日本ではたった3%―腹膜透析の「在宅・持続・シャント不要」を血液透析と比べて理解する
第118回医師国家試験 D問題 第7問
国試問題にチャレンジ
我が国において,血液透析に比較して腹膜透析で正しいのはどれか。
- a.患者数は少ない。
- b.食事制限は厳しい。
- c.自宅での施行は困難である。
- d.動静脈シャント造設を要する。
- e.不均衡症候群を起こしやすい。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
腹膜透析は患者自身の腹膜を半透膜とし、自宅などで毎日持続的・緩徐に行う在宅療法で、通院は月1〜2回程度で済みます。シャントは不要で腹膜透析用カテーテルを留置し、体液・電解質の変動が小さいため循環への負担が少なく、残存腎機能も保たれやすく、水分・塩分・カリウム制限は血液透析より緩やかです。不均衡症候群は主に血液透析導入期の合併症であり、腹膜透析ではほとんど起こりません。一方、日本の透析患者の大多数は血液透析で、腹膜透析は約3%(約1万人)にとどまり、腹膜炎や被嚢性腹膜硬化症などの特有の合併症にも注意が必要です。両者の違いを原理・治療の場・アクセス・食事・合併症の軸で整理することは、腎代替療法の選択を患者と共に考えるための基礎になります。
解答・解説
正解はaです
問われていること
末期腎不全に対する腎代替療法のうち、腹膜透析(PD:peritoneal dialysis)を血液透析(HD:hemodialysis)と比べたときの特徴を問う問題である。
二つの透析の原理の違い
血液透析は、血液を体外に取り出してダイアライザ(人工腎臓)に通し、半透膜を介して透析液と接触させることで老廃物と水分を除去する。1回4時間程度、週3回の通院治療が標準であり、毎分200 mL前後の血流を確保するためにバスキュラーアクセス(多くは自己血管による動静脈シャント)が必要となる。短時間に集中して除去を行うため、治療日と非治療日の間で体液量や電解質が大きく変動する。 腹膜透析は、腹腔内に留置したカテーテルから透析液を注入し、患者自身の腹膜を半透膜として用いる方法である。拡散で尿毒症物質を、浸透圧(ブドウ糖やイコデキストリン)で水分を除去する。日中に1日数回バッグ交換を行うCAPD(持続携行式腹膜透析)や、夜間就寝中に機械で自動的に交換するAPD(自動腹膜透析)があり、いずれも患者・家族が自宅などで行う在宅治療である。24時間かけて緩やかに除去するため体液や電解質の変動が小さく、循環動態への負担が少ない。また残存腎機能が保たれやすい。
我が国の現状
日本では透析患者の大多数が血液透析を受けており、腹膜透析患者は約1万人で、全透析患者(約35万人)の約3%にとどまる。この比率は欧米や香港などに比べて低い。 これらを踏まえ、各選択肢が血液透析と腹膜透析のどちらの特徴を述べたものかを見分ける。
選択肢考察
- ○a. 患者数は少ない。
日本の慢性透析患者は約35万人で、そのほとんどが血液透析(血液濾過透析を含む)である。腹膜透析患者は2021年末時点で約1万500人、全体の約3%に過ぎず、血液透析に比べて圧倒的に少ない。なお腹膜透析患者のうち約2割は、週1回程度の血液透析を組み合わせた併用療法である。正しい。
- ×b. 食事制限は厳しい。
腹膜透析は毎日持続的に除水・溶質除去を行い、残存腎機能も保たれやすいため、間欠的な血液透析より塩分・水分制限は緩やかである。カリウムも連日除去されるので制限が緩く、むしろ低カリウム血症に注意が必要になることがある。また透析液中に蛋白質が失われるため、蛋白質の摂取は血液透析より多めにすることが推奨される。一方で透析液のブドウ糖が吸収されるため、エネルギー摂取量の調整は必要となる。リンの制限はどちらでも必要である。全体として腹膜透析の食事制限の方が緩やかであり、誤り。
- ×c. 自宅での施行は困難である。
腹膜透析は在宅療法の代表であり、患者や家族がバッグ交換の手技を習得し、自宅や職場で行う。通院は月1〜2回程度で済むことが多く、社会生活を維持しやすい。週3回通院が必要なのは血液透析の方である(在宅血液透析も存在するが、普及はごく限られる)。誤り。
- ×d. 動静脈シャント造設を要する。
動静脈シャント(内シャント)は、血液透析で十分な血流を得るためのバスキュラーアクセスとして造設する。腹膜透析では、腹壁から腹腔内に腹膜透析用カテーテル(Tenckhoffカテーテルなど)を外科的に挿入し、先端をDouglas窩に留置する。シャントは不要であるため、心機能が低下している患者や、動脈硬化・静脈の荒廃でシャント造設が困難な患者には腹膜透析が選択肢となる。誤り。
- ×e. 不均衡症候群を起こしやすい。
不均衡症候群は、主に血液透析の導入期にみられる合併症である。血液中の尿素などの溶質は急速に除去されるが、脳組織内からの除去は遅れるため、血液と脳の間に浸透圧差が生じ、水が脳内に移動して脳浮腫が起こる。頭痛、悪心・嘔吐、血圧変動、重症ではけいれんや意識障害を呈する。腹膜透析は溶質除去が緩徐であり、このような急激な浸透圧変化が起こりにくいため、不均衡症候群はほとんど生じない。誤り。
血液透析と腹膜透析の比較
・実施場所:血液透析は主に医療施設(週3回、1回約4時間)。腹膜透析は自宅など(毎日、通院は月1〜2回)。 ・アクセス:血液透析は動静脈シャント(内シャント、人工血管、動脈表在化、長期留置カテーテル)。腹膜透析は腹膜透析用カテーテル。 ・除去の様式:血液透析は間欠的・短時間で効率が高い。腹膜透析は持続的・緩徐。 ・循環への負担:血液透析は除水に伴う血圧低下などが起こりうる。腹膜透析は負担が少ない。 ・残存腎機能:腹膜透析の方が保たれやすい。 ・食事制限:腹膜透析の方が水分・塩分・カリウム制限は緩い。蛋白質はやや多めに摂取する。 ・不均衡症候群:主に血液透析導入期。 ・腹膜透析に特有の合併症:腹膜炎(透析排液の混濁で気付かれる)、カテーテル出口部・皮下トンネル感染、腹膜機能の劣化による除水不全、被嚢性腹膜硬化症(EPS:腸管が肥厚した腹膜に包まれ腸閉塞をきたす重篤な合併症)、ブドウ糖吸収による高血糖・脂質異常・肥満、ヘルニア、蛋白喪失。
腹膜透析の位置付け
腹膜機能は長期使用で徐々に低下するため、腹膜透析は残存腎機能がある導入初期に行い、除水不全などが生じたら血液透析へ移行する(または併用する)という使い方が多い。導入時から腹膜透析を開始し、残存腎機能を活用する考え方を「PDファースト」と呼ぶ。また、高齢者で通院が困難な場合や、心機能低下・シャント困難例でも選択される。
腎代替療法の選択
末期腎不全の腎代替療法には血液透析、腹膜透析、腎移植の三つがあり、導入前に患者・家族に全てを説明して共同で意思決定することが求められる(日本では腎移植、特に先行的腎移植はまだ少ない)。
POINT
・日本の透析患者の大多数は血液透析で、腹膜透析は約3%(約1万人)と少ない。 ・腹膜透析は在宅で毎日緩徐に行う透析で、通院は月1〜2回程度。 ・腹膜透析はシャント不要(腹膜透析用カテーテルを留置)。 ・腹膜透析は残存腎機能が保たれやすく、水分・塩分・カリウムの制限が緩い。 ・不均衡症候群は血液透析導入期の合併症。腹膜透析に特有の重要な合併症は腹膜炎と被嚢性腹膜硬化症。
