StudyMed医師国家試験

透析は移植への「通過点」―腹膜透析を正しく説明できますか

第119回医師国家試験 F問題 第49問

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第119回 F問題 第49問

52歳の男性。腎機能低下を指摘され妻とともに来院した。1年前から下腿の浮腫を自覚していた。2週間前から浮腫が悪化したため,自宅近くの医療機関を受診したところ腎機能低下を指摘され,腎臓専門医を紹介受診した。30歳から高血圧症と糖尿病を指摘され,内服治療中であったが,通院は不定期であった。5年前に大腸ポリープで内視鏡的切除術を受けている。身長172cm,体重75kg。脈拍84/分,整。血圧156/92mmHg。SpO2 98%(room air)。胸部に異常を認めない。両下腿に軽度の浮腫を認める。尿所見:蛋白3+,潜血(-),1日尿蛋白6.5g/日。血液所見:赤血球316万,Hb 9.8g/dL,Ht 31%,白血球5,700,血小板17万。血液生化学所見:総蛋白5.7g/dL,アルブミン3.4g/dL,尿素窒素68mg/dL,クレアチニン6.5mg/dL,eGFR 8.1mL/分/1.73m2,HbA1c 6.3%(基準4.9~6.0),Na 144mEq/L,K 5.4mEq/L,Cl 102mEq/L。腎代替療法として腹膜透析もしくは妻をドナーとした生体腎移植を希望している。  この患者に対する腹膜透析の説明で適切なのはどれか。

  1. a.「週3回の通院が必要です」
  2. b.「糖尿病があるため適応はありません」
  3. c.「腹膜透析開始後に食事制限は必要ないです」
  4. d.「腹膜透析を行ってからでも腎移植はできます」
  5. e.「内視鏡的切除術の治療歴があるため適応はありません」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、末期腎不全の患者さんに腹膜透析をどう説明するかという問題だ。まず病態を押さえて、そのうえで腹膜透析の通院頻度、適応と禁忌、食事管理、そして腎移植との関係を一つずつ確認していこう。最初に、この患者さんの腎不全の原因は何だと思う?
医学生医学生
長い糖尿病歴があって、血尿のない高度蛋白尿なので、糖尿病性腎症でしょうか。
ドクタードクター
そうだね。高血圧による腎硬化症も関わっているかもしれないけれど、軸は糖尿病性腎症と考えていい。eGFRは15を大きく下回っていてCKDのG5、つまり末期腎不全だ。正球性の貧血は腎性貧血、カリウムも少し高い。浮腫も悪化しているから、腎代替療法を具体的に準備する段階だね。
医学生医学生
HbA1cが6.3%なので、血糖はそこそこ管理できているように見えますが……。
ドクタードクター
そこは落とし穴だよ。腎不全では腎性貧血や赤血球寿命の短縮でHbA1cが低めに出やすい。数値だけで血糖管理が良いとは言い切れないんだ。では本題。腎代替療法の3本柱は何だった?
医学生医学生
血液透析、腹膜透析、腎移植です。腎臓内科の講義で、それぞれの長所と短所を表にして覚えました。
ドクタードクター
いいね。じゃあ「週3回の通院が必要」という説明は?
医学生医学生
週3回、1回4時間くらい通うのは血液透析のイメージです。腹膜透析は自宅でするんですよね。
ドクタードクター
その通り。腹膜透析は腹腔に留置したカテーテルから透析液を入れて、腹膜を透析膜として使う在宅治療だ。日中に自分でバッグを交換するCAPDと、夜間に機械で行うAPDがある。診察や血液検査、カテーテル出口部の確認で月1〜2回は通院するけれど、週3回ではない。
医学生医学生
糖尿病があると腹膜透析はできない、というのはどうでしょう。透析液にブドウ糖が入っているので、血糖が悪くなりそうです。
ドクタードクター
心配する点は合っているけど、結論は違う。透析液のブドウ糖は腹膜から吸収されるから、高血糖や体重増加、脂質異常症には注意が必要だ。ただ、吸収されにくいイコデキストリン透析液を組み合わせたり、インスリンで調整したりすれば十分に行える。糖尿病性腎症の患者さんにも腹膜透析は広く行われていて、禁忌ではないんだ。
医学生医学生
透析を始めれば、食事制限はいらなくなるんですか。
ドクタードクター
これもよくある誤解だね。腹膜透析でも塩分・水分の制限とリンの制限は続く。透析液に蛋白質が失われるので蛋白質は不足しないようにとりつつ、透析液から吸収されるブドウ糖の分はエネルギー量から差し引く。この患者さんは標準体重より重めで糖尿病もあるから、エネルギー管理は特に大事だ。ただ、血液透析に比べるとカリウムや水分の制限は緩やかなことが多い。
医学生医学生
大腸ポリープの内視鏡的切除歴は関係ありますか。お腹の処置なので、癒着があるかもしれないと思いました。
ドクタードクター
腹膜透析が難しくなるのは、開腹手術の繰り返しや腹膜炎の既往で腹腔内に高度な癒着がある場合だ。内視鏡的切除は腸の内腔から行う処置で、腹膜には影響しない。だから適応から外れる理由にはならないよ。
医学生医学生
となると、腹膜透析をしてからでも腎移植はできる、という説明が正しいですね。
ドクタードクター
正解。腹膜透析をしていても移植の適応は失われない。ドナーになる奥さんの検査や組織適合性の評価には時間がかかるから、その間を腹膜透析でつなぐのは理にかなった流れだ。腹膜透析は持続的でゆっくり除水するので循環への負担が小さく、残腎機能を保ちやすい。社会生活も続けやすいから、移植への橋渡しとしてよく選ばれるんだ。
医学生医学生
透析を経ずにいきなり移植する方法もあると聞いたことがあります。
ドクタードクター
先行的腎移植だね。それも選択肢の一つだけど、この患者さんのように腎不全が進んで症状が出ている場合は、まず透析を導入して移植を待つことも多い。
医学生医学生
腹膜透析は長く続けられるんですか。
ドクタードクター
そこが臨床での注意点だ。腹膜炎やカテーテル出口部感染のリスクがあるし、長く続けると腹膜の機能が落ちてくる。まれに被嚢性腹膜硬化症という重い合併症も起こる。だから長期間の継続には限界があって、血液透析への移行や併用、移植を見すえて計画を立てる。移植後は免疫抑制薬を生涯飲み続けるので、感染症や悪性腫瘍にも気をつける必要がある。
医学生医学生
臨床実習で透析導入前の説明に同席したとき、患者さんが生活の変化をとても気にしていました。3つの方法を公平に説明できるようになりたいです。
ドクタードクター
それが一番大切だね。病態だけでなく、仕事や家族、本人の希望まで含めて一緒に選ぶ。正しい説明は、その出発点なんだ。

まとめ

糖尿病性腎症などによる末期腎不全では、血液透析・腹膜透析・腎移植の3つの腎代替療法から、病態と生活、本人の希望に合わせて選びます。腹膜透析は腹膜を透析膜として使う在宅治療で、通院は月1〜2回程度であり、週3回の通院が必要なのは血液透析です。糖尿病や内視鏡的切除歴は禁忌ではなく、問題になるのは高度の腹腔内癒着などです。一方で、開始後も塩分・水分・リンの管理と、透析液から吸収されるブドウ糖を考えたエネルギー調整は欠かせません。腹膜透析は残腎機能を保ちやすく、開始後でも腎移植は可能なため移植への橋渡しとなり、各治療法の特徴を正しく説明できることが患者さんと一緒に治療を選ぶ土台になります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・52歳男性。30歳から高血圧症と糖尿病があり内服治療中だが、通院は不定期で管理が十分でなかった可能性が高い。 ・1年前から下腿浮腫があり、2週間前から増悪している。 ・腎機能:尿素窒素68mg/dL、クレアチニン6.5mg/dL、eGFR 8.1mL/分/1.73m2。eGFR 15未満であり、CKD(慢性腎臓病)のGFR区分G5(末期腎不全)に当たる。 ・尿所見:蛋白3+、1日尿蛋白6.5g、潜血陰性。尿蛋白0.5g/日(0.5g/gCr)以上の高度蛋白尿であり、蛋白尿区分は糖尿病ではアルブミン尿に基づきA3(顕性アルブミン尿)相当と考えられる。血尿がないことは糸球体腎炎よりも糖尿病性腎症を示唆する。 ・血清アルブミン3.4g/dLで、成人ネフローゼ症候群の診断基準(尿蛋白3.5g/日以上かつ血清アルブミン3.0g/dL以下)は満たさないが、高度の蛋白尿と低アルブミン傾向がある。 ・Hb 9.8g/dLの正球性貧血(MCV=Ht/赤血球数で約98fL)は腎性貧血と考えられる。K 5.4mEq/Lと軽度の高カリウム血症もある。 ・BMIは約25.4(75÷1.72²)でやや肥満、HbA1c 6.3%。なお腎不全期では腎性貧血や赤血球寿命の短縮のためHbA1cは低めに出やすく、血糖管理の指標としての信頼性は下がる。

診断

長期の糖尿病歴、血尿を伴わない高度蛋白尿、腎性貧血から、糖尿病性腎症による末期腎不全(高血圧による腎硬化症の関与も考えられる)と考えられる。浮腫の増悪、高カリウム血症、eGFR 8程度であることから、腎代替療法の導入を具体的に準備すべき段階である。

設問の考え方

腎代替療法には血液透析、腹膜透析、腎移植の3つがあり、患者の生活や病態、希望をふまえて選ぶ。本例は腹膜透析と、妻をドナーとする生体腎移植を希望している。腹膜透析の特徴(通院頻度、適応と禁忌、食事管理)と、腎移植との関係を正しく説明できるかが問われている。腹膜透析は在宅で行え、残っている腎機能(残腎機能)を保ちやすいため、腎移植までの橋渡しとして選択されることも多い。

選択肢考察

  1. ×a.  「週3回の通院が必要です」

    週3回(1回4時間程度)の通院が必要なのは、施設で行う血液透析である。腹膜透析は、患者自身が自宅や職場で透析液バッグを交換する方法(CAPD:持続携行式腹膜透析)や、夜間に自動腹膜透析装置を用いる方法(APD)で行う在宅治療である。定期的な診察、血液検査、カテーテル出口部の確認のために月1〜2回程度の通院は必要だが、週3回ではない。不適切である。

  2. ×b.  「糖尿病があるため適応はありません」

    糖尿病は腹膜透析の禁忌ではなく、糖尿病性腎症の患者にも広く行われている。ただし、ブドウ糖を浸透圧物質とする透析液では腹膜からブドウ糖が吸収されるため、高血糖、体重増加、脂質異常症に注意が必要である。この問題は、ブドウ糖の代わりに吸収されにくい高分子のイコデキストリンを用いた透析液を組み合わせることで軽減できる。必要に応じてインスリンなどで血糖を調整すれば実施可能である。不適切である。

  3. ×c.  「腹膜透析開始後に食事制限は必要ないです」

    腹膜透析を始めても食事管理は必要である。体液過剰を防ぐための塩分と水分の制限、高リン血症を防ぐためのリンの制限が求められる。透析液中へ蛋白質が失われるため蛋白質は不足しないよう適量をとる一方、透析液から吸収されるブドウ糖の分を差し引いてエネルギー量を調整する必要がある。本例は標準体重(身長1.72m²×22)約65kgに対し75kgで、糖尿病もあるため、エネルギー管理は特に重要である。なお、血液透析と比べるとカリウムや水分の制限は緩やかなことが多い。「食事制限は必要ない」という説明は誤りである。

  4. ○d.  「腹膜透析を行ってからでも腎移植はできます」

    腹膜透析を先に始め、準備が整った段階で生体腎移植を行うことは可能であり、一般的に行われている。腹膜透析は残腎機能を保ちやすく、在宅で社会生活を続けやすいうえ、腹膜透析を行っていても腎移植の適応は失われない。ドナーである妻の検査や組織適合性の評価には時間がかかるため、その間の腎代替療法として腹膜透析を行う流れは合理的である。なお、透析を経ずに移植する先行的腎移植(preemptive kidney transplantation)という選択肢もあるが、本例のように腎不全が進行し症状がある場合には、まず透析を導入して移植を待機することも多い。正しい説明である。

  5. ×e.  「内視鏡的切除術の治療歴があるため適応はありません」

    腹膜透析は腹膜を透析膜として使うため、腹腔内に高度の癒着がある場合(複数回の開腹手術や腹膜炎の既往など)は透析液が十分に行き渡らず、実施が難しくなる。しかし大腸ポリープの内視鏡的切除は消化管の内腔から行う処置で、腹膜や腹腔内には影響しない。腹膜透析の妨げにはならず、腎移植の妨げにもならない。不適切である。

腎代替療法の比較

・血液透析:施設で週3回、1回4時間程度。バスキュラーアクセス(内シャントなど)が必要。透析日と透析日の間に水分やカリウムが貯留しやすく、食事制限は比較的厳しい。 ・腹膜透析:腹腔内にカテーテルを留置し、透析液を注入・貯留・排液して、腹膜を介して老廃物と水分を除去する。在宅で行え、通院は月1〜2回程度。緩やかに持続的に透析するため循環動態への影響が小さく、残腎機能が保たれやすい。一方、腹膜炎やカテーテル出口部感染のリスクがあり、長期に続けると腹膜機能が低下するほか、まれに重い合併症である被嚢性腹膜硬化症(EPS)が起こる。このため長期間の継続には限界があり、血液透析への移行や併用、腎移植を視野に入れる。 ・腎移植:生体腎移植と献腎移植がある。成功すれば腎機能が回復し、生命予後や生活の質の改善が最も期待できる。免疫抑制薬の生涯内服が必要で、感染症や悪性腫瘍に注意する。移植前には活動性の感染症や悪性腫瘍がないことを確認する。

腹膜透析が困難となる主な状態

高度の腹腔内癒着(腹部手術の繰り返しや腹膜炎の既往)、修復されていない腹壁ヘルニア、自己管理が難しく支援者もいない場合など。糖尿病や内視鏡治療歴は禁忌ではない。

糖尿病患者の腹膜透析の注意点

・ブドウ糖透析液からのブドウ糖吸収により、高血糖、肥満、脂質異常症を起こしやすい。 ・イコデキストリン透析液は腹膜から吸収されにくく、長時間の貯留でも除水を保てるため、ブドウ糖負荷を減らせる。ただし、その代謝産物(マルトースなど)は一部の簡易血糖測定器で血糖値を偽高値にすることがあり、測定法に注意する。

透析導入の目安

日本では、eGFR 15mL/分/1.73m2未満を目安に腎代替療法の準備を始め、腎不全症状、体液過剰、高カリウム血症などの電解質異常、栄養状態などを総合して導入時期を判断する。症状がなくてもeGFR 2未満まで低下すれば導入が勧められる。

POINT

・週3回の通院が必要なのは血液透析。腹膜透析は在宅治療で通院は月1〜2回程度。 ・腹膜透析は残腎機能を保ちやすく、腎移植までの橋渡しとして行える。腹膜透析後でも腎移植は可能。 ・糖尿病は腹膜透析の禁忌ではない。ブドウ糖吸収による高血糖や体重増加にはイコデキストリン透析液などで対応する。 ・腹膜透析でも塩分・水分・リンの管理や、透析液からのブドウ糖吸収を考えたエネルギー調整が必要。 ・腹膜透析が困難になるのは高度の腹腔内癒着など。内視鏡的切除歴は影響しない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。