半年前は異常なし―急速に育った肺門部腫瘤、小細胞癌の「限局型」をどう治すか
第107回医師国家試験 A問題 第29問
国試問題にチャレンジ
60歳の女性。咳嗽を主訴に来院した。6か月前に人間ドックで異常なしと診断されたが,1か月前から咳嗽が出現し,改善しないため受診した。喫煙は20本/日を40年間。意識は清明。身長158 cm,体重57 kg。体温36.2℃。脈拍64/分,整。血圧134/82 mmHg。呼吸数20/分。SpO2 96%(room air)。頸部リンパ節を触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。血液所見:赤血球418万,Hb 12.9 g/dL,Ht 40%,白血球4,600,血小板15万。血液生化学所見:総蛋白7.5 g/dL,アルブミン3.5 g/dL,AST 30 IU/L,ALT 28 IU/L。胸部エックス線写真(A),胸部造影CT(B)及びPapanicolaou染色による喀痰細胞診(C)を別に示す。全身検索で遠隔転移を認めない。 最も適切な治療はどれか。

- a.手術
- b.免疫療法
- c.放射線治療
- d.抗癌化学療法
- e.化学放射線療法
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
重喫煙者で短期間に出現した中枢側の腫瘤がリンパ節と一塊になって腫大し、喀痰細胞診で小型・裸核状・高N/C比の細胞とnuclear moldingを認めれば、肺小細胞癌を考えます。小細胞癌の治療方針は限局型か進展型かで決まり、遠隔転移がなく片側胸郭内にとどまる限局型では、シスプラチン+エトポシドと胸部放射線治療の同時併用(化学放射線療法)が標準です。手術はリンパ節転移のないI期に限られ、放射線単独や化学療法単独では微小転移あるいは局所病変の制御が不十分になります。現在は進展型での免疫チェックポイント阻害薬併用や、限局型での化学放射線療法後のデュルバルマブ地固めも用いられ、完全奏効例では予防的全脳照射を考慮します。組織型と病期の2段階で治療を決める考え方は、肺癌診療全体の基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・60歳女性。喫煙は20本/日を40年間続けている。喫煙指数(Brinkman指数、1日本数×喫煙年数)は800で、重喫煙者にあたる。 ・6か月前の人間ドックでは異常がなかった。1か月前から咳嗽が続いている。短期間で症状が出るまで進行しており、増殖の速い腫瘍が疑われる。 ・バイタルサインは安定し、頸部リンパ節は触れない。血算・肝機能に大きな異常はない。 ・胸部エックス線写真(A)では、右肺門部から縦隔にかけて腫瘤影があり、縦隔陰影が拡大している。 ・胸部造影CT(B)では、右肺門部から縦隔にかけて腫瘤があり、腫大したリンパ節と一塊になっている。原発巣とリンパ節の境界ははっきりしない。 ・喀痰細胞診(C、Papanicolaou染色)では、小型の異型細胞が集まっている。細胞質がほとんどなく、N/C比(核と細胞質の面積比)がきわめて高い。裸核状でリンパ球に似た細胞であり、核どうしが押し合うように密着する像(木目込み細工様配列、nuclear molding)を示す。 ・全身検索で遠隔転移はない。
診断へのプロセス
重喫煙者に中枢側(肺門・縦隔)の腫瘤が生じ、進行が速く、原発巣とリンパ節が一塊となって腫大している。これは肺小細胞癌に典型的な臨床像である。喀痰細胞診で小型・裸核状・高N/C比の腫瘍細胞が確認でき、肺小細胞癌と診断できる。扁平上皮癌も喫煙と関連が深く中枢型が多いが、細胞診では角化傾向のある、細胞質の豊富な異型細胞がみられる点で区別される。
病期と治療方針
肺小細胞癌は、治療方針を決めるうえで、TNM分類とあわせて限局型(limited disease, LD)と進展型(extensive disease, ED)の区分が用いられる。限局型とは、病変が片側胸郭内(同側肺門・縦隔・鎖骨上窩リンパ節を含む)にとどまり、根治的放射線照射の範囲に収まるものをいう。本例は遠隔転移がなく、病変が右肺門から縦隔に限局しているので限局型にあたる。一方で縦隔リンパ節への進展があり、手術の適応となる早期(I期)ではない。したがって、標準治療は抗癌化学療法と胸部放射線治療の併用(化学放射線療法)である。
選択肢考察
- ×a. 手術
誤り。肺小細胞癌は早い段階からリンパ行性・血行性に転移しやすく、手術だけでは再発が多い。手術を考慮するのは、リンパ節転移のないI期(T1〜2N0M0)程度の、ごく早期の例に限られる。その場合も、術後に化学療法を加える。本例はCTで縦隔リンパ節が腫大して原発巣と一塊になっており、手術の適応はない。
- ×b. 免疫療法
誤り。出題当時、「免疫療法」は肺癌に対して有効性の確立した治療ではなく、標準治療の選択肢ではなかった。現在は、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-L1抗体のアテゾリズマブ、デュルバルマブなど)が使われるようになっている。進展型小細胞癌では、プラチナ製剤+エトポシドとの併用が一次治療の標準となった。限局型でも、化学放射線療法の後に地固めとしてデュルバルマブを追加する治療が新たに用いられている。ただし、いずれも化学療法・化学放射線療法と組み合わせて使うものである。免疫療法単独が限局型小細胞癌の治療として最も適切ということにはならない。
- ×c. 放射線治療
誤り。小細胞癌は放射線への感受性が高く、胸部照射は限局型の治療に欠かせない。しかし、診断の時点で画像にうつらない微小転移がすでにあると考えられるため、局所治療である放射線単独では遠隔再発を防げない。全身治療である化学療法と組み合わせる必要がある。
- ×d. 抗癌化学療法
誤り。化学療法単独が第一選択となるのは進展型小細胞癌の場合である。進展型は病変が照射範囲を超えて広がっているため、胸部照射による根治は見込めない。現在はこれに免疫チェックポイント阻害薬を併用する。本例のような限局型では、化学療法に胸部放射線治療を加えると局所制御が良くなり、生存期間が延びる。そのため化学療法単独は最適ではない。
- ○e. 化学放射線療法
正しい。限局型小細胞癌の標準治療は、化学療法と胸部放射線治療の併用である。化学療法はシスプラチン+エトポシド(PE療法)を基本とし、全身状態が許せば放射線治療を同時に行う(同時併用)。照射は、1日2回照射の加速過分割照射(45 Gy/30回/3週)が推奨される。化学療法が全身の微小転移を、放射線が局所の病巣を担当する。小細胞癌は両方によく反応するので、この組み合わせで治癒も期待できる。治療により完全奏効が得られた場合は、脳転移を防ぐため予防的全脳照射(PCI)を考慮する。
肺小細胞癌の特徴
・肺癌全体の約10〜15%を占める。喫煙との関連がきわめて強い。 ・神経内分泌腫瘍の性格をもつ。肺門・縦隔など中枢側に好発する。 ・増殖が速く、早期から転移しやすい。一方で、化学療法・放射線への感受性は高い。 ・腫瘍マーカー:NSE(神経特異エノラーゼ)とProGRP(ガストリン放出ペプチド前駆体)が上昇する。 ・腫瘍随伴症候群:SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)による低ナトリウム血症、異所性ACTH産生によるCushing症候群、Lambert-Eaton筋無力症候群(電位依存性カルシウムチャネルに対する自己抗体による)などを伴うことがある。 ・細胞診・組織像:小型で細胞質に乏しく、核クロマチンは細顆粒状で、核小体は目立たない。核どうしが密着する像(nuclear molding)がみられる。免疫染色ではクロモグラニンA、シナプトフィジン、CD56などが陽性となる。
病型と治療の整理
・限局型:シスプラチン+エトポシドと胸部放射線治療の同時併用。その後の地固めとしてデュルバルマブが用いられることがある。完全奏効例には予防的全脳照射を考慮する。 ・進展型:プラチナ製剤(シスプラチンまたはカルボプラチン)+エトポシドに免疫チェックポイント阻害薬(アテゾリズマブ、デュルバルマブ)を併用する。以前はシスプラチン+イリノテカンも標準的に用いられた。再発時にはアムルビシン、ノギテカン(トポテカン)などを用いる。 ・I期(T1〜2N0M0):手術と術後化学療法を考慮する。
非小細胞肺癌との対比
非小細胞肺癌は、I〜IIIA期の一部で手術が治療の中心となる。切除できないIII期では、化学放射線療法の後にデュルバルマブを用いる。IV期では、ドライバー遺伝子変異(EGFR、ALKなど)やPD-L1の発現に応じて薬物療法を選択する。小細胞癌は手術の役割が小さく、化学療法・放射線が治療の中心となる点で大きく異なる。
POINT
・重喫煙者の中枢型腫瘤で、進行が速く、リンパ節と一塊となって腫大し、細胞診で小型・裸核状・高N/C比の細胞がみられれば肺小細胞癌を考える。 ・肺小細胞癌の治療方針は、限局型か進展型かで決まる。 ・限局型:化学療法(シスプラチン+エトポシド)+胸部放射線治療の同時併用。 ・進展型:化学療法(+免疫チェックポイント阻害薬)。 ・手術の適応はI期に限られる。 ・完全奏効例には予防的全脳照射を考慮する。
