線源を腫瘍の中へ―密封小線源治療が前立腺癌で輝く理由
第106回医師国家試験 G問題 第2問
国試問題にチャレンジ
密封小線源治療の適応があるのはどれか。
- a.腎癌
- b.膀胱癌
- c.前立腺癌
- d.陰茎癌
- e.セミノーマ
対話形式の解説
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ドクターまとめ
密封小線源治療は、金属カプセルなどに密封した線源を腫瘍の内部や近傍に置き、距離の逆2乗則を生かして局所に高線量を集中させる治療です。代表的な適応は子宮頸癌の腔内照射、舌癌など口腔癌の組織内照射、そして前立腺癌の組織内照射で、前立腺癌ではヨウ素125シードの永久挿入(低線量率)やイリジウム192による一時挿入(高線量率)が広く行われています。セミノーマは放射線感受性が高いものの用いるのは外部照射であり、腎細胞癌は放射線抵抗性で、膀胱癌・陰茎癌も手術が治療の中心です。シード永久挿入後は妊婦や小児との密接な接触への配慮が必要で、排尿障害・直腸出血・勃起障害などの有害事象にも注意します。「線源を正確に届けられるか」と「標準治療として確立しているか」という視点は、放射線治療の適応を理解する土台になります。
解答・解説
正解はcです
密封小線源治療とは
放射線治療は、体の外から放射線を当てる外部照射と、放射線を出す物質(線源)を腫瘍の中やすぐそばに置いて体の内側から照射する小線源治療(ブラキセラピー)に大別される。密封小線源治療では、放射性同位元素を金属のカプセルや針・ワイヤーに密封して用いるので、線源そのものが体内に漏れ出ることはない(これに対し、放射性ヨウ素内服療法のように放射性物質を体内に投与するものを非密封線源治療という)。 放射線の強さは線源からの距離の2乗に反比例して急激に弱まる。そのため、腫瘍には高い線量を集中させ、周囲の正常組織への線量は低く抑えられる。この特徴を生かすには、線源を腫瘍に正確に届けられることが前提となる。
どのような腫瘍が適応になるか
・線源を刺入(組織内照射)または管腔内に挿入(腔内照射)できる部位にある。 ・腫瘍が比較的小さく、局所に限局している。 ・周囲に守りたい重要臓器があり、外部照射だけでは十分な線量を与えにくい。 代表例は、子宮頸癌(腔内照射)、前立腺癌(組織内照射)、舌癌などの口腔癌(組織内照射)である。ほかに食道癌・胆管癌(管腔内照射)、乳癌、皮膚癌、眼の腫瘍(強膜に線源を縫い付ける方法)などにも用いられる。 選択肢の泌尿器・男性生殖器の腫瘍のうち、密封小線源治療が標準的治療の一つとして確立し、わが国で最も広く行われているのは前立腺癌である。
選択肢考察
- ×a. 腎癌
腎癌(腎細胞癌)は放射線が効きにくい腫瘍(放射線抵抗性)であり、治療の中心は手術(腎部分切除術・根治的腎摘除術)で、進行例には分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が用いられる。放射線治療は骨転移・脳転移に対する症状緩和や、手術ができない症例への定位放射線治療などに限られる。腎臓は後腹膜の深い位置にあり、線源を留置する治療は行われない。
- ×b. 膀胱癌
筋層非浸潤性の膀胱癌は経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)と膀胱内注入療法(BCG、抗癌薬)、筋層浸潤性の膀胱癌は膀胱全摘除術が治療の中心である。膀胱を温存したい場合は、TURBTに化学療法と外部照射を組み合わせた集学的治療が行われる。かつて一部の施設では小さな腫瘍に対して組織内照射が試みられたことがあるが、一般的な治療ではなく、標準的な適応とはいえない。
- ○c. 前立腺癌
前立腺癌は、密封小線源治療の代表的な適応である。前立腺は経直腸超音波で形がよく見え、会陰部から針を刺して線源を正確に配置できるうえ、隣接する直腸・膀胱・尿道への線量を抑えられる。主な方法は2つある。①低線量率(LDR)小線源治療:ヨウ素125を封入した小さなシード線源を前立腺内に数十個永久に留置する。低リスク群では単独で行い、中リスク群以上では外部照射やホルモン療法と組み合わせることがある。②高線量率(HDR)小線源治療:イリジウム192線源を一時的に前立腺内に通して照射し、主に外部照射と組み合わせて中〜高リスク群に用いる。わが国では2003年にシード線源の永久挿入が可能となって以降急速に普及し、現在最も多く小線源治療が行われている疾患である。
- ×d. 陰茎癌
陰茎癌の大部分は扁平上皮癌で、治療の基本は陰茎部分切除術・陰茎全摘除術などの外科的切除である。陰茎を温存したい小さな腫瘍に対しては、外部照射や組織内照射(小線源治療)が選択されることもある。ただし実施施設は限られ、選択肢の中で「密封小線源治療の適応がある」代表的な腫瘍としては前立腺癌が最も適切である。
- ×e. セミノーマ
セミノーマ(精巣の精上皮腫)は放射線感受性が非常に高い腫瘍であるが、まず高位精巣摘除術を行い、その後は病期に応じて経過観察、化学療法(カルボプラチン、BEP療法など)、または傍大動脈リンパ節領域への外部照射を選ぶ。放射線治療を用いる場合は、リンパ節転移の範囲を広く照らす外部照射であり、小線源治療は行われない。
小線源治療の方法
・組織内照射:針やシードを腫瘍組織の中に刺入・留置する(前立腺癌、舌癌、乳癌など)。 ・腔内照射:子宮・腟のような体腔にアプリケーターを入れ、その中に線源を送り込む(子宮頸癌)。 ・管腔内照射:食道、気管支、胆管などの管の中に線源を入れる。 ・表面照射(モールド照射):皮膚表面などに線源を当てる。
線量率と主な線源
・低線量率(LDR):ヨウ素125シード(前立腺癌の永久挿入)、金198グレイン(口腔癌など)。 ・高線量率(HDR):イリジウム192(遠隔操作式後充填法=リモートアフターローディング装置を用いる。子宮頸癌の腔内照射、前立腺癌など)。遠隔操作で線源を送り込むため、医療従事者の被ばくを避けられる。
子宮頸癌との関係
子宮頸癌の根治的放射線治療では、全骨盤への外部照射と腔内照射を組み合わせるのが標準であり、小線源治療が治療成績を左右するほど重要である。
前立腺癌シード永久挿入治療の注意点
・線源が体内に残るため、治療後しばらくは妊婦や小児との長時間の密接な接触を控えるなどの注意が必要である。 ・有害事象として、頻尿・排尿困難などの排尿障害、直腸出血、勃起障害がある。 ・前立腺が大きすぎる場合や、TURP(経尿道的前立腺切除術)後で組織が欠損している場合は適応が制限される。
放射線感受性のおおまかな目安
感受性が高い:セミノーマ、悪性リンパ腫、小細胞肺癌など。 感受性が低い:腎細胞癌、悪性黒色腫、骨肉腫など。
POINT
・密封小線源治療=線源を腫瘍の内部・近傍に置き、局所に高線量を集中させる治療。 ・代表的な適応は子宮頸癌(腔内照射)、前立腺癌(組織内照射)、舌癌など口腔癌(組織内照射)。 ・前立腺癌:ヨウ素125シードの永久挿入(LDR)やイリジウム192による一時挿入(HDR)。 ・セミノーマは放射線感受性が高いが、治療は外部照射であり小線源治療ではない。 ・腎細胞癌は放射線抵抗性。
