく、残りの肺に血流が集中するから、換気血流比不均等で低酸素血症になる。過換気を伴うのでPaCO2はむしろ下がり、A-aDO2は開大するのが典型だ。
医学生医学生
PaO2もPaCO2も低くて、A-aDO2が開いていたら肺血栓塞栓症を考える、という流れですね。
ドクタードクター
そう、救急外来で突然の呼吸困難を診たときに大事な考え方だよ。拡散能についても補足しておくと、肺線維症や肺気腫、肺血管疾患、貧血で低下する一方、気管支喘息では通常保たれるから、COPDとの鑑別にも使える。病変の場所と力学の両方から考えるくせをつけておこう。

まとめ

呼吸機能の異常は、1秒率で評価する閉塞性障害と%肺活量で評価する拘束性障害という換気の障害と、肺胞低換気・換気血流比不均等・拡散障害・シャントという低酸素血症の4機序に分けて整理すると理解しやすくなります。肺線維症は間質の線維化で肺が硬くなるため肺コンプライアンスが低下し、拘束性障害と拡散能低下を来します。対照的に肺気腫はコンプライアンス上昇と残気量増加を示し、肺動静脈瘻は拡散障害ではなく右→左シャント、呼吸筋麻痺はA-aDO2が正常な肺胞低換気、肺血栓塞栓症は1秒率が保たれたまま換気血流比不均等を来します。各疾患が気道・肺胞壁・血管・呼吸ポンプのどこを障害するかを考えれば、呼吸機能検査や血液ガスの結果を病態と結びつけて解釈でき、臨床での鑑別に直結します。

解答・解説

正解はbです

テーマ

呼吸機能の異常は、大きく「換気の障害」と「ガス交換の障害」に分けて整理すると理解しやすい。

換気の障害(スパイロメトリーで評価)

・閉塞性換気障害:気道が狭くなり、息を速く吐き出せない状態。1秒率(FEV1%:努力肺活量のうち最初の1秒間に吐き出せる割合)が70%未満に低下する。代表は慢性閉塞性肺疾患(COPD:肺気腫を含む)、気管支喘息。息を吐ききれないため肺に空気が残り、残気量・全肺気量が増える(過膨張)。 ・拘束性換気障害:肺が十分に膨らまない状態。%肺活量(予測値に対する実測肺活量の割合)が80%未満に低下する。肺そのものが硬くなる疾患(間質性肺炎・肺線維症)と、肺を膨らませる力が不足する疾患(呼吸筋麻痺、神経筋疾患、胸郭変形など)がある。

ガス交換の障害(主に動脈血ガスで評価)

低酸素血症の原因は、①肺胞低換気、②換気血流比不均等、③拡散障害、④シャント(静脈血が肺胞を通らずに動脈側へ流れ込む)の4つ(高地など吸入酸素分圧の低下を加えることもある)に整理される。①以外はいずれも肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)が開大し、①では開大しない。④では100%酸素を吸入しても酸素化がほとんど改善しないのが特徴である。

考え方

各疾患について「どこが障害される病気か(気道・肺胞壁・血管・呼吸ポンプ)」を考え、それに対応する異常を選ぶ。肺線維症は肺胞壁(間質)が線維化して硬くなる疾患であり、肺の膨らみやすさを示す肺コンプライアンスが低下する。これが正しい組合せである。

選択肢考察

  1. ×a.  肺気腫 ―― 残気量の減少

    肺気腫では肺胞壁が破壊されて弾性収縮力(肺が縮もうとする力)が失われ、さらに呼気時に末梢気道が虚脱しやすくなる(エアトラッピング)。このため息を吐ききれず、残気量は減少ではなく増加し、全肺気量や残気率(残気量/全肺気量)も上昇する。胸部X線写真での肺の過膨張、横隔膜の平低化はこれを反映している。

  2. ○b.  肺線維症 ―― 肺コンプライアンスの低下

    肺コンプライアンスは、一定の圧をかけたときに肺がどれだけ膨らむか(容量変化/圧変化)を示す指標で、肺の膨らみやすさを表す。肺線維症では肺胞壁の間質に膠原線維が沈着して肺が硬くなるため、同じ圧をかけても膨らみにくく、肺コンプライアンスは低下する。その結果、肺活量・全肺気量が減少する拘束性換気障害を呈する。さらに肺胞壁の肥厚や肺胞毛細血管床の減少により拡散能(DLCO)も低下し、特に労作時に低酸素血症が目立つ。

  3. ×c.  肺動静脈瘻 ―― 肺拡散能の低下

    肺動静脈瘻は、肺動脈と肺静脈が毛細血管を介さずに直接つながる異常血管で、遺伝性出血性毛細血管拡張症(オスラー病)に合併しやすい。低酸素血症の主な機序は、静脈血が肺胞を通らずに体循環へ流れ込む右→左シャントであり、100%酸素吸入でも酸素化が改善しにくい。肺胞壁や肺毛細血管床自体は保たれているため、肺拡散能は通常正常(低下しても軽度)であり、拡散能低下が特徴的な異常とはいえない。なお、シャントを通って静脈系の血栓や細菌が体循環に入るため、脳梗塞や脳膿瘍(奇異性塞栓)の原因となる点も重要である。

  4. ×d.  呼吸筋麻痺 ―― 換気血流不均等分布

    呼吸筋麻痺(筋萎縮性側索硬化症、ギラン・バレー症候群、重症筋無力症、高位頸髄損傷など)では、肺自体に病変はないが、肺を膨らませる力が不足する。その結果、肺活量が低下する拘束性換気障害と、肺全体の換気量が不足する肺胞低換気が生じる。肺胞低換気ではPaCO2が上昇し、PaO2が低下するが、A-aDO2は正常に保たれる。換気血流不均等分布(肺の部位ごとに換気と血流のバランスが崩れる状態)はCOPD、肺炎、肺血栓塞栓症など肺実質や肺血管の病変で主にみられるもので、呼吸筋麻痺の本質的な異常ではない(無気肺などを合併すれば二次的に加わり得る)。

  5. ×e.  肺血栓塞栓症 ―― 1秒率の低下

    肺血栓塞栓症は、主に下肢の深部静脈で生じた血栓が肺動脈に詰まる疾患で、障害されるのは気道ではなく肺の血管である。気道の狭窄は生じないため、1秒率は通常低下しない。塞栓部位では換気はあるのに血流がない(死腔様の換気)一方、残りの肺に血流が集中するため換気血流比不均等が生じ、低酸素血症を来す。過換気を伴うため、PaCO2はむしろ低下し、A-aDO2は開大するのが典型である。肺毛細血管血液量の減少により拡散能が低下することもある。

主な呼吸機能指標と代表的疾患

・1秒率(FEV1%)低下(70%未満):閉塞性換気障害。COPD、気管支喘息、びまん性汎細気管支炎など。 ・%肺活量低下(80%未満):拘束性換気障害。間質性肺炎・肺線維症、じん肺、胸膜肥厚、胸郭変形、肥満、神経筋疾患(呼吸筋力低下)など。 ・残気量・全肺気量の増加:肺気腫(過膨張)。 ・肺コンプライアンス:肺線維症で低下、肺気腫で上昇(弾性収縮力が失われ、膨らみやすいが縮みにくい)。 ・拡散能(DLCO):肺線維症・間質性肺炎、肺気腫(肺胞壁の破壊による表面積減少)、肺血管疾患、貧血で低下。多血症や肺胞出血では上昇し得る。気管支喘息では通常正常であり、COPDとの鑑別点になる。

低酸素血症の機序とA-aDO2

・肺胞低換気:PaCO2上昇、A-aDO2正常(例:呼吸筋麻痺、呼吸中枢抑制、薬物過量)。 ・換気血流比不均等:最も頻度の高い機序。A-aDO2開大、酸素投与で改善しやすい(例:COPD、肺炎、肺血栓塞栓症)。 ・拡散障害:A-aDO2開大、特に労作時に顕在化(例:間質性肺炎・肺線維症)。 ・シャント:A-aDO2開大、100%酸素でも改善しにくい(例:肺動静脈瘻、無気肺、心内右→左シャント)。

肺気腫と肺線維症の対比

肺気腫は肺が「膨らみやすく縮みにくい」(コンプライアンス上昇、残気量増加、閉塞性障害)、肺線維症は肺が「硬く膨らみにくい」(コンプライアンス低下、肺気量減少、拘束性障害)と、力学的に正反対の病態として覚えるとよい。

POINT

・肺線維症:肺コンプライアンス低下、拘束性換気障害、拡散能低下。 ・肺気腫:肺コンプライアンス上昇、残気量増加、1秒率低下。 ・肺動静脈瘻:右→左シャントによる低酸素血症(100%酸素でも改善しにくい)。拡散能は通常保たれる。 ・呼吸筋麻痺:拘束性換気障害と肺胞低換気(PaCO2上昇、A-aDO2正常)。 ・肺血栓塞栓症:換気血流比不均等(A-aDO2開大、PaCO2は低下しがち)。1秒率は通常保たれる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。