StudyMed医師国家試験

「操られている」は誰の声か―患者の一言から統合失調症を見抜く自我障害の読み方

第116回医師国家試験 D問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第116回 D問題 第2問

統合失調症を強く示唆する患者の発言はどれか。

  1. a.「自分は電波で操られている」
  2. b.「(壁のしみを指して)虫が這っている」
  3. c.「電車の中で発作が起こるのが心配です」
  4. d.「人前では緊張して思うように話すことができません」
  5. e.「鍵をかけたのか何度も確認しないと気が済みません」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、患者さんの一言から、それがどんな精神症状なのかを読み取る問題だ。精神科の診察では、検査値よりも「本人がどう体験しているか」が最大の手がかりになる。注目してほしいのは、その体験を本人が「自分の内側の問題」として語っているのか、「外から何かをされている」と語っているのか、という点だよ。
医学生医学生
統合失調症というと、まず幻覚や妄想が思い浮かびます。幻覚っぽい発言を選べばいいんでしょうか。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴だね。幻覚や妄想は統合失調症以外でも起こる。大切なのは「どんな種類の」幻覚・妄想か、なんだ。統合失調症に特徴的な症状として、Schneiderが挙げた一級症状は覚えているかな。
医学生医学生
精神医学の講義で出てきました。思考化声、対話性幻聴、思考奪取、思考吹入、作為体験……でしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。その多くに共通するのが「自我障害」だ。ふつう私たちは、自分の考えや行動は自分がしている、という感覚を当たり前に持っている。統合失調症ではこの自己と外界の境界が崩れ、考えや行動が外部の力に支配されていると体験されることがある。その典型が作為体験、いわゆるさせられ体験なんだ。
医学生医学生
そうすると「自分は電波で操られている」という発言は、まさに外の力で動かされている体験ですね。
ドクタードクター
その通り。これが正解だ。意識がはっきりした状態でこうした体験が語られれば、統合失調症を強く示唆する。では、壁のしみを指して虫が這っているという発言はどうだろう。
医学生医学生
見えないものが見えている幻覚なので、統合失調症でもおかしくない気がしてしまいます。
ドクタードクター
そう迷う人は多い。でもまず、統合失調症の幻覚は幻聴が中心で、幻視は目立たないことが多い。しかもこの発言は、実在するしみを虫と見誤っているので、厳密には錯視で、小動物幻視として扱われることも多い。虫や小動物が見えるという訴えは、アルコール離脱せん妄をはじめとする意識障害で特徴的なんだ。Lewy小体型認知症でも幻視が目立つね。
医学生医学生
臨床実習で救急を回ったとき、入院後数日のアルコール多飲の患者さんが「布団に虫がいる」と言っていて、指導医の先生が振戦せん妄だと説明してくれました。
ドクタードクター
まさに典型例だね。せん妄は意識障害だから、時間帯で症状が変動したり、注意が保てなかったりする点も統合失調症と違う。次に、電車の中で発作が起こるのが心配という発言は?
医学生医学生
また発作が起こるかもしれないという不安なので、パニック症の予期不安でしょうか。
ドクタードクター
正解。すぐに逃げられない、助けを得にくい場所が怖くなるのは広場恐怖で、パニック症によく合併する。人前で緊張してうまく話せないという訴えは社交不安症を考える。他人からの否定的評価を恐れて対人場面を避ける回避性パーソナリティ障害でもみられうるね。
医学生医学生
鍵を何度も確認してしまうのは強迫症ですね。OSCEの医療面接の練習でも模擬患者さんが似たようなことを話していました。
ドクタードクター
そう、鍵をかけ忘れたのではという強迫観念と、それを打ち消すための確認行為だ。ここで最初の視点に戻ろう。不安症や強迫症の方は「心配です」「気が済みません」と、自分の問題として語り、過剰だと分かっていてもやめられないと感じていることが多い。病識が保たれやすいんだ。
医学生医学生
なるほど。自分の内側の苦しさとして語るのが不安・強迫で、外から何かをされていると確信しているのが自我障害、という対比ですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。発展として、一級症状のほかの項目も整理しておこう。自分の考えが声になって聞こえる思考化声、複数の声が自分のことを噂し合う対話性幻聴、自分の行動に逐一コメントする幻聴、考えが周囲に伝わってしまう思考伝播、そして実際の知覚に了解不能な特別な意味づけをする妄想知覚などがある。
医学生医学生
一級症状があれば統合失調症と診断していいんですか。
ドクタードクター
器質的疾患や薬物の影響が否定できれば診断を強く支持する、という位置づけだね。ただ現在のDSM-5では一級症状を特別扱いしていないし、Schneider自身も一級症状だけで決めつけることは意図していなかった。臨床では、意識障害や薬物、身体疾患をまず除外し、経過や陰性症状、社会機能の低下も含めて総合的に判断する。国家試験では統合失調症に特徴的な症状として頻出するから、言い回しごと覚えておくといい。
医学生医学生
患者さんの言葉をそのまま症状名に置き換える練習が大事なんですね。
ドクタードクター
そうだね。実際の診療では「操られている」とはっきり言わず、「勝手に体が動かされる感じ」「考えが筒抜けになる」のように表現されることも多い。言葉の背後にある体験の構造を聞き取ることが、精神科診断の第一歩なんだ。

まとめ

統合失調症に特徴的な症状として、Schneiderの一級症状があり、その中核は自己と外界の境界が崩れる自我障害です。「電波で操られている」という訴えは作為体験(させられ体験)の典型で、意識清明下で語られれば統合失調症を強く示唆します。一方、壁のしみが虫に見えるといった錯視・小動物幻視はアルコール離脱せん妄などの意識障害やLewy小体型認知症で、予期不安・広場恐怖はパニック症で、人前での過度の緊張は社交不安症で、確認行為の反復は強迫症でみられます。不安症や強迫症では症状を自分の内側の問題として自覚していることが多く、「外から何かをされている」と体験する自我障害との対比が鑑別の鍵です。患者の言葉を症状名へと正確に翻訳する力は、精神科診療だけでなくあらゆる診療科の医療面接の基礎となります。

解答・解説

正解はaです

テーマ

患者の訴え(発言)から、どの精神症状に当たるかを読み取り、統合失調症に特徴的なものを選ぶ問題である。

考え方

統合失調症の診断で重視される症状として、Kurt Schneiderが挙げた「一級症状」がある。その中核は、自分の思考・感情・行動が自分のものであるという感覚(自我意識の能動性・境界)が障害される「自我障害」である。代表が作為体験(させられ体験)で、「誰かに操られている」「考えを抜き取られる」「考えを吹き込まれる」など、自己と外界の境界が崩れ、外部の力に支配されていると体験する。 一方、不安症や強迫症の患者は、症状を自分の内側の問題として自覚し、「おかしいと分かっているがやめられない」「心配だ」という形で訴える(病識が保たれていることが多い)。せん妄などの意識障害では、幻視や錯視が目立つ。 したがって、各発言を「自我障害(外部から操られる体験)か」「不安・強迫か」「意識障害に伴う知覚異常か」と分類すると、統合失調症を強く示唆するものが判別できる。

選択肢考察

  1. ○a.  「自分は電波で操られている」

    自分の行動や思考が電波という外部の力によって動かされていると体験しており、作為体験(させられ体験)にあたる。自我障害の典型であり、Schneiderの一級症状に含まれる。意識清明下でこのような体験が語られる場合、統合失調症を強く示唆する。

  2. ×b.  「(壁のしみを指して)虫が這っている」

    実在する壁のしみを虫と誤って知覚しており、錯視(実在する対象を別のものとして知覚する錯覚)や小動物幻視として扱われる訴えである。虫や小動物が見えるという訴えは、アルコール離脱せん妄(振戦せん妄)をはじめとするせん妄など意識障害で特徴的にみられる。Lewy小体型認知症でも幻視が目立つ。統合失調症の幻覚は幻聴が中心であり、このような幻視は統合失調症を示唆する所見ではない。

  3. ×c.  「電車の中で発作が起こるのが心配です」

    また発作(パニック発作)が起こるのではないかと心配する予期不安であり、すぐに逃げられない・助けを得にくい電車内などの場所への恐怖は広場恐怖にあたる。パニック症(パニック障害)や広場恐怖症でみられる訴えである。

  4. ×d.  「人前では緊張して思うように話すことができません」

    人前で注目される状況で強い不安や緊張が生じ、うまく話せないという訴えで、社交不安症(社交不安障害)を示唆する。他人からの否定的評価を恐れて対人場面を避ける回避性パーソナリティ障害でもみられうる。

  5. ×e.  「鍵をかけたのか何度も確認しないと気が済みません」

    鍵をかけ忘れたのではという考え(強迫観念)が繰り返し浮かび、それを打ち消すために確認を繰り返す(強迫行為:確認強迫)状態で、強迫症(強迫性障害)を示唆する。本人は過剰だと分かっていてもやめられないのが特徴である。

Schneiderの一級症状

統合失調症に特徴的とされる症状群で、器質的疾患がなければ統合失調症の診断を強く支持する。 ・思考化声:自分の考えが声になって聞こえる ・対話性幻聴:複数の声が患者について会話する、言い争う ・自分の行為を批評・注釈する幻聴 ・身体への被影響体験:外部から身体に作用を受ける ・思考奪取:考えが抜き取られる ・思考吹入:他人の考えが吹き込まれる ・思考伝播:自分の考えが周囲に伝わってしまう ・作為体験(させられ体験):感情・意志・行動が他者に操られる ・妄想知覚:実際の知覚に対して、了解不能な特別の意味づけがなされる なお、Schneiderは一級症状が統合失調症に特異的と考えたが、現在の診断基準(DSM-5)では一級症状の特別扱いはされていない。ただし国家試験では統合失調症に特徴的な症状として頻出する。

幻覚の種類と疾患

・幻聴(特に対話性・注釈性):統合失調症 ・幻視(小動物など):せん妄(アルコール離脱せん妄など)、Lewy小体型認知症、薬物中毒 ・体感幻覚:統合失調症、セネストパチー ・錯覚:実在する対象を誤って知覚するもので、意識障害時に起こりやすい

不安症・強迫症の主な訴え

・パニック症:突然の動悸・呼吸困難などの発作、予期不安、広場恐怖 ・社交不安症:人前での発表や会話への強い不安と回避 ・強迫症:強迫観念と強迫行為(確認、洗浄など)。不合理と自覚していることが多い

POINT

・作為体験(させられ体験)は自我障害の代表で、Schneiderの一級症状→統合失調症を強く示唆 ・小動物幻視・錯視→せん妄(アルコール離脱せん妄など)、Lewy小体型認知症 ・予期不安・広場恐怖→パニック症 ・人前での過度の緊張→社交不安症 ・確認行為の反復→強迫症

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。