StudyMed医師国家試験

太く、浅く、押さえられる―CHDFのカテーテルはどこに入れるか

第106回医師国家試験 B問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第106回 B問題 第1問

多臓器不全患者の集中治療で適用される持続的血液濾過透析〈CHDF〉について,カテーテルを留置するために穿刺する部位で適切なのはどれか。

  1. a.腕頭静脈
  2. b.前腕皮静脈
  3. c.下大静脈
  4. d.大腿静脈
  5. e.大伏在静脈

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、集中治療で使う持続的血液濾過透析、つまりCHDFのためのカテーテルをどこに入れるかという問題だ。暗記で答えることもできるけれど、「どんな血管なら血液浄化に使えるか」という条件から考えると、迷わずに済む。まずCHDFがどんな治療か説明できるかな。
医学生医学生
血液濾過と血液透析を組み合わせて、24時間かけてゆっくり行う方法ですよね。血圧が不安定な人でも使える、と腎臓内科の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。ゆっくり行うから循環への負担が小さく、多臓器不全や敗血症の患者でよく使われる。ただし体外循環だから、毎分およそ100 mL前後の血液を安定して抜いて戻す必要がある。そのための血管路をバスキュラーアクセスと呼ぶんだ。
医学生医学生
透析といえば腕のシャントを思い浮かべますが、急性期では使えないんですか。
ドクタードクター
内シャントは作ってから使えるようになるまで時間がかかるから、急性期には間に合わない。そこで太い中心静脈に、脱血用と返血用の2つの内腔をもつダブルルーメンカテーテルを入れる。では、穿刺する血管に求められる条件は何だと思う?
医学生医学生
まず十分な血流が取れるくらい太いこと、でしょうか。
ドクタードクター
それが一つ目。二つ目は体表から安全に穿刺できて、出血したら圧迫止血できること。三つ目は気胸や血栓などの合併症が少ないこと。この3条件を満たす代表が内頸静脈と大腿静脈で、選択肢の中では大腿静脈が正解になる。
医学生医学生
下大静脈のほうが太くて血流も多そうなので、そちらのほうが良い気がしてしまいました。
ドクタードクター
太さだけなら申し分ないね。でも下大静脈は後腹膜の深いところ、腹部大動脈の右側を走っているから、体表から直接刺すことはできないし、出血しても押さえようがない。大腿静脈から入れた長いカテーテルの先端が下大静脈に届くことはあるけれど、それは先端の位置であって穿刺部位ではないんだ。
医学生医学生
腕頭静脈も同じ理屈ですか。解剖実習で見たとき、胸骨の裏側にあった記憶があります。
ドクタードクター
まさにその通り。腕頭静脈は内頸静脈と鎖骨下静脈が合流してできる太い静脈だけれど、胸骨柄や鎖骨の裏、縦隔の上部にあるから直接は刺せない。内頸静脈から入れたカテーテルの先端が腕頭静脈から上大静脈に位置することはある、という関係だね。
医学生医学生
逆に、前腕の皮静脈や大伏在静脈は浅くて刺しやすいけれど、細すぎるということですね。
ドクタードクター
そう。前腕の皮静脈は点滴や採血には向いているけれど、血液浄化に必要な血流は取れないし、太いカテーテルも入らない。大伏在静脈も表在静脈で同じく細い。大伏在静脈は冠動脈バイパス術のグラフトや下肢静脈瘤の文脈で出てくることが多いから、そちらで覚えておこう。
医学生医学生
大腿静脈は鼠径靱帯の下で、大腿動脈の内側でしたよね。OSCEの前に、動脈の拍動を触れてその内側、と練習した覚えがあります。
ドクタードクター
よく覚えている。大腿静脈は胸から離れているので気胸の心配がなく、出血しても圧迫しやすい。挿管されて頸部の操作が難しい重症患者でも、仰向けのまま穿刺できるのが利点だ。一方で、感染や深部静脈血栓症のリスク、股関節を曲げると脱血不良になりやすいことには注意がいる。
医学生医学生
救急科の実習で、ICUの患者さんが少し体を起こしただけで透析の機械のアラームが鳴っていたのは、それだったのかもしれません。
ドクタードクター
ありがちな場面だね。発展として、優先順位も知っておこう。国際的なガイドラインでは第一選択が右内頸静脈、次いで大腿静脈、左内頸静脈で、鎖骨下静脈は最後とされている。右内頸静脈は上大静脈までほぼまっすぐで、先端が安定しやすいからだ。
医学生医学生
鎖骨下静脈を避けるのは、気胸のリスクがあるからですか。
ドクタードクター
それに加えて、留置後に静脈の狭窄や血栓が起きやすく、将来その側の腕にシャントを作るときの妨げになるのが大きな理由だ。そして挿入は、ガイドワイヤーを先に血管に入れてそれに沿わせるSeldinger法で行い、今は超音波ガイド下で行うのが標準になっている。

まとめ

CHDFなどの急性血液浄化では、内シャントを作る時間がないため、太い中心静脈に脱血用と返血用のダブルルーメンカテーテルを留置します。穿刺部位には、十分な血流が得られる太さ、体表から安全に穿刺でき圧迫止血できること、合併症の少なさが求められ、内頸静脈(第一選択は右)と大腿静脈が標準です。腕頭静脈や下大静脈は太くても深部にあり直接穿刺できず、前腕皮静脈や大伏在静脈は浅いものの細すぎて血流が足りません。大腿静脈は気胸がなく緊急時に有用な一方、感染・血栓・体位による脱血不良に注意し、鎖骨下静脈は中心静脈狭窄のため避けます。血管の解剖と治療の要件を結びつけて考える習慣は、中心静脈カテーテル管理全般の安全につながります。

解答・解説

正解はdです

持続的血液濾過透析〈CHDF:continuous hemodiafiltration〉は、血液濾過(限外濾過による中〜大分子の除去)と血液透析(拡散による小分子の除去)を組み合わせ、24時間かけて緩徐に行う血液浄化法である。循環動態への負担が小さいため、血圧が不安定な多臓器不全や敗血症の患者、急性腎障害を合併した重症患者の集中治療で広く用いられる。 体外循環を成立させるには、毎分およそ80〜150 mL前後の血液を安定して脱血・返血できる血管路(バスキュラーアクセス)が必要である。慢性維持透析では内シャント(自己血管の動静脈吻合)を用いるが、急性期には作成する時間がないため、太い中心静脈に脱血用と返血用の2つの内腔をもつダブルルーメンカテーテル(バスキュラーアクセスカテーテル)を留置する。 したがって穿刺部位の条件は、(1) 十分な血流量が得られる太い静脈であること、(2) 体表から安全に穿刺でき、圧迫止血が可能であること、(3) 合併症(気胸、血栓、狭窄など)が少ないこと、である。これを満たすのが内頸静脈と大腿静脈であり、選択肢中では大腿静脈が該当する。なお穿刺はガイドワイヤーを先に血管内へ進め、それに沿わせてカテーテルを挿入するSeldinger法で行い、近年は超音波ガイド下で実施するのが標準である。

選択肢考察

  1. ×a.  腕頭静脈

    腕頭静脈は左右の内頸静脈と鎖骨下静脈が合流してできる太い静脈で、血流量自体は十分である。しかし胸骨柄・鎖骨の裏側、縦隔上部の深部を走行するため体表から直接穿刺することはできず、圧迫止血も不可能である。内頸静脈から挿入したカテーテルの先端が腕頭静脈〜上大静脈に位置することはあるが、穿刺部位として選ぶ血管ではない。

  2. ×b.  前腕皮静脈

    前腕の皮静脈(橈側皮静脈、尺側皮静脈、前腕正中皮静脈など)は皮下の浅い位置を走る細い末梢静脈で、点滴や採血には適するが、CHDFに必要な毎分100 mL前後の血流を安定して脱血することはできない。太いダブルルーメンカテーテルを入れる内径もない。慢性透析で内シャントを作れば動脈化して使用可能となるが、急性期の穿刺部位としては不適切である。

  3. ×c.  下大静脈

    下大静脈は後腹膜腔の深部、腹部大動脈の右側を走行しており、体表から直接穿刺することは解剖学的に不可能で、出血しても圧迫止血ができない。大腿静脈から挿入した長めのカテーテルの先端が総腸骨静脈〜下大静脈に達することはあるが、それはカテーテル先端の位置であって穿刺部位ではない。

  4. ○d.  大腿静脈

    大腿静脈は鼠径靱帯の直下、大腿動脈の内側を走行する太い静脈で、体表からの穿刺が容易であり、十分な血流量が得られる。胸郭から離れているため気胸の危険がなく、出血時も圧迫止血しやすい。挿管・人工呼吸管理中で頸部の操作が難しい重症患者でも仰臥位のまま穿刺できるため、緊急の血液浄化で頻用される。一方で感染や深部静脈血栓症のリスク、患者が股関節を屈曲すると脱血不良になりやすい点には注意を要する。内頸静脈(特に右内頸静脈)とともに、急性血液浄化のバスキュラーアクセスとして標準的な部位である。

  5. ×e.  大伏在静脈

    大伏在静脈は足の内側から下腿・大腿の内側を上行し、鼠径部の伏在裂孔で大腿静脈に注ぐ表在静脈である。前腕皮静脈と同様に内径が細く血流量が乏しいため、血液浄化に必要な脱血はできない。冠動脈バイパス術のグラフト材料や下肢静脈瘤の治療対象として問われることの多い静脈である。

急性血液浄化のバスキュラーアクセス

・カテーテル:脱血用と返血用の2腔をもつダブルルーメンカテーテルを用いる。 ・推奨部位:国際的な腎臓病ガイドライン(KDIGO:Kidney Disease: Improving Global Outcomes の急性腎障害ガイドライン)では、第一選択を右内頸静脈、次いで大腿静脈、左内頸静脈とし、鎖骨下静脈は最後の選択肢とされている。右内頸静脈は上大静脈までほぼ直線的で、カテーテル先端が安定しやすい。 ・鎖骨下静脈を避ける理由:留置後に静脈狭窄や血栓を生じやすく、将来同側上肢に内シャントを作る際の妨げとなる。また穿刺時の気胸のリスクもある。

各部位の特徴

・内頸静脈:超音波で確認しやすく、感染が比較的少ない。気胸・動脈誤穿刺(総頸動脈)に注意。 ・大腿静脈:穿刺が容易で気胸がない。緊急時・頸部の操作が難しいときに有用。感染・血栓、体位による脱血不良に注意。 ・鎖骨下静脈:固定性はよいが、気胸・圧迫止血困難・中心静脈狭窄の問題がある。

Seldinger法

穿刺針で血管を確保→針を通してガイドワイヤーを挿入→針を抜去→ダイレーターで皮下組織と血管壁を拡張→ガイドワイヤーに沿ってカテーテルを進める→ガイドワイヤーを抜去、という手順である。中心静脈カテーテル一般の挿入法であり、超音波ガイド下で行うことで誤穿刺を減らせる。

血液浄化法の用語

・HD(血液透析):拡散で主に小分子(尿素、クレアチニン、K)を除去。 ・HF(血液濾過):限外濾過と置換液補充により中分子まで除去。 ・HDF(血液濾過透析):両者の組み合わせ。これを持続的に行うのがCHDF。

POINT

・CHDFなど急性期の血液浄化では、太い中心静脈にダブルルーメンカテーテルを留置する。 ・穿刺部位は内頸静脈(第一選択は右)と大腿静脈が標準。鎖骨下静脈は中心静脈狭窄のため避ける。 ・腕頭静脈・下大静脈は深部で直接穿刺できない。前腕皮静脈・大伏在静脈は細く血流量が不足する。 ・挿入はSeldinger法、超音波ガイド下で行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。