家では穏やか、でも外に出られない―慢性期統合失調症の「次の一歩」はデイケア
第106回医師国家試験 F問題 第17問
国試問題にチャレンジ
48歳の男性。閉じこもりがちの生活を心配した両親に伴われて来院した。25歳時に統合失調症を発症して以来,外来通院で治療を続けてきた。病識はあるものの,長期間に渡って軽度の幻聴や関係妄想が残存し,15年前から就業していない。家庭では問題なく日常生活を送ることができている。服薬は遵守している。高齢の両親と3人で暮らしている。 現時点の対応として適切なのはどれか。
- a.入院治療
- b.抗うつ薬の処方
- c.両親への心理教育
- d.デイケアへの通所
- e.グループホームへの入所
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクターまとめ
病識があり服薬を守れていて、軽度の症状が長く安定している統合失調症は慢性期(安定期)と考えられ、治療の重点は精神科リハビリテーションによる社会生活機能の回復に移ります。家庭内の生活は保たれているものの閉じこもりがちな患者では、外来治療を続けながら集団活動や生活技能訓練(SST)に参加できる精神科デイケアが社会復帰の第一歩となります。入院は急性増悪や自傷他害のおそれがある場合に考えるもので、安定例ではかえって社会機能を損ないうること、陰性症状による引きこもりは抗うつ薬の適応ではないこと、グループホームは家庭からの自立段階で検討する住まいの支援であることも押さえておきましょう。家族心理教育は再発予防に有効ですが、本人の社会参加という課題を直接解決するものではありません。病期に応じて治療の重点を見極め、日中活動と住まいを段階的に整えていく視点は、地域で暮らす精神疾患患者を支えるうえで欠かせません。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・48歳男性。25歳で統合失調症を発症し、以後20年以上にわたり外来で治療を継続している。 ・病識があり、服薬アドヒアランス(決められたとおりに薬を飲むこと)も良好である。 ・軽度の幻聴と関係妄想(周囲の出来事や他人の言動を自分に関係づけて受け取る妄想)が長く残っているが、増悪はしていない。 ・15年間就業しておらず、閉じこもりがちである。一方、家庭内の日常生活は問題なく送れている。 ・高齢の両親と3人暮らしである。
病態の評価
急性増悪(陽性症状の悪化、自傷他害のおそれ、服薬中断など)を示す所見はなく、病状はおおむね安定した慢性期の統合失調症と考えられる。問題の中心は精神症状そのものではなく、長期の閉居による社会的な活動性の低下、生活範囲の狭さ、就労からの長期離脱といった「社会生活機能の障害」である。これには陰性症状(意欲低下・自閉・社会的引きこもり)や長期罹病に伴う生活障害が関与している。
設問の考え方
慢性期で病状が安定し、外来治療が成り立っている患者に対して今求められるのは、薬物療法の変更や治療環境の強化(入院)ではなく、精神科リハビリテーションを通じて家庭の外に活動の場を作り、対人交流・生活リズム・作業能力を段階的に回復させることである。また、両親が高齢であることから、将来の自立生活や就労に向けた準備を今のうちに始める意義も大きい。その最初のステップとして、外来通院を続けながら利用できる精神科デイケアが最も適している。
選択肢考察
- ×a. 入院治療
誤り。入院が考慮されるのは、陽性症状の急性増悪、自傷他害のおそれ、服薬拒否による病状悪化、家庭での生活破綻などがある場合である。本例は服薬を守り、症状も軽度で安定し、家庭内の生活も保たれているため、外来治療で十分である。むしろ不要な入院は生活の場から切り離し、社会機能をさらに低下させる(施設症・ホスピタリズム)おそれがある。
- ×b. 抗うつ薬の処方
誤り。閉じこもりは抑うつ気分によるものではなく、統合失調症の陰性症状や長期罹病に伴う社会機能低下によるものと考えられる。本例には抑うつ気分や希死念慮などうつ病の合併を示す記載はなく、抗うつ薬を追加する根拠がない。陰性症状による引きこもりに抗うつ薬の効果は乏しく、社会参加の促進には心理社会的な介入が中心となる。
- ×c. 両親への心理教育
誤り。家族心理教育(病気の性質・治療・対応法を家族に伝え、家族の感情表出〈EE:expressed emotion〉を適正化する支援)は再発予防に有効であり、統合失調症の治療では一般に重要である。しかし本例は服薬が守られ、家庭内での生活に問題はなく、家族関係の問題や家族の不適切な対応も示されていない。現時点の課題は患者本人の社会参加の乏しさであり、家族への心理教育だけではそれを直接解決できないため、最も適切な対応とはいえない。
- ○d. デイケアへの通所
正しい。精神科デイケアは、日中の一定時間(おおむね6時間)医療機関などに通い、集団活動・作業・レクリエーション・生活技能訓練(SST:social skills training)などを行う外来の精神科リハビリテーションである。自宅に住み外来治療を続けたまま利用でき、生活リズムの改善、対人交流の回復、社会性の獲得、再発予防に役立つ。家庭外に居場所を作ることで閉居状態を解消し、作業所や就労支援へ進むための足がかりとなる。病状が安定し家庭内適応が良好な本例の現時点の対応として最も適切である。
- ×e. グループホームへの入所
誤り。グループホーム(共同生活援助)は、世話人などの支援を受けながら少人数で共同生活する住まいの場であり、家庭から自立した生活へ移行する段階で利用される。本例は現在家庭で問題なく暮らせており、住む場所を変える必要性は乏しい。また長年閉じこもって対人交流が少ないため、いきなり共同生活に入るのは負担が大きい。両親の高齢化を考えれば将来の選択肢にはなるが、まずデイケアなどで社会生活に慣れてから検討するのが順序である。
統合失調症の病期と治療の重点
・急性期:幻覚・妄想などの陽性症状が活発な時期。抗精神病薬による症状の鎮静が中心で、必要に応じて入院治療を行う。 ・回復期(休息期):急性期のあとに疲弊や意欲低下が目立つ時期。休養と再発予防、服薬継続が中心となる。 ・安定期(慢性期):症状がおおむね安定した時期。維持療法としての服薬を続けつつ、社会生活機能の回復を目指す精神科リハビリテーションが治療の重点となる。
主な精神科リハビリテーションと社会資源
・精神科デイケア:日中の通所型プログラム。ほかに短時間のショートケア、夕方からのナイトケア、両者を合わせたデイ・ナイトケアがある。 ・生活技能訓練(SST):挨拶、頼みごと、断り方など対人場面での技能をロールプレイで練習する認知行動療法的な技法。 ・就労支援:就労継続支援(A型・B型)、就労移行支援など(障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス)。かつて「作業所」と呼ばれた施設の多くはこれらに移行している。 ・住まいの支援:グループホーム(共同生活援助)など。 ・訪問支援:訪問看護、ACT(包括型地域生活支援プログラム:多職種チームが地域で集中的に訪問支援を行う仕組み)。 ・家族支援:家族心理教育、家族会。家族の高いEE(批判的言辞、敵意、情緒的巻き込まれすぎ)は再発率を高めることが知られている。
段階的な社会復帰の流れ(一例)
日中活動:デイケア → 就労継続支援・就労移行支援 → 一般就労 住まい:家族との同居 → グループホーム → 単身生活 本人の状態に応じて一段ずつ進めるのが原則である。
POINT
・病状が安定し外来治療が成り立つ慢性期統合失調症では、治療の中心は精神科リハビリテーションによる社会生活機能の回復である。 ・閉じこもりがちで家庭内適応は良好な患者の社会復帰の第一歩はデイケア通所である。 ・入院は急性増悪や自傷他害のおそれがある場合に考慮するもので、安定例に行うと社会機能をかえって損なう。 ・陰性症状による引きこもりは抗うつ薬の適応ではない。 ・グループホームは家庭からの自立段階で検討する住まいの支援であり、社会参加の最初の手段ではない。
