StudyMed医師国家試験

男性の腎盂腎炎は「流れが止まった」サイン―嵌頓結石から閉塞性腎盂腎炎を読み解く

第118回医師国家試験 D問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第118回 D問題 第6問

成人男性の急性腎盂腎炎をきたす原因で最も頻度が高いのはどれか。

  1. a.性感染症
  2. b.過活動膀胱
  3. c.糖尿病腎症
  4. d.間質性膀胱炎
  5. e.尿管嵌頓結石

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、成人男性に急性腎盂腎炎が起こる背景として最も多いものを選ぶ問題だ。ポイントは「なぜ男性には腎盂腎炎が起こりにくいのか」、そして「それでも起こるのはどんなときか」を考えること。まず、腎盂腎炎の感染経路から確認しよう。
医学生医学生
大腸菌などが尿道から膀胱、尿管と上っていく上行性感染ですよね。
ドクタードクター
その通り。女性は尿道が短く、外尿道口が肛門に近いから、基礎疾患がなくても膀胱炎から腎盂腎炎に進みやすい。これを単純性尿路感染症という。では男性はどうだろう。
医学生医学生
男性は尿道が長いので、細菌が上がりにくいと思います。微生物学の講義で、前立腺液にも抗菌作用があると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。だから健康な成人男性に腎盂腎炎が起こることは少ない。逆に言えば、男性の腎盂腎炎を見たら何か基礎疾患がある複雑性尿路感染症と考えて、その原因を探すのが原則なんだ。
医学生医学生
複雑性の背景というと、尿の通り道が詰まるとか、カテーテルが入っているとかでしょうか。
ドクタードクター
そう。尿路の通過障害、膀胱尿管逆流、神経因性膀胱などによる残尿、カテーテル留置、そして糖尿病やステロイド使用などの易感染状態が重要だ。尿が停滞すると、入り込んだ細菌が洗い流されずに増殖して、上部尿路で感染が成立しやすくなる。この「流れが止まる」が一番のキーワードだよ。
医学生医学生
成人男性で尿の流れを止めるものといえば、尿管結石ですね。泌尿器科の実習中、救急外来に腰の激痛で来た若い男性がいて、CTで尿管結石が見つかりました。
ドクタードクター
まさにその患者層だ。尿管結石は20〜50歳代の男性に多く、男女比はおよそ2〜3対1。腎盂尿管移行部、総腸骨動脈との交差部、尿管膀胱移行部という生理的狭窄部に嵌頓すると、上流に水腎症ができる。そこに感染が加わったものが閉塞性、あるいは結石性腎盂腎炎で、成人男性の腎盂腎炎の原因として最も頻度が高いのが尿管嵌頓結石だ。
医学生医学生
では性感染症はどうでしょう。尿道から入るなら上行して腎盂腎炎になってもおかしくない気がします。
ドクタードクター
もっともな疑問だね。淋菌やクラミジアは、男性ではまず尿道炎を起こし、そこから精管を逆行して精巣上体炎を起こすのが典型だ。広がる方向は尿路の上流ではなく生殖路なんだ。腎盂まで上って腎盂腎炎になることはまれだよ。
医学生医学生
過活動膀胱は頻尿があるので、尿路感染と症状が似ていますよね。
ドクタードクター
症状は似ているけれど、過活動膀胱は尿意切迫感を必須とする蓄尿症状の症候群で、膀胱の不随意収縮が主体だ。残尿や尿流の停滞を伴うものではないから、それ自体が腎盂腎炎の主な原因にはならない。むしろ過活動膀胱を診断するときに、尿路感染を除外しておく必要がある、という関係だね。
医学生医学生
糖尿病は易感染性があるので、糖尿病腎症も原因になりそうに思えました。
ドクタードクター
良い引っかかり方だ。糖尿病そのものは、免疫能低下や尿糖、自律神経障害による神経因性膀胱を介して尿路感染症の危険因子になり、気腫性腎盂腎炎のような重症例も起こしうる。ただ、糖尿病腎症は糸球体障害による蛋白尿や腎機能低下を主体とする細小血管合併症で、成人男性の腎盂腎炎の原因として最も多いものではない。危険因子であることと最多の原因であることは分けて考えよう。
医学生医学生
間質性膀胱炎は「膀胱炎」という名前ですが、感染とは違うんでしたっけ。
ドクタードクター
そう、名前に惑わされやすいね。間質性膀胱炎は膀胱の慢性的な非細菌性炎症で、頻尿や蓄尿時の膀胱痛が続く。中高年女性に多く、膀胱鏡でHunner病変を認めるハンナ型は指定難病だ。尿培養は通常陰性で、腎盂腎炎の原因にはならない。
医学生医学生
男性の腎盂腎炎は「通過障害を探せ」、その代表が尿管結石、ということですね。超音波で水腎症の有無を見るのが大事そうです。
ドクタードクター
その通り。ここからが臨床で本当に大事なところだ。閉塞を伴う腎盂腎炎では、感染した尿が腎盂に高い圧で閉じ込められ、細菌や毒素が血中に移行しやすい。だから短時間で敗血症性ショックやDICに進行しうるし、抗菌薬だけではなかなか改善しない。
医学生医学生
詰まりを解除しないといけない、ということですか。
ドクタードクター
そう。抗菌薬と並行して、尿管ステント留置か経皮的腎瘻造設で速やかにドレナージする。結石そのものの破砕や摘出は、感染が落ち着いてから行うのが原則だ。発熱と腰背部痛、CVA叩打痛で腎盂腎炎を疑ったら、超音波やCTで水腎症を必ず確認しよう。
医学生医学生
男性では、急性前立腺炎や精巣上体炎も鑑別に入りますよね。
ドクタードクター
いいね。急性前立腺炎は高熱、排尿困難、会陰部痛があり、直腸診で前立腺に強い圧痛を認める。菌血症を誘発するので前立腺マッサージは禁忌だ。急性精巣上体炎は、若年者では性感染症、高齢者では大腸菌などの一般細菌が原因になりやすい。発熱した男性を診るときは、尿路と生殖路の両方を意識しておくといい。

まとめ

男性は尿道が長く前立腺液に抗菌作用もあるため、健常な成人男性に急性腎盂腎炎は起こりにくく、発症した場合は基礎疾患を伴う複雑性尿路感染症として原因を探すのが原則です。成人男性で最も多い背景は尿管嵌頓結石であり、生理的狭窄部への嵌頓で水腎症が生じ、そこに感染が加わると閉塞性腎盂腎炎となります。性感染症は尿道炎や精巣上体炎を起こし、過活動膀胱は蓄尿症状の症候群、間質性膀胱炎は非細菌性炎症で、糖尿病は危険因子ではあっても最多の原因ではありません。閉塞性腎盂腎炎は敗血症性ショックやDICに急速に進行しうるため、抗菌薬に加えて尿管ステントや腎瘻による緊急ドレナージが必要です。「男性の腎盂腎炎を見たら画像で閉塞を確認する」という姿勢は、救急外来で命を救う実践的な判断につながります。

解答・解説

正解はeです

問われていること

成人男性に急性腎盂腎炎が起こる背景として、最もよくみられるものを選ぶ問題である。

考え方

急性腎盂腎炎は、細菌(大腸菌が最多)が尿道から膀胱を経て上行し、腎盂・腎実質に感染する上行性感染が基本である。女性は尿道が短く外尿道口が肛門に近いため、基礎疾患がなくても膀胱炎から腎盂腎炎に進展しやすい(単純性尿路感染症)。一方、男性は尿道が長く、前立腺液に抗菌作用もあるため、健常な成人男性に腎盂腎炎が生じることは少ない。したがって成人男性の腎盂腎炎は、何らかの基礎疾患を伴う複雑性尿路感染症として捉えるのが原則である。 複雑性腎盂腎炎の背景として重要なのは、(1)尿路の通過障害(尿管結石、前立腺肥大症、尿道狭窄、腫瘍など)、(2)膀胱尿管逆流(VUR)、(3)神経因性膀胱などによる残尿、(4)尿路カテーテル留置、(5)糖尿病・ステロイド使用などによる易感染状態である。尿の流れが停滞すると、入り込んだ細菌が洗い流されずに増殖し、上部尿路に感染が成立しやすくなる。 尿管結石は20〜50歳代の男性に好発し(男女比はおよそ2〜3:1)、成人男性の上部尿路の通過障害の原因として最も多い。結石が尿管に嵌頓すると上流に水腎症が生じ、そこに感染が加わると閉塞性(結石性)腎盂腎炎となる。選択肢のうち、成人男性で腎盂腎炎の原因として最も頻度が高いのは尿管嵌頓結石である。

選択肢考察

  1. ×a.  性感染症

    淋菌やクラミジア・トラコマチスによる性感染症は、男性では主に尿道炎として発症し、精管を逆行して精巣上体炎を起こすことがある。感染の広がりは尿道から生殖路(精巣上体・前立腺)へ向かうのが典型であり、腎盂まで上行して腎盂腎炎を起こすことはまれである。誤り。

  2. ×b.  過活動膀胱

    過活動膀胱は尿意切迫感を必須とし、頻尿や夜間頻尿、切迫性尿失禁を伴う症状症候群である。蓄尿期の膀胱の不随意収縮が主体で、尿の排出障害(残尿)や尿流の停滞を伴うものではないため、それ自体が腎盂腎炎の主要な原因とはならない。なお、尿路感染症でも同様の刺激症状が出るため、過活動膀胱の診断の際には感染を除外する必要がある。誤り。

  3. ×c.  糖尿病腎症

    糖尿病腎症は、糸球体の障害によりアルブミン尿・蛋白尿が出現し、進行すると腎機能が低下する糖尿病の細小血管合併症であり、慢性腎臓病や透析導入の原因疾患として重要である。糖尿病という病態そのものは、免疫能低下や尿糖、自律神経障害による神経因性膀胱(残尿)を介して尿路感染症の危険因子となり、気腫性腎盂腎炎などの重症例も起こしうる。しかし、それは糖尿病全体としての危険因子であって、成人男性の腎盂腎炎の原因として最も頻度が高いものではない。誤り。

  4. ×d.  間質性膀胱炎

    間質性膀胱炎は、膀胱の慢性的な非細菌性炎症により、頻尿・尿意亢進・膀胱痛(蓄尿時の痛み)が持続する疾患で、中高年女性に多い。膀胱鏡でHunner病変(ハンナ病変)を認めるハンナ型は指定難病である。細菌感染による疾患ではなく、尿培養は通常陰性であり、腎盂腎炎の原因とはならない。誤り。

  5. ○e.  尿管嵌頓結石

    尿管結石は成人男性に多く、結石が尿管の生理的狭窄部(腎盂尿管移行部、総腸骨動脈交差部、尿管膀胱移行部)に嵌頓すると尿の流れがせき止められ、水腎症となる。停滞した尿の中で細菌が増殖すると閉塞性(結石性)腎盂腎炎を発症する。閉塞を伴う腎盂腎炎は抗菌薬だけでは改善しにくく、短時間で敗血症性ショックに進行しうるため、尿管ステント留置や腎瘻造設による緊急ドレナージが必要となる。成人男性の腎盂腎炎の原因として最も頻度が高く、正解である。

尿路感染症の分類

単純性:基礎疾患のない人に起こるもの。性的活動期の女性の膀胱炎・腎盂腎炎が代表で、起炎菌の大部分は大腸菌である。 複雑性:尿路の器質的・機能的異常や全身の易感染状態を背景に起こるもの。男性の尿路感染症、高齢者、カテーテル留置例の多くがこれに当たる。起炎菌は大腸菌のほか、クレブシエラ、プロテウス、緑膿菌、腸球菌など多彩で、耐性菌も多い。

複雑性尿路感染症の主な基礎疾患

・上部尿路の通過障害:尿管結石、腎盂尿管移行部狭窄、尿管腫瘍、後腹膜線維症など ・下部尿路の通過障害:前立腺肥大症、尿道狭窄、神経因性膀胱 ・膀胱尿管逆流(小児に多い) ・異物:尿道カテーテル、尿管ステント、腎瘻カテーテル ・全身因子:糖尿病、免疫抑制薬・ステロイド使用、妊娠

急性腎盂腎炎の臨床像

悪寒戦慄を伴う高熱、患側の腰背部痛、肋骨脊柱角(CVA)の叩打痛が特徴で、膀胱刺激症状(頻尿・排尿時痛)を伴うこともある。尿検査で膿尿・細菌尿、血液検査で白血球増多やCRP上昇を認める。閉塞の有無を確認するために超音波検査やCTで水腎症を評価することが重要である。

閉塞性腎盂腎炎

結石などによる閉塞があると、感染した尿が腎盂内に高い圧で閉じ込められ、細菌や毒素が血中に移行しやすい。そのため、敗血症・播種性血管内凝固(DIC)を起こしやすく、抗菌薬投与と並行して速やかな尿路ドレナージ(尿管ステント留置または経皮的腎瘻造設)を行う。結石の破砕・摘出は感染が落ち着いてから行う。

男性の他の尿路性器感染症

・急性前立腺炎:高熱、排尿困難、会陰部痛。直腸診での前立腺の強い圧痛。前立腺マッサージは菌血症を誘発するため禁忌。 ・急性精巣上体炎:陰嚢の腫大と疼痛。若年者では性感染症(クラミジア・淋菌)、高齢者では一般細菌(大腸菌など)が原因となることが多い。

POINT

・健常な成人男性に腎盂腎炎は起こりにくく、起これば基礎疾患(特に尿路の通過障害)を探す。 ・成人男性に多い尿路の通過障害は尿管結石であり、嵌頓結石による水腎症に感染が加わると閉塞性腎盂腎炎となる。 ・閉塞性腎盂腎炎は敗血症に進行しやすく、抗菌薬に加えて尿管ステントまたは腎瘻による緊急ドレナージを行う。 ・性感染症は男性では尿道炎・精巣上体炎を起こし、間質性膀胱炎は非感染性、過活動膀胱は蓄尿症状の症候群である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。