StudyMed医師国家試験

守れるのは「まだ感作されていない母」だけ―抗Dヒト免疫グロブリンを打つべき分娩後の条件

第116回医師国家試験 D問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第116回 D問題 第1問

RhD(-)血液型の妊婦で分娩後に抗Dヒト免疫グロブリン投与が必要な組合せはどれか。 夫の血液型 妊娠中の間接クームス試験結果 出産児の血液型 妊娠12週 妊娠26週 a RhD(-) - - RhD(-) b RhD(+) - - RhD(-) c RhD(+) - - RhD(+) d RhD(+) - + RhD(+) e RhD(+) + + RhD(+)

  1. a.RhD(-)  -  -  RhD(-)
  2. b.RhD(+)  -  -  RhD(-)
  3. c.RhD(+)  -  -  RhD(+)
  4. d.RhD(+)  -  +  RhD(+)
  5. e.RhD(+)  +  +  RhD(+)

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、RhD陰性の妊婦さんに分娩後の抗Dヒト免疫グロブリンが必要かどうかを判断する問題だ。表には夫の血液型、妊娠中の間接クームス試験、生まれた赤ちゃんの血液型が並んでいるけれど、判断に本当に必要なのはそのうち2つ。まずはこの薬が何のためにあるのかから整理しよう。
医学生医学生
Rh不適合妊娠で、赤ちゃんの溶血を防ぐための薬ですよね。
ドクタードクター
大筋はそう。もう少し正確に言うと、RhD陰性の母親がRhD陽性の胎児を妊娠すると、主に分娩時に胎児の赤血球が母体へ流れ込み、母体がD抗原に対する抗体、つまり抗D抗体を作ることがある。これを感作という。抗Dヒト免疫グロブリンは、流れ込んだ胎児のRhD陽性赤血球に先回りして結合し、母体の免疫系が自分で抗体を作る前に処理させる製剤なんだ。
医学生医学生
ということは、感作を予防する薬であって、すでに抗体ができている人には効かないということですか。
ドクタードクター
その理解が核心だよ。だから分娩後に投与すべき条件は2つ。児がRhD陽性であること、そして母体がまだ感作されていないこと。後者を確かめるのが間接クームス試験で、母体血清中に遊離している赤血球抗体を検出する検査だ。
医学生医学生
免疫学の講義で、直接クームスは赤血球に結合した抗体、間接クームスは血清中の抗体を見る、と習いました。新生児の溶血の診断に使うのが直接のほうでしたね。
ドクタードクター
よく覚えている。では組合せを見ていこう。夫も赤ちゃんもRhD陰性の場合はどうかな。
医学生医学生
母も子もD抗原を持っていないので、そもそも感作されようがない。投与は不要ですね。
ドクタードクター
正解。では、夫はRhD陽性だけれど赤ちゃんはRhD陰性だった場合は?
医学生医学生
夫が陽性なら赤ちゃんにもD抗原が伝わっていそうで、ちょっと迷います。
ドクタードクター
そこはひっかけどころだね。夫がD遺伝子をヘテロで持っていれば、児は1/2の確率でRhD陰性になる。夫の血液型は児の血液型を推定する手がかりにすぎず、生まれた後は児の血液型そのもので判断すればいい。児がRhD陰性なら母体に入る赤血球にD抗原がないから、投与は不要だ。
医学生医学生
出産後は夫の情報より赤ちゃんの結果を優先するんですね。すると、赤ちゃんがRhD陽性で、妊娠12週も26週も間接クームス陰性の組合せが正解ですか。
ドクタードクター
その通り。児がRhD陽性で、母体は妊娠経過を通じて未感作。分娩時の胎盤剥離などで胎児血が流入して感作が起こりうる、まさに予防が効く状況だから、分娩後72時間以内に母体へ投与する。
医学生医学生
26週で間接クームスが陽性に変わっているケースは、まだ分娩前だから間に合うような気もしますが……。
ドクタードクター
気持ちはわかるけれど、陽性化した時点で妊娠中にすでに感作が成立したと考える。成立した感作は抗Dヒト免疫グロブリンでは取り消せないから、分娩後に投与しても意味がない。12週から陽性だったケースも同様で、前回の妊娠や流産、輸血などで既に感作されていたと考えられる。こうした既感作妊婦では、抗体価の推移を追い、胎児の中大脳動脈血流速度の測定などで胎児貧血を評価しながら慎重に管理することになる。
医学生医学生
既感作の人には予防ではなく、胎児を見守る管理に切り替えるわけですね。分娩後以外にも投与のタイミングはありますか。
ドクタードクター
大事な点だね。未感作のRhD陰性妊婦には妊娠28週前後にも予防的に投与するし、流産や人工妊娠中絶、異所性妊娠、羊水穿刺や絨毛採取、腹部打撲、胎位外回転術など、胎児血が母体に混ざりうるイベントの後にも投与する。なお28週で投与した後は、投与した抗体そのものによって間接クームスが一時的に弱陽性になることがあるので、真の感作と区別が必要だ。
医学生医学生
初回の妊娠では赤ちゃんに影響が出にくいと聞いたのはなぜですか。
ドクタードクター
初回の感作で最初に作られるのは主にIgMで胎盤を通りにくく、しかも感作の多くは分娩時に起こるからだ。問題は次の妊娠で、再びD抗原にさらされるとIgG型の抗D抗体が速やかに大量に作られ、胎盤を通って胎児赤血球を壊す。胎児貧血や胎児水腫、新生児の重症黄疸につながりうるから、分娩後の予防が非常に重要なんだ。
医学生医学生
産婦人科の実習で、RhD陰性の褥婦さんの分娩後に、児の血液型の結果を確認してから投与していたのを見ました。今日の2条件の確認だったんですね。
ドクタードクター
その通り。「児がRhD陽性」と「母体が未感作」、この2つをセットで確認する習慣をつけておこう。

まとめ

抗Dヒト免疫グロブリンは、RhD陰性の母体に流入したRhD陽性の胎児赤血球を除去させ、母体が抗D抗体を作る「感作」を予防する製剤であり、すでに感作が成立した母体には効果がありません。そのため分娩後の投与は、出産児がRhD陽性であり、かつ間接クームス試験で母体の抗D抗体が陰性(未感作)である場合に、分娩後72時間以内に行います。児がRhD陰性なら感作の危険はなく、妊娠中に間接クームス試験が陽性化していれば既感作として抗体価や胎児貧血の評価による管理に移ります。未感作妊婦には妊娠28週前後や、流産・侵襲的検査などのイベント後にも投与することをあわせて押さえておきましょう。分娩後に確実に感作を予防することが次回以降の胎児溶血性疾患を防ぐ鍵であり、周産期管理の基本として重要な知識です。

解答・解説

正解はcです

テーマ

RhD陰性の母体がRhD陽性の胎児を妊娠すると、胎盤を介して、あるいは分娩時に胎児赤血球が母体血中に流入し、母体がD抗原に対する抗体(抗D抗体)を作ることがある(感作)。抗D抗体はIgGで胎盤を通過するため、次回以降のRhD陽性児の妊娠で胎児赤血球を破壊し、胎児溶血性疾患(胎児貧血、胎児水腫、新生児重症黄疸など)を引き起こす。 抗Dヒト免疫グロブリンは、母体に流入した胎児のRhD陽性赤血球に結合して、母体の免疫系が抗D抗体を自ら作る前にそれを除去させる製剤である。つまり「まだ感作されていない母体の感作を予防する」ためのもので、すでに感作が成立した母体には効果がない。

判断に必要な2つの条件

分娩後に抗Dヒト免疫グロブリンを投与すべきなのは、次の両方を満たす場合である。 (1) 出産児がRhD陽性であること(D抗原にさらされる危険がある) (2) 母体がまだ感作されていないこと=間接クームス試験(母体血清中の赤血球に対する不規則抗体を検出する検査)で抗D抗体が陰性であること 選択肢の表は「夫の血液型」「妊娠12週・26週の間接クームス試験」「出産児の血液型」の順に並んでいる。出産児がRhD陽性で、かつ妊娠中の間接クームス試験が一貫して陰性である組合せを探せばよい。夫の血液型は児の血液型を推定する手がかりにすぎず、出産後は児の血液型そのもので判断する。

選択肢考察

  1. ×a.  RhD(-)  -  -  RhD(-)

    夫も母もRhD陰性であれば、児がD抗原を受け継ぐことはなく、実際に出産児もRhD陰性である。母体がD抗原にさらされる機会がないため、感作の危険はなく、分娩後の抗Dヒト免疫グロブリン投与は不要である。

  2. ×b.  RhD(+)  -  -  RhD(-)

    夫はRhD陽性だが、夫がD遺伝子をヘテロ接合で持つ場合、児は1/2の確率でRhD陰性となる。本例の出産児はRhD陰性であり、母体に流入する赤血球にD抗原がないため感作は起こらない。分娩後の投与は不要である。

  3. ○c.  RhD(+)  -  -  RhD(+)

    出産児がRhD陽性であり、分娩時の胎盤剝離などに伴って胎児赤血球が母体へ流入し、感作が起こりうる。一方、妊娠12週・26週の間接クームス試験はいずれも陰性で、母体はまだ抗D抗体を作っていない(未感作)。感作予防が有効な状況であるため、分娩後72時間以内に抗Dヒト免疫グロブリンを母体に投与する必要がある。

  4. ×d.  RhD(+)  -  +  RhD(+)

    妊娠12週では陰性だったが、妊娠26週で間接クームス試験が陽性に転じており、妊娠経過中に母体がすでに感作されたと考えられる。抗Dヒト免疫グロブリンは感作の成立を防ぐものであり、感作後に投与しても意味がないため、分娩後の投与は行わない。本例は次回妊娠で胎児溶血性疾患の危険が高い既感作妊婦として管理する。

  5. ×e.  RhD(+)  +  +  RhD(+)

    妊娠12週の時点ですでに間接クームス試験が陽性であり、前回までの妊娠・流産・輸血などで感作が成立していると考えられる。既感作の母体に抗Dヒト免疫グロブリンを投与しても効果はなく、投与は不要である。むしろ今回の妊娠では抗体価の推移や胎児貧血の評価(中大脳動脈血流速度の測定など)による慎重な管理が必要となる。

RhD陰性妊婦の管理の流れ

(1) 妊娠初期:母体の血液型(ABO・RhD)と不規則抗体(間接クームス試験)を検査する。 (2) 妊娠28週前後:抗D抗体が陰性であることを再確認し、陰性なら抗Dヒト免疫グロブリンを母体に投与する(妊娠中の自然な胎児母体間出血による感作を予防する)。 (3) 分娩後:児の血液型がRhD陽性で、母体が未感作であることを確認し、分娩後72時間以内に抗Dヒト免疫グロブリンを投与する。 (4) 妊娠中のイベント後:流産、人工妊娠中絶、異所性妊娠、羊水穿刺・絨毛採取などの侵襲的検査、腹部打撲、胎位外回転術など、胎児血が母体に混入しうる場合にも投与する。

なぜ初回妊娠では問題になりにくいか

初回の感作で産生されるのは主にIgMで胎盤を通過しにくく、しかも感作の多くは分娩時に起こるため、初回妊娠の児はふつう影響を受けない。次回妊娠時に再びD抗原にさらされると、IgG型の抗D抗体が速やかに大量に産生され、胎児赤血球を破壊する。

クームス試験

直接クームス試験:患者(児)の赤血球表面に結合した抗体を検出する。新生児溶血性疾患の診断に用いる。 間接クームス試験:患者(母体)血清中の遊離した赤血球抗体を検出する。母体の感作の有無の評価に用いる。

補足

妊娠28週前後に抗Dヒト免疫グロブリンを投与した後は、投与した抗体そのものにより間接クームス試験が一時的に弱陽性となることがあり、真の感作と区別が必要である。

POINT

・抗Dヒト免疫グロブリンは「未感作」のRhD陰性母体の感作予防のために投与する ・分娩後投与の条件:児がRhD陽性 かつ 母体の間接クームス試験(抗D抗体)陰性 ・投与時期:妊娠28週前後と分娩後72時間以内、流産・侵襲的検査などの後 ・すでに感作(抗D抗体陽性)された母体には投与しても無効 ・児がRhD陰性なら感作の危険はなく不要

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。