階段の踊り場で見つかった入院患者―「院内の死」でも警察へ届け出るとき
第106回医師国家試験 B問題 第46問
国試問題にチャレンジ
83歳の男性。3日前に転院してきた。1か月前にオートバイと接触し,左大腿骨骨折と左橈骨骨折とを受傷したが,順調に回復し,リハビリテーション目的で転院となった。転院直後から,夜間せん妄が出現していた。本日,看護師が階段の踊り場で心肺停止状態となっている患者を発見した。医師が死亡確認し検案したところ,頭部に出血を伴う皮膚損傷を認めた。 対応として適切なのはどれか。
- a.監察医に連絡する。
- b.保健所に届け出る。
- c.死亡診断書を作成する。
- d.所轄の警察署に届け出る。
- e.医療安全支援センターに届け出る。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
入院中の死亡であっても、診療中の病気によって予期どおりに亡くなった明らかな病死でなければ、異状死体として扱います。予期しない死亡で経過が不明、転落による頭部外傷が疑われる本例は異状死にあたり、医師法第21条に基づいて、検案した医師が24時間以内に所轄の警察署へ届け出る必要があります。監察医は警察を通じて関わる存在で、保健所や医療安全支援センターは届出先ではありません。医療事故調査制度も警察への届出の代わりにはならず、書類は死亡診断書ではなく死体検案書を作成します。異状死の判断と届出の流れを正しく理解しておくことは、死因の究明と犯罪の見逃し防止という社会的責任を医師が果たすための基本です。
解答・解説
正解はdです
状況の整理
・83歳男性。1か月前にオートバイとの接触事故(交通外傷)で左大腿骨骨折・左橈骨骨折を負い、経過は順調で、リハビリテーション目的で3日前に転院してきた。つまり、死が差し迫った病状で入院していたわけではない。 ・転院直後から夜間せん妄があり、夜間に病棟を歩き回って転倒・転落する危険が高い状態だった。 ・本日、階段の踊り場で心肺停止状態で発見された。誰も死亡に至る経過を見ておらず、死因ははっきりしない。 ・検案(医師が死体の外表を調べ、死因や死亡時刻などを推定すること)で、頭部に出血を伴う皮膚損傷がある。階段からの転落による頭部外傷(頭蓋内出血など)で亡くなった可能性がある。
判断の流れ
入院中の死亡であっても、治療中の病気が進んで予期どおりに亡くなった場合(明らかな病死)でなければ異状死体として扱う。本例は、①入院の目的がリハビリであり死亡は予期されていなかった、②死亡の経過が不明(発見時すでに心肺停止)、③外傷(転落)の関与が疑われる頭部の損傷がある、という点から異状死体にあたる。さらに、そもそもの入院理由が交通外傷であり、外因による損傷の続発症として亡くなった可能性も否定できない。この点からも異状死である。 医師法第21条は「医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」と定めている。したがって、この医師がまずすべきことは所轄の警察署への届出である。その後の司法検視・解剖や監察医による検案などは、警察が中心となって進める。
選択肢考察
- ×a. 監察医に連絡する。
監察医は、死体解剖保存法第8条に基づいて一部の地域(東京23区・大阪市・神戸市など)にだけ置かれている医師である。伝染病・中毒・災害などによる疑いのある死体や、死因のわからない死体の検案・解剖を行う。ただし、監察医が動くのは警察に届けられた後であり、警察からの依頼で出動するのが一般的である。臨床医が警察を通さずに監察医へ直接連絡しても、医師法第21条の届出義務を果たしたことにはならない。また、本例の病院が監察医の置かれた地域にあるかどうかもわからない。
- ×b. 保健所に届け出る。
保健所は、感染症法に基づく感染症の届出などを受ける機関であり、異状死体の届出先ではない。本例では感染症を疑わせる所見もない。死亡届(戸籍の手続き)の提出先も市区町村役場であって、保健所ではない。
- ×c. 死亡診断書を作成する。
死亡診断書は、医師が診療していた患者がその傷病で亡くなった場合に作成する書類である。本例は外因(転落による頭部外傷)の関与が疑われる異状死であり、診療中の疾患による死亡とはいえないため、死亡診断書は作成しない。このような場合は、警察への届出と検視・解剖などを経て、死因を判断したうえで死体検案書を作成するのが正しい流れである。届出をしないまま死亡診断書を作ると、医師法第21条違反となるだけでなく、事件や事故が見逃されるおそれもある。
- ○d. 所轄の警察署に届け出る。
予期しない院内死亡で、経過が不明であり、転落による頭部外傷が疑われる本例は異状死体にあたる。医師法第21条により、検案して異状を認めた医師は24時間以内に所轄の警察署へ届け出る義務がある。届出によって警察による検視や必要に応じた解剖が行われ、死因の究明と犯罪の見逃し防止が図られる。なお、この届出義務に違反すると罰則(50万円以下の罰金)がある。
- ×e. 医療安全支援センターに届け出る。
医療安全支援センターは、医療法に基づいて都道府県・保健所設置市・特別区などに設けられた窓口である。医療に関する患者・家族や住民からの苦情・相談に応じ、医療機関へ助言や情報提供を行う。死体の届出を受ける機関ではない。なお、名前の似た「医療事故調査・支援センター」(2015年開始の医療事故調査制度)は、医療に起因する予期しない死亡を医療機関の管理者が報告する先である。これは医師法第21条の警察への届出とは別の制度であり、代わりにはならない。
異状死体とは
日本法医学会の「異状死ガイドライン」では、確実に診断された内因性疾患(病気)で死亡したことが明らかな死体以外は、すべて異状死体とする考え方を示している。主なものは次のとおりである。 ・外因による死亡:交通事故、転倒・転落、溺水、中毒、熱中症・凍死、自殺、他殺など ・外因による傷害の続発症や後遺障害による死亡:例えば外傷後の肺炎や肺塞栓症による死亡 ・上記の疑いがあるもの ・診療行為に関連した予期しない死亡、およびその疑いがあるもの ・死因が明らかでない死亡(病死か外因死か判断できないもの)
医師法第21条
「医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。」 厚生労働省は、この「異状」は死体の外表を検案して判断するもの(いわゆる外表異状)と説明している(2019年の通知)。本例のように頭部に損傷が見られる場合は、まさに外表に異状がある場合にあたる。
死亡診断書と死体検案書の使い分け
・死亡診断書:医師が生前から診療していた傷病に関連して死亡した場合に作成する。最終の診察から24時間を超えていても、診療中の傷病による死亡と判断できれば、死後に診察したうえで死亡診断書を交付できる。 ・死体検案書:診療中の患者以外が死亡した場合や、診療中の患者でも診療していた傷病と関係のない原因(外因など)で死亡した場合に作成する。異状死体は警察への届出を経てから検案書を作成する。 ・書式は同じで、題名の「死亡診断書(死体検案書)」のうち不要な方を二重線で消して使う。
関連する機関・制度
・監察医制度:死体解剖保存法第8条に基づき、政令で定める地域にだけ置かれる。監察医が検案・行政解剖を行う。 ・医療事故調査制度:医療法に基づき2015年に始まった。医療に起因し、管理者が予期しなかった死亡を、医療機関が医療事故調査・支援センターに報告し、院内で調査を行う。 ・医療安全支援センター:医療に関する苦情・相談の窓口。
POINT
・確実に診断された病気による死亡でなければ、すべて異状死体として扱う(外因死、外因の続発症、死因不明、診療に関連した予期しない死亡など)。 ・入院中でも、転落などの外傷が疑われる予期しない死亡は異状死である。 ・異状死体は、検案した医師が24時間以内に所轄警察署へ届け出る(医師法第21条)。 ・異状死体には死亡診断書ではなく、死体検案書を作成する。 ・監察医は警察経由で関与する。保健所・医療安全支援センターは届出先ではない。
