抗菌薬が効かない高熱とフェリチン2,000超―成人Still病で探すべき身体所見
第120回医師国家試験 C問題 第64問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,64~66の問いに答えよ。 22歳の女性。発熱を主訴に来院した。 現病歴:2週間前から39℃を超える発熱が連日出現し,1週間前に自宅近くの診療所を受診した。解熱鎮痛薬と抗菌薬が処方されたが,その後も発熱が続き,咽頭痛,膝と手指の関節痛も出現したため,受診した。 既往歴:3歳時に肺炎。 生活歴:喫煙歴はない。飲酒は機会飲酒。 家族歴:特記すべきことはない。 現症:意識は清明。体温39.4℃。脈拍112/分,整。血圧98/50mmHg。呼吸数22/分。SpO2 96%(room air)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。左肋骨弓下に脾を1cm触知する。両膝と近位指節間関節とに腫脹と圧痛を認める。四肢に径1~2cmの淡い紅斑を複数認める。皮膚硬化を認めない。 検査所見:尿所見:蛋白(-),糖(-),潜血(-),沈渣に異常を認めない。血液所見:赤血球422万,Hb 11.2g/dL,Ht 42%,網赤血球2.2%,白血球16,300(桿状核好中球15%,分葉核好中球70%,単球6%,リンパ球9%),血小板36万。血液生化学所見:総蛋白7.5g/dL,アルブミン3.5g/dL,IgG 1,614mg/dL(基準861~1,747),IgA 166mg/dL(基準93~393),IgM 166mg/dL(基準50~269),総ビリルビン0.4mg/dL,直接ビリルビン0.2mg/dL,AST 288U/L,ALT 165U/L,LD 322U/L(基準124~222),ALP 126U/L(基準38~113),γ-GT 32U/L(基準9~32),CK 66U/L(基準41~153),尿素窒素22mg/dL,クレアチニン0.6mg/dL,尿酸4.9mg/dL,血糖98mg/dL,TSH 3.6μU/mL(基準0.2~4.0),FT3 2.8pg/mL(基準2.3~4.3),FT4 1.6ng/dL(基準0.8~2.2),フェリチン2,266ng/mL(基準20~120)。免疫血清学所見:CRP 12.2mg/dL,抗核抗体陰性,リウマトイド因子〈RF〉陰性,抗SS-A抗体陰性,C3 132mg/dL(基準52~112),C4 51mg/dL(基準16~51)。血液培養は陰性。
この患者で認める可能性が高い身体所見はどれか。
- a.脱毛
- b.手指潰瘍
- c.舌乳頭萎縮
- d.Gottron徴候
- e.リンパ節腫大
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
若年者で抗菌薬が効かない高熱が続き、関節炎、淡い紅斑、咽頭痛、好中球優位の白血球増加、肝障害、フェリチンの著明高値がそろい、RF・抗核抗体が陰性であれば成人Still病を考えます。本疾患は自然免疫系の過剰な活性化による全身性炎症性疾患で、網内系の活性化を反映してリンパ節腫脹や肝脾腫がよくみられ、山口らの分類基準でも小項目に含まれています。脱毛はSLE、手指潰瘍は全身性強皮症、舌乳頭萎縮はSjögren症候群や鉄欠乏、Gottron徴候は皮膚筋炎を想起させる所見です。成人Still病は除外診断であり、感染症や悪性リンパ腫、他の膠原病の除外が欠かせないほか、マクロファージ活性化症候群という重篤な合併症にも注意が必要です。膠原病ごとの代表的な身体所見を整理しておくことは、不明熱の鑑別を進めるうえで大きな武器になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・22歳の若年女性。39℃を超える高熱が2週間連日続き、解熱鎮痛薬と抗菌薬を使っても下がらない。 ・経過中に咽頭痛と、膝・手指の関節痛が加わった。 ・身体所見:頻脈(112/分)、脾腫(左肋骨弓下に1cm触知)、両膝と近位指節間関節(PIP関節)の腫脹・圧痛(=多関節炎)、四肢に径1~2cmの淡い紅斑が散在。皮膚硬化はない。 ・血液検査:白血球16,300/μLと増加し、好中球が85%(桿状核15%+分葉核70%)を占め、左方移動もある。CRP 12.2mg/dLと強い炎症反応。AST・ALT・LD・ALPが上昇し肝障害がある。フェリチンは2,266ng/mLと基準上限の約20倍に達する。 ・免疫血清学:抗核抗体、リウマトイド因子(RF)、抗SS-A抗体はいずれも陰性。補体C3・C4は低下しておらず、むしろ高めである(補体は急性期反応で上昇しうる)。血液培養は陰性で、甲状腺機能は正常。
診断へのプロセス
長く続く高熱では、まず感染症・悪性腫瘍(特に悪性リンパ腫)・膠原病の3系統を考える。本例では抗菌薬が効かず血液培養も陰性で、細菌感染症の可能性は低い。膠原病の中でも、全身性エリテマトーデス(SLE)であれば抗核抗体が陽性となり補体が下がることが多いが、本例はどちらにも当てはまらない。関節リウマチ(RA)やSjögren症候群を示す自己抗体もない。甲状腺機能も正常で、亜急性甲状腺炎などによる発熱も考えにくい。 一方、「弛張する高熱」「関節炎」「淡い紅斑(皮疹)」「好中球優位の白血球増加」「咽頭痛」「脾腫」「肝障害」「RF・抗核抗体陰性」「フェリチンの著明高値」がそろっており、成人Still病(adult-onset Still's disease: AOSD)が最も考えられる。山口らの分類基準(大項目:39℃以上の発熱が1週間以上、関節痛が2週間以上、定型的皮疹、白血球10,000/μL以上かつ好中球80%以上/小項目:咽頭痛、リンパ節腫脹または脾腫、肝機能異常、RFと抗核抗体がともに陰性)に照らしても、大項目・小項目の多くを満たす。ただし成人Still病は除外診断が前提であり、感染症・悪性腫瘍・他の膠原病を慎重に除外する必要がある。
設問の考え方
成人Still病でよくみられる身体所見を選ぶ。本疾患の代表的な身体所見は、発熱、サーモンピンク疹、関節炎、咽頭痛、リンパ節腫脹、肝脾腫である。本例ではすでに脾腫がみられており、同じく単球・マクロファージ系(網内系)の活性化を反映するリンパ節腫大も伴っている可能性が高い。他の選択肢は別の膠原病や別の病態に特徴的な所見である。
選択肢考察
- ×a. 脱毛
脱毛はSLEでよくみられる所見で、SLEの分類基準(2019年EULAR/ACR基準)にも非瘢痕性脱毛として含まれている。円板状ループスでは瘢痕性の脱毛を来す。成人Still病の症状としては通常みられない。本例は抗核抗体陰性で補体も低下しておらず、SLEを示唆する所見に乏しい。
- ×b. 手指潰瘍
手指潰瘍(指尖部の潰瘍や陥凹性瘢痕)は、Raynaud現象を伴う末梢循環障害の結果として生じ、全身性強皮症に特徴的である。血管炎症候群や抗リン脂質抗体症候群などでもみられる。成人Still病では血管障害による手指潰瘍は起こらない。本例では皮膚硬化もなく、強皮症を示唆しない。
- ×c. 舌乳頭萎縮
舌乳頭萎縮は舌表面の乳頭が消失して平滑・発赤した舌(平滑舌)となる所見で、唾液分泌が低下したSjögren症候群や、鉄欠乏性貧血・ビタミンB12欠乏(Hunter舌炎)などでみられる。成人Still病の所見ではない。本例は抗SS-A抗体陰性で、口腔乾燥の訴えもない。
- ×d. Gottron徴候
Gottron徴候は、手指の関節(MCP関節・PIP関節など)の伸側に生じる、角化や落屑を伴う紫紅色の紅斑である。肘・膝の伸側にもみられ、皮膚筋炎に特異性の高い皮疹である。成人Still病ではみられない。本例ではCKが正常で筋炎を示唆する所見もない。
- ○e. リンパ節腫大
成人Still病では、マクロファージを中心とする網内系が強く活性化し、リンパ節腫脹や肝脾腫がよくみられる。リンパ節腫脹は頸部に多く、軽い圧痛を伴うこともある。山口らの分類基準でも「リンパ節腫脹または脾腫」が小項目に含まれている。本例ではすでに脾腫があり、リンパ節腫大も伴っている可能性が高い。なお、リンパ節腫大が目立つ場合は悪性リンパ腫との鑑別が重要となり、必要に応じてリンパ節生検を行う。
成人Still病の概要
・原因不明の全身性炎症性疾患である。自己抗体をもたず、自然免疫系(マクロファージ・好中球)の過剰な活性化とIL-1β・IL-6・IL-18などの炎症性サイトカインの過剰産生が病態の中心にあり、自己炎症性疾患に近い性格をもつ。小児の全身型若年性特発性関節炎(旧称:小児Still病)が成人に発症したものに相当する。 ・16~35歳の若年成人に多く、やや女性に多い。
主な症状・所見
・発熱:夕方~夜に39℃以上に上がり、朝には平熱近くまで下がる弛張熱(spiking fever)。 ・皮疹:発熱とともに出現し、解熱すると消えるサーモンピンク色の淡い紅斑(リウマトイド疹)。体幹や四肢の近位部に多い。 ・関節炎・関節痛:膝・手・足関節などに多い。 ・咽頭痛、リンパ節腫脹、肝脾腫、ときに胸膜炎・心膜炎。
検査所見
・好中球優位の白血球増加、CRP上昇・赤沈亢進、肝酵素上昇。 ・血清フェリチンの著明な上昇(基準上限の数倍以上、数千~数万ng/mLに達することもある)。フェリチンは病勢の指標にもなる。 ・RF・抗核抗体は陰性。
山口らの分類基準(1992年)
大項目:①39℃以上の発熱が1週間以上続く、②関節痛が2週間以上続く、③定型的皮疹、④白血球10,000/μL以上かつ好中球80%以上。 小項目:①咽頭痛、②リンパ節腫脹または脾腫、③肝機能異常、④RFと抗核抗体がともに陰性。 大項目2つ以上を含む計5項目以上を満たし、感染症(特に敗血症、伝染性単核球症)・悪性腫瘍(特に悪性リンパ腫)・他の膠原病(特に結節性多発動脈炎、悪性関節リウマチ)を除外できれば成人Still病と分類する。
注意すべき合併症
マクロファージ活性化症候群(MAS)は、活性化したマクロファージが血球を貪食する重篤な合併症である。血球減少、フェリチンのさらなる急上昇、肝障害の悪化、凝固異常(DIC)、高トリグリセリド血症などを来す。
鑑別のための身体所見の整理
・脱毛:SLE ・手指潰瘍:全身性強皮症、血管炎 ・舌乳頭萎縮:Sjögren症候群、鉄欠乏性貧血、ビタミンB12欠乏 ・Gottron徴候:皮膚筋炎 ・リンパ節腫大・肝脾腫:成人Still病(ほかに悪性リンパ腫、伝染性単核球症、SLEなど)
POINT
・若年者で抗菌薬が効かない弛張熱、関節炎、淡い紅斑、好中球増加、肝障害、フェリチン著明高値、RF・抗核抗体陰性がそろえば、成人Still病を考える。 ・成人Still病の身体所見は、発熱、サーモンピンク疹、関節炎、咽頭痛、リンパ節腫脹、肝脾腫である。 ・成人Still病は除外診断であり、感染症・悪性リンパ腫・他の膠原病を除外する必要がある。 ・脱毛はSLE、手指潰瘍は強皮症、舌乳頭萎縮はSjögren症候群や鉄欠乏、Gottron徴候は皮膚筋炎を想起する。
