「ゆっくりしたい」と「働いてほしい」のあいだで―統合失調症の回復期に最初に勧めるもの
第120回医師国家試験 F問題 第53問
国試問題にチャレンジ
21歳の女性。言動の変化を心配する両親に連れられて来院した。本人は何も話さず下を向いていた。両親によると,18歳の時に大学受験に失敗したころから自分の部屋に閉じこもり,昼夜逆転の生活となった。受診の2か月前から,「近所の子供が自分の悪口を言っている」,「自分の考えたことがテレビで放送されている」などと訴えるようになったという。 その後,外来での2か月半の薬物療法で昼夜逆転の生活は改善し,奇異な発言もなくなった。自宅の居間で新聞を読んだり家族と会話したりするようになったが,通院以外は外出していない。本人は「大学受験はせずに,しばらくゆっくりしたい」と言い,母親は「大学受験しないのであれば働いてほしい」と言う。 現時点において提案することとして最も適切なのはどれか。
- a.入院治療
- b.生活保護の申請
- c.成年後見制度の利用
- d.精神科デイケアヘの通所
- e.就労移行支援事業所の紹介
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
青年期の引きこもりに幻聴・被害関係妄想・考想伝播が加わる経過は統合失調症に典型的で、抗精神病薬で陽性症状が治まっても、回復期には意欲低下や引きこもりがしばらく残ります。リハビリテーションは段階的に進めるのが原則で、外出が通院のみの段階では、生活リズムと対人交流を取り戻す精神科デイケアへの通所が最初の提案として適しています。就労移行支援は生活が安定した後の段階のサービスで、入院は外来で対応できない場合、生活保護は経済的困窮、成年後見制度は判断能力の低下が前提です。また、就労を急かすなど家族の感情表出が高い状態は再発リスクを高めるため、家族心理教育もあわせて行います。回復段階を見極めて支援を選ぶ視点は、精神科に限らず慢性疾患をもつ人の社会復帰を支えるうえでの基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・21歳の女性。18歳ころ(大学受験の失敗を契機に)から自室に閉じこもり、昼夜逆転の生活となった。意欲低下・社会的引きこもりであり、陰性症状(無為・自閉)あるいは前駆期の症状と考えられる。 ・受診2か月前から「近所の子供が自分の悪口を言っている」(悪口の内容の幻聴、または被害関係妄想)、「自分の考えたことがテレビで放送されている」(考想伝播〈思考伝播〉:自分の考えが他者に伝わってしまうと体験する自我障害)が出現した。 ・診察時、本人は何も話さず下を向いている(疎通性の低下)。
診断
青年期に引きこもりで始まり、幻聴・被害関係妄想・考想伝播といった陽性症状が加わった経過は統合失調症に典型的である。考想伝播や対話性・注釈性幻聴はシュナイダーの一級症状に含まれ、統合失調症を強く示唆する。前駆期を含めた経過は6か月以上に及んでおり、DSM-5の期間要件も満たす。抑うつ気分や気分の高揚を主とする病像ではなく、物質使用や身体疾患をうかがわせる情報もない。
現在の状態
外来で2か月半の抗精神病薬治療により、昼夜逆転と奇異な発言(陽性症状)は消退した。居間で新聞を読み家族と会話できており、急性期を脱して回復期に入ったといえる。一方で通院以外の外出はなく、生活リズム・対人交流・社会参加の面ではまだ回復途上である。本人は「しばらくゆっくりしたい」と述べ、母親は就労を望んでおり、本人の意向と家族の期待にずれがある。
設問の考え方
統合失調症のリハビリテーションは、段階的に進めるのが原則である。急性期治療 → 回復期の生活リズムの確立と対人交流の練習(精神科デイケアなど)→ 就労準備・職業訓練(就労移行支援など)→ 一般就労や障害者雇用、という順に、本人の回復度と意欲に合わせて負荷を上げていく。急に高い負荷(いきなりの就労要求など)をかけると再発の危険が高まる。本例は陽性症状が治まったばかりで外出も通院のみという段階であり、まず外に出て日中の居場所をもち、生活リズムと社会性を取り戻すための支援を提案するのが最も適切である。あわせて、就労を急かす母親の姿勢は感情表出(EE)が高い家族環境につながりうるため、家族への心理教育も重要となる。
選択肢考察
- ×a. 入院治療
外来での薬物療法で陽性症状は消え、自宅で落ち着いて過ごせている。自傷他害のおそれや、外来では治療が続けられない事情(服薬拒否、家族の対応限界など)も示されていない。入院の必要はなく、むしろ地域生活を続けながら社会復帰を進める段階である。不必要な入院は社会生活技能の低下や施設症を招きうる。
- ×b. 生活保護の申請
生活保護は、資産や能力などを活用してもなお最低限度の生活を維持できない世帯を対象とする制度である。本例は両親と同居しており、経済的に困窮しているという情報はない。現時点で申請を提案する根拠はない。
- ×c. 成年後見制度の利用
成年後見制度は、認知症・知的障害・精神障害などにより判断能力が不十分な人について、財産管理や契約などの法律行為を後見人等が支援する制度である。本例は新聞を読み、家族と会話し、自分の進路について意思を示せており、判断能力が大きく損なわれているとはいえない。財産管理上の問題も示されておらず、利用の対象とならない。
- ○d. 精神科デイケアヘの通所
精神科デイケアは、精神障害をもつ人が日中に通い、集団でのレクリエーション、作業、生活技能訓練(SST:social skills training)、心理教育などのプログラムに参加する通所型のリハビリテーションである。決まった時間に通うことで生活リズムが整い、他者と関わる練習ができ、再発予防や服薬継続の支援にもつながる。陽性症状が治まったものの外出は通院のみという本例にとって、社会復帰の第一歩として最も適した提案である。「ゆっくりしたい」という本人の希望とも両立しやすく、無理のない負荷で活動範囲を広げられる。
- ×e. 就労移行支援事業所の紹介
就労移行支援は、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスで、一般就労を目指す人に一定期間(原則2年)、職業訓練や求職活動の支援を行う。本例は通院以外に外出しておらず、本人も現時点では働く意欲を示していない。生活リズムの安定や対人交流の回復が先であり、就労に向けた支援はそれらが整った後の段階で検討すべきである。本人の意向に反して就労を急がせると、ストレスによる再発の危険も高まる。
統合失調症の病期と治療・支援
・前駆期:不眠、意欲低下、引きこもり、成績低下など非特異的な変化。 ・急性期:幻覚・妄想・自我障害などの陽性症状が目立つ。抗精神病薬が中心で、必要に応じて入院治療。 ・回復期(消耗期):陽性症状は治まるが、疲れやすさ、意欲低下、引きこもりがちな状態が残る。休養を確保しつつ、少しずつ活動を増やす。 ・安定期:維持療法を続けながら、社会参加・就労を目指す。
社会復帰に関わる主なサービス
・精神科デイケア(ショートケア、ナイトケア、デイ・ナイトケアもある):医療機関で行う通所リハビリテーション。生活リズムの確立、対人交流、SST、心理教育など。 ・地域活動支援センター:日中の居場所、創作活動や交流の場。 ・就労継続支援(A型:雇用契約あり、B型:雇用契約なし):一般就労が難しい人の働く場。 ・就労移行支援:一般就労を目指す人への訓練・求職支援(原則2年)。 ・障害者雇用(障害者手帳を活用した雇用枠)、ジョブコーチ支援など。
家族の感情表出(EE:expressed emotion)
家族が患者に対して批判的・敵意的であったり、過度に感情的に巻き込まれていたりする状態を高EEという。高EEの家族と暮らす患者は再発率が高いことが知られており、家族心理教育によって疾患の理解を深め、接し方を調整することが再発予防に役立つ。本例で母親が早期の就労を求めている点は、家族支援の必要性を示している。
シュナイダーの一級症状
考想化声、対話性幻聴、注釈性幻聴、身体への被影響体験、考想奪取・考想吹入などの思考への干渉、考想伝播、させられ体験(作為体験)、妄想知覚。統合失調症の診断に重要な症状群とされてきた。
POINT
・青年期の引きこもり+幻聴・被害関係妄想・考想伝播 → 統合失調症。 ・統合失調症のリハビリテーションは段階的に進める:急性期治療 → デイケア等で生活リズムと対人交流の回復 → 就労移行支援など就労準備 → 就労。 ・陽性症状が治まった直後で外出は通院のみ、という段階では精神科デイケアへの通所が第一選択の提案となる。 ・回復期に就労を急がせると再発リスクが高まる。家族の高EEには家族心理教育で対応する。 ・入院は外来治療で対応できない場合、生活保護は経済的困窮、成年後見は判断能力の低下が前提となる。
