StudyMed医師国家試験

意識障害の高齢者にまず何を流す?―ショックの初期輸液は「どこに水が残るか」で選ぶ

第106回医師国家試験 F問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第106回 F問題 第18問

82歳の男性。意識障害のため搬入された。家族からの情報では,ここ数日は頻繁に下痢をしていたという。意識レベルはJCSⅢ-100。体温38.2℃。心拍数110/分,整。収縮期血圧78 mmHg(触診)。呼吸数28/分。SpO2 97%(room air)。頸静脈の怒張を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。全身に発汗を認める。末梢静脈路を確保した。  現時点で使用する輸液製剤として適切なのはどれか。

  1. a.脂肪乳剤
  2. b.生理食塩液
  3. c.アミノ酸製剤
  4. d.5%ブドウ糖液
  5. e.高カロリー輸液製剤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、意識障害で運ばれてきた高齢者に、最初にどの輸液製剤を選ぶかという問題だ。大事なのは、意識障害そのものより先に「この人の循環はいまどうなっているか」を見抜くこと。そして輸液製剤を「入れた水が体のどこにとどまるか」で考えることの2点だよ。まず、バイタルサイン全体からどんな状態だと読める?
医学生医学生
血圧が触診でしか測れないほど低くて、脈も呼吸も速いので、ショックだと思います。意識障害もそれで説明できそうです。
ドクタードクター
その通り。低血圧に頻脈・頻呼吸、それに全身の発汗。この発汗は交感神経が必死に頑張っているサインで、いわゆる冷汗だね。脳への血流が落ちれば意識も保てなくなる。では、ショックの型はどう考える?
医学生医学生
救急科の実習で、ショックは循環血液量減少性、心原性、閉塞性、分布異常性の4つに分けると習いました。数日下痢が続いているので、脱水による循環血液量減少性でしょうか。
ドクタードクター
よく整理できているね。もう一つの根拠が頸静脈だ。心原性や、心タンポナーデ・緊張性気胸のような閉塞性ショックなら、静脈側に血液が渋滞して頸静脈が怒張しやすい。怒張がなく、心音も呼吸音も正常というのは、むしろ血管の中身が足りない方向を支持する所見なんだ。高齢者は口渇を感じにくく、下痢で水とナトリウムを失っても飲んで補えないから、脱水に陥りやすい。
医学生医学生
でも熱もあるので、感染性腸炎から敗血症になっている可能性はないですか。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。敗血症性ショックの合併は否定できない。ただ、どちらであっても最初にやることは同じで、細胞外液をすばやく補うことなんだ。ここで輸液製剤の話に入ろう。CBTの生理学で体液区分を勉強したと思うけど、体重の何割が水だったか覚えている?
医学生医学生
約60%で、そのうち2/3が細胞内液、1/3が細胞外液です。細胞外液はさらに間質液と血漿に3対1で分かれる、でしたっけ。
ドクタードクター
完璧。そこで正解は生理食塩液だ。ナトリウム濃度が血漿に近い等張液で、ナトリウムは基本的に細胞外にとどまるから、入れた水も細胞内には入らず細胞外液区分に残る。そのうち約1/4が血管内に残って、循環血液量を効率よく戻してくれるんだ。乳酸リンゲル液や酢酸リンゲル液も同じ細胞外液補充液として使える。
医学生医学生
5%ブドウ糖液も等張って習った気がするんですが、なぜダメなんですか。
ドクタードクター
そこは多くの人が引っかかるポイントだね。たしかに投与した瞬間はほぼ等張だけど、ブドウ糖はすぐに代謝されて水と二酸化炭素になる。つまり実質的には電解質を含まない「自由水」を入れているのと同じなんだ。自由水は全身の水に均等に混ざるから、2/3は細胞内に入ってしまい、血管内に残るのは投与量の約1/12程度にすぎない。
医学生医学生
同じ量を入れても、生理食塩液と比べて血管に残る量がずっと少ないんですね。ショックで急いで血管を満たしたいときには向かないと。
ドクタードクター
そういうこと。5%ブドウ糖液は、高ナトリウム血症で自由水を補いたいときや、心不全が疑われて水分負荷を避けたい場面での静脈路確保などに使われる。では、残りの脂肪乳剤、アミノ酸製剤、高カロリー輸液製剤はどうだろう。
医学生医学生
どれも栄養のための輸液なので、血圧を上げる目的には合わない気がします。
ドクタードクター
正解。これらはエネルギーや蛋白合成の材料、必須脂肪酸を補うための栄養輸液で、循環血液量を回復させる力はない。特に高カロリー輸液製剤は浸透圧がとても高く、末梢から入れると静脈炎を起こすので中心静脈から投与する製剤だ。末梢静脈路しかない今の状況ではそもそも使えないし、急速に入れれば高血糖も招きかねない。栄養はまず命の危機を脱してから考えるものなんだ。
医学生医学生
まず循環を立て直して、栄養はそのあと、という優先順位ですね。
ドクタードクター
その通り。臨床での注意点もまとめておこう。ショックの初期はABCを確保し、太い末梢静脈路から細胞外液補充液を急速に入れる。反応は血圧、心拍数、意識、尿量、末梢の冷たさ、乳酸値などで評価する。血管の中身が空のまま昇圧薬を使っても十分な効果は得にくいので、まずは輸液だ。敗血症で十分な輸液をしても血圧が戻らなければ、ノルアドレナリンを考える。
医学生医学生
高齢者の意識障害なら、低血糖も確認しないといけないですよね。救急外来で、意識障害ではまず血糖を測るように言われました。
ドクタードクター
大事なことをよく覚えていたね。低血糖は数分で治せる意識障害の原因だから、輸液の開始と同時に血糖測定は必ず行う。もし低血糖があれば、そこで初めてブドウ糖の出番になる。つまり製剤ごとに「何のために入れるか」がはっきり違うということだ。

まとめ

低血圧・頻脈・頻呼吸・発汗を伴う意識障害はショックを示し、数日続く下痢と頸静脈怒張のなさから、脱水による循環血液量減少性ショックが最も考えられます。初期輸液には、ナトリウム濃度が血漿に近く細胞外液区分にとどまる生理食塩液や乳酸・酢酸リンゲル液などの細胞外液補充液を選び、急速投与して血圧・心拍数・意識・尿量の改善を確認します。5%ブドウ糖液は代謝されると自由水となって大部分が細胞内へ移行し、血管内に残るのは約1/12にすぎないため、循環の回復には向きません。脂肪乳剤・アミノ酸製剤・高カロリー輸液製剤は栄養輸液であり、特に高カロリー輸液は中心静脈から投与する製剤です。体液区分と輸液の分布を理解しておくことは、ショック対応だけでなく、あらゆる場面での輸液選択の土台になります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・82歳男性、意識障害(JCS Ⅲ-100:痛み刺激に対して払いのける動作をするが開眼しない)で搬入。 ・数日前から頻回の下痢。 ・体温38.2℃、心拍数110/分(頻脈)、収縮期血圧78 mmHg(触診でしか測れないほどの低血圧)、呼吸数28/分(頻呼吸)。 ・頸静脈の怒張なし、心音・呼吸音に異常なし。全身に発汗。SpO2は保たれている。

病態の評価

低血圧に頻脈・頻呼吸・発汗(交感神経の緊張を示す冷汗)を伴っており、ショック状態である。意識障害もショックによる脳灌流の低下で説明できる。 ショックの型を考えると、 ・頸静脈怒張がなく、心音・呼吸音も正常であり、心原性ショック(心不全)や閉塞性ショック(心タンポナーデ、緊張性気胸、肺塞栓症)を示す所見はない。 ・数日間の頻回の下痢があり、消化管から水とNaが大量に失われて細胞外液が減少したと考えられる。高齢者は口渇を感じにくく、脱水に陥りやすい。 以上から、下痢による脱水を主因とする循環血液量減少性ショックが最も考えられる。発熱があることから感染性腸炎を背景とした敗血症性ショック(分布異常性ショック)の合併も否定はできないが、いずれの場合も初期治療の柱は細胞外液の急速補充である。

設問の考え方

ショックの初期輸液では、投与した水分がなるべく血管内を含む細胞外液区分にとどまり、循環血液量を速やかに回復させる製剤を選ぶ必要がある。そのためには、Na濃度が血漿に近い等張の細胞外液補充液(生理食塩液、乳酸リンゲル液・酢酸リンゲル液など)を用いる。栄養輸液は循環の回復には役立たず、ブドウ糖液は大部分が細胞内に移行するため不適である。なお、高齢者の意識障害では低血糖の除外も重要であり、血糖測定を同時に行う。

選択肢考察

  1. ×a.  脂肪乳剤

    誤り。脂肪乳剤は、エネルギー源と必須脂肪酸を補うための栄養輸液であり、長期の静脈栄養(特に中心静脈栄養)で必須脂肪酸欠乏を防ぐ目的などで用いられる。循環血液量を増やす作用はなく、ショックの初期治療で優先する製剤ではない。

  2. ○b.  生理食塩液

    正しい。生理食塩液(0.9%NaCl、Na 154 mEq/L)は血漿とほぼ等張な細胞外液補充液である。Naは主に細胞外に分布するため、投与した水分は細胞内へ移行せず細胞外液区分(血管内と間質)にとどまり、減少した循環血液量を効率よく回復させる。下痢による脱水から循環血液量減少性ショックに陥った本例では、確保した静脈路から細胞外液補充液を急速に投与し、血圧・心拍数・意識・尿量の改善をみながら量を調整する。乳酸リンゲル液や酢酸リンゲル液も同じ目的で使用できる。

  3. ×c.  アミノ酸製剤

    誤り。アミノ酸製剤は、蛋白合成の材料を補う栄養輸液であり、経口・経腸で十分な栄養を摂れない低栄養状態などで用いる。循環血液量の補充には役立たず、ショックの初期治療として選ぶ製剤ではない。

  4. ×d.  5%ブドウ糖液

    誤り。5%ブドウ糖液は投与時にはほぼ等張だが、ブドウ糖が速やかに代謝されて水と二酸化炭素になるため、実質的には電解質を含まない自由水を投与することになる。自由水は体内総水分量の分布に従い、約2/3が細胞内液、約1/3が細胞外液に分布し、血管内に残るのはそのさらに一部(投与量の約1/12程度)にすぎない。したがって循環血液量を回復させる効果は乏しく、ショックの治療には適さない。自由水の補充が必要な高Na血症の治療や、水分負荷を避けたい場面での静脈路確保などに用いられる。

  5. ×e.  高カロリー輸液製剤

    誤り。高カロリー輸液製剤は、高濃度のブドウ糖などを含む中心静脈栄養(TPN:total parenteral nutrition)用の製剤である。浸透圧が非常に高く、末梢静脈から投与すると静脈炎を起こすため中心静脈から投与する必要があり、通常は持続的に時間をかけて投与する。循環血液量の補充には役立たず、また末梢静脈路しか確保していない本例では使用できない。急速投与すれば高血糖を招くおそれもある。

体液区分と輸液の分布

体重の約60%が体内総水分量で、その約2/3が細胞内液、約1/3が細胞外液である。細胞外液はさらに約3/4が間質液、約1/4が血漿(血管内)に分かれる。 ・等張の細胞外液補充液(生理食塩液、乳酸・酢酸リンゲル液):細胞外液区分にのみ分布し、投与量の約1/4が血管内に残る。 ・5%ブドウ糖液(自由水):全体液に分布し、血管内に残るのは約1/12にすぎない。 ・膠質液(アルブミン製剤など):主に血管内にとどまるが、初期輸液の第一選択は晶質液である。

ショックの分類と主な所見

・循環血液量減少性ショック:出血、脱水(下痢・嘔吐・熱傷など)。頸静脈は虚脱し、頻脈を伴う。治療は細胞外液補充液の急速輸液、出血例では輸血と止血。 ・心原性ショック:急性心筋梗塞、重症不整脈など。頸静脈怒張、肺うっ血(湿性ラ音)、Ⅲ音などを伴うことが多い。大量輸液は肺水腫を悪化させうる。 ・閉塞性ショック:心タンポナーデ、緊張性気胸、肺塞栓症。頸静脈怒張を伴う。原因の解除が治療の中心。 ・分布異常性ショック:敗血症、アナフィラキシー、神経原性など。敗血症では初期に細胞外液補充液を十分量投与し、反応が乏しければ血管収縮薬(ノルアドレナリン)を用いる。

ショックの初期対応

気道・呼吸・循環(ABC)を確保し、太い末梢静脈路から細胞外液補充液を急速投与する。循環血液量が不足した状態で血管収縮薬を用いても、十分な血圧上昇は得にくい。反応をみる指標は血圧、心拍数、意識、尿量、末梢循環、乳酸値などである。

POINT

・下痢などによる脱水で循環血液量減少性ショックに陥った患者には、まず生理食塩液や乳酸リンゲル液などの細胞外液補充液を急速投与する。 ・頸静脈怒張がなく頻脈を伴う低血圧は循環血液量減少を示唆する。 ・5%ブドウ糖液は自由水と同じで大部分が細胞内に移行し、循環血液量の補充には不向きである。 ・脂肪乳剤、アミノ酸製剤、高カロリー輸液は栄養輸液であり、ショックの初期治療には用いない。高カロリー輸液は中心静脈から投与する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。