指は語り、頬は黙る―関節リウマチの変形と「蝶形紅斑」の見分け方
第106回医師国家試験 F問題 第19問
国試問題にチャレンジ
40歳の女性。多関節痛を主訴に来院した。5年前から両手関節と両側中手指節間関節とに疼痛と腫脹とを認めている。朝のこわばりは2時間持続する。赤沈70 mm/1時間。免疫学所見:CRP 4.0 mg/dL。抗CCP抗体陽性。 この疾患の特徴でないのはどれか。
- a.尺側偏位
- b.蝶形紅斑
- c.ボタン穴変形
- d.スワンネック変形
- e.肘関節伸側の皮下結節
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
中年女性に手関節・MCP関節を中心とする対称性の多関節炎が長く続き、1時間以上の朝のこわばり、炎症反応の上昇、特異度の高い抗CCP抗体陽性を伴えば、関節リウマチと考えます。関節リウマチでは慢性滑膜炎により、MCP関節での尺側偏位、PIP屈曲・DIP過伸展のボタン穴変形、PIP過伸展・DIP屈曲のスワンネック変形などが生じ、関節外症状として肘伸側などのリウマトイド結節がみられます。一方、蝶形紅斑は全身性エリテマトーデスに特徴的な皮膚所見で、関節リウマチではみられません。SLEの関節炎は骨びらんを伴わず、抗二本鎖DNA抗体や抗Sm抗体などで区別されます。疾患ごとの所見を「どの病気のものか」で整理しておくことは、膠原病の鑑別と否定形問題の両方に役立ちます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・40歳女性、多関節痛。 ・5年前から両手関節と両側の中手指節間関節(MCP関節:指の付け根の関節)に疼痛と腫脹が続いている。左右対称性で、手の小関節を中心とした慢性の多関節炎である。 ・朝のこわばりが2時間持続(関節リウマチでは1時間以上続くことが多い)。 ・赤沈70 mm/1時間、CRP 4.0 mg/dLと炎症反応が上昇。 ・抗CCP抗体(抗環状シトルリン化ペプチド抗体)陽性。
診断のプロセス
中年女性に、手関節・MCP関節を中心とする対称性の多関節炎が6週間以上続き、長い朝のこわばり、炎症反応の上昇を伴っている。さらに抗CCP抗体は関節リウマチ(RA:rheumatoid arthritis)に対する特異度が高い(おおむね90%以上)自己抗体であり、これが陽性であることから関節リウマチと診断できる。2010年ACR/EULAR(米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会)分類基準に当てはめても、罹患関節(手の小関節を複数含む)、血清学的所見(抗CCP抗体陽性)、急性期反応物質(CRP・赤沈の異常)、症状持続期間(6週以上)のいずれも得点を得て、分類に必要な6点以上を満たす。 鑑別すべき疾患として、同じく若年〜中年女性に多関節炎を起こす全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病があるが、SLEの関節炎は通常骨破壊を伴わず、抗CCP抗体も陽性にならないのが一般的である。
設問の考え方
関節リウマチの特徴を問う「否定形」の問題である。関節リウマチでは滑膜炎が長く続くことで軟骨・骨・腱・靱帯が障害され、手指に特有の変形が生じる。また関節外症状としてリウマトイド結節がみられる。選択肢の中で関節リウマチではなく別の膠原病(SLE)に特徴的な所見を選べばよい。
選択肢考察
- ×a. 尺側偏位
関節リウマチの特徴であり、本設問の正解ではない。MCP関節の滑膜炎で関節包や側副靱帯が緩み、伸筋腱が尺側(小指側)に脱臼することなどにより、指がMCP関節で小指側へ傾く変形である。手関節ではむしろ手根骨が橈側に偏位することが多く、これと組み合わさってジグザグ状の変形となる。関節リウマチの代表的な手指変形である。
- ○b. 蝶形紅斑
関節リウマチの特徴ではないため、本設問の正解である。蝶形紅斑は、両頬から鼻背にかけて蝶が羽を広げたような形に広がる紅斑で、鼻唇溝は避けることが多い。全身性エリテマトーデス(SLE)に特徴的な皮膚所見であり、日光曝露で増悪しやすい。SLEも多関節炎を起こすため関節リウマチとの鑑別に挙がるが、本例は抗CCP抗体陽性で、関節リウマチと考えられる。
- ×c. ボタン穴変形
関節リウマチの特徴であり、本設問の正解ではない。近位指節間関節(PIP関節)の滑膜炎により伸筋腱の中央索が緩む・断裂すると、PIP関節が屈曲し、側索が掌側へずれるため遠位指節間関節(DIP関節)が過伸展する。PIP関節の背側がボタン穴のように突き出た形になることから名付けられた。
- ×d. スワンネック変形
関節リウマチの特徴であり、本設問の正解ではない。ボタン穴変形とは逆に、PIP関節が過伸展し、DIP関節が屈曲した変形で、指の形が白鳥の首のように見える。MCP関節の滑膜炎や手内筋の拘縮、PIP関節掌側板の弛緩などが関与する。
- ×e. 肘関節伸側の皮下結節
関節リウマチの特徴であり、本設問の正解ではない。リウマトイド結節と呼ばれる関節外症状で、関節リウマチ患者の約20〜30%にみられる。肘の伸側、後頭部、手指、アキレス腱部など、圧迫や摩擦を受けやすい部位の皮下に好発する硬い無痛性の結節である。リウマトイド因子陽性例や疾患活動性の高い例に多い。1987年のACR改訂分類基準では項目の一つに含まれていた(2010年ACR/EULAR分類基準には含まれない)。
関節リウマチの概要
滑膜の慢性炎症を主体とする自己免疫疾患で、30〜50歳代の女性に多い(男女比おおむね1:3〜4)。手関節、MCP関節、PIP関節、足趾のMTP関節などの小関節が左右対称に侵されやすく、DIP関節は侵されにくい(DIP関節が侵される場合は変形性関節症〈ヘバーデン結節〉や乾癬性関節炎を考える)。
検査
・リウマトイド因子(RF):感度は約70〜80%だが特異度は低く、他の膠原病や慢性感染症、健常高齢者でも陽性になる。 ・抗CCP抗体:感度はRFと同程度で、特異度が高い。発症早期から陽性となり、陽性例は関節破壊が進行しやすい。 ・炎症反応:CRP、赤沈の上昇。 ・画像:単純X線で関節周囲の骨粗鬆化、関節裂隙の狭小化、骨びらん。早期の滑膜炎の検出には関節超音波やMRIが有用。
2010年ACR/EULAR分類基準(概略)
少なくとも1関節に滑膜炎があり、他疾患で説明できない場合に以下を合計し、10点中6点以上で関節リウマチと分類する。 ・罹患関節(0〜5点):大関節のみか小関節か、数が多いほど高得点。 ・血清学的所見(0〜3点):RFまたは抗CCP抗体。低値陽性2点、高値陽性(基準上限の3倍超)3点。 ・急性期反応物質(0〜1点):CRPまたは赤沈の異常。 ・症状の持続期間(0〜1点):6週以上で1点。
関節の変形
尺側偏位、ボタン穴変形、スワンネック変形のほか、骨の吸収が高度に進んで指が短縮し、引っ張ると伸びるオペラグラス変形(ムチランス変形)、足では外反母趾などがみられる。環軸関節亜脱臼は頸髄障害の原因となるため注意する。
主な関節外症状
リウマトイド結節、間質性肺炎、胸膜炎、強膜炎・上強膜炎、血管炎(悪性関節リウマチ)、続発性アミロイドーシス、貧血、二次性シェーグレン症候群など。
SLEとの鑑別
SLEも多関節炎を起こすが、通常は骨びらんを伴わない。ただし靱帯・関節包の弛緩によって、徒手的に整復できる変形(ジャクー関節症)を生じることがある。蝶形紅斑、円板状皮疹、光線過敏症、口腔潰瘍、腎炎、血球減少、抗核抗体・抗二本鎖DNA抗体・抗Sm抗体陽性などが特徴である。
POINT
・中年女性の対称性多関節炎(手関節・MCP・PIP関節)、長い朝のこわばり、炎症反応上昇、抗CCP抗体陽性 → 関節リウマチ。 ・関節リウマチの手指変形:尺側偏位(MCP関節)、ボタン穴変形(PIP屈曲・DIP過伸展)、スワンネック変形(PIP過伸展・DIP屈曲)、オペラグラス変形。 ・リウマトイド結節は肘伸側、後頭部など圧迫を受ける部位の皮下に好発する。 ・蝶形紅斑はSLEの特徴であり、関節リウマチではみられない。
